元気ハツラツ!?

 

             「うみゃああああああああああああ!!」
             突然、中央司令部中をエドの絶叫が響き渡った。
            




             「大佐!!これは一体どういうつもりだっ!!」
             絶叫の後、牛の大群もかくやという荒々しい足音を
             響かせ、ロイ個人の執務室へとドアを蹴破らんばかりに
             入ってきた人物を一目見るなり、ロイはニッコリと微笑んだ。
             「やあ。鋼の。一体、どうしたんだね?」
             胡散臭い笑みを浮かべるロイに、エドは顔を引き攣らせると、
             大股でロイに近づくと、バンと両手を机に置いた。
             「どうしたもこうしたもあるか!!オイ!さっき俺に何を飲ませた!!」
             「何とは?紅茶だよ。特別製のね♪」
             嬉しそうな顔をするロイとは対称的に、エドの顔には怒りのマークが
             浮かび上がる。
             「特別製だとぉおお?」
             エドはピクリと顔を引き攣らせると、今まで被っていたフードを取る。
             「おい!何だってこんなモンが頭に生えるんだよ!!」
             エドの指差すのは、自分の頭にちょこんと生えている黒いネコ耳。
             神経が通っているのか、ピクピク動く姿が愛らしい。
             「かわいいね。」
             大層ご満悦なロイに、エドの怒りの鉄拳、右ストレートが繰り出されるが、
             腐っても国軍大佐。焔しか出せなくて雨の日は無能の【焔の錬金術師】は、
             エドの攻撃を難なく交わした上、更にエドの怒りに油を注ぐかのように、
             猫耳を引っ張ってみる。
             「痛い!手ェ離せ!大佐!!」
             あだだだだと痛がるエドに、ロイはマジマジと猫耳を観察しながら
             呟いた。
             「耳にも神経が通っているのか・・・・。芸が細かいな。」
             「大佐!!」
             科学者の悲しい性なのか、エドの猫耳を、ロイは繁々と観察し始める。
             そんなロイに、エドはイライラと声を荒げる。
             「まぁいいではないか。ただの【疲労回復】だよ。別に身体に害がある訳
             ではない。」
             「何が【疲労回復】だよ!第一、こんなものが生えてきて、身体に害が
             ありまくりじゃねーか!!」
             怒りまくるエドに、ロイは余裕の表情で首を振る。
             「いや。本当に疲労回復の紅茶だったのだよ。ただ、オプションがつく
             ってだけだ。」
             「オプションだと?」
             不審そうな目をロイに向けると、ロイはニコニコと笑う。
             「君が飲んだ紅茶はね、身体に何の疲労もない人間が飲んだ場合、
             身体に変化は起らないのだよ。但し、疲労がある程度溜まった人間が
             飲むと、疲労の度合いに応じて、身体に変化を齎すらしい。」
             「なんだよ、その【らしい】って・・・・。」
             更に不信感を募らせるエドにロイは肩を竦ませた。
             「私が調合した訳ではないのでね。」
             「そんな胡散臭いものを俺に飲ませたのかよ・・・・。」
             顔を歪ませるエドに、ふとロイは真顔になると、じっとエドの顔を
             凝視する。
             「な・・・なんなんだよ・・・。」
             あまりの真剣さに、嫌な予感を覚えたエドは、一歩後ろに下がる。
             「鋼の・・・・君はここ暫く徹夜をしていたね。」
             疑問系ではなく、既に確信している。図星を指され、エドは内心
             焦る。
             「いや・・・どうだったかな・・・?」
             思いっきり視線を反らせるエドに、ロイは溜息をつく。
             「さっきも言ったように、疲労度に応じて、身体に変化が現れる。
             普通の疲労度であるながら、ウサギの耳が生えてきたり、
             背中から羽が生えたりするらしいが、猫耳が生えると言う事は、
             重度の疲労を蓄積している証拠なのだよ。猫は一日の大半を
             寝て過ごすだろ?重度の疲労を回復させるためにも、身体が
             猫の特性へと変化させて、一日の大半を寝てしまうらしいぞ。
             まぁ、猫耳はオプションだがな。」
             「う!!マジかよ。」
             情けない顔をするエドに、ロイは追い討ちを掛けるように更に
             衝撃的な内容を口にする。
             「それから、一つ忠告しておこう。錬金術は一切使えないぞ。」
             「へっ!?何だって!?」
             驚くエドに、ロイは面白そうに言った。
             「どうやら、身体に変化があった場合、体質も少し変わってしまう
             みたいで、錬金術なども使えなくなるらしい。」
             「なんでだよぉ・・・・・。」
             訳の判らない説明で、エドは泣きたくなる。そんなエドを気の毒に
             思ったのか、ロイは明るい口調で言う。
             「ああ、心配しなくても、明日には・・・・・。」
             「直るのか!!」
             目を輝かせるエドに、ロイはニッコリと微笑んだ。
             「尻尾が生えてくるらしいぞ。良かったな。鋼の♪」
             「よくねー!!」
             ロイの執務室に、エドの怒鳴り声が響いた。





             
             猫耳がついた状態で、人前に出るなんて死んでも嫌だと
             エドは、直るまで、そもそもの原因であるロイの家に厄介に
             なることを、一方的に主張した。
             「それは別に構わないが・・・・。弟君は良いのかね?」
             あんなに人目を憚らずにベッタリなのに、猫耳がついた
             だけで、あっさりと別々に行動するとは、ロイには信じられ
             なかった。
             「いいんだよ。アルは・・・・。あいつは、俺よりも猫好きだから
             な・・・・。」
             そう言って、エドは深い溜息をつく。
             「それって、どういう・・・・。」
             「いいんだよ!大佐はわからなくって!!」
             首を傾げるロイに、エドは再び深い溜息をつく。
             「ボク、前から猫を飼いたかったんだ!兄さんがなってくれる
             なんて、ボクは嬉しいよ!!」
             アルのことだ。そう言って、自分を猫だと思って世話をするのは、
             火を見るより明らかだった。下手すると、あの鎧の中に入れられて
             飼われるかもしれない。そうなったら、兄の威厳がどうこうという
             次元ではなく、人間としての尊厳の問題である。
             ”ほとぼりが冷めるまで、絶対にアルの前に顔を出さん!!”
             小さくガッツポーズを取るエドに、ロイは知られないように、小さく
             口元に笑みを浮かべる。こう計画通りだと、些か拍子抜けしてしまうが、
             それよりも、長年恋焦がれてきたエドワードが、もう少しで手に入りそうな
             気配に、ロイはさらに上機嫌になる。
             「まぁ、君がそういうのならば、これ以上詮索はせんが・・・。とりあえず、
             我が家の蔵書はかなり凄いぞ。期待していてくれたまえ。」
             「マジで!やった!!」
             両手を上げて、喜びをアピールするエドに、ロイはニヤリと笑う。
             「あと少しで仕事が終わるまで、そこのソファーにでも腰をかけて、
             待っていたまえ。」
             「へーい。早くしろよー。大佐〜。」
             エドはソファーに座ると、読みかけの本に手を伸ばした。





             「よし。これで終わった。待たせたね。鋼の。」
             最後の書類にサインを書き終えると、ロイはエドへと
             顔を上げた。
             「鋼の?」
             ソファーを見ると、待ちくたびれたのか、それともクスリのせい
             なのか、ソファーに丸まって、気持ち良さそうにエドが
             惰眠を貪っていた。時折ピクピク動く猫耳が愛らしい。
             「全く・・・・。そんなに無防備だと襲ってしまうよ。エディ・・・。」
             ロイは苦笑すると、引き出しの中から、この日の為に経費で購入した
             最新式のカメラを取り出すと、足音を忍ばせて、何枚かエドの
             寝顔を写真に収める。
             「【疲労回復】か・・・。確かに私の疲労も回復するな。」
             ロイは満足そうに頷くと、カメラを再び引き出しの中に入れると、
             まるで宝物を扱うように、エドを優しく抱き上げる。
             「さて。明日から一週間有休を取ったし、暫くこの猫で遊んでみようか。」
             ロイはそっとエドの唇に己の唇を重ね合わせた。
             「離さないよ。私の可愛い子猫のエディ・・・・・。」
             ロイは、上機嫌でエドを抱き上げたまま、執務室を後にした。





             それから一週間後、【疲労回復】したロイに腕を引かれながら、
             【疲労困憊】のエドが司令部に現れたのは、また別のお話。
             
  
             

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  元気ハツラツ?エドナミンE!!って感じです。
  でも、疲労回復したのは、ロイさんだけで、エドさんはさらに疲労が重なった
  ようです。それなのに、猫耳が消えたのは、ただ単に紅茶の効力が消えた
  だけだったりします。
  7万hitお礼なのに、肝心のエドさんは不幸な目に合っています。
  こんな駄文でも気に入ったという方は、一言BBSにお書きになってから、 
  お持ち帰りして下さいませ。宜しくお願いします。