大佐の結婚・番外編

         心の花

 

 


            1ヶ月前、兄さんから衝撃の告白を受けた。
            まさか、兄さんとマスタング大佐が付き合っていたなんて。
            兄さんさえ、幸せならと思っていたのだけど、
            あの人は、本当に兄さんを幸せにしてくれるのだろうか・・・・。





            「こんばんわ。マスタング大佐。1ヶ月振りですね。」
            深夜、人知れず東方司令部を訪れたアルは、
            煌煌と明かりが付いているロイの執務室へと、
            やってきた。
            「アルフォンス君?」
            1人、書類と格闘していたロイは、突然の予期せぬ人物の
            登場に、驚きを隠せずに、ポカンと口を開けて、固まっていた。
            そんなロイの姿に、クスリと忍び笑いをすると、
            アルは、執務室の中に躊躇せず入り、パタンと扉を閉める。
            「すみません。夜分遅くに。」
            ペコリと頭を下げるアルフォンスに、ロイは苦笑する。
            「いや。気にしなくていい。ところで、一体何時こちらに?
            それに鋼のは?」
            「最終列車で、今着いたばかりです。兄さんは、途中で寝ちゃったので、
            宿の部屋に放り込んでおきました。」
            アルは、ゆっくりとロイの所まで来ると、じっとロイの黒い瞳を見つめる。
            「僕、大佐に聞きたいことがあるんです。」
            アルの真剣な声に、ロイの表情が、引き締まる。
            「・・・・・・私と鋼・・いや、エディの事かな?」
            ロイの兄に対する親しげな様子に、アルの身体は、ピクリと反応する。
            「・・・・・本気・・・・だと、受け取ってもいいのですか?」
            まるで、ロイの本心を見定めるかのように、じっと自分を見つめるアルに、
            ロイも真剣な顔で返す。
            「勿論。生涯で、ただ一度の恋だ。」
            迷いもなく、きっぱりと言い切るロイに、アルは緊張していた身体を解すように、
            ゆっくりと息を吐き出す。
            「何故、とお尋ねしても?」
            「・・・・理由が必要なのかい?」
            逆に訊ねられて、アルはうろたえる。
            「必要っていう訳ではないですけど・・・・・ただ、確認したいんです。
            僕は、大佐ではありませんので。」
            ロイは、溜息をつくと椅子から立ち上がり、アルにソファーを勧める。
            「まぁ、掛けたまえ。」
            「失礼します。」
            アルが腰を降ろすと、ロイは二人分のコーヒーカップを手に、アルの
            向かい側に腰を降ろす。
            「僕、飲めないんですけど。」
            困惑するアルの目の前に、ロイは一方のコーヒーを置くと、
            残ったコーヒーカップに口をつける。
            「気分だ。気にするな。」
            ロイは、一口コーヒーを飲むと、ゆっくりとカップをテーブルの上に置く。
            「アルフォンス君、君はエディを大切に思っているね。」
            コクリと頷くアルに、ロイは穏やかな笑みを浮かべる。
            「それに、理由はあるかい?」
            「・・・・・理由は・・・・・。」
           困ったように俯くアルに、ロイは苦笑する。
           「私も同じだよ。理由なんかない。エディが誰よりも愛しい。
           それだけなんだよ。」
           ロイは、深い溜息をつく。
           「・・・・理由とは、弱い自分を納得させる為だけのものだ。」
           それに理由だけでは、君も納得しないのではないのかね?と、
           ロイに問われ、アルはコクリと頷く。
           「僕、不思議だったんです。大佐って、女性にとてもモテルから、
           1ヶ月前に、兄さんから二人の事を聞いて・・・・もしかしたら・・・・。」
           「私が、エディを弄んでいる・・・・とでも?」
           コクリと頷くアルに、ロイは苦笑する。
           「確かにな。今までの私の素行は、あまり誉められたものではない。
           だが、信じて欲しい。私が本気になったのはエディ1人だけだと。」
           「・・・・・大佐・・・・・。」
           ロイはゆっくりと立ち上がると、アルに向かって頭を下げる。
           「た・・・大佐!?」
           いきなりのロイの行動に、アルはパニックを引き起こす。
           「アルフォンス君。私はエディを誰よりも愛している。
           絶対に幸せにする。だから、君のお兄さんを、
           私にくれないだろうか。」
           その言葉に、アルは自分に頭を下げ続けるロイの姿を
           じっと見つめる。
           “信じていいのかな・・・・・?”
           まだ信じきれないアルは、ゆっくりと息を吐く。
           「大佐にとって、兄さんは何ですか?」
           ポツリと呟かれるアルの言葉に、ロイは顔を上げると、
           穏やかな笑みを浮かべる。
           「私にとってエディは・・・そうだな。太陽であり、水であり、
           安らぎであり・・・・・上手くは言えないが、必要なものだ。」
           「必要・・・・・?」
           ロイの言葉を噛み締めるように呟く。
           「エディと出会ってから、私は人を愛する事を知った。」
           ロイは、そっと自分の胸に手を置く。
           「エディへの愛で、私の心は満たされ、エディからの愛で、
           私の心にまるで花が咲いているように、幸せなんだよ。」
           ロイの幸せな顔に、アルはハッと息を飲む。
           「・・・・大佐、兄さんと同じ事を言うんですね・・・・。」
           「エディ?」
           アルは苦笑しながら、昨日の事をロイに語って聞かせた。
           「兄さん言っていましたよ。大佐に好きだって言われる度に、
           心の中に花が一杯咲いているみたいに、幸せになれるって。」
           「・・・・エディが・・・・。そうか・・・・・。」
           その言葉を聞いたロイは、嬉しそうな顔をする。
           「それじゃあ、ボク、そろそろ帰ります。」
           ソファーから立ち上がるアルに、ロイは慌てる。
           「ちょっと待ち給え。こんな真夜中に、1人では危険だ。」
           「大丈夫です。宿は直ぐそこですし・・・・・。」
           それに・・・と、アルは机の上に山のように積まれた書類を見る。
           「あれを何とかしないと、明日兄さんが来ても、デートできませんよ?」
           いいんですか?と意地悪く言うアルに、ロイの顔が引き攣る。
           「勿論、あれぐらい、直ぐに終わらせるさ。」
           「期待していますよ。大佐。恋人が無能なんて、
           兄さんが可哀想過ぎますもんね。」
           無能の一言に、ロイはピクリと反応する。
           「アルフォンス君、容赦ないな。」
           「まぁ、頑張って下さい。大佐の心の中に咲いている花が
           枯れないように。」
           「・・・・・それは、私達の仲を認めてくれると解釈していいのかね?」
           ロイの言葉に、アルはクスクス笑う。
           「大佐の心がけ次第ですね。それは。ボクは、兄さんの幸せを
           祈っているだけです。」
           「勿論、期待に応えてみせるさ。」
           不敵に笑うロイに、漸くアルは安堵するのだった。





                                    FIN



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ホワイトデーの後日談です。
ロイエドと言ったわりに、全然エドが出てきません。
アル視点のロイエドって事で。