Stay by my side 〜陽だまりの中で〜
番外編 ボクのお父さん おまけ
「え・・・それでは、授業を始めま・・・・。」
ダダダダダダダダダダダダダ
授業を始めようと、担任が口を開きかけた時、近づいてくる複数の足音に、
一体何事かと、教室にいる全員が、扉に注目する。
「「レイ!!」」
皆が注目する中、先を争うように教室に入ってきた人物に、ロイとライの目が
凶悪に据わる。入ってきた人物は、この国の最高責任者、キング・ブラッドレイ
大総統と、国家錬金術師のトップ、ホーエンハイム。二人は、肩で息をしながら、
血走った眼を子供達に向ける。
「お・・・お祖父様とキング・グランパ?」
大総統とホーエンハイムを一目見るなり、レイは思わず椅子から立ち上がる。
と、同時に、父親達の中で軍人であるものは、直立不動で敬礼をするという、
異様な光景が広がった。
何故ここに、ホーエンハイムと大総統がいるのかと、ロイとライが
唖然としている中、キングが隣のホーエンハイムを突き飛ばすように
教室の中にツカツカ入ると、唖然としているレイに近づき、
ぎゅううううううと力の限り抱きしめる。
「ああ!レイ!遅くなってすまない!キング・グランパが来たから、
もう大丈夫だぞ!!」
滂沱の涙を流す大総統に、猛然と食ってかかったのは、突き飛ばされた
ホーエンハイムだ。ホーエンハイムは、大総統の腕の中にいるレイを
慌てて取り返すと、キッと大総統を睨みつける。
「キング!!何がキング・グランパだ!!レイの祖父はこの私だ!!
第一、何故ここに貴様がいる!!」
「愚問だな。レイの初めての父親参観日だぞ!この記念すべき日に
来なくてどうする!!」
踏ん反り返る大総統に、ホーエンハイムが吼える。
「答えになっていないぞ!!第一、貴様は父親ではないではないか!!」
「そーいう、お前も父親ではないだろうが!!」
負けじと叫ぶ大総統に、ホーエンハイムは、勝ち誇った笑みを浮かべる。
「フッ。今日は、Father’s Day・・・・。つまり、Fatherの上をいく、Grand
Fatherの
私が来ても、何の不都合もない!!」
いや、不都合はあるから!と、その場にいる全員が内心ツッコム。
「それを言うならば、私とて、権利があるぞ!我が子同然のロイの息子であるレイは、
当然、私の孫!!よって私も十分資格がある!!」
大総統の言葉に、ホーエンハイムの顔が引き攣る。
「なっ!!そんなのは、屁理屈だ!!」
「屁理屈も理屈の内だ!!」
流石大総統、黒も白と言い張る図太い神経。ふふん♪と勝ち誇った笑みを浮かべながら、
大総統は、ホーエンハイムを見据える。
「どうやら、貴様とは決着を着けなければならないようだな・・・・。」
ギリリと歯軋りをしながら、大総統を睨みつけるホーエンハイムに、大総統の目が細め
られる。
「ほう・・・。流石は我が友。意見が合うな。」
フフフフフフフフ・・・・・。
ハハハハハハ・・・・・。
ピーンと張巡らされる緊迫した空気に、回りの人間は、一斉に教室の壁際に避難する。
「はい。そこまで。」
一触即発の場面で、漸く我に返ったロイが、ため息と共に、二人の間に割って入る。
その時に、レイの身柄を確保した事は言うまでもない。
「お二人とも。父親の私がいるのですから、あなた方の出番はありません。
お引取りを。」
ロイの言葉に、大総統とホーエンハイムが一斉にブーイングする。
「なっ!!ロイ君!!それは酷いんじゃないかね!?私だって、レイの授業風景を
見たい!!」
「そうだ!そうだ!横暴だぞ!!仮にも大総統に向かって・・・・・。」
騒ぐ二人に、ロイはニッコリと微笑む。
「お引取りを。」
さり気に、発火布の手袋をした右手を翳すのも忘れない。
ニッコリ笑いながら圧力をかけるロイに、固まるホーエンハイムと大総統だったが、
ポンと肩を叩かれ、反射的に振り返る。
「はい!おじさん達の負け〜。」
「「ライ!?」」
驚く二人の腕を取ると、ライは有無を言わさずそのまま教室の外へと
引っ張り出す。
「ちょっと待ちなさい!!私はまだレイの・・・・・。」
「離さぬかっ!!ライ!!」
往生際の悪い二人に、ライはため息をつく。
「あまり騒ぐと、レイが心配しますよ。見てください。あの不安そうな顔を。」
ライの言葉に、慌てて二人が振り返ると、ロイの腕の中で、悲しそうな目をしている
レイの姿に気づく。
「レイ・・・・。」
「すまない・・・・・。」
シュンとなるホーエンハイムと大総統の姿に、レイは父親の腕の中から抜け出すと、
トテトテとホーエンハイム達へ駆け出す。
「お祖父様!キング・グランパ!!」
ギュッと抱きつきながら、レイは泣きそうな顔で二人を見上げる。
「ごめんなさい。折角来てくれたのに・・・・・・。でも・・今日は・・・・・。」
ポロリと大きな瞳から涙が零れ落ちるのを見て、ホーエンハイムは優しく
頭を撫でる。
「レイ。男の子が泣くもんじゃない。私達の事は気にしなくていい。」
「でも・・・・・。」
困ったように眉を顰めるレイに、大総統も穏やかに微笑みかける。
「今日は父の日だ。父親に目いっぱい甘える日なのだぞ?だから、
遠慮は無用だ。」
大総統の言葉に、レイは眼をパチクリさせる。
「目いっぱい甘える日?感謝の日でしょ?」
コクンと首を横に傾けるレイに、大総統は、ハハハと豪快に笑う。
「そうだ!目いっぱい甘える事が感謝に繋がるのだ!」
「ほえ?」
訳が分からないレイに、大総統は優しく頭を撫でる。
「いいかね?レイ。普段お父さんは君とあまり一緒に過ごせないだろ?」
大総統の言葉に、レイはコクンと頷く。
「お仕事大変なんだもんね?ボク、大丈夫だよ?」
寂しそうに笑うレイに、大総統は大げさに首を横に振る。
「レイは大人だから大丈夫かもしれないがね、君のお父さんはまだまだ
子どもなんだよ。君に逢えなかったり構ってもらえないと、
悲しくて泣いてしまうんだ。」
「父様・・・?」
困惑気味にロイを振り返ろうとするレイに、大総統は両肩を叩く事で制する。
「だから、お父さんに甘えなさい。」
大総統の言葉に、レイはハッと息を飲む。
言外に今日の父親参観日の事を隠していた事を言われているのに
気づき、レイはシュンと俯く。そんなレイの肩を、大総統はポンと軽く叩くと、
ホーエンハイムとライを伴い去っていく。
「ごめんなさい・・・・。」
三人の後姿を見送りながら、ポロポロと涙を流すレイを、ロイは優しく抱き上げる。
「さぁ、父様に勉強しているところを、見せておくれ?」
「はい!!父様!!」
レイは慌てて涙を拭くと、ニッコリと微笑んだ。
「あのね・・・・。父様・・・・。」
身分上、車で帰るべきなのだが、ロイとレイは手を繋いで街中を
歩いていた。
「ん?どうしたんだね?」
だんだんと歩みが遅くなる息子に気づき、ロイは立ち止まると、
腰を落として視線を合わせる。
「ボク・・・・。今日、みんなに迷惑をかけたの・・・・。今日、父様来れないと
思って・・・父親参観の事、みんなに黙ってたの・・・・。でも、
みんな・・・来てくれた・・・。ボク・・・・・黙ってたのに・・・・。」
ますます俯くレイに、ロイはそうかと小さく呟いた。
「・・・・怒らないの?」
恐る恐る顔を上げるレイに、ロイは微笑む。
「反省している人間に、これ以上何を言えと?」
クスクス笑うと、ロイはレイを抱き上げる。
「でも、何で父様、今日の事分かったの?」
首を傾げるレイに、ロイは笑う。
「父様も、同じ小学校に通っていたのだよ。だから、いつ何があるのか、
知っているんだ。」
遅れてすまなかったと謝るロイに、レイはブンブンと首を横に振る。
「ううん!来てくれて嬉しい!ありがとう父様!大好き!!」
首に抱きつくレイを、ロイは嬉しそうに抱きしめる。
「さぁ、母様が待っている。早く帰ろう。」
そう言って、歩き始めるロイに、レイは悲しそうに呟く。
「母様、怒ってるかな・・・・。」
シュンとなるレイに、ロイは苦笑する。
「そうだな・・・・。父様も一緒に謝ってあげるから、大丈夫だ。」
ロイの言葉に、レイはコクンと小さく頷く。
「今度からは、母様には、ちゃんと話すんだぞ?」
クシャリと頭をかき回すロイに、レイはうーんと唸る。
「レイ?」
様子のおかしいレイに、ロイは訝しげに声をかける。
「あのね・・・・。父様の代わりに母様が来るのが嫌だったの・・・・。
この前の母親参観日みたいになったら、母様可哀想だもん・・・。」
「・・・・どういうことだ?」
可哀想の一言で、ロイの眉が顰められる。
「あのね・・・母親参観日にね・・・・・・。」
レイは先月あった母親参観日の一部始終をロイに報告する。
「何故か、お母さん達だけじゃなくって、お父さん達も参加したの・・・。
でね・・・お父さん達、みーんな母様に見惚れちゃって・・・・・・。
それに怒ったお母さん達が、母様に意地悪言ったの・・・・。」
途端、レイはシクシク泣き出した。
「母様とお腹の赤ちゃんに何かあったらと思って・・・・・。母様に今日のこと、
言えなかった・・・・。」
シュンと項垂れるレイに、ロイはショックを隠しきれない。
「そんな事・・・エディは何も・・・・。」
「母様、天然だから、イヤミが分からないんだって。アルおじちゃん言ってた。」
ロイは、その言葉に、はぁ・・・と深いため息をつく。昔から超鈍感だとは
思っていたが、これほどとは思っておらず、今後エドの身辺警護を強化しようと、
ロイは固く心に誓った。
「父様・・・?」
ため息をつく父に、レイはポカンとなるが、次の瞬間、強く抱きしめられる。
「母様とお腹の赤ちゃんを、良く守ったな!!流石私の息子だ!!」
「父様!!」
ウワーーーーンと盛大に泣き出すレイを、ロイは更にきつく抱きしめた。
固く抱き合う親子を、夕日が優しく照らしていた。
「ところで、レイ。母様を邪な目で見ていたお父さん達と意地悪を言った
お母さん達の名前を教えてくれないか?」
「いいけど・・・・。どうして?」
散々泣いてすっきりした顔でコクンと首を傾げるレイに、ロイは、
それはそれは麗しく笑う。
「何・・・。エディとレイを苦しめた人間には、それ相応の報いを受けてもらわねば
ならないからね。」
「え?何?聞こえない。」
小声で呟かれ、聞き取れなかった言葉を、レイは聞き返す。
「もう二度とレイが哀しまないように、父様が守るから、安心しなさい。」
ニーッコリと微笑むロイの顔には、はっきりと恐怖の大魔王が降臨していた。
そんなロイの黒い笑みに気づいていないレイは、大丈夫という言葉に、漸く
笑みが戻り、ロイに再び抱きつく。
「父様!大好き!!」
「ハッハッハッ・・・。父様もレイの事が大好きだぞ!!」
夕闇迫る中、親子は楽しそうに帰途につくのだった。
|