LOVE'S PHILOSOPHY 【お子様編】

     ロイ・マスタングの野望
           〜ぼくらの七日間戦争〜

         第5話  嵐の1日 【中編】

 

 

 

 

       何故、自分はこんな場所で寛いでいるのでしょう・・・・・。
       ジャン・ハボック少佐は、隣で和気藹々と惚気話に花を咲かせている
       上官と部下を横目で見やると、深々と溜息をついた。





       ロイの家に辿りつく前に、ハボックは、散々クロードにロイには
       レオンに片思いをしている事を言うなと念を押したのだが、恋する
       レオンの家に行ける事に舞い上がったクロードは、ハボックの話を
       右から左へと聞き流し、既に頭の中では、レオンとのラブラブを
       想像しているのだろう。トリップした眼で、ニヤニヤ笑っている。
       ”そう言えば、中将も、エドが絡むとこんな顔をしているな・・・・・。”
       見目良い男でも、脳内トリップ中は、はっきり言って不気味だ。
       ”まっ、どうせ玄関先で書類を渡すだけだしな。”
       面倒な事にはならないだろうと、ハボックは楽観していたのだが、
       ハボックはトコトン運命に見放されていた。
       たまたま風邪を引いたロイを置いて、家族が買い物に出てしまって、
       暇を持て余していたロイが、珍しくハボック達を家の中に招き入れた
       のだった。
       こんな所で、野郎ばかりでお茶を飲むよりも、さっさと書類を
       処理して、一刻も早くここから出たいというのは、ハボックの弁だった。
       しかし、愛しのレオンが不在で、一気に落ち込むクロードだが、直ぐに
       ここは父親に好印象を与えた方が、後々有利と判断し、にこやかに
       ロイとのお茶を楽しんでいた。
       「・・・ところで、クロード・グリーンウッド少尉。」
       ロイは、ヒューズも真っ青な家族自慢トークに一応区切りを付けると、
       優雅に紅茶を飲みながら、ニヤリと笑った。
       「君は大層女性に持てるそうだね。だが、一つだけ忠告しておこう。
       あまりハメを外しすぎると、いざ本命が出来たときに、いらん苦労を
       することになるぞ。そこのところは、肝に銘じたほうがいいだろう。」
       流石、経験者は語る。妙に説得力のある言葉に、クロードも神妙に
       頷く。
       「ええ。そうですね。これまでの遊びの女性達とは、早々に手を切る
       つもりです。」
       その言葉に、ロイはおや?とした顔をする。
       「実は昨日、私も漸く運命の人に出会う事が出来たのです・・・・。」
       その言葉に、ロイはオオ!!と驚き、ハボックはヤバイ!!と顔を
       青くさせる。
       「そうか。君にも現れたのか。私の時もだね、妻と初めて出会った時、
       運命を感じたのだよ。」
       その時のことを思い出したのか、ロイの顔がにやける。
       「ただ、私の場合、街で見かけただけで、相手は私の事を知りません。
       しかし!この私の熱い想いを相手に分かってもらえる様に、努力だけは
       惜しまないつもりです!!」
       両手を握って熱く力説するクロードに、ロイはうんうんと神妙に頷く。
       「そうか、君は辛い恋をしているのだな・・・・。だが、その熱意があれば
       大丈夫だ!応援しているよ。」
       昔の自分に重ね合わせているのか、ロイはしきりにクロードを激励して
       いる。
       ”いいんッスか!?応援しちゃって!クロードの恋の相手は、あなたの
       御子息なんですよ!!”
       ハボックは心の中でツッコミを入れるが、流石にそれを口にすると、
       死よりも恐ろしい目にあうことは、分かりすぎるくらいにわかるので、
       ハボックは、口を閉ざす。
       「じゃあ、中将、俺らはこれで失礼します。まだ仕事が残っているので!」
       これ以上ここにいて、ボロが出てしまっては一大事とばかりに、ハボックは
       クロードの腕を取ると、ソファーから立ち上がる。
       「あれ?もう帰るの?」
       その時、コンコンというノックの後に、エドワードがお茶のお代わりを持って、
       ひょっこりと扉から顔を覗かせる。エドワードは、黒のゆったりとしたカシミアの
       セーターを着て、ジーンズを穿いていた。そして、普段なら下ろしている髪を、
       昔のように、一本の三つ編みにしていた。男装が性に合っていたのか、
       元の身体に戻っても、エドはスカートよりもズボンを好む傾向が強かった。
       ロイは少しそれに不満そうだが、他の男にエドの可愛い姿を見せるのが、
       とても嫌な事もあり、エドの服装には、口を挟んだ事がなかった。
       「よお!悪いなそろそろ仕事に戻らなきゃなんねーんだ。」
       済まなそうな顔をするハボックに、エドは苦笑する。
       「でもさ、紅茶をもう一杯飲む時間くらいあるんじゃねーか?」
       エドはにっこりと笑うと、すっかり冷めてしまった三人の紅茶を新しいものと
       取り替える。
       「お帰り。良いものが買えたかい?」
       エドから紅茶を受け取りながら、ロイはエドに蕩けるような笑みを浮かべた。
       「ただいま。もうばっちり!!」
       ニコニコ笑うエドは、初めて見るクロードに気づき、キョトンとなる。
       「ああ。彼は昨日付けでうちの部署に配属になった、クロード・グリーンウッド
       少尉だよ。グリーンウッド少尉、紹介しよう。私の・・・・・・・・。」
       「レオンさん!!
       「「「はい!?」」」
       いきなりエドに向かって、レオンの名前を叫ぶクロードに、ロイとエドとハボックの
       三人は、固まる。
       ”な・・・何を言っていやがるんだ?こいつ・・・・。”
       茫然となるハボックだが、直ぐに自分がずっと見当違いをしていたことに
       気づき、顔を青くさせる。そう。クロードが見ていた写真は、レオンではなく、
       エドだったのだ。
       ”やべえ!レオンなら、もしかしたら熱意でなんとかなったかもしれねーが、
       エドだけは絶対に無理だ。中将の逆鱗に触れ、即消し炭決定。いや、
       それよりも、生まれてきた事を後悔するような酷い目に合うこと決定。”
       クロードの閉ざされた未来を想い、ハボックは心の中で十字を切る。
       だから、一瞬反応が鈍って、ハボックはクロードの暴走を止める事が
       できなかった。クロードはツカツカと惚けているエドの側まで寄ると、
       その華奢な両手を握り締めた。
       「初めまして。レオンさん。私はクロード・グリーンウッド少尉です。
       昨日付けであなたの父君の部署に配属されました。」
       「は?父君?何言って・・・・。」
       何を言っているんだと、茫然と固まってしまったエドに、もはや暴走した
       クロードを止めることが出来ない。
       「本当に美しい。例えあなたが男でも構いません。昨日街で見かけてから
       ずっと私の心はあなたのものです。どうか私と結婚を前提に・・・・・。」
       「誰が男と見間違えるほど胸がない豆粒ドチビかぁあああああ!!
       俺は女だぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!馬鹿野郎!!」
       エドは怒りに震えると、強烈な右ストレートをクロードに放つ。
       茫然と床に座り込むクロードに鋭い視線を投げつけると、エドは泣きながら
       部屋を飛び出していく。
       「女?」
       茫然と呟きながら、どこか嬉しそうなクロードの様子に、それまで唖然と
       事の成り行きを見守っていたロイが、黒いオーラを身に纏い、ユラリと
       ソファーから立ち上がると、いつの間に装着したのか、発火布の手袋を
       翳しながら、クロードの側まで近寄ると、冷たい目で見下ろす。
       「貴様、死にたいらしいな・・・・・。」
       先程の友好的雰囲気を一掃したロイは、ゆっくりと右手をクロードに向ける。
       まさに、さっきまでの友は今の敵を地でいっている。
       「お・・・お義父さん・・・・・。」
       恐怖に引き攣るクロードの言葉が、さらにロイの怒りに火を注ぐ。
       「だれがお義父さんだっ!!エディは私の妻だ!!!」
       ロイはクロードの顔を容赦なく殴ると、ハボックをギロリと睨んだ。
       「おい!コイツを今すぐに独房へ放り込んでおけ!!上官不敬罪だっ!!」
       「イエッサ!!」
       ビシッと敬礼するハボックに満足そうな顔で頷くと、ロイはクロードの胸倉を
       掴んだ。
       「休み明けを楽しみにしていろ。私直々に尋問を行うからな・・・・・・。」
       ロイは乱暴にクロードを離すと、エドを追いかけるべく、部屋を出て行こうと
       するが、その前に、切羽詰ったソフィアが駆け込んできた。
       「何があったの!ロイ!!エドワードちゃんが泣きながら、家を飛び出して
       いったわよ!!」
       「なんだと!母さん!子供達を頼みます!!エディ!!」
       ロイは慌てて家を飛び出した。
       
       





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すみません。後編は【隠れ月】行きになります〜!!