月明かりの中、すやすやと眠るエドワードの寝顔を
見つめながら、ロイはベットに腰を降ろして、
ゆっくりとエドの髪へと手を伸ばす。
優しく髪を撫でられて、エドは幸せそうな笑みを浮かべた。
「・・・・・愛している。エディ・・・・・。」
ロイはそっと額に掛かった前髪を掻き揚げると、
優しくエドの額に口付けた。
「ん・・・・・。ここ・・・・・。」
ゴシゴシと目を擦りながら、エドはゆっくりとベットから
身を起こす。
きょろきょろと辺りを見回すが、見に覚えのない寝室に
気づき、瞬間エドは先程の自分の写真が溢れかえった
寝室を思い出し、軽いパニック状態を引き起こす。
「いや・・・・・嫌!!助けて!!助けて!!
大佐!!大佐〜!!」
シーツで自分の身体を隠しながら、エドは声の限り
叫びだす。
もしかして、あの時ロイが助けに来てくれたのは、自分の
都合の良い夢で、あの後、自分はあの気味の悪い男に
抱かれたのではないかと、半ば半狂乱になったエドに
気づいたロイが、慌てて寝室へと駆け込むと、そこは、
泣きながら自分の右手を鋭いナイフに練成して、
自分の左手首を切ろうとしているエドの姿があった。
「エディ!!」
ロイは瞬間血が凍るのを感じ、慌ててエドのナイフに練成
された右腕を素手で掴む。
「何をしている!エディ!!」
パンとロイはエドの頬を打つ。
「嫌!離して!!離せってば!!」
「いい加減にしないかっ!!エドワード・エルリック!!」
ロイは暴れるエドを、きつく自分の腕の中に閉じ込めると、
荒々しく唇を奪う。
「・・・・たい・・・さっ・・・・・。」
茫然と呟くエドを怖がらせないように、ロイは優しくエドの
髪を撫でる。
「エディ・・・・。大丈夫だ・・・・。」
「でも・・・でも・・・俺・・・・あの男に・・・・・穢され・・・・・・。
もう・・大佐の傍に・・・・いられない・・・・・。」
ヒックヒックと泣き出すエドに、ロイはきつくその身体を抱きしめる。
「大丈夫だ。君は穢されてなどいない。安心しなさい。」
「・・・・・っく・・・・ひっく・・・・。」
ポロポロとエドは大きな瞳から涙を流しながら、自分を
抱きしめている男の背中に腕を回すと、抱きついた。
「もう大丈夫なんだよ。エディ・・・・。」
ロイは、エドが落ち着くまで、何度も何度も髪を優しく
撫でた。
「で?君は何故病院を抜け出したのかね?
まだ退院許可が下りていないのは、私の気のせい
だったのかな?」
漸く落ち着いたエドを待っていたのは、ロイのイヤミと
お説教だった。
「・・・・・それは・・その・・・・・。」
明らかに自分が悪い事を自覚しているエドは、気まずそうに
瞳を反らす。
「一体、君はどれだけ人に迷惑をかければ、気が済むんだ!!」
その言葉に、エドの心が軋んだ。
「・・・・・ごめん。」
エドは俯いたまま呟くと、次の瞬間素早くベットから抜け出して、
ドアへと駆け出す。
「待ちたまえ!!エドワード!!」
慌ててロイがエドを追いかけ、部屋から飛び出そうとするエドを
後ろから拘束する。
「放せよ!!俺は病院に戻るんだから!!」
「そんな身体で1人では無理だ。後で私が送るから・・・・・。」
エドはロイの手を振り解く。
「いいって言ってんだよ!!いいよ!リックに迎えに来てもらう
から!!」
「・・・・・リックだと・・・?」
途端、ロイの顔から表情が消えた。
「君は、ホークアイ大佐をどう思っているのだね?ただの我侭を聞いてくれる
男なのか?」
「何言って・・・・・。」
ロイは乱暴にエドの腕を掴むと、ズルズルとベットへと引き摺るように
歩く。
「ちょっと!大佐!!」
怒り心頭のロイに、エドは怖くなって、必死にロイの腕を離そうともがくが、
少女の力が大人の男の力に叶うわけもなく、そのままズルズルと
引き摺られ、そんな荷物のような扱いに、エドはロイにとって自分の
価値がそれだけだと言われたような気がして、悔しさのあまり、
瞳に涙を浮かべる。
「・・・・・君はホークアイ大佐を振ったのだろ?振った男を利用しようなんて、
君は随分強かな人間なんだな。」
ロイの言葉に、エドはギクリと身体を強張らせる。
”大佐に知られてる!?”
まさか、と思い、恐る恐るロイの顔を見上げると、冷たい瞳とぶつかり、
エドは怖くなって、視線を反らせる。そのエドの行動が、ますますロイの
機嫌を損ねていく。
「・・・・・・それじゃあ、アル呼んで・・・・・・。」
小声で呟くエドに、ロイは聞き返した。
「何?」
「だから!アルをここに呼んでってばっ!!それならいいだろ!!
アンタに迷惑さえかけなければっ!!」
瞳に涙を溜めて叫ぶエドに、ロイは反射的に、エドの顔を引っぱたく。
いきなり叩かれた事に、受身を取れずに、エドはベットの上に倒れこむと、
きつい眼をロイに向ける。
「いきなり何すんだよ!!」
「うるさい!!君はいつもそれだっ!!」
ロイは一喝すると、エドの胸倉を掴む。
「何で君はいつも、アルフォンスだの、ハボックだの、リックだの!!
いい加減にしたまえ!!」
理不尽なロイの言い分に、切れたエドは、ロイの腕を振り払う。
「どこがいけないんだよ!!アンタに迷惑をかけなければそれでいいだろ!!
俺の事なんて、ほっとけよ!!」
「それが出来れば苦労はせん!!」
ロイは振り払われた手で、再びエドの胸倉を掴む。
「どうして、君は私を頼ろうとはしないんだっ!!こんなに愛しているのに!!」
「何言って・・・・・。」
茫然と呟くエドを、ロイは無理矢理引き寄せると、きつく自分の腕の中に
閉じ込める。
「君が好きだ・・・・・。愛している。エドワード・・・・・・。」
「っ!!」
ロイの告白に、エドは驚きに眼を見張る。
「ずっと・・・・初めて逢った時から、ずっと君を愛している。」
「嘘・・・・。嘘だ・・・・・。」
首を振ってロイの言葉を否定するエドに、ロイは悲痛な表情で
エドを見つめる。
「嘘じゃない・・・・・。」
「嘘だっ!!」
「嘘じゃない・・・・・。」
「嘘だよ!!」
「嘘じゃない!!私は君を愛している!!」
ロイはきつくエドを抱きしめる。
「誰よりも君を愛している。この想いが君の負担になるのではと、
ずっと言えなかった・・・・・・。」
耳元で囁かれるロイの言葉に、エドは泣きながらロイに
しがみ付く。
「本当・・・?」
「ああ。本当だ。愛している。エディ・・・・・。」
ロイはそっとエドの顎を持ち上げると、触れるだけのキスを繰り返す。
「愛しているよ。」
今まで言えなかった分を含めるかのように、ロイはエドに囁き続ける。
「・・・大佐、この傷・・・・・。」
ふと、エドはロイの右手が真っ赤に染まっている事に気づく。
「ん?あぁ、ただのかすり傷だよ。」
にっこりと微笑むロイに、エドは先程自分がナイフを練成して、自殺しようと
した時に、自分を止めに入ったロイにつけた傷だと悟り、ポロポロと涙を流す。
「・・・・ごめ・・・ごめんなさい・・・・。ごめんなさい・・・・。」
「エディ!?」
いきなり泣き出すエドを、ロイは困ったように抱きしめる。
「泣かなくていい。本当に、大したことはないんだ・・・・。」
エドはフルフルと首を横に振る。
「違う!いっつも俺は大切な人を傷つける。もう、俺の事は
放っておいて・・・・・。俺にこれ以上近づくと、大佐、最前線に
送られちゃう・・・・・。」
「何を言っているんだね?」
訝しげに尋ねるロイに、エドはポロポロと泣きながら、先程の男が
口にした言葉を伝える。
「あの男・・・・自分は中将の息子だからって・・・・大佐を最前線に
送る事が出来るって・・・・・。」
嗚咽するエドの背中を優しく摩りながら、ロイは押さえきれない怒りを
感じ唇を噛む。エドの事が心配であの男の処分をホークアイに
任せてしまったが、やはりあの男は直接手を下したほうが良かったと
後悔する。
「ごめんなさい。ごめんなさい・・・・・。」
何度も謝るエドに、ロイは優しく抱きしめる。
「その事なら、もう心配はいらない。私は最前線に送られる事は
ないし、あの男も今頃は処分されているはずだ。」
ロイは、安心させるように、何度もエドの頬にキスの雨を降らせる。
実際、エドを抱き抱えてあの男の屋敷を後にした時に、すれ違った
兵士達の腕には、「EEFC」、つまり、エドワード・エルリックファンクラブ
の腕章が着けられていた。ホークアイにその存在を知らされてから、
独自に調べ上げたところ、「EEFC」の幹部には、全て軍上層部の
名前が連なっていた。おまけに、会長がホークアイ中尉で副会長が
キング・ブラットレイ大総統だ。ここまでエドを傷つけた犯人及び
その一族に既に明るい未来はないだろうと、ロイは確信していた。
本当ならば自分が手を下したいところだが、今はエドを宥める事が
先決とばかりに、優しくエドの唇を啄ばむ。
「君が心配する事はない。何もないんだ・・・・。」
「大佐・・・・・。」
トロンとした瞳のエドに、ロイはニヤリと微笑む。
「君はさきほど、大切な人を傷つけてしまうと言っていたが・・・・。
それは、私の想いを受け取って貰えたと、解釈してもいいのかね?」
途端、エドは真っ赤になる。
「エディ?」
ニヤニヤと笑うロイに、エドは顔を反らそうとしたが、それを許さず、
ロイは真剣な瞳でエドを見つめる。
「エドワード・・・・。愛している。私の恋人になってほしい・・・・・。」
真摯なロイに、エドは真っ赤になりながら、やがてコクリと
小さく頷いた。
「エディ・・・・・。」
ロイは嬉しそうに笑うと、ゆっくりとエドをベットの上に押し倒した。
「その・・・気をつけて行っておいで。エディ。」
「う・・・うん・・・・。」
ロイがエドを押し倒した直後、マスタング邸に、ホークアイとアルフォンスが
襲撃した。病院にエドがいないことに驚いた2人が、ハボックを締め上げ、
エドがロイの自宅に居る事を聞き出したのだ。2人は、固まる2人を
引き離すと、そのままエドを病院に直行させて入院させてしまったのだ。
その上、ホークアイとアルフォンスの連携プレイにより、晴れて恋人同士に
なったロイとエドの2人は、エドが退院するまで2人きりになることは
なく、エドが旅立ちの挨拶に来た日、漸く2人きりになれた出来て
ホヤホヤのカップルは照れの為か、ぎこちない挨拶を交わしていた。
「そ・・・それじゃあ、大佐。そろそろ・・・・・。」
真っ赤な顔のエドがそう言って出て行こうとしたところ、ロイはにっこりと
微笑みながらエドの身体を抱き寄せた。
「そういえば、賭けは私の勝ちだったね。」
「へっ?賭け?」
何の事か分からず、エドはキョトンと首を傾げる。
「一週間以内に彼氏が出来なければ、何でも私の言う事を聞くのだろう?」
蕩けるような笑みで言われ、瞬間、エドの顔が引きつる。
「なっ!!彼氏作っただろ!!」
アンタは彼氏じゃないのかっ!!と怒鳴るエドに、ロイはにっこりと
腹黒い笑みを浮かべる。
「私達が恋人になったのは、賭けの一週間が過ぎてからなのだよ?」
つまり、私の勝ちだ!と上機嫌なロイに、エドは、ロイに嵌められた事に
気づいた。
「ひでぇ!!俺を騙したんだな!!」
「ふっ。これも大事な戦略の一つだよ。エディ。さてと。」
ロイはエドの身体を抱きしめながら、笑みを浮かべる。
「な・・何だよ・・・。」
ロイの笑みに黒いものを感じ、エドは逃げ腰になるが、そうなる事を
見越したロイは、さらに自分にエドを抱き寄せる。
「私は君に叶えて欲しい望みがあるのだが?」
「な・・・なんだよ。早く言えよ・・・・・。」
ロイは真っ赤な顔で自分を睨み付ける少女に、穏やかな笑みを向ける。
「怪我をしないように。」
「はぁ?」
驚くエドをロイはきつく抱きしめる。
「何でも私の言う事を聞くのだろ?私の願いは一つだ。君が怪我を
しないで、私の元へ帰ってくること。それだけだよ・・・・・。」
本当ならば、ずっと自分の腕の中に閉じ込めて置きたい。だが、
エドの目的を知っている為、それは出来ない事だ。ならばせめて、
怪我をしないように。無事な姿を望む事は許されるはず。
「大佐・・・・・ロイ・・・・。ありがとう・・・・。」
エドは嬉しそうに微笑むと、ロイに自分から口付ける。
「大好き!ロイ!」
「愛しているよ。エディ・・・・。」
2人は微笑みあうと、ゆっくりと唇を重ね合わせた。
FIN
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やっと完結しました!!長い間お付き合いくださいまして、
ありがとうございます。
中々くっつかないカップルなので、半ば強引にくっ付けて
しまいました。如何でしたでしょうか?
感想などを送ってくださると、嬉しいです。