大佐の結婚・番外編

           Happy Wedding!






              「面白いじゃないか。宜しい。許可する。」
              大総統の言葉に、その場にいた者はロイを除き、
              全員驚愕した。
              「大総統!!」
              「お気は確かですかっ!!」
              「マスタング准将!君は一体どういうつもりで。」
              口々に喚き出す軍幹部の人間を無視して、
              大総統は、ロイにニッコリと微笑んだ。
              「結婚したまえ。鋼の錬金術師と。」
              「ハッ!有難き幸せ。」
              敬礼するロイを、大総統は満足そうに頷くと、
              書類にサラサラと何かを書きつけると、秘書官に渡す。
              「明日の朝刊が楽しみだ。」
              フフフと心底楽しそうな笑みを浮かべる大総統だった。



 

               「兄さん〜。待ってよ〜。」
               「早く!置いてくぞ!アル!!」
               長い金髪を一つに三つ編みにした少年の後を、
               短い金髪の少年が追いかけている姿は、微笑ましいものだ。
               セントラル駅で繰り広げられるそんな様子に、道行く人は、
               クスクス笑いながら見つめる。
               「もう〜。兄さん、足速すぎ!」
               でも、仕方ないかと、アルは思い直す。
               自分達兄弟の悲願である、元の身体に戻るという事が
               実現したのは、1ヶ月も前の事だ。本当は、直ぐにでも
               恋人であるロイに見せに行きたいのだろう。しかし、
               久し振りの生身の身体に慣れていないアルを気遣い、
               今までずっとアルに付きっきりでいたのだ。
               セントラルについた途端、我慢し切れなくて走ってしまう
               気持ちは十分理解できる。
               「本当は、大佐・・・今は准将だっけ。彼に兄さんを
               取られるのは、嫌なんだけどね。」
               でも、それが兄の幸せなら、自分は折れるしかない。
               「はぁ。もう、限界だ。」
               以前なら疲れ知らずの鎧だった為、兄に遅れるという失態は
               なかったが、流石に生身の身体では、そうもいかない。
               まだ、元に戻って1ヶ月なのだ。これ以上走れず、
               アルは走るのを止めて歩き出した。
               既に豆粒くらいに見えるエドの後ろ姿に、アルは苦笑する。
               本当に兄はあの男が好きだというのが、分かってしまう。
               アルは改めて、辺りの景色を見回す。
               通い慣れた道だが、本当の自分の眼を通して見ると、
               とても新鮮に感じる。アルは感慨深げに頷くと、ゆっくりと
               兄の後を追う。
               東方司令部の面々が、自分を見てどういう反応をするか
               想像するのが、とても楽しいアルだった。




               「ロイ〜!!」
               「エディ!!」
               ノックをせずに入ってきたエドに、それまで窓の外を
               眺めていたロイは、振り向くと、抱き着いてくる恋人を
               受け止めた。
               「へへっ。ロイ!ただいま!!」
               「あぁ、お帰り。無事で良かった。エディ。」
               そう言って、ロイはエドを抱き寄せると、深く口付ける。
               暫く恋人の気の済むようにしていたエドだったが、
               そっと腕から抜け出すと、着ていた赤いコートを脱ぎ捨てる。
               タンクトップ姿のエドの右腕は、機械鎧ではなく、
               紛れもなく、生身の身体だった。
               「エディ。おめでとう。」
               ロイはエドの身体を抱き締めると、そっと生身の右手に
               キスを贈る。
               「ありがとう。ロイ。ロイのお陰で、俺達、無事に
               元の身体に戻れた。」
               にっこり微笑むエドに、ロイは首を振る。
               「いや、君達が努力したからだ。ところで、アルフォンス君は?」
               「へっ?アル?」
               キョロキョロと辺りを見回すエドは、次の瞬間、決まり悪げに
               頭を掻く。
               「ロイに、早く会いたくて、アルを途中で置いてきたみたい・・・・。」
               「嬉しいよ。エディ。一番に私に会いに来てくれて。」
               再びロイはエドの身体を抱き締める。
               「ところで、ロイ、その服・・・・。」
               ふとエドは先ほどから感じている違和感を尋ねる。
               いつもの略式の軍服ではなく、正式のものにエドは首を傾げる。
               「今日、何かあるのか?」
               ロイは微笑むと、いきなり片膝をつくと、徐にエドの左手の薬指に
               嵌められている指輪に口付ける。
               「ロ・・・ロイィ!?」
               真っ赤になるエドに真剣な表情でロイは口を開く。
               「エドワード・エルリック。私と結婚してほしい。」
               「えっ!えっ!結婚って・・・俺、男・・・・。」
               ロイと共に生きる約束はしたが、自分は男だ。
               世間に認められた結婚が出来るわけが無い。
               困惑するエドに、ロイは立ち上がると、机の上に置かれた
               新聞の一面をエドに見せる。
               「何?これ。」
               ニコニコと微笑んでいるロイに訝しげな視線を
               向けながら、手渡された新聞の一面の見出しを読んで、
               絶叫する。
               「大総統の権限で、同性婚を認める〜!!!」
               「これで、何の問題もないな。エディ?」
               ニヤリと人の悪い笑みを浮かべるロイに、
               エドは訳が判らず唖然となる。
               「な・・・なんで。いきなり大総統が・・・・。」
               「私が進言した。」
               「はっ!?なんだと!!
               「この前の軍部祭りで、私が優勝した。
               優勝者は、一つだけ望みを叶えて貰えるのだよ。
               私は君と結婚がしたいので、同性婚を認めて欲しいと
               大総統に願ったのだ。」
               ロイの告白に、エドは青くなってロイに食って掛かる。
               「馬鹿っ!!そんな自ら失脚ネタをばら撒くな!!」
               「大総統は、直ぐに許可をくれたぞ。」
               ニッコリと微笑むロイに、エドは脱力する。
               「なんだって?」
               「だから、大総統は、『はっはっはっ。面白いじゃないか。
               宜しい。許可する。結婚したまえ。鋼の錬金術師と。』
               と、かなりご満悦だったぞ。」
               「なっ!!」
               絶句するエドに、ロイは真剣な顔になったロイは、
                ゆっくりとエドの肩を掴む。
               「君が目的を達成した今、1分1秒でも、君と離れて
               いたくない。それに・・・・。」
               ロイは、エドの身体を抱き締める。
               「私は、周りの人間に、君が私だけのものだと、
               きちんと宣言したい。どうか・・・・私と結婚してくれ。」
               「ロイ・・・・。」
               真剣なロイに、エドはギュッとロイの身体を抱き締めると、
               小声で呟く。
               「俺も・・・ロイが好き・・・・。ずっと一緒にいたい。
               ロイが俺だけのもんだと、みんなに言いたい。
               ロイと結婚したい・・・・。」
               だが、ロイの耳には確かに届いたようだ。ロイは嬉々として
               エドの顔を覗き込むと、ゆっくりと唇を重ね合わせた。
               「幸せになろう。エディ。」
               「うん。」
               二人は幸せそうに微笑むと、再び唇を重ね合わせるのだった。




               その後、先に籍だけでも入れようと、役所に届を出した後、
               アルに報告した為、怒り狂ったアルを宥めるのに、
               一苦労したことは、また別のお話。



                                              FIN