「これって、まさか浮気・・・?」
エドは、白々と空ける空を、ぼんやりと眺めながら、
ポツリと呟いた。
事の起こりは、ここ半年の間、ロイの様子がおかしい事に
気づいた為だ。
よく1人でボーツとしていたと思ったら、急に思い出し笑いを
し始めるし、その上、エドが話しかけても、上の空で、
書斎で仕事をしているのかと思ったら、エドが部屋に入って
いくと、慌てて書いていたものを隠したりと、あまりにも、
挙動不審なロイの様子に、エドは一瞬浮気の文字が
頭を過ぎるが、まさかロイに限ってはと、訝しげながらも、
黙って静かにロイの行動を見守っていた。
そのうち、自分にだけは、理由を話してくれると信じていたの
だが、ここ1カ月ばかりの間、仕事と称して、夜遅く帰って
は、いつもなら、しつこい位のお帰りなさいのキスを強請る
ロイが、エドには指一本触れず、ただ寝に帰るだけの毎日を
送るようになり、ついには、昨日は無断外泊である。
「もう・・・俺のこと、嫌いになったのかな・・・・・。」
しょんぼりとエドは項垂れる。
いろいろあって、16歳でロイと入籍。その数ヵ月後に長女の
フェリシアを産み、さらに翌年には、長男のレオンを出産。
家事と育児に忙しいが、充実した日々を送るようになって、
5年目。このまま幸せな日々が続いていくと思っていただけに、
エドのショックは計り知れない。
「ロイ・・・・・・。今日は、結婚記念日なんだよ・・・?」
折角の記念日なのに、何故自分はこんなに悲しい想いを
しなければならないんだろう・・・・・。
ぼんやりと考え事をしていたエドだったが、背後から
いきなりかけられた声に驚いて、飛び上がる。
「姉さん?」
「うわぁああ!!アル!?」
慌てて後ろを振り返ると、いつの間に来たのか、弟のアルフォンスが、
呆れたような顔でエドを見ていた。
「いくら呼び鈴を鳴らしても、出てこないから、勝手に入ってきたけど・・・。
なんだ、まだ支度出来てないの?」
「支度・・・・?」
一体、何の話だろうと、エドが首を傾げていると、2階から、トタトタと
可愛らしい足音が二人分聞こえてきた。
「やっぱり〜。アルお兄ちゃん!」
「お兄ちゃん!!」
お気に入りのお兄ちゃんを見つけた二人は、嬉しそうにアルに抱きつく。
「おはよう。フェリシアにレオン。えらいな。今日はちゃんと起きられたんだね。
それに、きちんとお洋服も着て、偉いね。」
アルフォンスに褒められ、二人は顔を見合わせて笑う。
「だって、パパとお約束したんだもん!今日はとってもいい子にするって!」
「約束〜!!いい子〜!」
アルはニッコリと微笑むと、二人の頭を優しく撫でる。
「あのね!アルお兄ちゃん!フェリシア達がね、とってもいい子に
していたらね、ママがね、お姫様になるんだって!!」
眼をキラキラさせて、アルに一生懸命説明する愛娘の言葉に、エドは
訳がわからずに、首を傾げる。
「お姫様・・・?約束?一体、何の話だ?」
そんなエドに、アルとフェリシアは顔を見合わせて、クスリと笑った。
「まだ内緒だよねー。」
「そう!内緒なの〜。」
1人疎外感を感じて、ムッとするエドに、アルはニコニコと笑いながら、
エドの手を引くと、有無を言わさずに連行する。
「ちょっとアル!!」
「いいから。いいから。時間がないから、その格好でもいいか。
どうせ着替えるんだから・・・・。さぁ、とっとと来る!!」
玄関までくると、ハボックが、珍しくスーツ姿で車の前で待機していた。
「よっ!エド。時間がないから、早く乗れよ。」
「ハボック大尉まで!?一体・・・・。」
アルはエドと子供達を車の後部座席に押し込めると、さっさと
助手席に乗り込む。そして、同じように運転席に座るハボックに、
声をかける。
「ホークアイ中佐は、もう既に?」
「ああ。昨日からスタンバイしているよ。」
そんな二人の会話に、エドは間に割って入る。
「ちょっと!何の話だよ。一体、何処へ連れて行く気だ!!」
怒り狂うエドに、アルフォンスはにっこりと微笑む。
「そんなの、な・い・しょ♪に決まっているじゃないか。」
「アル〜。」
エドは何とか聞き出そうと、宥めすかしたり、怒ったりしたが、
子供を始め、アルもハボックも笑ってばかりで、全く答えようとしない。
「もう!いいよ!!」
半分諦めて、なかば不貞腐れるように大人しくなるエドに、アルは
クスクス笑いながら、エドを振り返った。
「もう、着いたよ。姉さん。」
アルに車のドアを開けられて、子供達に手を引かれて車から
降りるエドの前には、見覚えのある教会が飛び込んできた。
「ここって・・・・・。エリュシオンの・・・・。」
唖然と呟くエドの前に、二人の女性が立ちはだかった。
「おっそいわよ!エド!」
「でも、間に合って良かったわ。エドワードちゃん。」
メイク道具一式を手にしたウィンリィとホークアイの二人は、
不敵な笑みを浮かべて、そのままエドを教会の控えの間まで
連行する。
「ちょっと!!」
慌てるエドに、二人は手分けしてどんどんと作業を進めていき、
エドが疲れてぐったりとし始めた頃に、漸くエドを解放した二人は、
感嘆の声を上げる。
「綺麗よ。エド!」
「本当に。ドレスもピッタリだし、これならサイズ直しも必要ないわね。」
最後の点検とばかりに、一通りエドの周りをグルリと回っていたホークアイが
満足そうに頷く。
「これは・・・・・。」
全身が映る鏡の前に連れて来られたエドは、自分が纏っているウエディング
ドレス姿に、言葉が出ない。
「これって、オーダーメイドなんでしょう?流石、マスタングさんは、
センスがいいわ〜。」
羨ましそうに言うウィンリィに、ホークアイも大きく頷く。
「半年も前から準備していただけはあるわね。」
その言葉に、エドはハッと我に返る。
「半年前って・・・・・。」
「ママ〜綺麗!!」
「綺麗!!」
ホークアイに尋ねようと口を開きかけた時、二人の子供達の声が
響き渡った。慌てて後ろを振り向くと、いつもは下ろしている髪を
後ろに撫でつけて、白いタキシードを着ているロイが、子供達の
手を引いて、部屋の中に入ってきた。
「ママ、お姫様〜!」
「お姫様〜。」
喜ぶ二人の子供を、ウィンリィとホークアイに預けると、
今だ惚けている最愛の妻の傍へ近づく。
「さあ、私達は向こうで待っていましょうね。」
子供達を連れて、部屋を後にするホークアイ達に、ロイは軽く
頭を下げると、ゆっくりとエドに向き直る。
「綺麗だよ。エディ・・・・。私の花嫁・・・・。」
きつく抱き締められ、エドは泣きそうになりながら、必死に
ロイにしがみ付く。
「ロイ〜。浮気されたのかと・・・・。もう、俺の事、嫌いになったの
かと・・・・。」
「なっ!そんな訳ないだろ!私はずっとエディだけを愛しているんだ。」
驚くロイに、エドは拗ねたような顔で、ロイを見上げる。
「だって・・・最近、ロイが余所余所しくって・・・・。」
不安げなエドに、ロイは穏やかに微笑むと、きつくその身体を
抱き締める。
「直ぐに子供が生まれたから、式を挙げていなかっただろ?
ずっと気になっていたんだ。」
ロイはゆっくりとエドの顔を覗き込むと、優しく微笑む。
「本当は、リゼンブールの教会で式を挙げようかと思って
いたのだが・・・・・。ここは、私達の、本当の意味での
始まりだから・・・・・。」
だから、ここにしたと笑うロイに、エドも釣られて、にっこりと微笑む。
「本当は、君に一言相談してから決めようと思ったのだが、
驚く顔が見たくてね。つい直前まで内緒にしていたんだよ。だが、
それで不安にさせてしまったようだね。すまなかった・・・・。」
申し訳なさそうに謝るロイに、エドは慌てて首を横に振ると、
ロイにだきつく。
「大好き!ロイ!!」
「私も愛しているよ。エディ。これからも、ずっと私の傍にいてくれ・・・。」
「勿論!絶対に離れない!」
嬉しそうに微笑むエドに、ロイは幸せそうに微笑むと、神聖な誓いのキスのように、
そっとエドに唇を重ね合わせた。
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5年目の浮気ではなく、5年目の結婚式でした〜。
本当は、ロイがドレスのデザイナーに会っている所を、エドに目撃されて、
浮気だと騒がせる予定だったのですが、話が倍以上長くなり、おまけに
収集がつかなくなったので、このような形にしました。
感想などを送ってくださると、すごく嬉しいです。
上杉茉璃