Stay by my side   番外編 

        運命の赤い糸

        久々の休みの日。
        朝から降り積もる雪に、
        家族でどこかへ行こうという計画が
        潰されたが、たまにはこんな日も良いかと、
        私は、サンルームにあるソファーで、ゆったりと
        寛ぎながら、ずっと読めずにいた錬金術の
        本を読んでいた。

                 

         どれくらい時間が経ったのだろうか。
         本を読みながら、サイドテーブルに置いていた、
         カップに手を伸ばし、口をつけようとして、ある事に気づく。
         「・・・・・・空か。」
         私は、新しいコーヒーを入れようと、カップを片手に、
         椅子から立ち上がった。
         つい数ヶ月前までは、コーヒーがなくなる前に、妻が気を
         利かせて新しいコーヒーを煎れてくれるのだが、
         現在、妻は妊娠中だ。子どもを産むという重大使命を帯びている
         妻の負担を、少しでも軽くしたくて、私は自分の事は
         なるべく自分でするようにしている。
         そんな私の態度を、妻は余所余所しいと不満に思うらしく、
         時々拗ねる姿が愛らしい。
         「あっ!駄目だって!エド君!!」
         キッチンへ向かおうと、踵を返した私の背後から、愛しい妻の
         切羽詰った声が聞こえ、思わず振り返る。
         「タイサまで・・・・・。もう!!」
         快適な温度に設定されているとはいえ、床に座って、
         猫エドと犬のタイサと戯れるのが好きな妻のエドワードの為、
         毛足の長い、暖かなカーペットを敷いている。その上、
         座り心地の良い、クッションにチョコンと座っているエディは、
         がっくりと肩を落としていた。
         「エディ?」
         そっと声をかけてみるが、エディは肩を震わせて、下を向いたままだ。
         「エディ!?どうした!!」
         何があったのかと、慌ててエディの側に駆け寄ったのと、エディが
         笑い転げたのは、同時だった。
         「エ・・・・エディ・・・・?」
         訳が判らずポカンとしている私に気づいたのか、エディは涙を拭きつつ、
         笑いながら前方を指差す。
         「エ・・・・エド?タイサ?」
         そこにあった光景は、確かにエディが大笑いしたくなるようなものだった。
         身体にグルグル赤い毛糸を巻きつけながらも、一心不乱に毛糸玉に
         じゃれ付く猫エドと、それに巻き込まれたであろう、犬のタイサが、
         毛糸に絡まれながら、困惑気味に伏せをしている姿だった。
         「最初は、エド君が毛糸玉に興味を持ったんだ・・・・。」
         エディは、クスクス笑いながら、事の真相を説明し始めた。
         「じゃれついてたら、毛糸玉が転がって・・・・・それを
         追いかけるのに夢中のエド君をタイサが止めようとして、
         更にこんがらがっちゃたんだ。」
         エディの説明に、私はもう一度猫エドとタイサを見る。
         毛糸が絡まった事にきづいたのか、猫エドは
         今度は自分に絡みついた毛糸と格闘していた。
         その横では、タイサがどこか優しい眼で猫エドを
         見つめていた。
         「なんか・・・・・運命の赤い糸みたい。」
         クスリと腕の中のエディが呟く。
         「なぁ、知っているか?結婚する男女の小指には・・・・・・。」
         「運命の赤い糸で繋がっているのだろ?こんな風に。」
         私は、エディの言葉を遮ると、エディの左手を取り、
         その小指に毛糸を巻きつけ、今度は自分の小指も
         同じように巻きつけた.
         「エディが私の運命の人だ・・・・・。」
         「ロイ・・・・・・。」
         頬を赤く染めるエディの可愛らしさに、私はそっと顔を寄せる。
         「愛している。エディ・・・・。」
         そう呟きながら、唇を重ねようとした瞬間、猫エドが
         悲痛な鳴き声をあげる。

         「ミャ〜。ミャ〜。ミャ〜。」
         自力で脱出するのは無理と判断したのか、猫エドは、
         悲痛な叫びを上げながら、必死に私達に訴えていた。
         「・・・・・・・運命の赤い糸を切られては大変だ。」
         私達は顔を見合わせ、クスリと笑うと、軽く口付けを交わす。
         「さて、王子様達の救出に向かうとしよう。」
         私は立ち上がると、猫エド達の元へと歩いていった。


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  2月10日は、ニットの日だとか。

  久々のStayシリーズ番外編。しかも、ロイ視点。