リザ姉といっしょ!  



  


「一体、なんなんだ!!」
ロイ・マスタングは、目の前の光景を睨みつけながら、低く呟く。
執務室の窓の下では、自分の恋人であるエドワードと副官である
ホークアイが、にこやかに談笑していた。
「エディは私のものだ!!」
ガルルルル・・・・。
ブラックハヤテ号も真っ青な、見事な吼えっぷりに、その様子を見ていた
ヒューズは、流石軍の狗と、妙に感心していた。
「おーい。こっちの世界に帰ってこーい!」
一応、声を掛けてみるが、エドとホークアイのラブラブ振りに、我を忘れている
ロイは、ヒューズに気づかない。ここまで無視されると、改めて出直す事を考えずに、
何としても自分を気づかせようと躍起になってしまうのは何故だろう。ヒューズは、
懐から、一枚の写真を取り出すと、ボソッと呟く。
「ああ!この水着姿のエリシアちゃんの可愛さと言ったら、言葉では
言い表せないぜ!」
そして、チラリと窓にへばりついているロイを見ながら言葉を繋げる。
「一緒に写っているエドと並んでいると、まるで姉妹・・・・。」
「エディ!!」
次の瞬間、ヒューズの手から写真が消える。見ると、三十男が、写真に
頬擦りしている姿に、ヒューズは慌てて写真を取り上げる。
「こら!エリシアちゃんが穢れるだろ!」
「ヒューズ!恋人である私の断りもなく、よくもエディの水着姿を写真に
撮ったな!」
そして、徐に手を差し出す。
「写真とネガを渡せ。エディの部分だけ大きく引き伸ばして、パネルにする!」
さあ!さあ!さあ!血走った眼を向けるロイに、ヒューズはパコンと頭を叩く。
「落ち着けって。」
「これが落ち着いていられるか!!」
エディ〜と、写真に手を伸ばそうとするロイに、ヒューズは頭を掻く。
「悪いが、この写真を撮ったのは、ホークアイ大尉だ。」
途端、この世の終わりのような顔で、ロイはガックリと項垂れる。
「ところで、お前とエドって、付き合っているんだろ?」
漸く付き合えて幸せオーラどころか、ドンヨリとした空気を背負うロイに、
ヒューズは、探るような目で見る。
ロイとエドが馬鹿ップルもとい、付き合うきっかけとなるように、不本意とは言え、
自分は身体を張って協力してやったのだ。それなのに、不幸を一身に背負っている
ロイの姿にヒューズは納得がいかない。これでは、自分は何のために怪我を
負ったのだろうかと、文句が言いたい。
「なあ、何でこんな事になったんだ?漸く両想いになれて、一週間もしないうちに
破局だなんて、一体、何があったんだ?」
「破局なんて、不吉な事を言うな!私達は、まだ別れていない!」
ギッと睨みつけるロイに、ヒューズは肩を竦ませる。
「まだって事は、そうなる事が時間の問題って事か?」
「うっ!」
ヒューズの鋭いツッコミに、ロイは言葉を詰まらせる。
「心当たりは?」
ヒューズの問いかけに、ロイはブンブンと首を横に降る。
「この間、初デートを成功させたとか言っていたが・・・・・。」
ヒューズは、顎に手を掛けて考え込む。
「お前的に成功でも、エド的には大失敗だったということは?」
容赦のないヒューズの言葉に、ロイはショックで固まる。
「そんなはずは・・・・。」
絶句するロイに、ヒューズは追い討ちをかける。
「ただでさえ、年が14も離れているんだ。ジェネレーションギャップを
感じても、エドの事だから、言い出せなかったとか・・・・。」
その言葉に、ロイはヒューズの肩をガシッと掴む。
「どうすればいい!?どうすればエディに捨てられずにすむんだ!!」
血走った目を向けるロイに、ヒューズはため息をつく。これが百戦錬磨の
ロイ・マスタングなのか?と。
「とりあえず、エドに理由を聞いたらどうだ?何故ホークアイ大尉に
ベッタリなのか。」
理由が分かれば、対処のしようがあるだろ?というヒューズの言葉に、
ロイは力なく首を横に振る。
「エディと話したくても、ホークアイ大尉にベッタリで、話しかけられないんだ。」
はぁああああああああああと、深いため息をつくロイに、ヒューズはなんだ
そんなことかと、呆れる。
「何だとはなんだ!こっちは深刻なんだ!」
恨みがましい目で睨まれても、ヒューズは肩を竦ませるだけだ。
一度ホークアイの銃弾を浴びてみれば良いのだと、心の中で悪態を
付いたとき、ヒューズはロイに光明を与える。
「お前の方が上官なんだろ?エドとホークアイ大尉がベッタリになったら、
仕事と称して、二人を引き離せば良いだろ?」
仕事なら2人は文句を言えないはずだというヒューズの後ろに、後光が
見えたと、後にロイは語る。
「そうか!そうだな!待っていろ。エディ!私があの女帝から
君を解放してみせる!」
はっきり言って、エドからホークアイにベッタリくっ付いているのだが、ロイの
眼には、無理矢理エドがホークアイの側にいさせられているように見えるから、
恋は盲目とはよく言ったものだ。気分は既に悪い魔女から可憐な姫を救う
王子そのもの。三十の男がおこがましい妄想を抱いているが、他人が
ロイの頭の中まで覗けるわけがないので、誰にも批難されずに、ロイは
意気揚々とエド達の元へと駆けつける。
「リザ姉〜。」
ニコニコと惜しげもなく笑顔を振りまくエドの姿に、ロイはかなりへこんだが、
これも全て悪い魔女が悪いとばかりに、ホークアイに怒りを向ける。
逆恨みも甚だしいが、今のロイには、いかにしてエドを奪還するかの一点にのみ
集中している為、その事に、全く気づかない。
「ホークアイ大尉。」
談笑している2人の間を割って入るような形で、ロイはホークアイを呼ぶ。
「何でしょうか。准将。」
折角のお気に入りとの一時を邪魔されて、ホークアイは超不機嫌だ。
「この間の事件の件なのだが・・・。」
ヒューズから授けられた知恵から、ロイはあくまでも仕事だという態度を
崩さない。そうなれば、結局折れなければならないのは、ホークアイだ。
2人は真面目な顔で仕事の話をし始める。そして、そんな2人を
エドが悲しそうな顔で見つめている事に、ロイは気づかなかった。



「リザ姉〜。あのさ・・・今日、俺・・・・・。」
「ホークアイ大尉。視察に行くぞ!」
その日から、ロイの邪魔者大作戦が始まった。
エドがホークアイに話しかける度に、仕事と称して、エドをホークアイから
引き離す作戦に、ロイは大層ご満悦だった。目の前でホークアイと
エドのイチャツキを見せ付けられずにすむことが、何よりも嬉しいロイは、
ここ暫くの間の機嫌の悪さが嘘のように、清々しい笑顔を張り付かせている。
そんなロイに、エドとの語らいを邪魔されたホークアイは、怒り心頭の目で
後ろから睨みつけている。
「准将。一体、どういうおつもりですか?」
大方、自分とエドが一緒にいるのを快く思っていないから、こんな卑怯な手を
打っている事は分かるが、それでも、やり方が酷すぎる。これでは、
まるで、エドではなく、ホークアイの方に懸想しているように、周囲には
映るという事が、この目先の事しか考えていない無能男は、気づいていない。
根本的な事を見逃している男に、最初、このまま黙っていれば、エドと破局を
迎えると思っていたが、日々憔悴していくエドの様子に、【見守る会】会長である
ホークアイは黙っている事はできない。何よりも、会長の立場である自分の
存在が、エドに苦痛を与えている今の状況が、許せないのである。
「どういうつもりとは?私は仕事をしているだけだ。」
フフフと笑うロイに、ホークアイは、本気で上官殺しをしようかと思い、愛銃に
手を伸ばしかけたとき、向こうから凄まじい形相のヒューズが、
こちらに向かって、駆け寄ってきた。
「ヒューズ?どうした?」
何故ヒューズが血相を変えているか分からず、ロイは眉を顰める。
「どうしたじゃねえ!お前、一体何をやっているんだ!」
出会い頭に怒鳴られ、流石のロイもカチンとくる。
「何とは何だ!仕事に決まっているだろうが!」
怒鳴るロイに、ヒューズも負けずに叫ぶ。
「オレが言っているのは、そんなことじゃねえ!お前、エドを捨てて、
ホークアイ大尉に乗り換えたって本当なのか!!」
「は?」
ポカンとなるロイに、ヒューズは、ガシガシと頭を掻く。
「マジなんだな!っくそ!こんな事なら、お前の後押しをするんじゃ
なかったぜ!!」
ガーッと吼えるヒューズに、ロイは、聞き捨てなら無い言葉に、
逆ギレする。
「ちょっと待て!何で私がエディをからこの冷血非道な魔女に乗り換え
なければならんのだ!!」
「冷血非道な魔女・・・・?」
ピクリとホークアイの眉が跳ね上がる。だが、興奮している2人は気づかずに、
言い合いが過熱していく。
「違うっていうのか?じゃあ、ここ暫くのお前の行動は何なんだ!エドを
無視して、ホークアイ大尉を連れまわしているじゃねーか!」
「それはお前が言ったんだろ!ホークアイ大尉とエディを引き離すには、
ホークアイ大尉を仕事攻めにしろと!」
「仕事攻め・・・・・。」
ロイの言葉に、更にホークアイのこめかみが引き攣る。
「俺は、エドを捨てろとは言ってねーぞ!」
「誰が捨てたと言った!2人を引き離しているだけだ!」
両者一歩も譲らずに、お互いに胸倉を掴むと、睨みつける。
「・・・・・・お2人とも。」
そこへ、静かな声が聞こえ、ロイとヒューズは一緒に声がした方を
向く。
「どういうことなのか、詳しく説明してもらいたいのですが?」
両手に銃を構えたホークアイに、ロイとヒューズは、思わず後摺さる。
「・・・・・・即答!」
キリリとした口調で命じるホークアイに、反射的にヒューズが全てを
バラす。いくら階級が自分の方が上でも、相手はあの狸オヤジ連盟の
トップに君臨している、キング・ブラッドレイが、生涯でただ1人のライバルと
言い切ったという伝説を持つ、アメストリス国軍の影の支配者。自分とは
格が違いすぎる。ヒューズは多少ロイが全て悪いというような、多少の
アレンジを加えつつ、今回の事件を全て告白した。
「そういうことなの・・・・。」
全てを聞き終えたホークアイは、ギロリとロイを睨む。
「あなたは馬鹿ですか!」
「なっ!」
絶句するロイを、ホークアイは怒りの眼差しで射抜く。
「そんな訳のわからない嫉妬で、よくもエドワードちゃんを泣かせましたね!」
「ちょっと待ちたまえ!いつ私がエディを泣かせたんだ!」
ホークアイの言葉に、ロイは反論する。
「おまえなぁ、恋人が自分を無視して、自分以外の女性を連れて歩いて
いるのを、快く思うか?」
「私はエディを無視など・・・・・。」
不自然に途切れたロイの言葉に、ホークアイはこの無能とため息をつく。
「気がつかれたようですね。ここ数日、准将はまともにエドワードちゃんと
話をしていません。」
さらに追い討ちをかけるように、ヒューズは気難しい表情でロイを見る。
「ロイとホークアイ大尉を結婚させてくれと、泣きながらエドが大総統に
直談判していたぞ。それに、エドの奴、今日これからリゼンブールに帰るとか・・・・。
今、若い連中の間で、リゼンブールへの転属を希望して、バトルが
勃発しているぞ!」
「そんな・・・エディ!!」
顔を青くさせたロイは、脇目も振らずに駆け出して行った。




「えっ。えっ。えっ。」
エグエグと泣きながら、エドはセントラル駅のホームにいた。
周りには、エドを心配した大総統を始めとした【エドを大総統夫人にする会】の
メンバー及び、【エドを見守る会】のメンバーで、ホームは蟻も入れないほど
込み合っていた。
「なぁ、本当に帰るのか?絶対に大将の誤解だと思うぞ?」
ポロポロと涙を流すエドを、ハボックが慰める。その横では、大総統が、
1人憤慨していた。
「私の可愛いエドワードを泣かせるとは!もうあんな馬鹿息子は知らん!
北の辺境の地へ飛ばしてやる!」
フフフフと不気味に笑う大総統の言葉に、エドが泣き腫らした顔で、首を
横に振る。
「駄目!准将が悪い訳じゃないもん!それに、准将、目が高いよ。
だって、ホークアイ大尉だもん!オレ、2人とも好きだから、嬉し・・い・・よ・・・。」
そう言って、再びポロポロと涙を流すエドに、全員が何と言って声を掛けて
良いか分からず、お互いの顔を見回す。
「じゃ・・・オレ、そろそろ行くね・・・・。」
見送りありがとうと、深々と頭を下げるエドに、全員が居たたまれない気分に
なる。
「エディ!!」
そんな中、人々の間を掻き分けるように、噂の人物が登場した。
「エディ!誤解だ!私の話を聞いてくれ!」
俯くエドを抱きしめようと、ロイが手を伸ばそうとするが、横に居た大総統が
その手を叩く。
「汚らしい手で、エドワードに触れるでない!」
厳しい顔をした大総統の顔に、ロイは負けじと言い返す。
「あなたは黙っていて下さい!これは、私とエディの問題です。」
「フン。エドワードを捨てておいて、何を!」
剣呑した眼を向ける大総統に、ロイは叫ぶ。
「私はエディを捨ててなどいない!」
ロイは真摯な顔でエドを見つめる。
「私が君を愛しているのは嘘じゃない。だが、君のほうはどうなんだ?
君は私が嫌いになったのかね?」
その言葉に、エドは反射的に顔を上げる。
「エディ。話を聞いてくれ。」
漸く自分を見てくれた恋人に、安堵の息を吐きながら、ロイは慎重に
言葉を繋げる。
「私は、君がホークアイ大尉にベッタリなのを見て、ずっと嫉妬していた。」
その言葉に、エドは泣きそうな顔になる。
「悪かったよ。もうホークアイ大尉に近づかないよ。無論、あんたとも・・・。」
俯くエドに、ロイは違うんだと叫びながら、大総統を押しのけるように前に
出て、エドの身体を抱きしめる。
「准将!!」
こんな大勢の前で抱きしめられて、エドは真っ赤な顔で抗議する。
「違うんだ。逆だ。ホークアイ大尉に嫉妬していたんだ。君は私のものなのに、
ホークアイ大尉が私が居るべき君の横にいる事が、我慢できなかったんだ!」
ロイの言葉に、エドは唖然となる。
「何言って・・・・。」
困惑するエドに、ロイは自嘲した笑みを浮かべる。
「呆れたかい?これが私だよ。君に関しては、誰にも譲る気はないんだ。」
ロイはエドの身体をきつく抱きしめる。
「愛しているよ。エディ。君からホークアイ大尉を引き離したくて、今回の事を
仕組んだんだよ。結果、君を泣かせてしまってすまない・・・。」
項垂れるロイに、エドはしがみ付く。
「本当に、オレなの?ホークアイ大尉の方が、アンタの好みなんだろ?」
その言葉に、ロイはギョッとなる。
「誰がそんな嘘を言ったんだ!」
「え?ハボック中尉だけど?」
「へっ!?オレ!?」
途端、周囲の目がハボックを射抜く。この騒ぎの発端が、ハボックの言葉だと
しり、周りが殺気立つ。
「・・・連れて行け。」
パチンと指を鳴らすと、大総統は近くにいた兵士に命じた。
「ご・・・誤解だー!!」
兵士達に引き摺られながら、ハボックの絶叫がホームに響き渡る。
そんなハボックの不幸に気づかず、ロイとエドは2人だけの世界を
構築しつつあった。
「エディ。恐ろしい事を言わないでくれ。私の理想は君だと、何度言ったら
信じてくれるのかね?」
少し悲しげな声のロイに、エドはだって・・・と俯く。
「だって、准将の隣に立てる人って、ホークアイ大尉しか思いつかないんだもん。
オレも大尉みたいに、素敵な女性になれたら、准将の隣・・・は無理でも、
近くにいられるかもって・・・それで、自分を磨くためにも、大尉に
くっついてたの。」
クスンと鼻を鳴らすエドを、ロイは優しく抱きしめる。
「エディ。私は見た目で君を選んだのではないのだよ。君という魂も精神も
全てを含めた【エドワード・エルリック】に恋焦がれているのだ。君が
あんな冷血、もとい、ホークアイ大尉になる必要はない。」
「でも・・・・・・。」
まだ不安げに揺れるエドに、ロイは深く口付ける。
「愛しているよ。エディ。私だけを信じるんだ。」
「准将・・・・。」
ボーッとなるエドに、エドを離したくない大総統を初めとした他の面々も、
必死に説得する。
「そうだぞ。ロイの横に立てるのは、君をおいて他にはいない!」
と大総統が、力説する後ろで、エドをリゼンブールに帰したくないという、
お互いの利害が一致した【エドを大総統夫人にする会】と【エドを見守る会】が
バックコーラスのごとく、そうだそうだと後押しする。
「エディ・・・・・君は私の側にいれば良いのだ。」
そっと耳元で囁くロイの言葉と、エドは酸欠状態の頭の上、まるでサブリミナル
効果のような、そうだそうだという声に、ロイの側にいてもいいのかもと、コクンと
頷いた。
「エディィィィッィィィィッィ〜!!」
途端、エドをきつく抱きしめるロイ。あまりにも強い力で抱きしめるため、
エドは胸が苦しくなったが、洗脳状態でボーッとしている頭では、その胸の
苦しさが、恋の苦しさなんだ〜と、のほほんと考えていた。
「お幸せに!エドワードさん!!」
固く抱きしめ合う2人に、軍人達が一斉に、拍手で祝福する姿に、一般人は、
奇異な眼を向けるが、当初の目的が果たされたのだから、この際、些細な事は
眼を瞑る事にする。
「良かった。良かった。」
一時はどうなることかと思ったが、無事エドをセントラルに引き止めるという
共通の問題が解決した今、彼らは、達成感で胸が一杯だった。日頃、主張がしばしば
衝突する【大総統夫人にする会】と【見守る会】だが、今は一つの事をやり遂げたという
一体感が支配していた。階級も年齢も全ての垣根を越えて、涙を流してお互いを
称え合う姿は美しい・・・・・・ある意味。
「フフフフフ・・・・・・・。ここからが本当の勝負ね。」
そんな彼らを、ホークアイが獲物を狙う鷹の目で、満足そうに見つめていた。






「何故なんだ!エディ!!」
「だって〜。オレ、大尉のようになりたいもん!」
誤解が解けて、これでやっとエドをイチャつけると、信じて疑わなかったロイだったが、
次の日から、エドのホークアイにベッタリが再発して、思わず叫んだ。
「君が大尉のようになる必要はない!」
さあ、私の腕の中に!と両手を広げるロイに、エドはそれはそれは可愛らしい笑みで
きっぱりと宣言する。
「准将の理想の相手が大尉じゃないってわかったけど、俺の理想が大尉なの!」
だから、いい女になる為に、頑張る〜!!と力説するエドの頭を撫でながら、
ホークアイは、勝ち誇った笑みをロイに向ける。
「うふふふ。そう言ってもらえて光栄だわ。2人で一緒に【いい女】になるように、
日々研究努力していきましょうね♪」
「おう!」
一致団結する二人を、ロイは唖然として見つめる。
「エドワードちゃん。【いい女】になるには、己を磨く事も大切だけど、もっと大事な
事は、【いい男】を見分ける【眼】を養うことが大切なのよ。」
ウンウンと神妙に頷くエドに、ホークアイは、チラリとロイを見ながら、言葉を
繋げる。
「決して、【サボリ魔】で【浮気性】で【ロリコン】で【雨の日無能】な【変態】男を
選んでは駄目よ?そんな男はこちらから振りなさい。」
ドサクサに紛れて、ホークアイはエドにロイと別れる様に強要する。
「なっ!何を言っているんだね!大尉!」
焦るロイに、ホークアイは凶悪な目でロイを見る。
「准将?何かお心当たりでも?」
「准将?」
ニヤリと笑うホークアイとキョトンとなるエドに見つめられ、ロイは言葉を失う。
ここで自分が過剰に反応すれば、自分が【サボリ魔】で【浮気性】で【ロリコン】で
【雨の日無能】な【変態】男であると認めたことになる。
ダラダラと汗を流すロイに、ホークアイは最後通告をする。
「准将?お仕事はどうされましたか?」
仮にもエドの恋人を名乗りたかったら、まず【サボリ魔】を何とかしろという事
らしい。ロイは悔しそうな顔でホークアイを睨みつける。
「准将、そろそろ休憩時間が終わりだぞ?仕事頑張れよな!」
だが、ニッコリと微笑むエドに、ロイの機嫌が上昇する。
「任せたまえ!直ぐに仕事を終わらせよう!何せ、私は【優秀】な男なのだから!」
ハッハッハッと高笑いをしながら、通常の100倍の速さで仕事を再開させる男に、
ホークアイはニヤリと笑う。
”単純な男で助かったわ。当分この手は使えるわね。”


こうして、エドをエサに、ロイを馬車馬のごとく働かせるホークアイの手腕に、
大総統は、流石我が生涯のライバルと大絶賛したのは、別の話。




「私は、負けんぞ!絶対に!ヒューズ!一緒にあの魔女を倒すぞ!」
「だーかーらー、俺を巻き込むなと言っているだろうが!聞いているのか!
ロイ!!」
その後、中央司令部の屋上では、夕日に向かって吼えるロイの姿があった。





                                      了





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『軍部夏祭り!〜リザと愉快な仲間達〜』完結です。
ここまでお読みくださいましてありがとうございます!
ところで、その後のハボはどうなったんでしょうか・・・。謎です。