KISSまでの距離

                〜オスカー編〜

 

 

              最近のアンジェリークの様子がおかしい。
              「アンジェリーク?」
              いつものデートの時のことだ。
              気がつくと、横を歩いているアンジェリークが、
              深いため息をついた。
              「気分でも悪いのか?」
              顔を覗き込むと、何でも無いと言いながらも、
              少し青ざめた顔に、自分の迂闊さを呪う。
              「俺としたことが、君の体調に気づいてやれなくて
              すまなかったな。」
              やせ我慢をするアンジェリークを見ていたくなくて、
              そっと抱き寄せる。
              するとアンジェリークは、一瞬嬉しそうに
              頬を紅く染めたが、だが、直ぐに暗い表情に
              なってしまう。
              「アンジェリーク?」
              一体、何があったのだろうか。俺が側にいるのに。
              君を幸せにするどころか、こんなにも泣きそうな顔を
              させるなんて。自分が情けなくて、その華奢な身体を
              抱き締める。
              「何があった?」
              傷ついて怯えた小鳥を驚かせないように、
              労わるように、耳元で囁く。
              「別に・・・・。何も・・・・。」
              この後に及んで、まだそんな事を言う唇を、
              お仕置きとばかりに塞ぐ。
              「ない訳ないだろ?」
              俺だけには、そんな強がりは言わないでくれ。
              頼むから。
              「うーん。ちょっと・・・・ね。」
              苦笑するアンジェリークに、本気で怒りたくなる。
              その顔のどこが、「ちょっと」なのか。
              俺は、そんなに頼りないのか?
              俺にだけ全てを曝け出して欲しい。
              そう願うのは、いけないことなのか・・・・?
              そんな悲しい思いで見つめていると、
              アンジェリークの顔に、だんだんと笑みが浮かんできた。
              「アンジェ・・・?」
              「何でもないの!オスカー!」
              さっきまでの表情がまるで嘘かのように、
              急に機嫌を直したアンジェリークは、ニコニコと
              微笑んでいる。その様子に、少々面食らいながらも、
              それでも、微笑んでいる彼女に嬉しくなり、
              自然微笑み返した。
              「大好き!オスカー!!」
              すると、アンジェリークは、いきなり俺に跳びつくと、
              そっと俺の頬に唇を寄せた。
              全く、俺はいつもこの気まぐれな天使に、振り回されて
              ばかりだ。でも、それすらも嬉しいと感じる自分が、
              とても幸せだと思った。 
              「愛している・・・アンジェリーク・・・・。」
              彼女とのKISSまで、あと数ミリ・・・・・・。





 

 

 

        

  

                                       FIN