片翼の天使

  

               その寝顔は、まるで穢れを知らぬ、天使のようだった・・・・。


               月明かりの中、シーツに包まれるように眠る
               恋人は、先ほどの濃厚な情事の片鱗も覗かせぬほど、
               穏やかな寝息をたてている。
               月の光を受けて、輝く黄金の髪。
               月の光を受けて、鈍く光る鋼の腕。
               年相応のあどけない寝顔。
               その全てが、
               神聖な一枚の絵のようで、
               私はらしくもなく躊躇する。
               君に触れたいのに。
               この血で穢れた腕では、
               君を汚しそうで。
               怖くて。
               でも、眼が離れなくて。
               何度も指を伸ばしかけたが、
               その都度、月の光の制裁を受け、
               君を抱き締められない自分に
               苦笑する。
               こんなにも君に囚われているとは。
               君はこの事を知ったら、
               どんな顔をするだろう。
               「エドワード・・・・・・。」
               そっと名前を呼んでみる。
               だが、一向に目覚める気配すらない。
               「鋼の。」
               今度は公の名前で呼んでみる。
               「う・・・ん・・・・・。」
               苦しそうに寝返りを打つ君に、
               昼間の不貞腐れた顔を思い出し、
               苦笑する。
               不服そうな顔すら可愛いと思ってしまう
               自分に、末期症状だなと、
               どこか醒めている自分が、冷静に分析する。
               「エディ・・・・・。」
               そっと耳元で二人きりの時の愛称を呼んでみる。
               「・・・・・・・・。」
               途端、安心しきった、幸せそうな寝顔に、
               それだけで満足する自分を感じ、
               思わず苦笑してしまう。
               「エディ。」
               誘われるように、そっと彼の身体を抱き締める。
               先ほどまで、触ることすら出来なかったのに、
               彼の幸せな寝顔を自分だけが導き出せるという
               想いで、いとも容易く、彼に触れることができるとは、
               私も単純な生き物だったのだと、再認識する。
               愛しい恋人を胸に、ふと窓の外に視線をやると、
               何時の間にか降り出したのか、白い雪が、音も無く、
               静かに降りてくる。
               「ホワイトクリスマスだな・・・・・。」
               「ん・・・・。ろ・・・・い・・・・?」
               起こしてしまったのか、恋人、エドワード・エルリックは、
               トロンとした瞳で、私を見上げていた。
               「すまない・・・・。起こしたか?」
               「ん〜?何か、寒い・・・・・。」
               半分寝ぼけている声で言うと、私の首に腕を回し、
               擦り寄ってきた。
               「まだ早い。寝ていなさい。」
               外気に触れないように、エドの身体を抱き締めながら、
               毛布に包む。
               「ロイ〜。あったかい〜。大好き〜。」
               嬉しそうに、ますます抱きついてくるエディに、
               苦笑する。
               本人は、寝ぼけているだけなんだろうな。
               明日の朝には、こんなに甘えてはくれないだろう。
               知らずため息をつくと、エディの腕が、益々きつく
               絡み付く。
               「エディ?」
               「・・・・・・って・・・・たのに・・・・。」
               小声でエディの言葉が聞き取れない。
               「どうした?エディ?」
               私から顔を背けようとしているエディの顔を覗き込もうと、
               エディの顎に手をやろうとして、思いっきり払われた。
               「エディ・・・・・?」
               突然の恋人の態度に、唖然としている私に、エディは
               泣きそうな顔で、キッと睨みつける。
               「俺・・・俺・・・・ロイの事、好きだって。大好きだって
               言ったのに!!」
               「エディ?」
               「それなのに!ため息なんて!!」
               顔を真っ赤にして怒鳴るエディに、一瞬何を言っているのか
               判らなかったが、次の瞬間、全てを悟り、私は嬉しさのあまり、
               きつくエディを抱き締めると、その柔らかな唇を、貪るように
               塞ぐ。
               「・・・っ・・・ん・・・ロ・・・イ・・・・。」
               エディの甘い声に誘われるように、舌をエディの小さく開かれた
               口の中に潜り込ませると、歯列を割り、逃げ惑うエディの舌を
               から娶る。
               「ん・・・。はぁ・・・っ・・・・。」
               右手でゆっくりと、エディの胸の突起物を軽く撫でると、
               ピクリとエディの身体が跳ね上がった。
               「あ・・・ん・・・。ロイ・・・・・。は・・・・ぁ・・・・ん・・・。」
               半分意識を飛ばしかけているエディの耳元で、想いを込めて
               囁く。
               「愛している。エディ・・・・。私には、君しか見えない・・・・・。」
               「ほ・・・ん・・・と・・・・?」
               縋るような瞳のエディに、安心させるように、何度もキスを繰り返す。
               「愛している・・・・。エディ・・・・。」
               キスの合間に囁かれる声に、エディの意識は完全に正気を失う。
               「俺も・・・・。ロイが好き・・・・。誰にも渡したくな・・・い・・・・・。」
               うわ言のように私の名前を呼びつづけるエディに、私は
               先ほどの行為で十分慣れた秘部に、指を一本入れる。
               「はぁあ・・・・・。」
               貪欲に私の指を飲み込もうとする秘部に、口元が緩むのを
               感じる。
               「はああ・・・・。ロ・・・イ・・・。ロイ・・・・。」
               指を二本にすると、今度はエディの腰が揺れ出す。
               「もう・・・お願い・・・・・・。」
               耳元で囁くエディの声に、わざと焦らすように、ゆっくりと指を引き抜く。
               「あん!ロイ!ロイ!お願い!!」
               涙を流すエディの耳元で、わざと耳朶をしゃぶりながら、
               耳元で囁く。
               「何が、【お願い】なんだ・・・?」
               「あん!知って・・・る・・・くせ・・・に・・・・・。」
               涙目で睨むエディの顔に、我慢が出来なくなりそうだったが、
               気合で何とかやり過ごすと、右手の機械鎧にそっと口付けながら
               眼はエディを見つめる。
               「言ってくれなければ、判らないよ・・・・・。」
               こんな日だから。
               滅多にないくらい素直なエディだったから。
               エディの口から言って欲しかった。
               私だけではない。
               エディも私を欲しがっていると。
               エディも私に囚われていると。
               恐らく、縋るような瞳をしていたのだろう。
               エディは、一瞬眼を背けたが、やがてじっと私の瞳を見ると、
               ゆっくりと言葉を繋げた。
               「アンタが・・・・ロイが・・・・欲しい・・・・・。」
               狂おしいほどの焔を宿した瞳を見つめ、私は満足気に微笑むと、
               彼の腰を掴むと、一気に貫く。
               「あああああああああぁああああぁああぁあああ。」
               行き成りの事に、エディは堪らず悲鳴を上げる。
               「エディ・・・・・。」
               落ち着くまで、エディの額にキスの雨を降らせる。
               「大・・・丈夫・・・・だ・・・から・・・・・。」
               肩で息をしながら、エディはにっこりと笑いかける。
               「愛している・・・。」
               耳元でそう囁くと、ゆっくりと腰を動かす。
               「ハァア・・・・ア・・・ッ・・・ロ・・・イ。」
               エディの快楽に滲む声に、我慢しきれず、動きを速くする。
               もっと労わってやりたい。
               だが、同時に思う。
               全てを壊したいと。
               錬金術の基本。
               破壊と再生。
               エディを壊し、私だけのエディに再構築する。
               そんな埒もない考えが、頭の隅を横切る。
               「もう・・・駄目・・・ロイ・・・。」
               縋るように私の首に腕を巻きつけるエディに、
               限界が近づいているのを感じ、私は
               エディの腰を掴むと、最奥に想いの全てを注ぎ込む。
               「はぁぅっ・・・・。ロイ・・・・・。」
               気を失った、愛しい身体を抱き締めると、そっと
               前髪を掻き分け、露になった額に口付ける。
               「愛している・・・。エドワード・・・・。」
               満足そうに微笑むエディの顔に、これまで味わった
               ことのない幸福感が、ゆっくりと私の心に浸透して
               いくのを感じ、知らず笑みが零れる。
               彼は自由を愛する小鳥。
               どんなに腕の中に閉じ込めようとも、
               するりと腕から抜け出し、
               大空へと羽ばたいて行ってしまう。
               そんな小鳥を、
               どうしても自分の元に留めておきたくて、
               無理矢理、その片翼を奪う真似までしてしまう
               自分に、小鳥は優しく微笑む。
               鳥が自由に羽ばたけるのは、
               羽を休める場所があるからだと。
               その場所がロイの腕の中なのだと、
               そうエディは
               瞳で
               態度で
               私に告げてくれる。


               明日には、またこの腕から逃れて、
               過酷な運命へと羽ばたいていく小鳥。
               せめて、この腕の中に居る時は、
               君に安らぎを。
               君に幸福を。
               君に愛情を。
               君に全てを与えられる私でありたい。



               メリークリスマス・・・・・・。
                    最愛の恋人に、愛を込めて。

 

 

   

                                          FIN.