本編34話と35話の間の、大晦日の二人です。
Stay by my side 〜陽だまりの中で〜
番外編 新しい年を君と
ラッセルとエドが付き合っているかもと、 一人悶々と悩んでいたロイだったが、 それがただの勘違いだと分かり、おまけに、 お邪魔虫が二人いたとは言え、 昨日思いがけず、エドとデートが出来た事に、 朝から浮かれていた。 「大佐。浮かれているのは宜しいですが、 もう少し顔を引き締めて頂かないと、 士気に関わります。」 ホークアイのお小言も、何処吹く風、 ロイはニコニコと笑いながら、 軽快に書類を捌いていく。 「さて、書類はこれで終わりだな! 次は、見回りに行って来る!!」 その言葉に、ギョッとなったのは、 ハボックだった。 「ちょっと待って下さい!堂々とサボるのは、 どうかと・・・・。」 「何を言う!書類は全て終わらせた! それに、市民の安全を守る為に見回るのは、 軍人として当然の行為だ!!」 ハッハッハッと胸を反らせて踏ん反り返るロイに、 ハボックは、それで良いのか?と、影の支配者に 目で訴える。 「いいのよ。仕事は終わっているし、 それに、あの緩みに緩んだ顔を見ているのは、 辛いわ。」 テキパキと書類を整えると、ホークアイは 朝からテンションの高いロイの顔を、 もう見たくもないとばかりに、さっさと 書類を提出しに、部屋を後にする。 「では諸君!見回りに行って来る!」 鼻歌交じりに部屋を出て行くロイに、 ハボック達は、唖然としながら 見送った。
「エディ?」 意気揚々と門から出たロイは、そこで、ウロチョロと しているエドに気づき、満面の笑みを浮かべて近づいた。 「た・・・・大佐!?」 大きな目をこれでもかというくらいに、見開くエドの様子に、 ロイはクスリと笑う。 「どうしたんだい?用事があれば、遠慮なく入って くれば良いのに・・・・。」 ロイはさりげなくエドの肩に腕を回すと、その冷たさに、 思わず眉を顰める。 「身体が冷たい。一体、いつからいたのだね?」 風邪を引いてしまうと、心配するロイに、エドは 真っ赤な顔で俯く。 「ご・・・ごめんなさい。ちょっと通りかかっただけで・・・。」 「エディ?一体どうしたんだね?」 私には言えないことかい?と悲しそうな目を向けるロイに、 エドは慌てて首を横に振る。 「心配かけてごめんなさい。ただ・・・その・・・ 大佐に、これを渡したくって・・・・。お仕事の邪魔をしてごめんなさい!! 直ぐに帰ります!!」 エドは手にした袋をロイに押し付けるように渡すと、 そのまま踵を返そうとするが、その前に、ロイに 腕を取られてしまう。 「・・・これから休憩なんだ。良かったらお茶に付き合ってくれないかい?」 蕩けるようなロイの笑みに、エドは真っ赤な顔でコクンと小さく頷いた。
「昨日は・・・お仕事が忙しいのに、付き合ってくれて ありがとう・・・・。」 エドのお気に入りのカフェにやってきた二人は、席についた 途端、エドはペコリと頭を下げる。 「いや、君と楽しい時間を過ごせて、とても嬉しかったよ。」 何でもないと首を横に振るロイに、エドは早口で捲くし立てる。 「あの!それで、お礼と言ってはなんだけど、 さっき渡した袋、俺が編んだマフラーなんだ・・・・ もし・・・無理しなくていいんだぞ!もしも、 良かったら・・・使ってもらえたら・・・。」 嬉しいと真っ赤な顔で俯くエドに、ロイは驚いた顔で 慌てて袋の中身を取り出す。 真っ白なマフラーに、ロイは嬉しそうにエドを見る。 「ありがとう!!大切に使わせてもらうよ!」 幸せそうに、マフラーに頬ずりするロイに、エドは 恥ずかしそうに頬を紅く染める。 「でも、勉強で忙しいのに、よく編めたね。 大変だっただろう?」 申し訳なさそうに頭を下げるロイに、エドは 慌てて首を横に振る。 「大丈夫!毎年家族にも編んでいるし・・・・。 それに、大佐にはいつもお世話になってるし・・・ 本当はちゃんとしたのを買うべきなんだけど・・・。」 「そんな事はない!!」 ロイはエドの言葉を遮ると、ギュッとエドの手を握り締める。 「君の心が篭もったマフラーだ!私にとっては、この世の 何よりも価値がある!!」 力説するロイに、エドは真っ赤になって俯く。 「ありがとう・・・。お世辞でも嬉しい。」 「お世辞じゃないよ。エディ。本当にありがとう。」 優しく微笑むロイに、エドも微笑み返す。 「あ・・あのね!昨日、大佐に選んでもらった本なんだけど、 すごく参考になった!」 照れ隠しに、エドは昨日の買い物で、ロイが選んでくれた 本について話題を変える。 「あの本は、私も学生時代、すごく世話になってね。 錬金術の参考書としては、一番だと思っているよ。」 ロイの言葉にエドは大きく頷く。 「うん!初心者にも分かりやすいけど、内容が高度で、 すごく勉強になった!アルもすごく喜んでる! そうそう、489ページにあった、ハークレス理論なんだけど・・・・。」 錬金術の話題に移り、そのまま討論を始める二人だったが、 ふとエドは我に返った。 「そういえば、時間は大丈夫?休憩時間終わってしまうんじゃ・・・。」 心配そうなエドに、ロイは時計を見る。あれから二時間。 仕事を終わらせているとは言え、流石にそろそろ戻らなければ、 副官の教育的指導が待っている。ロイはせっかくエドと一緒に いられるのにと、ガックリと肩を落としながら、済まなそうに 頭を下げる。 「すまない。そろそろ司令部に戻らなければ・・・。」 「こっちこそ、お仕事が大変なのに、話し込んでごめんなさい。 今日は大晦日だし、これから仕事がピークなんじゃ・・・。」 シュンとなるエドに、ロイは慌てて首を横に振る。 「いや!今年は目立った事件もないし、今日は定時に上がれる んだ!」 はっきり言って、大晦日に仮にも司令官が定時に上がれる訳が ないのだが、エドの悲しそうな顔を見たくないロイは、 つい嘘をつく。 「本当?」 流石にそれはないだろうと思うエドだったが、自信満々で 肯定するロイに、本当かもと思い始める。 「定時に上がれるんだ・・・・。それじゃあ・・・その・・・ 仕事が終わったら・・・・誰かと会うのかなぁ・・・なんて・・・。」 ぎこちない笑みを浮かべるエドに、ロイは優しく微笑む。 「そうだね。出来れば、一緒に年を越したい女性はいるが・・・。」 その言葉に、エドの顔が強張る。そんなエドの様子に、ロイは クスリと笑うと、そっと手を握り締める。 「エディ。出来れば、君と共に過ごしたいのだが・・・・。」 「へ!?お・・・俺!?」 まさか自分が誘われるとは思っていなかったエドは、 アングリと口を開ける。 「ああ。初日の出を見るのに、お勧めの穴場スポットがあるのだよ。 どこかで食事をして、暫くうちで時間を潰してから、初日の出を見に行こう!」 「・・・・いいの?」 上目遣いで自分を見つめるエドに、ロイは大きく頷く。 「君がいい・・・・。」
ロイはそう言うと、ギュッとエドを抱き締めた。
「・・・・何故こんな事に・・・・。」 エドと別れて司令部に戻ったロイは、急遽勃発した テロをものの数分で見事に解決し、事後処理を 部下に押し付け、鷹の目を掻い潜って、意気揚々と 定時に上がると、急いでエドとの待ち合わせの 場所へと向かったのだが、そこに待っていたのは、 エドとお邪魔虫その一、アルフォンス、 お邪魔その二、ホーエンハイムだった。 「年頃の娘と二人きりなど、世間が許しても、 この私が許さん!!」 と仁王立ちで宣言するホーエンハイムの 傍らで、アルが世間でも許さないですよと、 ニッコリと悪魔の笑みを浮かべていた。 何故ここにお邪魔虫達がいるのか わからずに、唖然となるロイに、エドはツンツンと袖を引っ張る。 「あのな!母さんが、ロイにうちで夕飯を食べて もらいなさいって。それから、みんなで 初日の出を見ましょうって・・・駄目だった・・?」 勝手に決めてごめんと謝るエドに、ロイは 微笑んだ。 「いや。君と一緒にいられるだけで、私は幸せだよ。」 「大佐・・・・。」 ロイは、ギュッとエドの手を握り締めると、 頬を紅く染めているエドに誓う。 ”来年こそは、エディと二人だけで年越しを!!” 来年の事を言うと、鬼が笑うと言うが、 果たして、来年笑うのは、ロイかそれとも お邪魔虫達(鬼)か。 どちらにしても、エドワード争奪戦が 過酷なものになっていくことは、間違えないだろう。
〜おまけ〜
既に無法状態のエルリック家。 お酒が入って、グテングテンに酔っ払ったホーエンハイムは、 先程からロイに絡んでいた。 その横では、アルとエドが船を漕いでおり、エドの膝の上では、 猫アルが、スピョスピョと身体を丸くして眠っていた。 台所では、トリシャがお正月の準備に忙しそうだ。 「タイサ〜。なんか、ワクワクすんな〜。」 身体を寄せる恋人に、タイサは優しく微笑む。 「あと少しで新年だな。来年も君と共にいたい。エド。」 チュッと猫エドの鼻に口付けを落とすタイサに、 猫エドは真っ赤になる。 「俺も・・・タイサと一緒にいたい。いられるよ・・・な?」 不安そうな猫エドに、タイサは勿論だと大きく頷く。 「そういえば、知っているか?年が明けたと同時にキスを すると、ずっと一緒にいられるそうだぞ?」 「本当!?」 パッと顔を上げる猫エドに、タイサはニヤリと笑う。 「試してみるか?」 「・・・・・ウン。」 コクンと頷く猫エドに、タイサは幸せそうに微笑む。 「10」 チラリと時計を見ながら、タイサはカウントダウンを行う。 「9」 猫エドも同じように時計を見るが、見方が分からない為、 キョトンとしている。 「8」 不思議そうな猫エドに、タイサは猫エドの身体をペロペロ舐める。 「7」 擽ったそうに身を捩る猫エドの耳に、タイサは 口を寄せる。 「6」 愛しているよと囁くタイサに、猫エドも幸せそうに笑う。 「5」 タイサ好き〜と、猫エドは体を摺り寄せる。 「4」 チュッと可愛らしくタイサの頬にキスする猫エド。 「3」 じっと猫エドを見つめるタイサ。 「2」 じっと見つめられ、猫エドも真剣な瞳をタイサに向ける。 「1」 ゆっくりとタイサと猫エドの顔が近づいていく。 「0」 カウントゼロ。 二つの影が一つになった。
新しい年。 最愛の者と、いつまでも一緒にいたい。 そんな願いを込めて。 今年も宜しく。 タイサと猫エドは唇を離すと、 幸せそうに微笑み合った。
*************************** 犬の方が甲斐性があるというお話。
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