「ロイ〜。これでいい〜?」
東方司令部執務室。
数ある軍司令部の中でも、特に
アットホームな雰囲気を持つと評判ではあるが、
それにしても、目の前で繰り広げられている光景に、
本当に、ここは東方司令部の中心なのか、
という疑問が浮かんでしまったとしても、
誰にも責められないだろう。
ロイの机の横に、ピタリと机を並べ、
新婚バカップルも裸足で逃げ出すほど、
甘い雰囲気で、先ほどからロイの仕事を
手伝っているのは、最少年天才国家錬金術師、
【鋼の】こと、エドワード・エリック。
本来なら、賢者の石を求めて、旅から旅の根無し草
の生活を送っているはずのエドだったが、
本人曰く、「ロイの怪我は、俺の責任だから、
完治するまで、ロイの仕事を手伝う!!」で、
周りの人間に言わせると、「ただ単に、恋人と
離れたくないのだろう。」という理由で、
ロイの側でイチャつく、もとい、甲斐甲斐しく
ロイの世話をしている。
「エドワード君のお陰で、仕事がはかどるわ。」
と、影の支配者、ホークアイ中尉は、この状況に
ご満悦のようだが、ハボック以下の部下達は、
目の前で繰り広げられる、甘い甘い雰囲気の
二人に、流石に胸焼けを覚え、普段の何倍もの
疲労感を漂わせていた。
「・・・・ところでよ・・・。長くねぇか?」
ロイとエドのラブラブ振りを、なるべく視界に入れないように
して、ブレタは、ハボック達に耳打ちする。
「何がですか?」
ファルマンの問いに、ブレタは、自分の左腕を指差す。
「大佐のコレ。もう3ヶ月だぜ?別に骨が折れた訳でも
ないのに、長くねぇ?」
「そう言えばそうですねよ。一番酷い傷だった、額の傷は
もうほぼ完治しているみたいですのに。」
大丈夫なんでしょうか〜と、心配するフュリーに、ハボックは
咥えてたタバコを灰皿に押し付ける。
「もう全部完治してるぜ。」
ハボックの言葉に、ブレタ達は一斉にロイの指先まで
包帯が巻かれている左腕に注目する。
時々痛そうに顔を歪めるロイに気づき、エドは益々ロイに対して
あれこれと世話を焼いている姿に、ハボック達は、
再び、顔を寄せ合ってヒソヒソ話す。
「あれが演技なのか?」
ブレタは、胡散臭そうにハボックに尋ねる。
「もし、それが本当なら、俳優にでもなれそうですな・・・。」
ファルマンも、ロイが演技しているようには、見えない
と口にする。
「そうですよ。あんなに痛そうなのに・・・・。」
第一、そんな事する意味あるんですか〜?
納得がいかないフュリーに、ハボックは肩を竦ませた。
「大佐が怪我が治ってないって嘘ついているのは・・・・。」
「エドワード君を独占したいからでしょう。」
ハボックの言葉を遮るように、ホークアイ中尉の声が
頭上から降ってきて、ハボック達の動きが止まる。
「「「「・・・・・・・・・ホークアイ中尉!!」」」」
「貴方達、そろそろお昼でしょう。仕事は終っているのかしら?」
呆れたような顔のホークアイに、ハボック達は、無言で
首を縦に振り続ける。
「そう。なら、いいわ。」
満足そうに微笑むホークアイだったが、ふとロイとエドの
方を向くと、溜息をつく。
「どうしたんッスか?」
そんなホークアイの様子に、ハボックは尋ねる。
ブレタ達は、ここにいつまでも残っているのは、
本能的に危険だと判断したのか、昼休みの
時間になった途端、一目散に部屋を飛び出して
行く。
「あの二人をどうしようかしら。」
ボソリと思案げに呟くホークアイに、ハボックは
不思議そうな顔をする。
「中尉は、この状況に満足してるんじゃないんですかぁ?」
「・・・・確かに、仕事がはかどる、この状況は
歓迎しています。ただ・・・・・。」
「ただ・・・・?」
何か不安材料があるのだろうか。二人だけの世界を
見せ付けられるという事さえ我慢できれば、別に
被害はないはず・・・・・と思うハボックだった。
「アルフォンス君が、拗ねてしまって、可哀想なのよ。」
そこで、ハボックは漸く、ここ暫く姿を見ていない、
アルフォンスの存在を思い出す。
別に、アルフォンスの影が薄いという訳ではなく、
いつもエドと一緒にいるため、エドの姿を見ていると、
アルフォンスも一緒にいると錯覚していたらしい。
最後に会ったのは、いつだったかと思い返して、
愕然とする。
「俺、アルの奴と2ヶ月会ってないッス・・・・・。」
エドはここ3ヶ月間、ずっとロイにくっ付いている。
という事は、3ヶ月もエドと離れている事になる。
そんな事は、あの超がついても足りないくらいの、
自他ともに認めている、ブラコンのアルフォンスに
耐えられる訳がない。多分、自分でもどうしようもなくて
ホークアイに泣きついたのだろう。ホークアイは
エドとアルを弟のように、殊の外可愛がっている。
アルの懇願に、何とかしてあげたいと思っている
が、エドの幸せそうな顔を見ていると、ロイとの
仲を邪魔するのも、可哀想だと思うのだろう。
珍しく困った顔のホークアイに、ハボックは
溜息をつく。これも惚れた弱み。
仕方が無い。ここは一肌脱ぎますか。
「俺に任せてもらえますか?」
「ハボック少尉?」
ハボックはウィンクをすると、悪巧みを思いついた
ガキ大将のような笑みを浮かべる。
「3ヶ月も良い思いをしたんだ。そろそろいいッスよ。
ただ・・・・・・。」
「ただ?」
「成功すると、向こう数ヶ月は、大佐の仕事が
滞るかも・・・・・。」
困ったような顔をするハボックに、ホークアイは
そんな事と、にっこり微笑む。
「向こう1ヶ月は腑抜けになっても大丈夫な
ほど、仕事を進ませてあります。」
だから安心して、作戦を遂行しなさいという
ホークアイに、ハボックは流石有能軍人と、
心の中で拍手を送った。
「兄さ〜ん!!」
「アル!!」
イーストシティの郊外で行われる、
野外訓練の為に、設置された
本部テントにロイと共に
やってきたエドを見つけ、アルフォンスは
ブンブン手を振りながら、走り寄ってきた。
それに驚いたエドは、ロイを置き去りにして、
久し振りに見る弟に駆け寄る。
「何で、お前がここにいんだよ。」
「ん?ハボック少尉のお手伝い。
あっ、マスタング大佐、お久し振りです。
2ヶ月振りでしょうか。ご無沙汰してます。
その後、怪我の具合はどうですか?
もう、3ヶ月経つのですから、
治っていますよね〜。」
エドの後ろに立つロイに気付き、
アルフォンスは、表面上、穏やかに挨拶をする。
だが、その言葉の裏には、何時までも
仮病で兄さんを1人占めすんじゃねーよ!!に
なる。
「いや〜。久し振りだね。アルフォンス君。
君のお兄さんのお陰で、徐々にではあるが、
回復に向かっているよ。
ただ、医者には、
まだまだ安静が
必要だと言われていてね・・・・。
はっはっはっ。」
本当は、医者を脅して言わしているロイだった。
「そうだよ。ロイ。ちゃんと怪我を治さねーと・・・。」
狐と狸の化かし合い。エドを挟んで、アルとロイの間で
激しい火花が散る。周りの人間も、その異常な雰囲気に
遠巻きにしているというのに、肝心のエドは、二人の様子に
全然気付かず、それどころか、ロイの言葉に、心配げに
ロイを見つめ、早くも二人の世界を作り始めていた。
それに面白くないアルは、エドの手を取ると、
引っ張るようにその場から離れる。
「そうだ!兄さん!!ハボック少尉が、兄さんにも
手伝って欲しいって、探してたよ。行こう!!」
「えっ!?あ・・おい!!アル!!」
あっと言う間に、豆粒ほどになっていく二人に、
ロイは、慌てて追いかけようとするが、
ジャキッとしいう音と共に、ホークアイの声が
背後でする。
「どちらへ。大佐。」
「いや・・・何。最後の点検を・・・・・。」
冷や汗を流しつつ、両手を上げるロイに、
ホークアイは溜息をつく。
「その事でしたら、私がハボック少尉と
エドワード君とアルフォンス君に頼みました。
大佐は、本部から動かないで下さい。」
エドワードに仕事を頼んだのがハボックなら、
さっさとエドを自分の元へ連れ戻せたのだが、
影の支配者のホークアイの命令ともなれば、
流石のロイもそれを撤退させるのは、至難の業で
ある。
“エディ〜。早く帰って来てくれ〜。”
心の中で、情けない事を思いつつ、何度も
エドの姿が消えた方向を見ながら、本部へと
歩いていくロイの後ろ姿を見ながら、ホークアイは
ほくそ笑んだ。
「まずは、第1段階成功ね・・・・・。」
「何!?エディがいなくなった!?」
そろそろ訓練を始めようかという時間になっても、
エドだけが姿を見せない事に、苛立ちを
覚えた頃、慌てた様子で、ハボックと
アルフォンスが、本部へ駆け込んできた。
「そうなんスよ。大将、森の中で、不審なものを
見つけたーって、突っ走ってしまって・・・・。」
「気付いたら、何処にも姿がなくて・・・・・。」
代わる代わる状況を説明する二人に、
ロイは苛立ちをぶつける。
「馬鹿者!!何故、1人で行かせた!!」
ロイは、小さくなる二人を一瞥すると、
ホークアイに向き直った。
「今日の訓練は中止だ。全員で
エディの行方を探すように、通達を!!」
それだけ言うと、ロイはテントから飛び出して行く。
「・・・・・・これで、第二段階、成功ね。」
だから気付かなかった。
ホークアイが、意味深な笑みを浮かべて、
ハボックとアルフォンスと頷き合っていた事に。
「エディ!何処に居る!!!」
鬱蒼と茂った森の中。人の手が全く入っていない為、
ほとんど道と言えない獣道を、ロイはひたすら走っていた。
「ハボック達に、どこで逸れたのか、聞いておくべき
だった。」
後悔先に立たず。エディ行方不明の知らせに、
ロイは正常な判断を下せないでいた。
「なんだ。これは。」
気がつくと前方には、蔦に絡まれた、遺跡のような
ものが、ロイの前を立ちはだかっていた。
「遺跡?バカな。そんなものがここにあるはずが・・・・。」
そっと手に触れてみると、どうやら新しいものだ。
「まるで、錬金術で作られたような・・・・・。」
何気なく呟いた自分の言葉に、ハッとした顔になる。
ハボックと逸れる直前、エドは『不審なものを見つけた』と、
言っていた。それがこれでは・・・!!
辺りを見まわすと、蔦で覆われた巨大な扉を見つけた。
「くっ!!」
何とか扉を開けようとするが、蔦に覆われ、なおかつ
右手だけでは、容易に扉を開けることはできない。
それならばと、ロイは、胸のポケットから発火布で作られた
手袋を取り出す。
「燃やすまでだ。」
右手に装着しようとして、ある事に気付き、ロイは
その場で頭を抱える。
「しまった!左手の方だ!!」
ありえない己の失態に、ロイは舌打ちする。
「・・・・・・・仕方ない。非常事態だ。」
ロイは徐に指先までぐるぐる巻きになっている、
左腕の包帯を、素早く外す。そして、今度こそ
左手に手袋を嵌めると、扉に向かい手を翳す。
パチン。
ドォォォォォォオオオオオオオン!!!!!
ロイが左手の指を鳴らすと同時に、遺跡の扉が
音を立てて吹っ飛ぶ。
「エディ!!」
「ロイ?」
中に入ると、キョトンとした顔のエディの姿を見つけ、
ロイは慌てて駆け寄ると、その華奢な身体を抱き締める。
「良かった・・・・。無事で・・・・。」
ほっと、安堵の溜息を漏らすロイに、エドは訳が判らないと
言うように、首を傾げた。
「何、訳の分からねーこと言ってんだ?」
エドの言葉に、ロイは抱き締めていた身体を離すと、
マジマジとエドの顔を覗き込んだ。
「エディ?ハボックが急にエディが姿を消したと・・・・。」
慌てて捜しに来たと言うロイの言葉に、それこそ、
何を言ってんだとばかりに、不審な眼を、ロイに向ける
エドだった。
「何だよ、それ。ちゃんと訓練内容読んだのかよ。
サバイバル訓練の一環で、俺とアルが、
敵役をやるって・・・・。」
ロイが来てしまって、どうすんだよ!!と、
エドはロイを叱り付ける。
「何!そんな事を聞いてないぞ!!」
ロイは、怒って暴れるエドの両腕を掴むと、
落ち着かせようと、腕を強く引っ張り、
自分の方へ抱き寄せようとした時、
絶妙のタイミングで、背後から声が掛けられる。
「あれ〜?大佐と兄さん?」
業とらしい声の主は、予想通りアルフォンスで、
その背後には、ハボックとホークアイの姿もある。
「これは、どういう事だ。ホークアイ中尉にハボック少尉!!」
ロイの怒りを、ホークアイは平然と受け取ると、
溜息をつく。
「・・・・昨日の終業時間直前に、訓練内容が変更になった事を
文章でお渡ししたはずですが。」
読んでいなかったのですか?と、冷ややかな眼をした
ホークアイに、ロイは言葉を詰まらせる。
「大体、ハボック少尉がエディがいなくなったと・・・・。」
「大佐。そういう設定なのですが。」
ハーッと業とらしくホークアイは溜息をつく。
「何?」
「エドワード君には、森で行方不明になった味方と、
森の中に潜伏している敵の二役を頼んでいたのですが。」
周りからの、この無能!!と言わんばかりの冷たい視線に、
ロイはダラダラと冷や汗を流す。
誰か、この状況を何とかしてくれ!!
そう心の中で叫んだロイの声が聞こえたのか、
その場に不似合いなのほほんとした声が聞こえた。
「それにしても、良かったですね。大佐。
左腕が完治して。」
アルフォンスが、嬉しくて仕方が無いというような声音で、
包帯が解かれたロイの左腕を指摘する。
その言葉に釣られるように、その場にいた全員が、
エドの腕を掴んだままのロイの左腕に注目する。
「ロイ・・・・。完治してたのか・・・・・。」
「いや!それは・・・その・・・・。」
怒りで震えるエドを、何とか宥めようと試みるロイだったが、
それよりも先に、アルはロイからエドを引き離すと、
嬉々として、エドに話しかける。
「良かったね。兄さん。大佐の怪我が完治して!!
これで、心置きなく旅に
出られるね♪」
「あぁ、今まで済まなかったな。アル。」
ロイへの怒りの反動なのか、エドはアルに惜しみない
笑みを浮かべる。そんなエドに、これまた
ロイに見せ付けるかのように、アルは無邪気な振りで
兄さ〜んVvと、エドに抱きつく。
「実はね、僕この3ヶ月の間、賢者の石の情報を
まとめてみたんだ。」
そう言って、アルは鎧の中をゴソゴソと捜しながら、
一枚の地図を取り出すと、エドに見せる。
地図には、所狭しと賢者の石の情報が書き込まれていた。
「すごいじゃないか。アル!」
「えへへ。それでさ、このウエストシティの更に僻地に行った
所が一番信憑性があってね・・・・。」
「そっか・・・・。それじゃあ、ついでにこっちの町にも寄って・・・。」
「そうだね。それが終ったら、この町に行くのもいいかも・・・。」
和気あいあいと地図を広げて、旅のプランを練る、
兄弟の微笑ましい姿に、ホークアイとハボックが顔を見合わせて
ニッコリと微笑む。
「さぁ、そろそろ撤収しましょうか。」
「そうッスね。おーい、大将にアル、そろそろ戻るぞ。」
明日は早いんだろ?というハボックに、エドとアルは
大きく頷く。
「じゃあ、早く帰って、荷物を整理しなければね。」
ホークアイは、にっこりと微笑むとエドとアルを促して、
ハボックと共にその場を後にする。
まるで、仲の良い親子を連想させるような、
ほのぼのとした4人の姿を見せ付けられた
ロイは、ショックの余り、その場を暫くの間、
動く事ができなかった。
FIN
ここまで、お読み下さいまして、ありがとうございます。
ただ、
これのどこがロイエド!?
納得いかーん!!という方は、
この続きをお読みください。
但し、性的表現があるため、隠しになっておりますので、
探してみて下さい。(別に大した物ではないのですが。)
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ソースを見れば、一発でわかりますが、
どうしても判らないと言う方は、メールにて、
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