LOVE’S PHILOSOPHYシリーズ  

       ロイ・マスタングの野望 〜初夢編〜







 

        「うわああああああああああああああああああああああああああ!!」
        その日、早朝から、マスタング邸では、一家の主であるロイ・マスタングの
        悲鳴が響き渡っていた。
        「ロイ!?一体どうしたんだ!!」
        「うるさいわよ!ロイ!!フェリシアが起きちゃうでしょ!!」
        丁度、朝食の準備をしていたエドとソフィアは、突如聞こえてきた
        ロイの悲鳴に、一方は心配して、もう一方は、折角の嫁との至福の時間を
        邪魔された怒りで、寝室へと駆けだした。
        「ロイ!!」
        バンと荒々しい音を立てて寝室へ入ると、そこには、頭を掻きむしる様に 
        ベットから上半身を起こしたロイが蹲っていた。
        「ロイ!?大丈夫か!!」
        尋常でないロイの様子に、すっかり気が動転したエドが、慌ててロイに
        駆け寄ると、ロイは弱弱しく顔を上げた。
        「・・・・・・・・・・・エディ?」
        「ああ!俺だ!分かるか?」
        心配げに自分を見つめる愛妻に気付いたロイは、ギュッとその身体を抱きしめる。
        「ロイ!?」
        ブルブルと震えながらエドに抱きつくロイに、流石のソフィアも真剣な顔になる。
        「・・・・・・・・・・・・・・・フェ・・・・フェリシアが・・・・・・・・・・・・。」
        「「フェリシア!?」」
        フェリシアという言葉に、エドはロイの身体を押しのけると、慌ててベットの脇に
        置いてあるベビーベットに駆け寄る。
        覗き込んでみてみると、キョトンとしたフェリシアをと目が合い、安堵の為、エドは
        崩れるように、その場に座り込む。
        「ロイ!!驚かせんな!」
        朝っぱらから、一体何の冗談だと、怒り心頭に振り返ると、そこには、滂沱の涙を
        流しているロイがいて、エドは軽くひく。
        「もう!しっかりしなさい!ロイ!!」
        見かねたソフィアが、ロイの頭を軽く叩く。
        「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だ。」
        叩かれた勢いのまま、俯くロイが、何か小声で呟く。
        そんなロイに、ソフィアとエドは困惑した様に顔を見合わせる。
        「ロイ?本当に、どうしたんだ?」
        意を決して、エドが恐る恐る声を掛けるのと、ロイがキッと顔を上げて高らかに
        宣言したのは、同時だった。
        「は・・・・・・・・・ハボックを北方司令部に転属させる!!」
        「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ!?」」
        驚く二人を尻目に、ロイは素早くベットから起き上がると、慌てて部屋から飛び出して
        いった。











        「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・で?新年早々の、このありえない人事異動について、
        納得のいく説明をお願いします。マスタング准将。」
        電話でのロイのいきなりの宣言から10分後、どんよりと落ち込んでいるハボックを伴い、
        ホークアイが慌ててマスタング邸へと駆けつけてきた。
        「早朝からの電話で何があったのかと思ったら、いきなりのハボック中尉の北方司令部
        への転属通知。今、中央司令部は突然の人事に、上へ下への大騒ぎなんです。
        収集するのが、大変でしたよ。」
        ふうと大きなため息をつくが、実際には、銃声一つで全員を黙らせてきたホークアイだった。
        「酷いッスよ!准将!オレが一体何をしたっていうんですか!!」
        ダーッと滂沱の涙を流しながらロイに詰め寄るハボックを、ロイは冷ややかな目で見据える。
        「何をしただと・・・・・・?」
        ギロリとハボックを睨むロイに、ホークアイは本気の度合いを感じ、眉を顰める。
        ここまで、ロイが怒るのは、最愛の妻と娘が絡む時のみ。
        一体、ハボックはウッカリ何をしたんだと、ホークアイは、半分呆れ、半分怒りながら、
        今度はハボックに向き直る。
        「で?ここまで准将を怒らせることに、心当たりは?」
        大方、ロイが勝手に怒っているだけだろうとは思うが、念の為、ハボックに確認を取る。
        「誤解!誤解ッスよ!!俺は何もしてないッス!!第一、一昨日の夜までは、准将は
        ご機嫌だったじゃないですか!それ以降、俺、准将に逢ってないです!!
        准将の年末の仕事を強制的に代わりにさせられて、ずうううううううううっと、司令部に
        詰めていた俺に、何が出来るって言うんですか!!」
        ハボックの最もな主張に、ホークアイは、それもそうねと、あっさりと視線をハボックから
        ロイに移すと、ギロリと睨みつけた。
        「准将、何を勘違いされたのか存じませんが、いい加減、下らない思い込みで、周囲を
        混乱に巻き込むことは、今後一切止めてほしいのですが。」
        「しかし!ホークアイ大尉。今ここで、ハボックを遠くにやらないと、私のフェリシアが!!」
        珍しく食い下がるロイに、ホークアイは呆れた顔をするが、最後のフェリシアという言葉に、
        ホークアイの顔に緊張が走る。
        「フェリシアちゃんが・・・・・・・・・・どうしたと?」
        「おい!フェリシアがどうしたって!?」
        「ちょっと!一体どういう事か説明しなさいよ!!」
        勿論、ホークアイだけではなく、エドとソフィアも、フォリシアの一大事に、ロイに詰め寄る。
        「ハ・・・ハボックが・・・・・・・・・・・・・・・私の可愛いフェリシアを誑かしてしまうのだよ!!」
        ああ!何て恐ろしいと顔を蒼褪めるロイの言葉に、ホークアイ達は一斉にハボックに
        視線を向ける。
        「どういうこと?あなたまさか・・・・・・・・・・・・・・。」
        チャキっとホークアイは銃をハボックに向ける。
        「・・・・・・・・・・・・ハボック中尉、どういう事か、説明してほしいんだけど?」
        指をボキボキさせながら、目を据わらせたエドが、一歩前に出る。
        「・・・・・・・・・・・・うちのロイも人の事は言えないけど・・・・・でも、あなたとフェリシアでは、
        犯罪も犯罪!あってはならない事よ!!」
        嫌々とソフィアは顔を蒼褪めて首を横に振る。
        「ちょ!落ち着いて下さいよ!!そんな事、ある訳ないでしょうが!!俺は大人の女性が
        好きです!!赤ん坊は趣味じゃないです!!」
        殺気立った三人の女性を前に、ハボックは身の危険を感じ、必死に説得する。
        「何を言う!貴様・・・・・。私の可愛いフェリシアのどこが不満なんだ!!私とエディの
        娘だけあって、あんなに可愛らしいではないか!!」
        さきほどまで、認めないと激昂していた事など忘れたかのように、ハボックの言葉に、ロイは
        何故娘を相手にしないのかと、憤慨する。
        「准将!アンタ、言っている事滅茶苦茶ですよ!まだ寝ぼけているんですか!?」
        泣きながらの、ハボックの言葉に、エドとソフィアが、ピタリと動きを止める。
        「そーいえば、ロイの奴・・・・・。」
        「悲鳴と共に、起きたんだったわね。」
        エドとソフィアはお互い顔を見合わせると、次の瞬間、二人はロイを振り返った。
        「・・・・・・・・・・なぁ、ロイ。ハボック中尉とフェリシアがどうなるのか、最初から順を
        追って説明してくれないか?」
        こめかみをピクピク動かしながらも、エドは勤めて優しくロイに語りかける。
        「ああ!エディ。大変なんだ。美しく成長したフェリシアが、あろうことか、好きな人がいると
        言いだして・・・・・・・。それだけでも耐えがたいのに、結婚相手として、ハボックを連れて来た
        んだぞ!!こんなショックな事があるか!!」
        エグエグと泣き出すロイに、その場にいる全員が、脱力したように、その場に座り込む。
        「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・要するに、単なる夢な訳だ。」
        フルフルと怒りに震えるエドに、ロイはムッと顔を顰める。
        「単なる夢ではないぞ!!初夢だぞ!初夢!!」
        「・・・・・・・・・・だ〜か〜ら、ただの夢だろうが。ビックリさせんな!」
        ポカリと軽くロイの頭を叩くエドに、ロイはフウと深いため息をつく。
        「エディ。君は初夢を知らないのか?日本国の土方殿に聞いたんだ。初夢は、正夢になると!!
        こんな・・・・・こんな恐ろしい夢が正夢になるなんて!ありえない!!そうだろう!!」
        エドの腕を掴むと、必死にロイは訴える。
        「だから、今のうちに、ハボックを遠くに左遷させて、フェリシアとの接点を潰すしか道はないんだ!」
        「・・・・・・・・・あのさ、初夢っていうのは、2日から3日にかけて・・・・・・・・・・・。」
        「ちょっと待ってエドワードちゃん!!」
        エドの言葉をホークアイが慌てて止める。
        「?何で?」
        キョトンとなるエドの腕を引っ張って、ホークアイは部屋の隅へと移動すると、ロイに聞かれないように
        耳打ちする。
        「良く考えてみて。これは、チャンスよ。」
        「・・・・・・・チャンス?」
        このままだと、ハボック中尉が左遷させられちゃうのに?と、エドはコテンと首を傾げる。
        「ええ。最近の准将を見ていると、ますます馬鹿っぽさに磨きが、いえ、常軌を逸した行動が
        目に余るわ。エドワードちゃんだって、昨日の年越しパーティの時に恥ずかしい思いを
        したことを、忘れたわけではないでしょ?」
        ホークアイの言葉に、その事を思い出したのか、エドの眉間が寄る。
        「・・・・・・・・・・確かに、ロイのアレは酷かった。」
        「でしょう?ここで、まとも・・・・・・・は無理にしても、もう少し何とかした方が、これからの
        エドワードちゃんとフェリシアちゃんの為でもあると思うのよ。エドワードちゃんだって、
        フェリシアちゃんに、恥をかかせたくないでしょう?」
        我が意を得たりとばかりに、ホークアイはニッコリと微笑む。
        「そうだな。フェリシアの為にも、もう少ししっかりしてもらわなければ・・・・。」
        ウンウンと大きく頷くエドに、ホークアイの笑みが深くなる。
        「では、私に任せてくれるわね?」
        「うん!宜しくお願いします!」
        エドの同意を得て、ホークアイは神妙な顔で、ロイに近づいて行った。











         「そんな下らない理由で左遷って、そんなの、酷いッスよ!」
         あまりにも理不尽な理由に、流石のハボックもキレかかった。
         「下らないだと!?貴様、北方司令部への左遷の前に、上官不敬罪で、今直ぐ
         軍法会議へ送るぞ!」
         「やれるものなら、やってみてくださいよ!第一、こんなアホな理由で
         軍法会議なんて・・・・・・・。」
         余裕のハボックに、ロイは不敵な笑みを浮かべる。
         「ハッ!貴様、忘れているようだな。軍法会議のトップが誰であるか。」
         「トップは・・・・・・・・・・ヒューズ准将・・・・・・。」
         サッと顔を蒼褪めるハボックに、ロイは勝ち誇った笑みを浮かべる。
         「汚いッスよ!准将!ヒューズ准将と結託して、俺に無実の罪をかぶせるなんて!!」
         ヨヨヨヨと泣き出すハボックの頭を、ロイはポカリと殴る。
         「人聞きの悪い事を言うな。何が罪を被せるだ。奴も俺と同じ、愛娘を持つ身。
         きっと俺の言い分を真摯に受け止めてくれるはずだと言っているのだ!!」
         ハハハハと拳を握って高笑いをするロイに、深いため息をついたホークアイが
         二人の間に割って入る。
         「・・・・・・・・・准将、一つだけ忠告しておきます。例え、ハボック中尉を左遷させたりしても、
         【運命】から逃れられませんよ?
        ピタリとロイの笑い声が止まった。
        「そうか・・・・・・・・・・・・では、仕方ないな。ハボック、短い付き合いだったな。」
        そういって、ロイが手にしているのは、発火布の手袋。その姿に、ハボックは失神寸前である。
        「ちょ!ホークアイ大尉まで、何を言い出すんですか!!」
        ここで気絶しては一大事と、気合いで乗り切ったハボックは、ホークアイに食って掛かるが、それも
        ホークアイの一睨みで大人しくなる。
        「ですが、ご安心を。こうなった場合を想定して、日本国の山南さんから、この事態を回避する術を
        伝授してもらっています。【初夢】が【悪夢】だった場合、【良い夢】を見直せば良いとのことです。」
        満面の笑みを浮かべるホークアイに、ロイの目が期待に輝く。
        「おお!流石は副官!仕事が早い!!では、私は寝直して、【良い夢】を見直せば良いんだな!」
        「ですがその前に、何故、このような【悪夢】を見たのか、検証しなければなりません。」
        ホークアイはコホンと咳払いをする。
        「そんなのは、ハボックがそこにいるからだ。」
        何を当たり前な事をと言うロイに、ホークアイは、ふうと深いため息をついた。
        「何もわかっていないようですね。」
        「・・・・・・・・・・・・・・何がだ?」
        訝しげな顔をするロイに、ホークアイは気の毒そうな顔をする。
        「本人が原因に気づかなければ、この【運命】が変えられないと聞きました。」
        「だから、言っているだろ?全てハボックが悪いのだ。」
        ムッとしたロイに、ホークアイは大きく首を横に振る。
        「いいえ。山南さんが言うには、【初夢】というのは、見た人間の前年の行いによって、
        良くもなり、悪くもなるらしいのです。つまり、【初夢】を【悪夢】にしてしまったのは、
        見た人間、つまり、この場合、准将ですが、前年に非道の限りを
    尽くしてしまった
と言わざるを得ません。」
        キッパリと言い切るホークアイに、ロイは慌てる。
        「ちょっと待て!そんな話は聞いていないぞ!【初夢】というのは、その年の吉凶を
        占うのであって、決して前年非道の限りをつくしたとか、そういう話ではないはずだ!
        第一、私がいつ【非道の限りを尽くした】と言うのだ!!」
        「あら?そう言いきれるのですか?現に【悪夢】を見たのでしょう?」
        フッと鼻で笑うホークアイに、ロイは一瞬言葉に詰まる。
        「・・・・・・・・・・・・・しかし、非道の限りを尽くすというのは、ちょっと言い過ぎでは?」
        果敢にも口答えをしようとするが、ホークアイの冷たい視線に、すごすごと黙り込む。
        「では、検証してみましょうか。昨年の、准将の悪行の数々を。まずは・・・・・私ですが、
        准将がサボリにサボったせいで、かなりの迷惑を蒙っています。各部署へのお詫びやら
        尻拭いに、有給を潰されたことは数知れず。そのせいか、最近、お肌が・・・・・・・。」
        ふうと業とらしい溜息をするホークアイに、いち早くホークアイの意図に気づいたソフィアが、
        「まぁ!何てロイは【非道】な事を!!」と大げさに声を上げる。文句を言おうとするが、
        その隣では、「ロイが迷惑かけてごめんなさい」と、エドがウルウル瞳を潤ませながら
        謝罪をするので、ロイは何も言えず黙り込む。
        「次は私ね!」
        シュンとなるロイに畳み掛ける様に、ソフィアが満面の笑みを浮かべると、一歩前に
        出る。
        「ちょっと待ってください!私はあなたに【非道】な事をされた覚えはあっても、私が
        あなたに【非道】な事をした覚えはない!!」
        ソフィアの登場に、ロイはギョッとなる。だが、ロイの抗議は女性二人に黙殺される。
        「折角、嫁とのコミュニケーションを取ってるというのに、ロイったら邪魔するのよ?
        【非道】すぎると思わない?リザさん。」
        ハンカチ片手に力説するソフィアに、ホークアイは大げさに驚く。
        「まぁ!なんということを!昨今、嫁と姑の不仲が原因で事件になっている中、
        こうして姑であるソフィア様と嫁であるエドワードちゃんが仲良くしているのは、
        本当に素晴らしい事なのに、それを邪魔するなんて!!
        これは、もう、【極悪非道な行い】
        言うしかないですわね!!」
        「分かってくれる?リザさん!」
        「勿論ですわ!!」
        二人、固く手を握ってニッコリと微笑み合う。
        「ちょ・・・ちょっと待ちたまえ!!それを言うのならば、私にだって言い分はあるぞ!
        こっちは、夫婦の仲を邪魔されているんだ!夫婦の危機に立ち向かって何が悪い!!」
        憤慨するロイに、ホークアイとソフィアの冷たい視線が突き刺さる。
        「聞いた?リザさん。」
        「ええ。バッチリとこの耳で。」
        ソフィアの問いに、ウンウンと頷くホークアイ。
        「実の母に向かって、あのような暴言を常日頃吐くのですのよ。」
        ううううと、大げさにハンカチで目を抑えるソフィアに、ホークアイは気の毒そうな顔をする。
        「本当に・・・・・・・【非道】にも、ほどがありますね。」
        「君達・・・・・・・・・・・いい加減にしないと、私も・・・・・・。」
        怒りの為か、発火布の手袋を嵌めようとするが、ツンツンと袖を引っ張られて、ロイは
        思わず引っ張られた方を見る。
        「ロイ・・・・・・・・・喧嘩しちゃ駄目。」
        ウルウルと瞳を潤ませるエドの顔を見て、ロイは怒りを忘れ、エドに微笑みかける。
        「ハハハハ・・・・・。何を言うんだい。エディ。私が喧嘩する訳ないだろう?」
        そう言って、幸せそうな顔でギュっとエドを抱きしめるロイの姿に、ホークアイとソフィアのこめかみが
        ピクリと引き攣る。
        「・・・・・・・・・ソフィア様。そろそろ。」
        「そうね。今年こそ、ガツンと躾し直しましょう。」
        二人は頷きあうと、神妙な顔でロイに向き合う。
        「・・・・・・・・・・・・・と、まぁ、昨年准将は非道の限りを尽くされた訳ですが・・・・・・・。」
        「だから、違うと言っているだろうが!」と言うロイの抗議は黙殺すると、ホークアイは
        厳しい目をロイに向けながら、言葉を繋げた。
        「これは、准将の行いが神の怒りに触れ、【初夢】が【悪夢】になったものと思われます。神の怒りを
        解かなければ、いくら寝直しても無駄な事。むしろ、反省がないとばかりに、どんどん【悪夢】を
        見てしまうかもしれません。それを打開するには、ただ一つ。」
        ビシッとホークアイは人差し指を立てる。
        「今年は、いかに真面目になるか神に示す事が大事かと。」
        「まぁ!それは、具体的にどうすれば?」
        ソフィアの問いに、ホークアイはニヤリと笑う。
        「そうですねぇ・・・・・・・・・。今から真面目に仕事をしてもらいます。」
        その言葉に、ロイは慌てる。
        「ちょっと待ちたまえ!何故新年早々仕事をしなければならんのだ!!」
        ロイの文句に、ホークアイは肩を竦ませる。
        「新年早々、国民の為に、身を粉にして働く准将の姿を見れば、きっと神様も
        分かってくださるのではないかと思ったのですが・・・・・・。そうですね。准将の
        危惧するように、それだけでは、神は認めて下さらないかも。それならば、
        いっそ、北方司令部へ単身赴任をするというのは、どうです?冷たい北の
        大地で、その身を清めれば、少しは運も付いてくるかもしれません。
        ・・・・・・・・・・・・・・どっちにしますか?
        「新年早々の仕事でいいです。」
        ホークアイの絶対零度の視線に晒され、ロイがガックリと肩を落とす。
        「ロイ。頑張れよ。俺・・・・信じてるから。」
        落ち込むロイだったが、エドの少し照れたような様子で励まされ、
        俄然やる気を出す。
        「任せたまえ!君の為に、見事この不運に打ち勝って見せよう!!」
        ハハハハハと高笑いをするロイに、ホークアイとソフィアは呆れたように笑う。
        「本当に、我が息子ながら、単純よねぇ〜。」
        「ですが、お二人が幸せそうで、見ていて、ちょっとムカつく事もありますが、
        嬉しいです。」
        ホークアイの言葉に、ウンウンと頷いていたソフィアだったが、ふと思い出した
        ように呟いた。
        「それにしても、何でロイはあんな夢を見たのかしら。」
        ソフィアの疑問に、ホークアイは苦笑する。
        「多分、昨日のパーティではないですか?例の大統領の問題発言。」
        その言葉に、ソフィアはポンと手を打つ。
        「ああ!あの【フェリシアちゃんはエドワードに良く似ているから、きっと、
        好きになったと言って連れてくるのは、随分と年の離れた男
        だろうなぁ】という、あれ?あれだけで、どうしてハボック中尉へと話が繋がっていくの
        かしら。」
        「・・・・・・・・・・・多分、准将は不安なんだと思います。まだエドワードちゃんに
        片思いをしていた時、仲の良い二人の様子を、いつも切ない目で見つめて
        いましたから。」
        困ったような顔のホークアイに、ソフィアは驚きに目を見張る。
        「まぁ・・・・・・・そんなことが。」
        「ええ。多分フェリシアちゃんがエドワードちゃんに似ているって事で、ハボック中尉に
        自分より懐くのではと、心のどこかで思っていたから、今回の騒動に発展したのでは
        ないかと思うんです。」
        「・・・・・・・・・・・・本当に馬鹿息子よねぇ・・・・。あんなにエドワードちゃんに愛されている
        のに。」
        「全くです。」
        呆れた顔のソフィアに、ホークアイはコクンと頷くと、ロイに鋭い視線を向けた。
        「准将、山南さんが言うには、【良い夢】を見るのが遅くなれば遅くなるほど、
        その年は大変な事になるそうですよ。早く仕事を始めて下さい。」
        「何!?それは一大事!では、エディ。私は頑張って来るよ。」
        「うん!後で差し入れ持っていくからな。頑張れよ!ロイ!!」
        ニッコリと微笑むエドに、ロイはやっぱり仕事に行くのを止めようかと口にしようとした
        瞬間、狙ったように、ホークアイはロイの背後でボソッと呟いた。
        「【良い夢】を見直さない限り、フェリシアちゃんは・・・・・・・・・・・。」
        「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜行くぞ!!大尉!!」
        ロイは涙を振り切る様に、足早に部屋を出ていくのだった。









        「ホークアイ大尉、なんか、今日の准将、不気味なくらいに、機嫌が良いんですけど、
        なんかあったんですか?」
        翌日、昨日の事もあり、かなりビクビクしながら執務室へ現れたハボックは、予想とは
        違い、上機嫌で電話をしている上官の姿に、部屋の隅で書類の整理をしているホークアイに
        恐る恐る訊ねる。
        「・・・・・・・・・・・・・・早速昨日、良い夢を見たそうよ。何だかんだ言っても、ちゃんと
        本当の【初夢】で【良い夢】を見てしまうなんて。もう少し、この手が使えると
        思っていたのに、どこまで悪運が強いんだか。」
        げんなりしたホークアイが溜息と共に答える。
        「・・・・・・・・・ちなみに、どんな夢を見たんッスか?」
        あまりにもロイが上機嫌な為、ハボックは気になって訊ねた。
        「なんでも、次に男の子が生まれた夢だそうよ。自分自身、一人っ子だったから、かなり
        【兄弟】というのに、憧れていたようで、朝から煩いったらないわ。」
        ふうとため息をつくホークアイに、ハボックはポンと手を打った。
        「ああ、だから。」
        「?どうかしたの?」
        訝しげなホークアイに、ハボックは、苦笑した。
        「いえね・・・・・。ずっと疑問に思っていたんですよ。まだエド達が国中を旅していた頃、妙に
        准将が二人の事を兄弟兄弟と連呼していたでしょう?勿論、【鋼の】やら【アルフォンス】やら
        個別には呼んでいましたけど、圧倒的に【兄弟】という単語の方が多かった気がしてたんッスよ。
        そっか・・・・・・・・・兄弟に憧れてたんですねぇ・・・・。そーいえば、俺も以前自分の兄弟が
        多いという話をした時、准将、羨ましそうな顔をしていたと思ってたら、そーゆー事だったのか。」
        なるほど〜と頷きながらも、ハボックは、肩を竦ませた。
        「でも、夢ですからねぇ。」
        気の毒そうな顔でハボックはロイを見る。
        「ええ。単なる夢よ。」
        釣られて、ホークアイもロイを見る。ロイは、ただの夢だというのに、まるでたった今、息子が
        生まれたかのような自慢話を、朝早くから親友のヒューズへと電話をかけていた。
        「なんか・・・・・・・・・年を明けてから、更に准将は暴走が凄まじくなりましたよね。」
        「そうね・・・・・・。とりあえず、凹ませて仕事が滞るのだけは勘弁してもらいたいから、
        【良い夢】を持続させたいなら、更なる精進が必要・・・・・とでも言っておこうかしら。
        そろそろヒューズ准将を解放してあげないと、堪忍袋の緒が切れて、怒鳴り込んで来そうだし・・・・・。」
        「大尉・・・・・お勤めご苦労様です。」
        深いため息をつきながら、席から立ち上がるホークアイを、ハボックは敬礼でもって称える。
        この時二人は、所詮夢は夢。
        この騒動も、直ぐに収まるだろうと高をくくっていた。


        だが、彼らは知らない。この後、更なる騒動が巻き起こる事を。
        ロイの【初夢】が現実のものとなるまで、あと少し・・・・・・・・。




                                            FIN





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  *この後、ロイエド子長編部屋にある、『ロイ・マスタングの野望 〜育児休暇編〜』へと話は続きます。