12月9日 ロイ視点 昨日、浚われるようにして、漸く、視察先のイーシュに到着した。 まだ夜も明けておらず、駅も閑散としていた。 「・・・・・・迎えが来ていないようだな。」 グルリと辺りを見回して、溜息をつく。 全く、何てことだ。例え夜が明けていなくとも、仮にも大佐の地位にいる 私に迎えをよこさないとは、どういうことだ? 到着する時間は分かっているはずだ!!全く、何をしているんだ!! 一人憤慨する私に、お目付け役のハボックが、プハーとタバコの煙を 空に向かって吐き出すと、肩を竦ませる。 「来るわけないッスよ。抜き打ちなんスから。って言うか、俺らが 大総統を出迎える立場でしょうが。」 「・・・・・・・なんだと・・・・・?」 驚く私に、ハボックは、何を今更と眉を潜めた。 「知らないんですか?先月、大総統命令で、各支部に通達されてました でしょう?」 そこで、私はサッと蒼褪めた。 「ちょっと待て!!では何か?私がわざわざイーシュに来たのは、 大総統のお遊びに付き合う為だったのか!?」 そう、先月、何を思ったのか、大総統は突然各支部に通達したのだ。 大総統自ら抜き打ちで視察を行うと。 そのことで、軍内部はパニック状態に陥ったのだが、あれから大総統が 視察を行ったという話は聞かなかったので、ただの思いつきで言っただけと、 思っていたのだが・・・・。 「流石に大総統ですから、護衛もなしにと言うわけにはいきませんからね。」 護衛として、ロイに白羽の矢が立てられたらしい。 「あの大総統なら、たった一人で大丈夫だ。私はこのままイーストへ戻る!」 冗談じゃない!どうせあの伯父の事だ。面白がっているだけに決まっている。 「マスタング大佐、どこへ行くのかね?」 「どわあああああ!!」 クルリと踵を返すと、真後ろに、いつの間にか大総統が立っていた。 「だ・・・・大総統!?」 驚く私の横では、ハボックが真面目な顔で敬礼している。 ったく!気付いていたのなら、さっさと知らせろ!! ギロリと横目で睨む私に、ハボックは澄ました顔をしている。 フン!後で覚えていろ!! 「・・・・・・さて、マスタング大佐。我々の護衛を宜しく頼むよ。では、行こうか。 ホーエンハイム。」 「お・・・・お義父さん!?」 見ると、少し離れたところで、エディの父親である、ホーエンハイム氏が 苦虫を潰したように、嫌そうな顔で私を睨んでいた。 「だれが、お義父さんだ!!」 グルルルと威嚇されても、あなたが将来私の義父になることは、決定事項 なんですけどね。 「ロイ、この視察で、株を上げれば、エドワードちゃんとの結婚に一歩 近づけるかもしれんぞ?」 ニヤリと小声で呟く伯父の言葉が、天啓に聞こえた。 「おまかせを!大総統!!見事護衛を果たして見せます!!」 ビシッと敬礼する私を、大総統は満足そうに頷く。 しかし、私は失念していた。 伯父も私とエディの結婚を快く思っていないことを。 護衛とは名ばかりの婿苛めが行われたのは、言うまでもない。 |