Stay by my side 〜陽だまりの中で〜
番外編 桜吹雪の中で
「うわぁあああ!!すごーーーーーい!!」
目の前の桜並木に、エドワードは、感嘆の声を上げる。
「ありがとう!!大佐!!俺、こんな綺麗なトコ、
初めて!!」
感動でキラキラとした目を向ける小さな恋人に、
ロイはニッコリと微笑む。
恋人になって初めてのデート。
死ぬ気で仕事を片付けて良かった!!
ロイは心底そう思った。初デートのエドの
可愛らしさに、デレデレとなっている
ロイは、もう一つの欲求を満たすべく、
口を開く。
「エディ。喜んで貰えてすごく嬉しいよ。
でもね・・・・。」
急に真面目な顔になるロイに、エドはキョトンと首を
傾げる。何か気に障る事を言っただろうかと、
不安に揺れるエドの瞳を覗き込みながら、ロイは
小さく笑う。
「そろそろ【大佐】から昇格したいのだけど?
エディ?」
途端、かぁあああああああと真っ赤になる
エドの頬に、ロイは笑いながら軽く口付ける。
「はうぅぅううううううう!!
大佐の意地悪!!」
プイと横を向くと、エドは腕の中にいる
猫エドを抱き締めたまま、だだだだと駆け出す。
「エディ!!」
慌てて追いかけようとするが、一陣の風によって
行く手を阻まれる。
「・・・・しまったな。」
からかいすぎてしまったかと、ロイは頭を掻きながら、
辺りを見回す。どうやら自分は思い続けていた
少女と、晴れて恋人同士になれた事で、
だいぶ浮かれているようだ。
ついからかいが過ぎてしまい、少女を怒らせて
しまった。
「グルルルルルル・・・・・。」
愛しい少女の姿を見失い、途方にくれる男に、
足元にいる犬の目が、心なしか痛い。
エドが猫エドを抱いている為、彼女の
愛犬のタイサのリードは、ロイが持っていたのだ。
本当なら、真っ先に追いかけたいのだが、
リードを握られている為、それが叶わず、
タイサの機嫌はすこぶる悪い。
そんな犬の心情に気付いたのか、
ロイは苦笑しながら頭を掻く。
「ああ、そんなに怒らないでくれたまえ。
さぁ、一緒に恋人を探しに行こう。」
そう言って、リードを引っ張るロイに、
タイサは、当然だとばかりに、駆け出す。
勿論、ロイが手を離すのを計算に入れている
のだが、腐っても軍人。しっかりと
タイサに並んで走るロイに、タイサも
負けてたまるか!!とライバル心を
剥き出しにする。
「フッ。いつまでも君にばかり
ポイントを稼がせておくわけには
いかないからね。」
犬と本気で争う男、ロイ・マスタング。
幸いにも、長閑な雰囲気の為か、
ランニングしているとしか見られないのが、
せめてもの救い・・・かもしれない。
「ふえ?ここ・・・どこ・・・・?」
闇雲に走った為、自分がどこにいるのかわからず、
エドは途方に暮れる。
そのエドの不安が分かったのか、腕の中の
猫エドも不安そうな顔でみゃーとか細い声を上げる。
「ご・・ごめんね!エド君!!」
不安そうに辺りを見回す猫エドに、エドは
申し訳ない思いで一杯になる。
自分さえ照れて離れなければ、今頃2人と2匹で、
楽しいお花見をしていたのに。
ジワッとエドの目に涙が浮かぶ。
「俺・・・本当に子供だ・・・。大佐に・・・
嫌われちゃう・・・・・。」
エグエグと泣き出すエドは、背後から優しく
抱き締められ、驚いて後ろを振り向く。
「エディ・・・・。」
「た・・大佐!?どうして!?」
うっすらと汗をかいているロイに、エドは呆然と
呟く。
「君が何処にいても、私は絶対に探し出せるんだよ。」
悪戯っぽくウィンクするロイの隣では、
ワンと不機嫌そうな顔で吼えるタイサ。
大方、手柄を独り占めするな!とでも言っているのだろう。
そんなタイサに、ロイはエドから猫エドを受け取ると、
そっと傍らに下ろす。
途端、ペロペロと猫エドの身体を舐めるタイサに、
ロイは苦笑すると、未だ呆けているエドに、
微笑みかける。
「私が君を嫌う訳がない。」
その言葉に、エドの頬に朱が走る。
「私の方こそ子供で・・・・君が嫌うのではないかと
心配なんだよ?」
ギュッとエドを抱き締めながら、弱音を吐くロイに、
エドの心の中にあったわだかまりが、スッと
消える。
「ロイ・・・・好き・・・。大好き!!」
ギュッとロイに抱きつくと、それ以上の力で
抱き締められ、エドは幸せに微笑む。
「ああ!!やっと私の名前を言ってくれた・・・。」
嬉しいよと子供のように嬉しがるロイに、
エドはクスクスと笑い出す。
そんなエドの唇に、風に乗って、一枚の桜の花びらが
くっ付く。
「あっ・・・。」
花びらを取ろうとするが、その手をロイに阻まれ、
エドは困惑した目を向ける。
「妬けるね・・・・。」
ロイはそう言って、エドの顔を覗き込む。
「君に触れてもいいのは・・・私だけだ・・・・。」
そのままゆっくりと、エドの唇に己の唇を重ね合わせる。
桜の花びらが舞う中、2人はキスを交わす。
その姿は、まるでライスシャワーを浴びる、
新郎新婦のように、幸せに満ちているものだった。
FIN
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