何故、人ヲ傷ツケテシマウノカ。
何故、人ハ過チヲ繰リ返スノカ・・・・。
幸セヲ。
ソウ、祈ッテイルノニ・・・・。
安ラギヲ。
ソレシカ、望マナイノニ・・・。
何故、人ハ「破滅」ヲ願ウノカ・・・・・。
「私・・・・一体・・・・。」
アンジェリークは、ゆっくりと眼を開けると、
ゆっくりと視線を辺りに向けた。
「ここは・・・・アルカディア・・・・・・?」
銀色の大樹の根元にいることに気づいた
アンジェリークは、慌てて立ち上がった。
「何故、ここに・・・・・。」
そっと手を大樹に伸ばすが、
アンジェリークの身体は、スルリと幹を擦り抜ける。
「!!」
今の自分の状況がよく掴めず、アンジェリークは
慌てて後ろを振り返ると、今自分が擦り抜けた
銀色の大樹をじっと見つめた。
クスクスクス・・・・・・。
どこからか聞こえる笑い声に、アンジェリークは
ハッと我に返ると、その声の主に向かって叫ぶ。
「どこ!あなたはどこにいるの!?」
クスクスクス・・・・。
クスクスクス・・・・。
だが、声はアンジェリークの問いに答えることなく、
笑い続ける。
「一体・・・・一体、あなたは誰なの?」
私ハ貴方・・・・・。
その声に、アンジェリークは用心深く辺りを見回す。
貴方ハ私・・・・・。
どこからか聞こえる声に、アンジェリークは一歩後ずさる。
「誰なの・・・・・?」
半分涙目になりながら、アンジェリークは問い掛ける。
私モ貴方ト同ジ<痛ミ>ヲ持ツ者・・・・・・。
「同じ<痛み>・・・・?」
何の事を言っているのだろうか。
アンジェリークは、訳が判らず首を傾げる。
ソウ・・・・・。
ソノ<痛ミ>故、私ノ<世界>ハ、
闇ニ沈ンダ・・・・・・。
その言葉と共に、世界は一変して、
闇の世界へと、その姿を変えた。
「これは・・・・・。」
アンジェリークは信じられないといった表情で、
首を横に振る。
「そんな・・・・・ここは・・・・・まさか・・・・・・・。」
アンジェリークの眼に映る世界。
そこは、草木一本生えていない、
<死の世界>。
「まさか、“ナドラーガ”!!!」
悪意を憎悪に彩られた<世界>の名前を、
アンジェリークが口にした途端、今度は背後で
笑う声がおこる。
クスクスクス・・・・・・。
「何故、私を<ここ>に!!」
振り向いて叫んだが、そこには荒野が広がるばかり。
判ラヌカ?
またしても、後ろから聞こえる声に、アンジェリークは
素早く振り返るが、そこには、闇が広がるばかり。
私ガ<ココ>ニ、貴方ヲ招イタ訳デハナイ・・・・・。
「どういうこと・・・・・?」
慎重に辺りを見回しながら、アンジェリークは尋ねる。
貴方ノ<魂>ガ<ココ>ヘヤッテキタノダ。
<痛ミ>ニ、耐エ切レズニ・・・・・・。
「<痛み>・・・・・?」
ズキリとアンジェリークの<心>が痛む。
クスクスクス・・・・。
クスクスクス・・・・。
クスクスクス・・・・。
四方から聞こえてくる笑い声に、
アンジェリークは、恐怖のあまり、その場に
座り込む。
クスクスクス・・・・。
クスクスクス・・・・。
クスクスクス・・・・。
オ願イ・・・・・・。
<私達>ヲ、助ケテ・・・・・・・。
クスクスクス・・・・。
クスクスクス・・・・。
クスクスクス・・・・。
笑い声に混じり、<誰か>の悲鳴が
闇に消えた・
「クラヴィス様!!」
それまで、ハープを弾いていた
リュミエールは、何かを感じ取り、
慌ててクラヴィスを見た。
それまで、微動だにせず、
眼を閉じて、ハープの音色に
心を委ねていたクラヴィスは、
気だるそうに瞳を開けると、
呟いた。
「・・・・・・・囚われたな・・・・・。」
そして、それきり興味を失ったかのように、
再び眼を閉じる。
そんなクラヴィスの様子に、
途方にくれたリュミエールは、
一瞬席を立ちかけたが、
やがて溜息をつくと、
再び演奏を再開した。
誰かのための鎮魂曲を・・・・・・・・・・。