エピローグ
              〜 らいおんハート 〜

 

 

                  失ったものは みんなみんな埋めてあげる
                  この僕に愛を教えてくれたぬくもり
                  君を守るため そのために生まれてきたんだ
                  あきれるほどに そうさ そばにいてあげる

 

 

                

 

             「やっほう!具合はどう?エド〜。」
             ニコニコと顔を出すのは、幼馴染のウィンリィだ。エドは読んでいた
             育児書から目を上げると、にっこりと微笑んだ。
             「いらっしゃい!ウィンリィ〜。」
             「何?また本を読んでるの?」
             「いけないか?」
             きょとんと首を傾げるエドに、ウィンリィは苦笑する。
             「いけなくはないけどさ。あんまり無理しちゃ駄目よ。
             エドってば、本に夢中になると、寝食を忘れるんだから。
             読むことに集中しすぎて、気がついたら出産が終わっていたなんて
             事にならないでよ。」
             と、実際に起こりそうで怖いわ〜と、ゲラゲラ笑うウィンリィに、
             エドはプクッと頬を膨らませる。
             「何しに来たんだよ〜。」
             「あれ?そんな口を聞いてもいいのぉ?これ、な〜んだ?」
             膨れるエドの前に、ヒラヒラと手紙を翳す。
             見覚えのあり過ぎる筆跡に、エドはパアッと顔を輝かせる。
             「はい。エドの最愛の旦那様からの、ラブレターだよ。」
             ニコニコとして手紙を受け取るエドに、ウィンリィは感心するように
             言う。
             「それにしても、愛ねぇ〜。」
             「ん?」
             封を開けようとしていた手を止めて、エドはウィンリィを見る。
             「だって、そうじゃない。毎日の手紙は勿論の事、暇さえあれば、
             電話が掛かってくるんでしょう?」
             これが愛でなくて、何なのよ?と、ニヤニヤ笑うウィンリィに、
             エドは真っ赤になる。
             「そう言えば、新居が完成したんだって?」
             ウィンリィの言葉に、エドはコクンと頷いた。
             実際、エドを見つけてからのロイの行動は、異常に早かった。
             エドに結婚の承諾を得て直ぐに、エリュシオンの役場で、婚姻届を
             出し、やはり知っている人がいる所で出産した方が良いと、
             半ば強引にエドをリゼンブールへと連れ帰った。
             「何故、男には、育児休暇が認められんのだ!!」
             と、あくまでも、自分もここに残ると主張するロイを、ホークアイが
             銃を片手に、東方司令部に連れ戻したのは、その三日後。
             以来、毎日電話や手紙をエドに送っている。その上、
             休暇には必ずリゼンブールへとやって来ては、時間の許す限り、
             エドにベッタリの日々を送っていた。
             そんなロイが1カ月ほど前に、昇進を果たし、准将へと階級が
             上がり、勤務地も、東方司令部から中央司令部へと異動に
             なった。中央に住居を移すにあたって、ロイは愛する妻と
             子どもの為に、新しく家を購入した。もともと貴族の家だった
             それは、周囲の住人の憧れの家であり、以前エドがうっとりと
             眺めていた事を、ヒューズにでも聞いたのか、たまたま売りに
             出されたその日のうちに、現金で購入を果たした。そのほかに
             住みやすいようにと、全面リフォームを行うという、念の入れようだ。
             「この前、アルが引越しの手伝いをしに、新居へ行ったら、
             子ども部屋が、すごい事になっているらしい・・・・・。」
             はぁ〜と、エドは溜息をつく。
             エドと離れ離れになっている反動と、子どもが生まれる嬉しさから、
             ロイは毎日のように子どもの物を買い漁っているらしい。
             「すごいよ。姉さん。ボク、一瞬どこか別の世界に迷い込んだかと
             思ったよ・・・・・。」
             疲れきった顔で戻ってきたアルフォンスに、エドは恐ろしさの
             あまり、それ以上詳しい事は聞けなかったほどだ。
             「でも、良かったね。エド。」
             「ウィンリィ?」
             ふと顔を上げると、ウィンリィが、慈愛を込めた瞳で、エドに
             微笑みかけていた。
             「一時はどうなる事かと思ったけど、エドが幸せで、私、
             とっても嬉しいよ。」
             「ありがとう・・・。ウィンリィ・・・・・。」
             エドは泣きそうな顔で、ウィンリィに抱きつく。この幼馴染は、
             自分を幸せにするために、色々と苦労してくれた事実に、
             エドは嬉しさで心が一杯になる。と、そこへ電話のベルが
             鳴り出し、ウィンリィは苦笑して、エドの身体をクルリと電話の
             方へと向ける。
             「ほら!旦那様からだよ。早く出なさい。」
             「う・・・うん・・・・。」
             真っ赤な顔で、エドはトコトコと電話へ向かうと、嬉しそうに
             受話器を取る。
             「もしもし、ロイ?」
             にこやかに話し出すエドに、ウィンリィは微笑むと、邪魔をしては
             いけないと部屋から出ようとするが、エドのうめき声に、
             慌てて後ろを振り向くと、苦しそうに床にしゃがみ込むエドの姿に、
             ウィンリィは、慌てて駆け寄った。
             「ちょっと!!しっかり!!アル!アル!!」
             苦しそうなエドを抱え起こすと、急いで下の階にいるであろう、
             アルフォンスを呼ぶ。
             「どうしたのさ。ウィンリィ・・・。姉さん!!」
             姉の状況を瞬時に察したアルは、慌てて部屋の中に駆け込むと、
             エドを抱え上げた。
             「早くエドを寝室に!」
             慌てて二人はエドを寝室へ連れて行く為に、部屋を後にした。







             「エディ!!どうした!エディ!!」
             それまで、上機嫌で電話をしていたロイは、突然の
             エドの苦痛に満ちた声と、それに続くウィンリィとアルの
             慌しい様子に、エドの身に何かが起こった事を
             察知し、慌てて部屋から出て行こうとする。
             「准将。どちらへ?」
             たまたま処理済の書類を受け取りにやってきたホークアイ
             大尉と鉢合わせになり、ロイは条件反射的に、回れ右をして
             執務室へと戻ろうとしたが、直ぐにエドの事を思い直し、
             早口に状況を説明する。
             「電話中にエディが倒れた。私は直ぐにリゼンブールへと
             向かう。後は任せた。」
             「了解しました。直ぐに切符を手配します。外に車を回します
             ので、急いでください。」
             慌てて駆け出すホークアイの後姿を見送ると、ロイは慌てて
             廊下を駆け出した。








             
             「エディ!!」
             ロイがリゼンブールへ着いたのは、次の日のまだ夜が明けきらない
             時間だった。
             ロックベル家の一階では、心配そうにアルフォンスが
             エドがいる寝室の方を見ながら、ウロウロと歩き回っていた。
             「准将!!」
             「アルフォンス君!!エディはっ!!」
             ロイはツカツカとアルの前まで来ると、アルの両肩を掴んで
             揺さぶった。
             「そ・・・そろそろ生まれるみたいです・・・・・。」
             辛うじて、アルが何とかそれだけを口にすると、ロイは慌てて
             階段を駆け上がった。そして、寝室の前までやってくると、
             心配そうな瞳で扉を凝視する。
             「エディ・・・・。どうか、無事で・・・・・・。」
             きつく目を瞑り、今まで信じていない神に祈りを捧げた瞬間、
             部屋の中から、確かに赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。
             「・・・・・生まれた・・・・・・。」
             茫然としているロイの目の前で、扉がゆっくりと開き、中から、
             ピナコが出てきた。
             「おや。来ていたのかい。」
             ロイに気づいたピナコに、ロイは叫ぶ。
             「エディは!子どもはっ!!」
             「ふん。落ち着くんだね。母子共に健康さ。」
             ピナコは、ロイを部屋に入るように促す。フラフラとロイが
             部屋の中へ入ると、ウィンリィが、丁度機材を片付け終わった
             後だった。
             「おめでとうございます。マスタングさん。女の子ですよ。」
             「女の子・・・・・・。」
             ロイは、茫然とした顔で、ゆっくりと我が子の顔を愛しそうに
             眺めながら、ベットに横たわっているエドの元へと近づく。
             「エディ・・・・・。頑張ったね・・・・・。」
             「ロイ・・・・・・。」
             幸せそうに自分を見るエドに、ロイは流れる涙を拭いもせずに、
             床に両膝をついて、エドの顔を覗き込む。
             「ありがとう・・・・。エディ・・・・・。」
             汗で乱れた前髪を直しながら、ロイは嬉しそうにエドを労うと、
             生まれたばかりの我が子に視線を移す。
             自分と同じ黒髪で、顔立ちはエドに似ている我が子に、
             更なる愛おしさを感じ、オズオズと手を伸ばす。
             「無事で生まれてきてくれて、ありがとう・・・・。
             フェリシア・・・・・・。」
             愛しそうに我が子の頭を撫でるロイに、エドは聞き返す。
             「フェリシア・・・・?」
             ロイはエドの顔を見ながら、はにかんだ笑みを浮かべる。
             「あぁ・・・・。女の子なら【フェリシア】にしようと思っていたんだ。
             幸福に満ちた素晴らしい地という意味らしい。
             人を幸福に出来るように、心優しい娘にと・・・・。そして、
             人から愛されて・・・幸福になって欲しい・・・・。この子の未来が
             幸福に満ちて欲しいんだよ・・・・・・。」
             「フェリシア・・・・・。とってもいい名前・・・・・。」
             エドはにっこりと微笑むと、フェリシアの小さな手を握る。
             「フェリシア・・・・。パパがつけてくれたんだよ。良かったね〜。」
             「エディ・・・・・。ありがとう。」
             ロイは感極まって、エドの身体を抱き締める。
             「私に家族を作ってくれて・・・・・私に、人を愛するという事が、
             どういう事なのか、教えてくれて、ありがとう・・・・。」
             「ロイ・・・・・・。俺だって・・・・ロイには感謝してる・・・・・。
             俺も、ロイに人を愛する事を教えてもらった。俺、
             すごく幸せだよ・・・・・。」
             ギュッと自分を抱き締めるエドに、ロイはゆっくりと口付ける。
             「愛している。誰よりも君を愛している。エディ・・・・・。」
             「俺も愛している。ロイ・・・・・。」
             キスを交し合う二人を祝福するかのように、山間からゆっくりと
             昇った朝日が、窓から差し込み、二人を包み込んだ。
















                                        FIN
              
              
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やっと、完結しました。ここまでお読みくださいまして、本当に
ありがとうございます。この後は、お子様編へと続きます。
そして、更にロイは親馬鹿の道を突き進んでいきます。
感想を送ってくださると、嬉しいです。