LOVE'S PHILOSOPHYシリーズ

          ロイ・マスタングの野望 〜宿命の対決〜
 

                         第10話


   「随分と、遅い登場だな。」
   部屋に入って開口一番、祖父にそんな事を言われたロイは、フッと笑みを
   浮かべると、傍らのエドを抱き寄せる。
   「お久しぶりです。お祖父さん。ああ、まだ紹介が済んでいませんでしたね。
   彼女は、私の妻のエドワードです。」
   ロイの言葉に、眉間を寄せたステファンに、機嫌を損ねたと勘違いした
   エドが、慌ててペコリと頭を下げる。
   「あ・・・あの!ご挨拶が遅れてすみません!俺、・・・じゃなかった、私はロイの・・・。」
   「ああ!エドワード!!
   みなまで言わせず、ステファンは、額に手を当てて項垂れる。
   「じっちゃ・・・じゃなかった、お祖父さん!?俺・・・じゃない、私何か・・・・気に障る事でも・・。」
   妙に芝居がかったステファンの様子に、ロイとソフィアは冷たい視線を向けるが、
   エドはそれが自分の行動が気に入らなかったと勘違いしたのか、オロオロと可哀想なくらい
   狼狽えていた。そんなエドに、ステファンは、項垂れたまま、チョイチョイと手招きをした。
   「エディ!行く必要なんてない!!」
   慌ててエドがステファンの近くに寄ろうとするのを、阻止しようとするロイだったが、
   エドの行動の方が一瞬早かった。
   慌てて駆け寄るエドに、ステファンは、ギュウウウウウとエドの身体を抱きしめる。
   「私のエディから離れろ!!
   「お父様!!
   目の前でエドが自分以外の者に抱きしめられているという状況に、ロイとソフィアの
   怒りが爆発する。だが、そんな二人を無視して、ステファンは、悲しそうな目で、
   じっとエドを見つめると、身体を放し、そっと包み込むようにエドの両手を握る。
   「エドワード。お祖父さんと言われるのは、嬉しいんじゃが・・・・私とおまえの仲だろ?
   他人行儀とは悲しいぞ?いつものように、接してくれんか?」
   「え・・・でも・・・・。」
   困惑するエドに、ステファンの横に座っていたマーチも、優しく微笑みながら頷く。
   「お祖父様の言うとおりだよ。エドちゃん。もう俺達は他人じゃないんだから、
   そんな他人行儀な言葉使い、止めちゃいなよ。」
   パチンと片目を瞑るマーチに、エドも肩の力が抜けたのか、フーッと深い息を吐くと、
   ニッコリと微笑んだ。
   「じっちゃん!マーチ!来てくれてありがとう!俺、すごく嬉しいよ!!」
   ニコニコと上機嫌に笑うエドを、更に抱き寄せようとしたステファンだったが、
   次の瞬間には、目の前ではなく、ロイの腕の中にエドはいた。
   「・・・・・・・ロイ。」
   ギロリと自分を睨むステファンに、ロイは苦虫を潰したような顔で、更にエドを
   抱き締める腕に力を込める。そして、その二人を守るように、ソフィアがステファンの
   前に立つ。
   「お父様。こちらにも準備というものがあります。いきなり来られて、
   迷惑しているんですけど?」
   腕を組むソフィアに、ステファンは、ニヤリと笑う。
   「手紙を出したはずだが・・・・。どうやら、郵便事故にでも巻き込まれたか?
   一体、軍は何をしているのやら。」
   ふうと、わざとらしく肩を竦ませるステファンに、ソフィアはそれはそれは華やかな
   笑みを浮かべる。
   「昔に比べ、今は随分安定していますわ。最近では、郵便事故など、全く聞きませんわね。
   事故じゃなくって、ただ単に、手紙を出し忘れたんじゃないの?そういえば、
   この間、同じようなやり取りありましたわよね?あの時も、お父様は手紙を出したと
   言い張っていらっしゃいましたけど・・・・実際は・・・・ねぇ?」
   「・・・・・・さて、何のことやら。」
   痛いところを突かれたのか、ステファンは咳払いをすると、エドに優しい顔を向ける。
   「すまんな。エド。手紙を出したと思ったのだが、どうやら、お前会いたさに、気が急いて
   たようだ。」
   殊勝に頭を下げるステファンに、エドはブンブンと首を横に振る。
   「気にしないで!俺、二人に会えてすごく嬉しいんだから!!」
   ニコニコと笑うエドに、ステファンとマーチの顔が綻ぶ。
   「実は、気になる噂を耳にしたので、慌てて飛んできたという訳なんだが・・・・。」
   そこで言葉を切ると、ステファンはロイに冷たい目を向ける。
   「エドは、軍を抜けることを条件に、結婚を強要されたというのは、本当かな?」
   「「「はぁ!?」」」
   驚く三人に、マーチも腕を組みながら、ウンウン頷く。
   「おまけに、弟が人質になっているとか、いないとか・・・・・。」
   「な!なんだよ!それ!!そんな変な噂があるのか!?」
   激昂するエドに、ロイは厳しい目をステファンとマーチに向ける。
   「どこから、そんな根の葉もない噂が?」
   「とある有力貴族から。」
   マーチの言葉に、一瞬ロイは目を見開く。
   「心当たり、ありそうだね?」
   目を細めて自分を見据えるマーチに、ロイは厳しい表情のまま、
   低く呟く。
   「誰だ?」
   「フフフフ・・・・。情報料は高いよ?」
   ニヤリと笑うマーチに、ロイはため息をつく。
   「いくらだ?」
   「ロイ!?」
   たかが噂に、何故ロイがここまで拘るのかが分からないエドは、
   驚きの声を上げる。
   「エドちゃんが欲しい!・・・・・って、冗談!冗談だから!!
   だから、発火布をしまえって!!」
   「・・・・・ちっ。」
   慌てるマーチに、ロイは舌打ちをしながら、大人しく手に嵌めようとした
   発火布の手袋を内ポケットに仕舞う。
   「ちょっと!?こっちは全然訳分からないんだから!!ちゃんと説明してよ!」
   いつの間にか、会話から置いてけぼりをくらったソフィアは、憤慨しながら、
   マーチを睨みつける。
   「俺達の大事な大事な花を傷つけようとする輩がいるから、協力して
   ボッコボッコにしましょうって、話ですよ。」
   ニッコリと笑うマーチに、ソフィアは項垂れる。
   「なんとなく状況は分かったけど・・・・。協力って・・・・あなた達二人がここにこうして
   いるって事は、もう既にシナリオが出来上がってるって事なんでしょう?」
   「ええ!!僕の婚約披露パーティ
   席で、徹底的に排除するつもりです!!」
   清々しい笑顔でキッパリと言い切るマーチに向かって、ロイは静かに発火布の手袋を
   嵌めると、右手を突き出した。




   
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