雨だれの前奏曲シリーズ番外編アメイジンググレイス「エディ?アリア?」 いつもなら、仕事から帰ると、真っ先に走って お出迎えをしてくれる最愛の娘のアリアも、その後を 幸せそうな顔でキッチンから現れる最愛の妻である エドワードも、ロイが帰ったというのに、出てくる 気配がない。それどころか、屋敷の中は静まり返って おり、ロイは慌てて叫びながら部屋の中を探し回る。 「エディ!どこだ!!アリア!!返事をしろ!!」 最愛の家族の名前を叫びながら、泣きそうな顔で 探し回る。 「一体どこに・・・・・。」 途方にくれたロイの耳に、微かな歌声が聞こえ、 ロイは、慌てて自分の書斎の奥に作られた、 図書室へと足を向ける。 僅かに開いた扉の向こうから、最愛の妻と娘の 美しい歌声が聞こえ、ロイは身体の力が抜けるのを 感じた。 「エディ?アリア?」 喜び勇んで扉を開けると、そこで眼にした光景に、 思わず息を飲む。 襟と袖と裾が真っ白なファーになっている。御揃いの 赤いドレスを身に纏った、女神と天使がそこにいた。 「パパ〜!!」 天使が、ロイに気づくと、満面の笑みを浮かべて、 ロイへと駆け寄ってきた。 「パパ!!お帰りなさい!!」 嬉しそうに父親の胸に飛び込む娘に苦笑しながら、 女神は、決まり悪げに頬を紅く染める。 「出迎えなくってごめん。」 そう言って、モジモジとしている様子は、とても一児の 母とは思えないほど、若々しい。もっとも、まだ22歳 なのだから、若いのは当たり前なのだが。 ロイは、娘を優しく抱き上げると、その頬に、ただいまと キスをする。 「ただいま。アリア。エディ。」 そして、エドを引き寄せると、濃厚なキスを送る。 あまりの激しいキスに、ふにゃ〜と意識を飛ばしかけた エドを片手で抱き寄せると、その耳元で囁いた。 「君達がいないと思って、すごく焦ってしまったよ。」 そう言って、ギュッと娘と妻を抱きしめる。 「ロイ・・・・。」 僅かながら、ロイの身体が震えている事に気づいた エドは、ハッと息を飲むと、優しく夫の身体を抱きしめる。 以前、一瞬でもエドを失ったという過去が、ロイを 極端に臆病にさせていた。今はまだマシになったが、 付き合い始めた当初、まるでエドが一瞬でも側から 離れると、不安で死んでしまうとばかりに、エドを 片時も側から離さなかった。学校に いる時は、何とか理性で抑えていたらしいが、 二人っきりになると、それはもう、瞬間接着剤でも つけているのでは?と幼馴染のウィンリィに 飽きられるくらい、ベッタリとくっ付いていた。 「君がこの腕の中にいるのが、未だに信じられないんだ。」 そう、震えながら言うロイに、それ以上、何も言えず、 エドは黙ってロイを抱きしめる事しか出来なかった。 そんな過去が不意に脳裏を過ぎって、エドはロイを 抱きしめる腕に力を込める。 「く・・・苦しい〜。」 ムーッともがく娘に気づくと、ロイとエドはお互いに顔を 見合せて、クスリと笑うと、漸く腕を離す。 「すまなかったね。アリア。」 何を不安に思っていたのだろう。 いつだって最愛の家族は自分の腕の中なのに。 ロイの心は、凪いだ海のように、スッと穏やかさを 取り戻す。 「ところで、ここで何をしていたんだい?」 ロイは、アリアを抱え直すと、愛娘に笑いかける。 「ママ〜。」 途端、不安そうな顔でエドを見るアリアに、エドは 優しく微笑みながら頷く。 「アリア?」 首を傾げて答えを待っているロイに、アリアは頬を紅く 染めてニッコリと微笑みながら口を開く。 「あのね!クリスマスプレゼントの練習なの!」 「クリスマスプレゼント?」 更に首を傾げるロイに、エドはクスクス笑う。 「今日はクリスマスイブだろ?ロイが帰ったら、 歌を歌って出迎えようかと、アリアとずっと練習して いたんだ。」 まさか、こんなに早く帰ってくるなんて、予想外だ。 と、少し面白くなさそうに、エドは苦笑すると、 そうだよねーと、愛娘に首を傾げて同意を求める。 「そうだったのかい!?ああ!私はなんて事を!!」 まるでこの世の終わりのような顔で、残念がる ロイに、エドとアリアはクスクスと笑う。 「そんなにがっかりしなくても大丈夫だぞ?」 「パパ!お歌歌ってあげるから、泣かないで?」 妻と娘の両方から慰められ、ロイは照れたように笑う。 「私の為に歌ってくれるかい?」 「「もちろん!!」」 エドとアリアは極上の笑みを浮かべると、静かに 歌いだす。
エドとアリアの優しい歌声を聞きながら、 ロイは幸せそうに微笑むと、 一筋の涙を流した。 女神と天使を手に入れた奇跡に ロイは心の底から感謝をしながら・・・・・・。 「という訳でな!アリアの可愛らしい歌声と エディの美しい歌声が奏でるハーモニーは、 この世のものとは思えないほど素晴らしいもの なんだ!!オイ!聞いているのか!ハボック!!」 「聞いてますよ〜。っていうか、もう勘弁して 下さいよぉおおおおおおお!!」 翌朝、エドとアリアの歌を自慢したくて仕方がない ロイにより、ハボックは早朝から電話攻撃を 受ける事となるのだが、それはまた別のお話。 FIN |