「い〜や〜だ〜!!」
「中将・・・・いい加減にして下さいよ。」
朝も早くから迎えに来ているハボックは、ロイの子どものような
駄々に、いい加減にしてくれと頭を抱える。
「ロイ〜。仕事だろ?ほら!早くしろよ!!」
流石のエドも、ロイの行動に、呆れ果てている。そのエドの両脇には、
驚いた顔でフェリシアとレオンがじっと父親を見つめていた。
「パパ、どうしたの?どっか痛いの?」
尋常でない父親の様子にどこか具合でも悪いのかと誤解したフェリシアが、
エドを見上げながら不安そうに涙を流す。そんな、ポロポロと涙を流す
フェリシアに、ロイはパッと顔を上げると、それまで何をしても、玄関の扉に
へばり付いていて離れなかったのが、パッと手を離すと、フェリシアとレオンを
抱きしめる。
「ああ!やはり、お前たちを残して行く事なんて出来ん!!」
グリグリと頭を子供達に摺り寄せながら、ギュッと抱きしめる。
「パパ〜。苦しいの〜。」
「ふぇええええ。」
熱いロイの抱擁に、フェリシアとレオンが驚いて泣き出す。
「あっ!すまない!フェリシア!レオン、大丈夫か!!」
ハッと我に返って腕の力を緩めるが、2人は泣き止み事はない。
どうしようと、固まるロイに、エドは慣れた手つきでロイから子ども達を
引き離すと、未だ茫然としているロイを、ハボックに引き渡す。
「それじゃあ、仕事頑張って!」
チュッと軽くロイの頬にキスをしたエドは、だんだんと落ち着いてきた
子供達を促して、さっさと家の中へと入ってしまった。
「エ・・エディ!?フェリシア!レオン!!」
ロイがハッと我に返った頃には、ハボックに引き摺られて、車に
放り込まれた後だった。
「ハボーック!!上官命令だ!!今すぐ戻れ!」
「すんません。中将。俺、流石に命が惜しいです。」
ハボックは、そう謝ると、アクセルを思いっきり踏んだ。
「一体、何だと言うのだね!ホークアイ中佐!!」
ハボックに拉致られ、退屈なだけの会議に出席したロイは、
自分個人の執務室に戻ると、開口一番、己の副官に対して
文句を言う。
「中将、仕事です。諦めて下さい。」
しかし、ロイの小言を左から右に聞き流すと、ホークアイは
更に書類をロイの机の上に積み上げていく。
「待ちたまえ!私は仕事を全て終わらせて、今日は有休を
取っていたはずだぞ!何故こんなに仕事があるんだ!!」
大量の書類に、顔を青くさせるロイに、ホークアイはニッコリと
微笑んだ。
「お子様達のたっての願いです。」
「子供達の?」
途端、怪訝そうな顔になるロイに、ホークアイはクスリと笑うと、
執務室の扉を開けて、廊下から誰かを招き寄せる。
「さぁ、入ってもいいわよ。」
ホークアイの言葉に、カラカラカラと可愛いカートの音と共に
可愛らしい声が聞こえてきた。
「お邪魔しますなの〜。お茶をお持ちしました〜。」
「お疲れ様です〜。パパ〜。」
カラカラと子供用のカートを押しながら、フリルのついた白いエプロンも
良く似合っている、ロイの愛娘のフェリシアと、男の子用の白いエプロン
をしている、愛息子レオンが、ニコニコしながら、執務室に入ってきた。
「フェリシア?レオン?」
今朝、涙の別れをした子供達が現れ、すごく嬉しいのだが、この状況に、
ロイは首を傾げる。そんなロイの困惑に気づかず、子供達は
テーブルの上に、危なっかしい手でお茶の準備を整えると、未だ
惚けている父親の手を取る。
「準備が出来ましたの〜。」
早く早く!と急かす子供達に、ロイは茫然としながらも頷くと、ソファーに
異動する。
「このクッキー、フェリシアが作ったの!」
「これはボク!!」
先を争ってロイに報告する二人に、ロイは戸惑いながら、二人が作ったと
言うクッキーを食べる。甘さ控えめの好みの味に、ロイは自然嬉しそうに
微笑むと、2人の頭を撫でる。
「ありがとう。とても美味しいよ。」
父親の言葉に、フェリシアと、レオンはお互い顔を見合すと、はにかむ様に
笑う。
「じゃあ、パパ、疲れが取れた?」
ニコニコと笑うフェリシアに、ロイはデレ〜とした笑みを浮かべる。
「勿論だとも!!ところで、今日はどうしてここに?」
ロイの問いに、レオンがニコニコと答える。
「今日はパパの日です!」
「パパ・・・?ああ、父の日だったのか・・・。」
ロイは、壁に掛けられたカレンダーを確認すると、頷いた。そう言えば、
去年は休みが取れず、子供達に寂しい思いをさせた事を思い出し、
それならば、何故休みが取れた今年も仕事をしなければならないのだろうと
ロイは首を傾げる。そのロイの心の声が聞こえたかのようなタイミングで、
ロイに声が掛けられる。
「・・・・この間、ロイが言っただろ?仕事中でも子供達とお茶が出来たら、
疲れが取れるのにって。」
「エディ!?」
クスクス笑いながら、執務室に入ってくるのは、最愛の妻、エドワード。
「パパ、いつもご苦労様!」
「ご苦労様!!」
両頬に、子供達からキスを貰えて、ロイは不覚にも目頭が熱くなる。
「この為にわざわざ?」
「うん!パパ、いつも頑張ってるから!」
「感謝なの!!」
自分にしがみ付く子供達を、ロイはきつく抱きしめる。
「ありがとう!パパ、頑張るぞ!!」
「・・・・中将、お子様との楽しいお茶会は、あと15分ですので。」
ホークアイの言葉に、ロイは機嫌を損ねる。折角最愛の家族がいるのだ。
今日はこのまま家に帰りたいというのが、ロイの今の気持ちだった。
しかし、ホークアイはアメと鞭の使い分けが上手い。にっこりと笑うと、
視線を机の上の書類に走らせる。
「この書類が全て完了すれば、明日から一週間の有休が取れますが?」
ピクリと反応するロイに、子供達も応援する。
「頑張って下さいなの〜。」
「パパ〜。疲れたらお茶を入れてあげる〜。」
期待に瞳を輝かせる子供達に、ロイはがぜんやる気になった。
「よし!パパはお前たちの為に頑張るぞ!!明日から毎日パパと
遊ぼう!!」
ロイは、15分間の休憩が終わった後、いつもの100倍は早く仕事を
こなしていく。そんな父親の姿に、子供達は歓声を上げる。
「フフフ・・・・。私が大総統になった暁には、子ども達とのお茶会を
一日最低一回はするようにしよう・・・・。」
仕事中に最愛の家族と一緒にいられた事に味をしめたロイは、
『大総統になったら絶対に行う事』を書いた手帳に、嬉しそうな顔で
項目を追加した事は、ロイだけの秘密である。