何故、人ヲ傷ツケテシマウノカ。
                 何故、人ハ過チヲ繰リ返スノカ・・・・。

 

                 幸セヲ。
                 ソウ、祈ッテイルノニ・・・・。
                 安ラギヲ。
                 ソレシカ、望マナイノニ・・・。

 

 

                 何故、人ハ「破滅」ヲ願ウノカ・・・・・。

 

             緋  恋      

                   第4話

 

 

       「私・・・・一体・・・・。」
       アンジェリークは、ゆっくりと眼を開けると、
       ゆっくりと視線を辺りに向けた。
       「ここは・・・・アルカディア・・・・・・?」
       銀色の大樹の根元にいることに気づいた
       アンジェリークは、慌てて立ち上がった。
       「何故、ここに・・・・・。」
       そっと手を大樹に伸ばすが、
       アンジェリークの身体は、スルリと幹を擦り抜ける。
       「!!」
       今の自分の状況がよく掴めず、アンジェリークは
       慌てて後ろを振り返ると、今自分が擦り抜けた
       銀色の大樹をじっと見つめた。


       クスクスクス・・・・・・。


       どこからか聞こえる笑い声に、アンジェリークは
       ハッと我に返ると、その声の主に向かって叫ぶ。
       「どこ!あなたはどこにいるの!?」


       クスクスクス・・・・。
       クスクスクス・・・・。


       だが、声はアンジェリークの問いに答えることなく、
       笑い続ける。


       「一体・・・・一体、あなたは誰なの?」


       私ハ貴方・・・・・。


       その声に、アンジェリークは用心深く辺りを見回す。


       貴方ハ私・・・・・。


       どこからか聞こえる声に、アンジェリークは一歩後ずさる。


       「誰なの・・・・・?」
       半分涙目になりながら、アンジェリークは問い掛ける。


       私モ貴方ト同ジ<痛ミ>ヲ持ツ者・・・・・・。


       「同じ<痛み>・・・・?」
       何の事を言っているのだろうか。
       アンジェリークは、訳が判らず首を傾げる。


       ソウ・・・・・。
       ソノ<痛ミ>故、私ノ<世界>ハ、
       闇ニ沈ンダ・・・・・・。


       その言葉と共に、世界は一変して、
       闇の世界へと、その姿を変えた。


       「これは・・・・・。」
       アンジェリークは信じられないといった表情で、
       首を横に振る。
       「そんな・・・・・ここは・・・・・まさか・・・・・・・。」
       アンジェリークの眼に映る世界。
       そこは、草木一本生えていない、


       <死の世界>。


       「まさか、“ナドラーガ”!!!」
       悪意を憎悪に彩られた<世界>の名前を、
       アンジェリークが口にした途端、今度は背後で
       笑う声がおこる。


       クスクスクス・・・・・・。


       「何故、私を<ここ>に!!」
       振り向いて叫んだが、そこには荒野が広がるばかり。


       判ラヌカ?


       またしても、後ろから聞こえる声に、アンジェリークは
       素早く振り返るが、そこには、闇が広がるばかり。


       私ガ<ココ>ニ、貴方ヲ招イタ訳デハナイ・・・・・。


       「どういうこと・・・・・?」
       慎重に辺りを見回しながら、アンジェリークは尋ねる。


       貴方ノ<魂>ガ<ココ>ヘヤッテキタノダ。
       <痛ミ>ニ、耐エ切レズニ・・・・・・。


       「<痛み>・・・・・?」
       ズキリとアンジェリークの<心>が痛む。


       クスクスクス・・・・。
       クスクスクス・・・・。
       クスクスクス・・・・。


       四方から聞こえてくる笑い声に、
       アンジェリークは、恐怖のあまり、その場に
       座り込む。


       クスクスクス・・・・。
       クスクスクス・・・・。
       クスクスクス・・・・。


       オ願イ・・・・・・。
       <私達>ヲ、助ケテ・・・・・・・。


      クスクスクス・・・・。
      クスクスクス・・・・。
      クスクスクス・・・・。


      笑い声に混じり、<誰か>の悲鳴が
      闇に消えた・




      「クラヴィス様!!」
      それまで、ハープを弾いていた
      リュミエールは、何かを感じ取り、
      慌ててクラヴィスを見た。
      それまで、微動だにせず、
      眼を閉じて、ハープの音色に
      心を委ねていたクラヴィスは、
      気だるそうに瞳を開けると、
      呟いた。
      「・・・・・・・囚われたな・・・・・。」
      そして、それきり興味を失ったかのように、
      再び眼を閉じる。
      そんなクラヴィスの様子に、
      途方にくれたリュミエールは、
      一瞬席を立ちかけたが、
      やがて溜息をつくと、
      再び演奏を再開した。




                誰かのための鎮魂曲を・・・・・・・・・・。