幾千もの
幾万もの言葉なんていらない。
たった一言だけでいいの・・・・・・・。
オスカーはモテる。
女性に対して、本当に優しいのだ。
この目の前の男は。
「アンジェリーク?」
はぁ〜と、ため息をつく私に、
オスカーは、心配げに私の顔を覗き込む。
「気分でも悪いのか?」
俺としたことが、君の体調に気づいてやれなくて
すまなかったな。
と、優しく肩を抱き寄せてくれる。
そうされるのは、本当はすごく嬉しい。
でも、同時に思う。
一体、何人の女の人に、
同じような優しい気遣いをしたのだろうかと。
心の中を黒く塗り潰す嫉妬心。
自分がすごく嫌な子で、
そんな自分を、オスカーに知られるのが嫌で、
表面上は、微笑んでいるのだけど、
そう繕っている自分が更に嫌で、って、
結局堂々巡り。
「アンジェリーク?」
俯く私に、オスカーは泣きそうな顔で
ギュッと私を抱き締める。
「何があった?」
労わるように、耳元で囁かれる。
「別に・・・・。何も・・・・。」
ないと言う言葉は、オスカーの唇によって
飲み込まれる。
「ない訳ないだろ?」
「うーん。ちょっと・・・・ね。」
でも、悲しそうなオスカーの顔を見ていたら、
そんな事はどうでも良くなってしまった。
女性に優しいオスカーは、いつも笑顔を振り撒いている。
でも、私にだけは、嬉しそうな顔も、怒った顔も、
哀しそうな顔も、楽しそうな顔も、全ての表情を
惜しげも無く見せてくれる。
それって、
幾千の言葉より
幾万の言葉より
私だけの<特別>な言葉のようで、
黒く塗り潰された心が、瞬くまに
白くなっていく。
凍てついた心に、暖かい炎が宿るようで、
さすが炎の守護聖様ねと、
笑いたくなる。
「アンジェ・・・?」
「何でもないの!オスカー!」
行き成り機嫌が直った私に、オスカーは面食らったようで、
驚きに目を見張っている。
「大好き!オスカー!!」
こんな顔も見れるのは私だけ。嬉しくなった私は、
オスカーに跳びつくと、そっとその頬に
唇を寄せたのだった。
FIN.