「なぁ、アル、俺さ・・・・・ ずっとお前に言おうと思ってたけど 恐くて言えなかったことがあるんだ・・・・・。」 エドは、そう言うと、決意を秘めた顔を アルフォンスに向けた。 明日は、1ヶ月ぶりのイーストシティへ向かうという 深夜のこと。 控えめにノックされた音に、不審に思いつつも、 扉を開けたアルフォンスの前に、 悲痛な決意を秘めた、兄のエドワードが立っており、 アルフォンスは混乱しながらも、 兄を部屋に招き入れた。 「どうしたのさ。兄さん。」 借りてきた猫みたいに、大人しい兄に、 アルフォンスは、溜息をつきつつ、兄の為に、 ホットココアを煎れると、ベットに腰掛けている 兄の両手にマグカップを握らせた。 「・・・・・・あのさ。」 「何?」 一瞬、何か言いたそうに、エドは口を開きかけたが、 直ぐに俯いて、手の中のマグカップに視線を落とす。 暫くエドの姿を見つめていたアルだったが、 何時までも話そうとしないエドに、 アルは溜息をつくと立ち上がる。 「ア・・アル!?」 そのまま部屋を出て行こうとするアルに気付き、 エドは慌てて呼びとめる。 「ちょ!お前、一体何処へ行くんだよ!!」 「ん?兄さんが話してくれるまで暇だし、 文献でも読もうかと思って。」 間違ってエドの荷物の中に入れてしまったので、 エドの部屋まで取りに行くのだという アルに、エドは決まり悪げに咳払いをする。 「と・・とにかく、今話すから・・・・。」 「そう?それじゃあ。」 アルは、開けかけた扉を閉めると、 ガタガタと備え付けの椅子を、 エドの向かい側に置くと、 ちょこんと座る。 「で?何があったの?」 心配そうに尋ねるアルに、エドは、手にした マグカップをサイドテーブルに置くと、 大きく深呼吸をして、じっとアルを見つめる。 「に・・・兄さん?」 あまりの真剣な表情に、アルはタジタジになる。 「なぁ、アル、俺さ・・・・・ ずっとお前に言おうと思ってたけど 恐くて言えなかったことがあるんだ・・・・・。」 エドは、そう言うと、決意を秘めた顔を アルフォンスに向けた。 「な・・・何なのさ・・・・・。」 兄は、まだ自分が兄を憎んでいるのでは ないかと、疑っているのだろうか? そんな疑問が脳裏に過ぎって アルは、何とか誤解を解こうと、 口を開きかけたが、 それより先に、エドが口を開く。 アルが全く思ってもみなかった事を 真剣な表情で。 「お前・・・・、ロ・・・いや、大佐の事、 どう思って・・・・る・・・・?」 じっと、どんな事も見逃さないというような 目で、エドはアルを見つめる。 対するアルは、いきなりの質問に、 戸惑いつつも、律儀に答える。 「ど・・・どうって・・・・。 いい人・・・か・・な・・・?」 兄と違ってあまり接点がない上、 アルの関心は全て兄エドワードに 向けているため、アルにとっての、 ロイは、その他大勢の1人でしかない。 一応、兄の後見人だし、恩人扱いに 何時の間にか、なっている為、 アルは無難な答えを口にする。 だが、エドは、そんなアルの答えが 気に入らないのか、さらに泣きそうな 顔で言葉を続ける。 「大佐のこと・・・好き・・・・?」 「はぁあ?」 エドの質問の内容というより、 目に涙を溜めて、必死に自分を見ている エドの表情に、アルは何も言えずに 固まる。普通の肉体なら、 ポカンと口を開けているのだが、 不幸な事に、今のアルは鎧の姿で、 表情と言うものがない。 よって、アルの無言を、 肯定と受け取ったエドは、 我慢しきれずに、ポロポロと 泣き出す。 「に・・に・・兄さん!?」 それに驚いたのは、アルだった。 いきなり泣き出したエドに、アルは、 オロオロとし始める。 「どうしたんだよ!兄さん!! もしかして、大佐が兄さんに何かしたの?」 許せん!大佐!! アルの中で、ロイはその他大勢から、 憎むべき敵という地位に変わる。 「ごめん・・。ごめん・・・アル・・・・。」 だが、当の本人は、グスグス泣きながら、 アルの手を握り締めて、謝罪を繰り返す。 「どうしたんだよ。何を謝ってるのさ。」 とにかく、エドを落ち着かせようと、 アルは必死に宥める。 「ごめん。アルも、ロイの事好きなのに・・・・。」 「は?何だって?」 アルもロイの事好き? アルって、僕の事だよねぇ。 ロイって誰? この前、拾って兄さんに怒られた猫のこと? でも、あれは直ぐに貰われ先が決まって、 確か、名前を確か「アラゴルン」って・・・・。 誰だよ、ロイって・・・・。 「ねぇ、兄さん。」 まだ泣き続けているエドに、アルはハテナマークを 飛ばしつつ、エドに問い掛ける。 「ロイって、誰?」 「ロイ・マスタング大佐!!」 半分ヤケ気味に怒鳴ると、エドは本格的に泣き出す。 へぇ〜、大佐って、ロイって言うのかぁ。 そう言えば、そんなような事言ってたっけ。 兄以外、全く関心がないアルは、 のほほんと、そんな事を思う。 っ言う事はだよ? ・・・・・・。 ・・・・・・。 ・・・・・・。 僕が大佐を好き!? かっきり1分後に、正常に脳が働き出した途端に、 エドの言った意味を正確に把握したアルは、 絶叫する。 「ちょっと待った〜!!一体、何時僕が 大佐が好きだって言ったのさ!!」 ゼエゼエと肩で息をしながら、 アルはエドの両肩をがっしりと掴む。 「・・・・違うの・・・・か・・?」 「当たり前でしょうがっ!!」 本気で怒っているアルに、エドは最初キョトンと していたが、やがて、心底ホッとしたような顔で はにかむ。 「・・・ハハハ・・・そっか・・・。」 安堵の表情のエドとは対照的に、アルからは、 どす黒いオーラが漂い始める。 「・・・・兄さん。もしかして・・・・。 大佐の事が好きなの・・・?」 「えっ・・・その・・・・・。」 アルの問いに、エドは頬を紅く染めながら、 コクリと頷く。 幸せそうに微笑むエドの姿に、アルは、 ショックのあまり、クラリと眩暈に襲われる。 だが、そんなアルのショックに気付かず、 エドはシーツの上に、恥ずかしそうに のの字を書きながら言う。 「1ヶ月前のバレンタインに、ロイに告白 されて・・・・。」 「付き合う事になったの?」 アルの言葉に、エドはコクンと頷く。 「だったら、何も問題ないんじゃ・・・・。」 本当は、兄に好きな人が出来、それが 同性の大佐であることに、アルは複雑な 感情を持つが、目の前で幸せそうな エドの顔を見ると、反対する事が 出来ず、はぁと、アルは溜息をつく。 「だって、ロイって、あんなに格好が良いから、 アルも好きだったらどうしようかって・・・。」 雨の日は無能。女癖が悪い上、サボり癖もあり、 いつもホークアイ中尉に銃の標的にされている、 情けない大佐の姿を見てもなお、「格好が良い」と 言いきるエドに、アルは一種の尊敬の眼差しを向ける。 (はぁ〜。恋は盲目って、本当だったんだなぁ・・・・。) なんて、悟りの域まで達する勢いの、アルだった。 「兄さんが、幸せなら、僕は祝福するよ。」 「アル〜〜〜〜!!」 嬉しそうに自分に抱きつくエドの背中を、 アルは子どもをあやす様に、ポンポンと叩く。 (まっ、誰を好きになっても、兄さんは、 僕の兄さんに変わりはないし。 それに、兄さん、恥かしがり屋だから、 大佐と素直にラブラブしないだろうし。 うん!今までと、あまり変わらないでしょう。) そう結論つけて、安心していたアルだったが、 1年後に、それが間違いであると、身に染みて 思い知らされることになる。 ある事件をきっかけに、ロイとエドが、 人目を憚らないほどのバカップルに 変わってしまうのを、まだこの時は 想像もしていない、アルだった。 「こんな事なら、あの時反対していれば 良かった〜!!」 後悔先に立たず。 3ヶ月間も兄と引き離されたアルが、 ホークアイに泣きついたのは、また別のお話。 ************************ ホワイトデー企画です。 バレンタインSS『バレンタイン・ラプソディ』の 続きで、アル編。 |