声が聞こえる・・・・・・。
優しい母親が歌う子守唄が・・・・・。
「只今、エディ?」
漸く仕事が終わり、ロイ・マスタング中将が、愛する妻と子供たち
の待つ我が家に帰ってこれたのは、夜10時を回った頃だった。
いつもなら、にこやかな笑顔で出迎えてくれるはずの妻が、
何故か今日に限って、出迎えに来ないことに、ロイは
何かあったのかと、急に不安になる。
「エディ?居ないのか?」
ロイは、一階を隈なく探したが、エドワードの姿が見えず、
ロイは慌てて二階へと足を向ける。
階段を駆け上がると、どこから聞こえる歌に、ロイは足を止める。
聞き覚えのある旋律と、歌が聞こえてくる部屋を見て、
ロイは漸く安堵の溜息をつく。
子供達の部屋のドアが、僅かばかり開いており、そこから、
エドの歌う、子守唄が静かに流れているのを、ロイは
邪魔をしないように、そっと近づくと、ドアの隙間から
部屋の中を伺い見る。
「・・・っ!!」
月明かりの中、月の光を反射して、黄金色に輝く髪をした
エドワードが、慈愛の瞳で愛する子供達を見つめながら、
優しく子守唄を歌っている姿は、聖母を思わせるには十分で、
思わずロイは息を止めてその光景に、魅入っていた。
エドワードは子守唄を歌い終わると、二人の子供の額に、
それぞれ軽くキスをすると、布団を掛け直し、静かに
部屋を後にしようとして、ドアに佇むロイを見つけ、驚きに
目を見張る。
「ロイ!?」
「しっ。子供達が眼を醒ますぞ。」
ロイは穏やかに微笑みながら、エドに軽く口付けると、眠っている
二人の子供の枕元へ跪き、そっと愛らしい子供達の
寝顔を見つめる。
「ただいま、フェリシア。」
ロイは、今年5歳になる娘のフェリシアの頬に、ただいまのキスをする。
「ただいま、レオン。」
次に、4歳の息子の頬にも同じように、ただいまのキスをする。
「さっきまで、どうしてもパパが帰ってくるのを待ってるって、
二人とも聞かなかったんだ。」
今さっき、やっと眠ったんだよと、苦笑する妻に、ロイはそうか頷くと、
二人の子供達の頭を撫でる。
「遅くなってすまなかったな。」
優しく子供達の頭を撫でるロイの後ろから抱きつくと、子供達の枕
元に置いてある絵を、ロイに見せる。
「二人がね、ロイにって、一生懸命に描いたんだよ。」
「私に?」
エドから受け取った画用紙には、自分達家族の絵が
描かれていた。余白に書かれてある、「パパ、いつもありがと」の文字に、
ロイは幸せそうに微笑む。
「流石、私たちの子供だ。絵がすごく上手い。」
ヒューズに負けず劣らずの親バカ振りに、エドはクスクス笑う。
「父の日には、ロイ休みが取れなかっただろ?おまけに、
最近帰りが遅いし、出かけるのも早くて、ずっとすれ違いだし。
明日から三日間ロイが休みだと聞いて、二人ともはしゃいじゃって、
父の日のやり直し〜って、朝からそれを描いてたんだよ。」
何回も描き直しては、心配そうに喜んでくれるかなぁ〜と、
泣きそうな顔になる二人を思い出し、エドはロイにギュッと
しがみ付く。
「エディ?」
少し様子のおかしいエドに気づき、ロイはそっと自分の首に
回されているエドの腕をポンポンと叩く。
「今、子供達を寝かしつける為に、子守唄を聞かせてたんだけど、
母さんを思い出してた。」
エドはロイの背中から離れると、ロイの隣に座り込むと、
ロイの肩にコトンと頭を乗せて、子供達の寝顔を見つめる。
「母さんも、俺とアルが寝付くまで、ずっと子守唄を歌ってくれた。
すごく優しい声で、聞いているだけで、すごく安心するんだ。
母さんが歌ってくれると、悪夢なんて全然見なかった。
それが今では自分が子供に歌っているなんて、まだ信じられないよ。」
「エディ・・・・・。」
ロイは優しくエドの肩を抱く。
「ねぇ、ロイ。俺を迎えに来てくれて、ありがとう。」
もしも、あの時、ロイが迎えに来てくれなかったら、今頃自分は
何をしていたのだろう。フェリシアと二人だけで、静かに暮らして
いた事だろう。それはそれで幸せだが、愛するロイとレオンがいる
この生活を知っている今となっては、それはなんと味気ないものなの
だろうか。フェリシアにしても、最悪父親の顔すらも知らない生活を
強いてしまうところだったと、今更ながら、エドはあの時の自分の
選択に背筋が凍る思いをする。
「本当に、ありがとう。ロイ。あの時、俺は自分の弱さから、
ロイを傷つけ、フェリシアに父親がいない寂しさを味合わせてしまう
ところだったんだ・・・・・・・。」
その言葉に、ロイは首を横に振る。
「いや、お礼を言うのは、むしろ私の方だ。無理矢理君を
抱いた私を許してくれたばかりではなく、君は私に家族を
与えてくれた。人生に安らぎを与えてくれた。
もしもあの時、君が私と共に生きてくれることを
承諾してくれなかったら・・・・いや、それ以前に君の居場所や
妊娠も知らずにいたとしたら、私は今でも君をずっと探し続けて
いただろう。ずっと1人で。」
癒されることのない心を抱えて、一人きりで孤独に生きていく
自分を、ロイは容易に想像できた。そうならずに済んだ奇跡に、
ロイは心からエドに感謝を述べる。
「愛している。エドワード。」
「俺も、愛している。ロイ・・・・・・。」
ゆっくりと唇を重ね合わせようとしたその時、フェリシアが、
寝返りを打つ。
思わず固まってしまった二人は、横目で子供達が起きていないことを
確認すると、思わず小さく笑う。
「明日、これを子供達から貰うのが、すごく楽しみだな。」
ロイは子供達の布団を直すと、枕元に子供達の絵を元通りに
戻す。
「おやすみ。フェリシアにレオン。」
ロイは二人にそれぞれキスを贈ると、エドを促して、子供部屋を
そっと後にする。
静かに扉を閉めるロイに、エドは満面の笑みを浮かべて、
ロイに尋ねる。
「そういえば、ロイ食事は?」
一応、作ってあるんだけど?と首を傾げるエドに、ロイはニヤリと
笑う。その人の悪い笑みに、エドは本能的にヤバさを感じ、
思わず一歩後ろに下がる。だが、ロイが三歩前に出た為、
その差は縮まらないどころか、逆に密着するほど距離が縮まる。
「では、久々に心ゆくまで堪能しようか。君を。」
そう言って、ロイは嬉々としてエドを抱き上げる。
「ちょっ!!ロイ!!」
真っ赤な顔のエドに、ロイは幸せそうな笑みを浮かべる。
「愛しているよ。奥さん。」
「お・・・俺も、愛している。旦那様・・・・。」
エドはぎゅっとロイの首に抱きつく。そんなエドに軽く口付けると、
奥にある、自分たちの寝室へとしっかりした足取りで歩き出す。
結婚生活5年目に突入したにも関わらず、未だ万年新婚夫婦の
二人の夜は、これから始まるのだった。
FIN
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web拍手お礼初のロイエド子SSで、
LOVE'S PHILOSOPHYシリーズ番外編です。本編が終わっていないのに、
もう番外編を書いてしまいました。
子供がいて、幸せ〜ラブラブ〜を目指したかったのですが、何故かあまり甘く
ないような気がするのは、きっと私の気のせいですね。(某大佐シリーズが
激しすぎるから、物足りなく感じるのか?)本編でエドのお腹にいた子も、
もう5歳で、4歳の弟までいます。きっと、絵に描いたような、アットホームな
家庭を築いているんでしょうねぇ。【笑】
感想を送ってくださると、嬉しいです。