風のららら

 

 

  

                

 

             「すごー!!冬の海も綺麗!!」
             エドワードは、目の前に広がる海に、嬉しそうな顔で
             駆け出していく。
             「待ちたまえ!!エディ!!」
             その後を、ロイが必死な顔で追いかける。
             そして、エドが波に近づく寸前で、ヒョイっと抱え上げると、
             安堵の溜息をつく。
             「ロイ!何で止めるんだよ!!」
             プクリと頬を膨らませるエドに、ロイは呆れたような顔をする。
             「エディ。今日は何月何日だね?」
             「一月一日。元旦。お正月。新年明けましておめでとう。
             ・・・・・それが何?」
             一体、何の意味があるのかと、上目遣いで睨むエドに、
             ロイはニィ〜ッコリと微笑む。
             ”ヤバッ!!”
             ロイのその顔は、碌な事を考えていない証拠である。
             長年の経験から、エドは嫌な予感に、多少引き攣った
             笑みを浮かべる。
             「えっと・・・ロイさん?どうかしましたの?」
             オホホホ・・・・・と棒読みの台詞に、ロイは微笑んだまま、
             エドの身体を、浜辺に設置したベンチへと運ぶ。
             そして、静かにエドをベンチに下ろすと、ロイは横に
             腰を降ろした。
             「・・・エディ。まだ夜明け前だ。こんなに気温が寒い中、
             海に近づいたら、風邪を引いてしまうだろ?」
             そう言って、エドの風でで乱れた髪を、愛しそうに、
             丁寧に直す。そのロイの様子に、取り越し苦労だったのかと、
             エドは肩の力を抜くと、再び不機嫌そうな顔で横を向く。
             「いいじゃん!ちょっとぐらい。」
             ブツブツ文句を言うエドに、ロイは苦笑すると、エドの身体を
             引き寄せる。
             「心配なんだよ。君が風邪で苦しむところなど、みたくない。」
             そっと、エドの髪を一房取ると、ロイはゆっくりと唇を寄せる。
             途端、エドの顔が真っ赤になりながら、ロイから視線を逸らし、
             早口で言う。
             「だ・・だ・・だって!前に来たとき、機械鎧だったから、海に
             入れなかったんだもん!!折角元の身体に戻ったんだぞ!
             ちょっとくらい海に触ってもいいじゃん!!」
             以前、エドが自分は海が見た事がないと、ポツリと洩らした
             一言に、ロイはわざわざ隣国の海の近くに別荘を買って、
             エドを招待した事があった。勿論、エドの水着姿を他の男には、
             見せたくないと、プライベートビーチまで購入するほど、
             徹底していた。しかし、悲しいかな。初めて見た海に感動するが、
             機械鎧の為に海に入る事が出来ず、エドに寂しい想いを
             させてしまった事に、ロイはずっと気にしていたのだった。
             だから、エドが身体を取り戻したと聞いて、ロイは年末を
             鬼のように仕事をこなし、やっと正月の三日間の有休を
             もぎ取ると、エドをこの別荘へと誘ったのだった。
             今度こそ、エドに海に触れて欲しくて。
             しかし、思った以上の気温の寒さに、ついロイはエドが
             海に触れるのを、止めてしまったのだ。
             「すまない。エディ。散々期待させる事を言ったにも関わらず、
             邪魔をしてしまって。」
             ロイは、エドの身体に腕を回す。
             「だが、判って欲しい。ほら、君の手はこんなに冷たくて。」
             ロイは、エドの右手を持ち上げると、甲に口付ける。
             「さらに冷たい海を触らせたくないんだよ。」
             ロイは、耳元で囁くと、チュッと軽く頬に口付ける。そして、
             また耳元で、頬も冷たいねと囁くのも忘れない。
             「ロ・・・ロイ〜。」
             真っ赤な顔で睨むエドに、ロイは優しく微笑むと、すっかり
             明るくなりつつある空を見上げる。
             「ほら、そろそろ日の出だよ。ここを真っ直ぐ前の地平線を
             見てごらん。そこから太陽が出てくるのだよ。」
             その為に、このベンチを設置したのだと、子供のような顔で
             ニコニコと笑うロイに、エドは幸せそうに微笑むと、そっと
             ロイの肩に頭を寄せると、じっと前方を見つめる。眼を輝かせて
             じっと地平線を見つめるエドの様子に、ロイは穏やかに微笑むと、
             エドの肩を抱き寄せて、自分も地平線へと視線を戻す。
             「夜明けだ・・・・・。」
             エドは小さく呟く。それほどまでに、目の前の光景に、圧倒され
             たのだ。地平線から徐々に白み始めた空は、いまだその姿が
             見せなくても、太陽の存在を雄弁に物語っていた。
             すっかり空全体がが紫から白みかかった水色に変化した後、
             地平線の太陽が出るであろう場所を中心に、空がオレンジ色に
             変化する。それと同時に、徐々に身体に当たる光に、熱が
             篭り始める。
             「そろそろ・・・?」
             エドは、ロイを見上げながら、首を傾げる。
             「ああ。姿を見せるまでが長いな。」
             ロイはエドに微笑むと、意味深な眼でニッコリと微笑む。
             「ロイ?」
             「まるで君のようだよ。なかなか私の想いを受け止めて
             くれなかったところとかね?」
             ウィンクするロイに、エドは真っ赤な顔で眼を向く。
             「ば・・・馬鹿な事言ってないで、前を見てろ!!」
             「はいはい。」
             ロイはクスクス笑うと、エドの言うとおり、前を見つめる。
             丁度その時、待ち望んでいた太陽が徐々に姿を現した。
             途端、太陽の光を浴びて、海がキラキラと輝き出す。
             光の乱舞に、2人は声もなく、ただお互いの鼓動を
             感じながら、じっと目の前で繰り広げられる光景に
             魅入っていた。
             「・・・・やはり、君は太陽のようだ。」
             どれだけ時間が経ったのだろうか。ポツリと呟かれる
             ロイの言葉に、エドはハッとして傍らのロイを見上げる。
             ロイは真剣な顔でじっとエドを見つめていた。
             「ロイ?」
             そのあまりの真剣な表情に、エドは怯えたように
             ロイを見つめた。
             「太陽がなかなか姿を現さないように、君はなかなか
             私の想いを信じてくれなかった。しかし、一度姿を
             見せると惜しみない光を与えるように、君は私の
             想いを受け取ると、私に惜しみない愛を与えてくれる。」
             ロイは、そっとエドの両手を握り締める。
             「君は私にとって、太陽だ。そして、全てを照らしてくれる光だ。」
             幸せそうなロイに、エドは真っ赤な顔になると、そっと
             首を横に振る。
             「それは違うよ。太陽は、ロイだよ。」
             エドは頬を紅く染めながら、じっとロイの顔を見つめた。
             「闇を照らすのは光かもしれない。でも、光は焔から生まれる
             んだよ?」
             先程浴びた太陽の光が暖かいのは、太陽が燃えているから。
             「もしも、俺はロイの光になれたのならば、それはロイが
             俺の心に焔を点したから。あの絶望の闇の中で、ただ
             震える事しか出来なかった俺に、ロイは可能性という名の
             焔を点してくれた。俺にとって、ロイこそが太陽だよ。」
             エドは、ロイの首に抱きつく。
             「太陽のように、いつも俺を暖かく包み込んでくれる。」
             ロイはエドの身体を抱きしめる。
             「エディ。愛している。」
             ロイはエドの顔を覗き込むと、そっと唇を重ね合わせる。
             「愛しているよ。エディ。」
             嬉しそうなエドに、ロイはもう一度口付けると、エドの髪を
             弄びながら、ふと視線を海に戻す。
             キラキラと反射した海を見ながら、先程より多少気温が上がった
             事により、そろそろエドに海を触らせてあげようかと、
             ボンヤリと思っていたロイに、エドがポツリと呟いた。
             「ロイ・・・・。今までありがとうな。」
             「エディ?」
             その言葉に、エドに視線を移すロイに、エドは穏やかに微笑む。
             「俺達の身体が元に戻ったのは、ロイのお陰だから、とても
             感謝している。」
             「いきなり、どうしたんだい?」
             クスクス笑うロイに、エドは困ったような顔で肩を竦ませる。
             「今まで、ロイに感謝したことがなかったなーって思ったら、
             急に言いたくなった。さっき、初日の出を浴びて、なんか心が
             暖かくなったと言うか、素直な気持ちになったって言うか・・・・。
             いや!その!何でもない!!とにかく、それだけは言いたかった
             だけだから!!」
             だんだんと恥ずかしくなったのか、真っ赤な顔で俯くエドに、
             ロイはクスリと笑うと、そっとエドの頭を抱き寄せる。
             「私も気持ちを素直に言いたくなったよ。言ってもいいかい?」
             「へ?あ・・ああ。いいぞ?」
             戸惑うように頷くエドに、ロイは微笑むと、じっと海を見つめながら、
             呟いた。
             「時々、ここを1人で訪れた時、このベンチで座ると、いつも
             思い描く風景がある。」
             ロイはエドの肩に腕を回す。
             「私は大総統になっていてね、日々の激務に疲れた身体を
             このベンチに座って休ませているのだよ。」
             ロイの言葉に、エドはふんふんと相槌を打つ。
             「足元には、犬が一匹寝そべっていて、子供達が楽しそうに
             波と戯れている声が聞こえるんだ。」
             その時、エドの身体がピクリと反応する。
             「そして、横を向くと、君が子供達を優しく見守っていて、
             私の視線に気づくと、嬉しそうに私に微笑んでくれるんだ。」
             ロイは海からエドに視線を戻すと、真剣な瞳で見つめる。
             「だから、結婚しよう。」
             「え・・・・?」
             ポカンとした表情のエドに、ロイは苦笑すると、そっと
             エドの左の手を取ると、薬指に口付けを落とす。
             「子供はたくさん欲しいな。最低でも2人。」
             「ちょ!ロイ!?」
             焦るエドに、ロイはにっこりと微笑む。
             「ああ、安心したまえ。ペットは犬だけではなく、猫も飼うぞ。」
             「人の話を聞けーっ!!」
             絶叫するエドに、ロイは穏やかに微笑んだ。
             「これが私の願いなのだよ。」
             ロイは、戸惑うエドの肩を抱き寄せる。
             「エディ。私と結婚して欲しい。」
             「ロイ・・・・・。」
             唖然となるエドに、ロイは胸のポケットから指輪を取り出すと、
             エドの左の手の平に乗せると、エドの手に己の手を重ね合わせる。
             「いつ、この指輪を君に渡そうか、そればかり考えていた。」
             ロイは祈るように、エドの手を握り締める。
             「この指輪の指定席を、君の左の薬指にする事を、許して
             欲しいのだが。」
             「・・・・・・ロイ・・・・。」
             エドはポロポロと涙を流す。
             「エディ。返事を。」
             真摯な表情のロイに、エドは泣きながらロイに抱きつく。
             「ロイ〜。嬉しいよぉ〜!!」
             ロイは幸せそうにエドをきつく抱きしめると、そっと身体を離して、
             エドの左の薬指に、婚約指輪を嵌める。
             「愛している。私の【光】。」
             「オレも愛している。俺の【焔】。」
             その年最初の太陽の祝福の光の中で、2人はきつく抱きしめ合うと、
             ゆっくりと唇を重ね合わせた。



                                            FIN

**********************************

お年玉企画第二弾。ロイエド子SSです。
第一弾が、山?だったので、(正確には丘ですが)第二弾は、海です。
毎回毎回プロポーズに、揉めるシュチュエーションしか書いていないので、
お年玉企画ということで、ここは素直にOKバージョンです。
お気に召して頂けましたでしょうか?