大佐の結婚生活・番外編

          薬指の決心



「な・・・・なんだとぉおおおおおお!!」
長閑な田舎町リゼンブール。
ポカポカとした陽気に包まれたそこに、
道行く人は、今日も天気がいいねぇと、
のんびりと挨拶を交わしている、そんな
穏やかな雰囲気に似つかわしくない絶叫が、
響き渡る。
「どうしたのさ!兄さん!!」
そろそろお昼にでもしようかと、キッチンで
仕度をしていたアルが、兄の絶叫を聞きつけ、
飛び出してきた。だが、エドはそんなアルに
気付かず、電話に向かって、まだ騒いでいる。
「どーして、そんな話になったんだよ!!
え?明後日が式〜!?そんな早く出来るかー!!
ロイの馬鹿ー!!」
半分涙目になっているエドに、アルはどうしたらよいか、
オロオロしていると、ポンと、背後から肩を叩かれる。
「ホークアイ大尉。」
ほっと安堵するアルに、ホークアイは安心させるように、
頷くと、スタスタとエドに近づき、その手から受話器を
奪い取る。
「へっ。」
いきなり受話器を奪われ、唖然とするエドに、ホークアイは
にっこりと微笑むと、電話口に出る。
「・・・・割り込み失礼します。マスタング准将。」
電話の向こうで、息を飲むのが聞こえ、ホークアイは
ニヤリと笑う。まさか、自分がここに来ているとは、
想像すらしていまい。脳裏にロイの慌てふためく姿が
浮ぶ。
「一体、エドワード君に、何を言ったのですか?」
大事なエドの半泣き状態に、ホークアイの怒りが
静かにMAXへと向かう。返答次第では、絶対に
許さないという決意が漲っていた。
「なっ、なっ、何故、ホークアイ大尉がそこに!!」
驚くロイに、ホークアイはサラリと答える。
「何故と申されましても・・・・。エドワード君達に遊びに
来るように誘われましたので。丁度非番でしたし。」
本当は、エドワード親衛隊幹部の会議だったのだが、
エドワード親衛隊中央(セントラル)支部を知らない
ロイに本当の事は言えない。そんな事をすれば、
自分達に警戒して、エドを浚って何処かへ行ってしまう
だろう。それを阻止する為に、ホークアイはロイに
悟られないように、細心の注意を払ってきたのだ。
今更バレるようなヘマはしない。ホークアイは
辺り障りのない答えを言う。
「で?一体何があったんですか?マスタング准将。」
ホークアイの言葉に、ロイは事の次第を説明する。
ヒューズと大総統の二人が結婚式で盛り上がってしまい、
明後日式をする事になってしまったという件では、
ホークアイは、怒りの為目の前が真っ暗になる。
(全く、幹部を無視して、一体あの人達は何を
考えているのかしら・・・。)
ホークアイの脳裏にヒューズと親衛隊ヒラ隊員の大総統の
二人の顔が浮かび上がる。
(二人には、お仕置きが必要ね。)
エドの結婚式には、自分が采配を振るうつもりでいた
だけに、出し抜かれた事に、かなりのショックを受ける
ホークアイだった。
(それに・・・・・。)
チラリと後ろに佇むアルと何時の間に来たのか、心配そうな
ウィンリィの姿に、ホークアイは自分の不運を呪いたくなる。
折角、先ほどエドとロイの入籍の件を渋々二人に認めさせた
所だと言うのに、また機嫌を損ねてしまう。
(・・・・仕方ないわね。)
遅かれ早かれこうなるのだ。だったら、今の内に丸め込む
方が良いだろう。ホークアイは溜息をつくと、ロイに
話し出す。
「分かりました。今から直ぐに、エドワード君と共に
中央司令部へ戻ります。」
「あぁ、すまないね。折角の非番なのに。」
明らかにホッとするロイに、あなたがもっとしっかり
あの二人の暴走を止めていれば!と怒鳴りたくなるのを、
グッと押さえこむと、そのまま無言で受話器を置いた。






「ロイ!!どーなってんだよ!!」
就業時間ギリギリに、エドがロイの執務室へ
駆け込んで来た。
「エディ!会いたかったよ!!」
一日振りのエドの姿に、ロイは顔を綻ばせると、
その華奢な身体をきつく抱き締める。
「ちょ!俺の質問・・・に・・・・・。」
暴れるエドを押さえ込むと、ロイはエドの顎を
持ち上げ、深く唇を重ね合わせた。
「ん・・・・。はっ・・・。ロ・・・イ・・・・。」
「エド・・・。エディ・・・・。」
ゆっくりとエドの着ている赤いコートを脱がせかけた
ところで、一発の銃声が執務室に響き渡る。
「・・・・・・准将・・・・・。何していらっしゃるんですか・・・?」
二人が入り口を見ると、怒りのオーラを纏った
ホークアイが銃を片手に仁王立ちで立っていた。
「ホ・・・ホークアイ大尉・・・・。」
ロイは、引き攣った笑みを浮かべながら、漸くエドを
離すと、エドは真っ赤になりながら顔を俯かせた。
「よっ!豆が帰って来たな〜。」
何とも言えない気まずい雰囲気が分からないのか、
ヒョイとホークアイの後ろから、ヒューズが顔を覗かせている。
「豆、豆言うな〜!!」
すかさずエドがヒューズの言葉に反応して、暴れ出そうと
するが、ヒューズの方が一枚も二枚も上手で、
振り回しているエドの腕を難なく取ると、そのままズルズルと
引き摺るように歩き出す。
「ほら、行くぞ。エド。」
「い・・・・行くってドコにだよ!!俺はまだロイに話が・・・・。」
「ん?そんなの後、後!!これからお前は
エステのブライダルコースをしなくっちゃなんねーんだよ。」
がはははは・・・と、笑いながら、ヒューズがエドを引きずって
行く。
「助けろ〜。ロイ〜。」
というエドの声が遠ざかるのを、呆然と見送っていた
ホークアイだったが、ハッと我に返ると、満足げに
二人を見送っているロイに、睨み付けながら言う。
「詳しいお話を伺いたいのですが・・・・。」
「良かろう。掛けたまえ。ホークアイ大尉。」
悠然と微笑むロイとは対照的に、ホークアイは不機嫌を
隠そうともせずに、勧められるままソファーに座った。







「ロイ〜。疲れた〜。」
エドが再び執務室へと帰って来たのは、それから
数時間が経った頃だった。椅子に座って、ぼんやり
窓の外を眺めていたロイは、立ち上がると、エドの
身体を抱き締めた。
「お疲れ様。エディ。」
上機嫌のロイに、エドは溜息をつくと、そっとロイの
首に腕を回し、自分から軽くキスをする。
「ほんっと。今回は疲れたぜ。で?一体何が
どうなってるんだ?」
むーっと上目遣いで睨むエドに、ロイは苦笑すると、
エドを抱き上げスタスタと今まで座っていた椅子へと
歩き出す。
「ちょ!ロ・・・ロイ!!」
ロイの行きなりの行動に焦るエドに、宥めるように
軽く頬にキスを送ると、椅子に座り自分の膝の上に
エドを座らせる。
「今日、ヒューズと大総統がここに来たのだよ。
私達の結婚式の事で。」
ロイはエドの月の光を受けて、金色に輝く髪を
梳きながら、話し始める。
「でも・・・明後日って・・・早い・・・・。」
消え入りそうな声で俯くエドに、ロイはエドの三つ編みを
手に取ると、そっと口元に寄せる。
「エディ。私は言ったはずだね。1分1秒でも
早く君と一緒に居たいと。君を私のものだと、
皆にきちんと宣言したいと。だから、敢えて
二人の計画に乗ったのだよ。」
「ロイ・・・・・。」
真っ赤な顔のエドに、ロイは幸せそうに微笑む。
「私は、明後日でも遅すぎると思うよ。」
エディは嫌なのかい?と、切なそうな顔で言う
ロイに、エドは反射的に首を横に振る。
「良い子だ。エディ。」
幸せそうなロイの顔を見て、エドは真っ赤になった顔を
見られないように、そっとロイの胸に頭を乗せる。
「・・・・なぁ、ロイ。」
「なんだね?エディ。」
エドの顔を覗き込むロイに、エドはにっこりと微笑んだ。
「俺、ロイに出会えて良かった。すごく幸せ・・・・。」
9年前のあの日、もしもロイが目の前に現れなかったら、
今頃自分がどうなっていたか・・・・・。
エドは沈んだ顔でロイを見上げる。
「ロイに出会えなかったら、アルを元に戻せなかったし、
俺の右腕と左足を失ったままで、絶望の日々を過ごして
いた・・・・・・・。絶対に・・・・。」
泣きそうな顔のエドを、ロイは抱き締める。
「エディ・・・。それは私も同じだ。あの日、君に出会えなかったら、
私は地獄の中で生きていたよ。今でも。」
エドに出会えたから、自分は人間として生きてこれたのだと、
自分の方こそ、エドに出会えた奇跡を感謝していると、
ロイは耳元で囁く。
「ロイに出会えた俺を誇りに思うよ。だから、ロイも自分を
誇りに思ってよ。」
「あぁ・・・・。そうだな・・・。エディ・・・・。」
ロイはエドの頬に軽くキスの雨を降らす。
「くすぐったいよ・・・。ロイ・・・。」
首を竦ませるエドに、ロイは逃がさぬように顎を捉えると、
深くエドに口付けする。
「愛している・・・。エディ。」
「俺も、ロイを愛してる・・・・。ずっと一緒だよな・・・・。」
ロイはエドワードの左手を取ると、薬指に嵌められている指輪に、そっと唇を落とす。
「勿論だ。エディ。この宝石(いし)に誓う。
病める時も健やかな時も、エディを愛し抜くと。
例え死しても、エディの側にいる。
決して1人にはしないと、誓うよ。」
「俺も誓う。どんな事が起ころうとも、ロイと共に歩むと。
絶対に離れないと誓う・・・・・。」
エドは涙を流しながら微笑むと、ロイの首に手を回すと、
ゆっくりと顔を近づけていった。一つに重なった影は、
長い間離れる事はなかった。





                           FIN
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いつのまにか、5000HITを超えていた記念に。
来訪の皆様、本当にありがとうございます!!
さて、今回は大佐の結婚式前夜です。
如何でしたでしょうか?
要約すると、エドがマリッジブルーになる前に、
ドサクサに紛れて式を挙げてしまえ!という
大佐の本音が伺えます。大佐、余裕がないと、
エドに捨てられるぞ。と思うのですが、
どうでしょうか?
ここら辺の突っ込んだお話は、裏大佐シリーズの
方で書こうと目論んでいたりします。
(このネタで、どこまで引っ張れば気が済むのか
と、お叱りを受けそうですが・・・・・。)
長々と駄文にお付き合いくださいまして、ありがとう
ございます。感想などを下さると、上杉は泣いて
喜びます。
上杉茉璃