ハロウィン企画SS(ロイエド)               
       

悪戯の等価交換




「私は常々思っているのだがね。」
そう、東方司令部の責任者である、ロイ・マスタング大佐は、
目の前で、不貞腐れた顔をしている、魔女に向かって、
にっこりと微笑んだ。
「幽霊なんて、存在しないと思っているのだよ。」
ロイの言葉に、魔女は、コクンと頷いた。
「だから、私はハロウィンなどナンセンスだと思っている。
お菓子をくれないと悪戯をする?一体、どうやったら
そんな論理展開になるのか、理解に苦しむよ。
君もそう思うだろ?」
ロイの言葉に、一瞬躊躇うようなそぶりをするが、魔女は
無言でコクリと頷いた。
「ああ。やはり君は聡明だ。私の言いたいことが判って
くれてすごく嬉しいよ。という訳だからお菓子はないよ。
は・が・ねの♪」
にっこりと微笑むロイに、魔女は手にしたカボチャのランタンを
投げつけながら叫んだ。
「だーっ!!さっきから黙って聞いてりゃあ、一体
なんだよ!無理矢理呼び出して何だと思って来てみれば、
有無を言わせずにこんな格好をさせて!しかも、ハロウィンは
ナンセンスだとぉおおおお!てめー!言っている事と
やっている事がメチャメチャ合っていないぞ!!」
吼える魔女の扮装をしたエドを、後ろからアルフォンスが
羽交い絞めにした。
「落ち着きなよ〜。兄さん〜。」
「これが落ち着いていられるか〜!!離せアル!!この
無能を一発殴らせろ〜!!」
暴れるエドに、ロイはというと、はっはっはっと上機嫌に
笑い出す。
「まだ話は終わっていないぞ。鋼の。私は信じていないが、
折角のハロウィンを楽しんだらどうだね?」
「こんな事に時間を潰してられっか!そんな事より、
俺の服を返せ!!」
ガルルルと歯を剥き出しにして怒るエドに、ロイは
肩を竦ませた。
「すまないね。これも上からの命令なのだよ。」
「はぁ?何だって?」
顔を顰めるエドの目の前に、ピラリと一枚の書類を
突きつける。
「大総統の命令だ。ハロウィン仮装コンテストを
実施するそうだ。」
「はぁ?なんじゃそりゃ。」
エドはロイからひったくる様に書類を受け取ると、
食い入るように見つめた。
「何だ何だ?えーっと?」
読み進めていく内に、エドの顔が不機嫌そうに歪む。
「おい!どういうことだ?」
ギロンとエドに睨みつけられるが、ロイはニコニコと
笑いながら、首を傾げる。
「書いてある通りだが?」
「だーかーらー、何で俺が参加しなくっちゃなんねんだよ!
希望者のみって書いてあるじゃんかっ!!」
バンと机に書類を置くと、参加希望者のみという箇所を
指差す。
「そう。そこが問題なのだよ。」
業とらしく業とらしく溜息をつくロイに、エドは嫌な予感を
覚えて、一瞬身体を引く。
「問題って・・・・。」
「この東方司令部では、誰も希望者がいないのだよ。」
その言葉に、エドは数秒間固まった。
「希望者が・・・・いない・・・?」
「ああ。だが、参加は希望者のみとされているが、
大総統直々の命令だ。他の小さな支部なら何とも
ないかもしれないが、東部最大の司令部である
東方司令部から参加者が出ないというのが、
上からどういう評価を得るかと思うとね。」
頭が痛いのだよと、ロイは苦笑する。
「・・・・だったら、大佐が参加すれば?」
ムーッと膨れるエドに、ロイはニッコリと微笑んだ。
「まぁ、確かに私の仮装なら優勝する事は
間違いはない。しかしだね。仮にも司令官が
参加するというのも、そんなにここは暇なのかと、
痛くもない腹を探られる事になりかねない。」
そこで、ロイは椅子から立ち上がると、机を回って
エドの前に立つ。
「そして、これが一番の理由なのだが。」
ロイはエドの頬に手を添える。
「野郎の醜い仮装を見るよりも、可憐なエディの
仮装を見たいと、ホークアイ中尉が言い出したのだよ。」
私も君の仮装が見たかったから、あえて止めはしなかった
が?とロイはニヤリと笑う。
「へっ?ホークアイ中尉・・・・が・・・・?」
青ざめるエドに、後ろからアルがポンと肩を叩く。
「決まったね。兄さん。」
「だーっ!!俺は嫌だ〜!!」
叫ぶエドを宥めようとアルがエドの身体を再び
羽交い絞めした時、軽やかなノックと共に、
上機嫌なホークアイが入ってきた。
「うふふ。ここにいたのね。エドワード君。」
キラリーン。
獲物を狙う鷹の目さんが、エドを見て微笑む。
「あ・・・あのさ、中尉・・・・・。」
引きつるエドに、ロイは気の毒そうな眼を向けるが、
決して助けようとはしない。
”ロイの裏切り者〜!馬鹿〜。無能〜。”
そんなロイの態度に、エドは内心怒り狂う。
「丁度良かったわ。アルフォンス君。エドワード君を
そのまま連れてきてね。では、大佐、失礼します。」
うわああああ〜。離せ〜。アル〜。という絶叫と共に
エドはホークアイに連れ去られてしまった。
「すまない。エディ。これも私達の愛の為だ。」
本当なら、エドの写真を撮らせるなど言語道断では
あるが、ホークアイの一言で、泣く泣くエドを差し出した
ロイだった。即ち、「エドワード君の写真を撮らせて
くれないと、一週間の有休を認めないぞ!」である。
一体、どちらが上官だか判らない。
「エド、耐えてくれ・・・・。」
遠ざかるエドに、ロイはそっとエールを送った。




「ったく〜!!酷い目にあったぞ!!」
随分とやつれた顔で、エドだけがロイの執務室へと
戻ってきた。あれから色々と着せ替えをされたらしく、
今エドが見に纏っている服は、先程の魔女では
なく、ミニスカートも可愛いメイド姿だった。
「ほほう。これはこれは。私専属のメイドになると
いうことかな?」
エドの姿に、ロイはご満悦の様子で、上から下まで
じっくりと眺める。
「あ・・あんま見んなよ。」
恥ずかしそうに顔を背けるエドを、ロイはヒョイと
抱き上げると、そのまま応接ソファーに腰を降ろす。
「離せ〜。大佐〜!!」
ジタバタと暴れるエドに、ロイはお仕置とばかりに、
深く口付ける。
「駄目ではないか。【ご主人様】と言わなければ。」
漸く唇を解放されて、ぐったりとなるエドの頬に
口付けながら、ロイは耳元で囁く。
「な・・何言って・・・・。」
「いけない子だ。ご主人様に逆らうのかい?」
再びエドの頬に唇を寄せるロイの頭を、エドは必死に
離そうとするが、大人と子どもの力の差は歴然と
しており、いつの間にか、エドはロイに組み敷かれて
いた。
「TRICK OR TREAT!!」
いきなりのエドの言葉に、一瞬ロイの動きが
止まる。それを見逃さず、エドはロイの鳩尾に蹴りを
入れると、ロイの下から抜け出し、ドアの所へ避難
すると、くるりと振り向きロイに向かってべーっと
舌を出す。
「この万年発情期!場所を考えろ!!」
「酷いな。エディがそんなに可愛い格好をするから
理性が効かないんだ。」
心外だとばかりに、ロイが苦笑すると、エドは
不機嫌そうに言った。
「ふん!今日はハロウィンだからな。お菓子をくれない
大人には、それ相当の悪戯をさせてもらうぜ!」
不本意な女装をさせられて、クタクタになったエドを
労わるどころか、自分の欲求を押し付けようとする
ロイに、エドは完全にブチ切れしていた。
だが、そんなエドを前にして、ロイは余裕の表情で
エドに近づくと、強引に身体を引き寄せて、深く
唇を重ね合わせた。
「ん〜〜〜〜!!」
唇を無理矢理こじ開けて、エドの口の中に、ロイは
口移しでチョコレートを押し込む。
ゴックンと喉を鳴らしたエドに、漸くロイは唇を解放すると、
ニヤリと笑った。
「エディ。お菓子をくれないと悪戯をすると言ったね?」
半分涙目になりながら、自分を睨むエドに、ロイは
ゾクゾクとした興奮を覚える。そっとエドの涙を拭い
ながら、ロイは軽くエドに口付ると、口をエドの耳元へと
移動させる。
「なら、お菓子をあげたら、私が君に悪戯をしても
構わないということだね?」
そっと髪を掻き上げると、耳朶を甘噛みしながら、
耳元で囁いた。
「なっ!!何訳のわかんねーことを言っているんだっ!!」
真っ赤な顔で騒ぐエドを、ロイは抱き上げると、
ニヤリと笑う。
「悪戯の等価交換だよ。エディ。」
「だー!離せ〜!!」
喚くエドを、ロイは愛しそうに抱きしめると、そのまま
執務室を後にした。



一週間後、上機嫌なロイとは正反対に、やつれきった顔で
ロイと共に東方司令部へやってきたエドを待っていたものは、
仮装コンテストで一位を取ったという知らせと、優勝賞品の
一年分のチョコレートだった。
「うぎゃああああああああ!!」
チョコレートの山を一目見た瞬間、エドが青ざめた顔で
失神したのは、また別のお話。
一体、一週間の間に何が起こったのか。
エドは貝のように固く口を閉ざして、決して話そうとは
しなかった。

   


                            FIN



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ハロウィン企画アンケート第二位の鋼錬(ロイエド)です。
思わず【隠れ月】行き的表現を書きそうになって
しまいました。危ない。危ない。


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お持ち帰りして下さい。