LOVE'S PHILOSOPHYシリーズ番外編悲しみのキズエピローグ「はぁ〜。花嫁さん、綺麗だよなぁ〜。」 目の前の幸せそうな花嫁を、うっとりとした瞳で見つめる 最愛の妻の言葉に、ロイはショックで固まってしまった。 マスタング中将誘拐事件が解決して、一ヵ月後、リゼンブールに いるアルフォンスは、ロイの呼び出しを受けて、ここ、中央司令部 のロイ個人の執務室へとやってきていた。部屋の中にいるのは、 アルとロイの副官であるホークアイ。そして、何故か部屋の主である ロイは、アルの前に正座している。 「で?今更そんな事を言うのは、この口ですか?マスタング中将?」 にーっこりと微笑みながら、正座しているロイの両頬を、 思いっきり左右に引っ張っているのは、ロイが命よりも大事な妻が、 これまた大切に大切にしている、弟君のアルフォンス・エルリック。 普段の、【ロイ義兄さん】という呼び方が、階級になっているところから しても、彼の怒りの度合いは、図れようというものだ。だが、アルが これだけ怒りを露にしている理由が分かっているだけに、ロイは 大人しくアルのするがままになっていた。そんな義兄弟の後ろでは、 呆れた顔のホークアイが腕を組んでため息をついている。 「まさか・・・お忘れになっていたとは・・・・。」 この無能と、ボソリと呟くホークアイにロイはビクリと肩を揺らす。 「はぁあああああ。ボクも、ま・さ・かとは、思っていましたけどね!」 アルフォンスの言葉に、ロイは更にビクビクビクビクと身体を揺らす。 「「まさか、結婚式をしていない事を忘れていたなんて!!!」」 アルとホークアイのハモリに、ロイは、滂沱の涙を流しながら、 申し訳ございません!!と土下座をしたのだった。 そう、愛する妻と子供達との幸せ一杯な毎日に、ドーップリと浸りきって いたロイは、あろうことか、エドと結婚式を行うという事を、スポーンと 忘れていたのである。ミハエル達の結婚式で、漸くその事に気づいた ロイは、何を今更とばかりに、アルとホークアイの両方から責められて いたのだった。 「まぁ、結婚する経緯が経緯でしたし、入籍して直ぐに生まれたフェリシアの 子育てが慣れる間もなく、直ぐにレオンも生まれて、何かと忙しかったのは 分かっていましたから、あえて、ボクの方からは何も言いませんでした けどね。でも、ボクはマスタング中将を信じていたんですよ。きっと 今まで苦労してきた姉さんの為に、最高の結婚式を用意しているんだと。 もう少し落ち着いたら、ちゃんと式をあげてくれるんだろうと、ボクは 信じていたんですけどねぇええええ!」 ワンブレスもなく、一息で捲くし立てるアルを援護する形で、ホークアイも 眼に殺気を込めて土下座するロイを見下ろす。 「可哀想なエドワードちゃん。結婚式は女の一生の思い出なのに! こんな14歳も年上の無能な男に、騙されたあげく、式さえも挙げてもらえ ないだなんて!!」 あまりにも酷いわ!!と泣き真似をするホークアイに、流石のロイも ムッとする。 「ま・・待ちたまえ!何時私がエディを騙し・・・・。」 「口答えできる立場とでもお思いですか?中将?」 いつの間にか銃を向けているホークアイに、ロイは青い顔で、 ガタガタと震え出す。 「はぁああああ。四年前に、姉さんの結婚式に出るためのタキシードを 新調したんですよね・・・・・。あれから、また背が高くなったし、サイズ、 合うかなぁ?」 業とらしくため息をつくアルに、ロイは居たたまれない思いで、シュンと なる。幸せで周りが見えていなかった自分と違い、四年前からアルは 姉のウエディング姿を楽しみに待っていたのだ。それを思うと、ロイは かける言葉を失う。 ”まっ。これくらいで勘弁してあげよう。” シュンとまるで叱られた子犬のように、俯くロイの姿に、アルは内心 苦笑する。結婚式を挙げていないことは、何もロイばかり責められない。 姉であるエドは、派手な事が好きではない。いや、むしろ嫌っていると 言った方が正しい。あのエドワード大好き人間のロイが結婚式を 行っていない事を忘れていたのは、ただ単に、幸せボケをして いただけでなく、きっとさり気なく姉がその話題になるのを、避けて いたに違いない。なんせ、物心つく前から、一緒にいる為、姉の 性格は、当たり前のことながら、ロイ以上に熟知しているアルは、 エドの行動などバレバレである。しかし、だからと言って、姉の思惑通りに 結婚式を行わないなど、アルには信じられない事だ。自他共に認める シスコンのアルは、常々エドを眼一杯着飾らせたくて仕方がなかった。 ロイの横でというのは、多少引っ掛かりを覚えるが、それでも、 小さい頃から、女の子の服を滅多に着た事がないエドが、美しい ウエディングドレスを身にまとう姿を、ずっと夢に描いていたのだ。 その小さな頃からの夢を潰されてなるものかと!アルは燃えに燃えて いた。幸い、自分同様、姉を着飾らせたい人間は、吐いて捨てるほど いる為、エドの可愛らしいウエディングドレスは決定事項である。 「・・・あと半年ほどで、姉さんとの結婚5周年記念ですよね。」 アルは、ふと思案気に眼を伏せると、何かを思いついたのか、次の 瞬間、それまでの不機嫌さはどこへ行ったとばかりに、にこやかに ロイに微笑む。そのあまりの変わり身の早さに、ロイは恐怖に引き攣った 顔で、コクコクと頷く。 「結婚5周年記念として、姉さんに結婚式をプレゼントしたらどうですか? 勿論、姉さんに内緒で。」 アルの内緒という言葉に、ロイは困惑気味に口を開く。 「しかし、エディにとって、一生に一度の大事な事だ。エディの 意見も取り入れないと・・・・。」 などと言い出すロイに、アルの眉が跳ね上がる。 ”チッ!未だに姉さんの性格を把握していないのか!この無能!!” などと内心詰りながらも、アルはニッコリと微笑む。 「プレゼントですから、当日のお楽しみって事で。姉さん、感激して ロイ義兄さんに抱きつくかも・・・・。」 というのは、真っ赤な嘘である。エドに秘密にするのは、ただ単に、 逃げられない為である。そんな事とは知らないロイは、抱きつくという アルの言葉に、目の色を変える。 「アルフォンス君!エディに内緒で最高の結婚式を準備しよう!!」 ははははと高笑いするロイに、黒い笑みを浮かべるアルを交互に見て、 ホークアイは、感心したように、手をパチパチ叩く。 ”流石アルフォンス君ね。これで思い通りの結婚式が行えるわ!” こうして、ロイを中心に結婚式の準備が着々と進められていくのである。 「へへっ。ありがとう。ロイ。」 アルの予想を裏切って、式当日、控え室では、エドが感極まって、 ロイにべったりと抱きついていた。それは、結婚式を挙げられる 喜びというよりは、ただ単に、ロイが浮気しているのではと、ずっと 心配していた事が、自分の勘違いである事が判っての行動だった のだが、5周年を迎えても、万年新婚馬鹿ップル夫婦である二人には、 関係がないのかもしれない。式が始まるまでの時間すら、二人に とっては、ただの甘い時間だ。 「エディ・・・・。可愛い・・・・。」 チュッ。チュッ。チュッ。 先ほどからロイは、化粧が崩れないよう、細心の注意を払いながら、 エドの顔中に軽いキスを送る。ここで暴走して、折角のエドの 装いを台無しにしては、ホークアイを始めとした面々の怒りを 買って、結婚式自体が壊される可能性が出てくる。漸くエドを 自分のものだと、内外的にアピール出来るのだ。ここでドジを 踏むわけには行かない。 ”この続きは、式が終わってからだ!今夜は寝かせないよ。 エディ・・・・。” フフフフと不気味な笑みを浮かべる夫に、エドは訳が判らず キョトンとなる。 「ロイ?どうかし・・・・・。」 「ロ〜〜〜〜イ〜〜〜〜〜〜!!」 どうかしたのかと、ロイの顔を覗き込んだのと、荒々しく控え室が 開け放たれたのは、同時だった。 「ソフィアお義母さん!?」 肩で息を整えながら、血走った眼で入ってきたのは、ロイの 母親である、ソフィアだ。何をそんなに慌ててるのかと、エドは 訳が判らずにキョトンとなる。困惑気味なエドとは反対に、ロイは エドを抱きしめながら、余裕の笑みを浮かべている。 「おや?母さん、どうかしたんですか?」 「何よ!私一人に親戚の相手をさせて!!折角、エドワードちゃんを 着飾らせるチャンスだったのに!!」 煩い親戚の一人に捕まって、ソフィアは、エドワードの着替えを手伝え なかった事が、かなり悔しいらしい。ハンカチを握り締めて、よよよよと 泣き真似をする。 「それは、残念でした。さぁ、そろそろ式の時間ですから、さっさと 式場へ行って下さい。」 ロイは、不機嫌なソフィアを控え室から追い出す。 実は、結婚式までソフィアにエドを独占させたくないロイは、 親戚に頼んで、ソフィアを引き離したのだが、そんな事とは知らない ソフィアは、一生の不覚だわ〜と、扉の向こうでまだ騒いでいる。 「ソフィアお義母さん、大丈夫かなぁ・・・・。」 上目遣いで自分を見るエドに、ロイは優しく微笑みながら、その額に 口付けると、いきなりエドを抱き上げる。 「うわぁ!!」 慌ててバランスを取るために、ロイの首に腕を回すエドに、ロイは 幸せそうな笑みを浮かべる。 「花嫁は、花婿の事だけを考えていればいいんだよ?」 わかったかい?と、コツンとエドの額に己の額をつけて、ロイは クスリと笑う。途端、照れて頬を紅く染めるエドに、ロイは真面目な 顔で囁いた。 「愛しているよ。エディ。これからも、宜しく。奥様。」 チュッと軽く口付けるロイに、エドははにかんだようにそっとロイの 耳元で囁く。 「俺も、愛してる。これからも、宜しく。旦那様。」 途端、吹き出した様に笑い合うと、二人はどちらともなく眼を閉じて、 そっと口付けを交し合う。 「さぁ、行こう。皆が待っている。」 そう言って、ロイはエドを抱き上げたまま、式場へと向かった。 その後、エドを着飾らせ足りない面々によって、披露宴での エドのお色直しが、5回も行われそうになって、エドが切れそうに なったり、クリストファーに懐いてしまったフェリシアが、 「将来、クリスせんせーのお嫁さんになる〜。」 という爆弾発言をブチかまして、 「フェリシアは、絶対に嫁に出さーん!!」と、 ロイが発火布を取り出して、あわや披露宴会場が火事に なりかけるというハプニングに見舞われるのだが、それは別のお話。 **************************** 漸く完結です〜。 『5年目の・・・・』で、何故ソフィア母さんがいなかったのかというと、 このような裏事情があったんです。 そして、さりげなく、フェリシアちゃん、初恋物語。 これは、胎教が影響していると思われます。 (エドのお腹にいた時に、クリスに毎日のように声をかけて もらっていたのを、どこかで覚えているのかもしれません。) 一応、夫婦の絆をテーマに書いたつもりだったのですが、 どこに【夫婦の絆】があったんでしょうか。 いつものごとく、ただの馬鹿ップルです。 もしも、お気に召しました方がいらしっしゃいましたら、BBSに 一言書き込みをしてから、お持ち帰りして下さい。 宜しくお願いします。 |