LOVE’S PHILOSOPHY番外編                  

            老婦人の夏 

                   後  編

 

 

 

                我が子フェリシアが産まれ、漸く母子ともにセントラルへ行けるまでに、
                体力が戻った頃、ロイが特別列車を用意して、リゼンブールまで
                迎えに来たのは、今から一週間ほど前の事だった。
                その時、誰がエドとフェリシアを迎えに行くかで、ロイとホークアイの間で、
                争いが勃発したのだが、ロイの泣き落としと、エドからのお願いによって、
                ホークイアが折れたのは、記憶に新しい。
                「さぁ!エディ!着いたよ!!」
                丁度、我が子フェリシアをあやしていたエドは、キョトンとして
                夫を見つめる。
                「はぁ!?何言ってんだよ!セントラルまで、まだだいぶ・・・・。」
                生まれたばかりの我が子への負担を少しでも軽くするため、リゼンブールから
                セントラルまでの間、何度か途中の駅で降りて宿泊するのはわかる。
                しかし、いくら何でも、今日は早すぎだろう。まだ列車に乗って数時間。
                いつもなら、もう少し先を予定していたはずだ。
                「なぁ・・・・いくらなんでも、今日はあまり進んでないぞ?
                フェリシアの事を想ってくれるのは嬉しいけど・・・・アンタ准将なんだし、
                これ以上セントラルへ行くのが遅れたら、駄目じゃん。俺とフェリシアなら、
                後からゆっくり行くから、アンタは・・・・。」
                「な!!何を言っているんだね!エディ!!愛する妻と子供を守るのは、
                夫であり父親でもある私の当然の権利だ!誰にもこの権利を譲らん!!」
                憤慨するロイに、エドは、ため息をつく。
                「・・・・・俺はロイの邪魔にだけはなりたくない。」
                「エディ・・・・・。」
                シュンとなるエドに、ロイは蕩ける様な笑顔でフェリシア毎、ギュッと抱きしめる。
                「君のどこが邪魔だと?いくらエディでも、言って良い事と悪い事があるぞ?」
                ロイはそう耳元で呟くと、チュッと軽く頬に唇を寄せる。
                「ロ・・・ロイ!?」
                途端、真っ赤になるエドに、ロイはクスクス笑うと、エドの背に手を添えて、
                椅子から立ち上がらせる。
                「心配しなくても大丈夫だ。ここに泊まる事は、ホークアイ大尉も了承している。
                いや、むしろ、絶対にここに泊まれと言われていてね。勿論、私も
                言われずとも、ここを素通りするつもりは、最初からなかったのだがね。」
                そう言って、軽くウィンクするロイに、エドは訳も分からず首を傾げる。
                そんなエドに、ロイは穏やかな眼差しで、窓の外へと視線を走らせる。
                「さぁ、窓の外を見てごらん?」
                促されるまま、視線をロイから背後の窓へと移すと、そこにある光景に、
                エドはポカンと口を開けた。
                「ここって・・・・。」
                「分かっただろう?さぁ、そろそろ列車から降りようか。」
                呆然としているエドに、ロイはニコニコと笑いながら、フェリシアごとエドを抱き上げる。
                「ちょ!!危ないだろう!!フェリシアに何かあったら!!」
                「私が大事な君達を落とすとでも?」
                慌てるエドに、再び口づけを落とすと、ロイはしっかりとした足取りで、歩き始めた。











                「・・・・・・あの時は、本当に死ぬかと思ったわ。」
                東方司令部にほど近いカフェでは、数か月前と同じように、ビクトリアとアビーが
                久々のランチを楽しんでいた。あの時と違うのは、二人は非番だという事だけだ。
                珍しく非番が重なり、ショッピングを楽しんだ後、近くでランチをと思ったのまでは
                良かったのだが、その店が、数か月前の騒動の現場であることに、席に着いてから
                思い出した二人は、居心地の悪そうな顔でお互いを見つめ合った後、爆笑した。
                ひとしきり笑いあった後、ふとあの時に事を思い出し、アビーは、しみじみと言った。
                アビーの言葉に、ビクトリアも、フライドポテトを租借しながら、ウンウン頷く。
                「でも、思ったより早く噂が鎮静化して良かったわ。収集が付かなかったら、
                どうしようかと、思ったのだけど。」
                「そーよねぇ。もしも更に噂が酷くなったら、ホークアイ中尉、じゃなかった、
                ホークアイ大尉の怒りが恐ろしかったもの。」
                ブルリと身を震わせながら、アビーは苦笑する。
                「それも全て、みんなが、あのお二人の事、静かに見守っていたから・・・・・。
                だから、早く噂が鎮静化してくれたのよね。」
                「ええ。私たちはマスタング准将への思慕で、目隠しされていた状態だったから
                分からなかったのだけど、冷静にお二人を見ていれば、両想いだって分かるわよねぇ・・・・・。」
                エドをからかいながらも、愛おしげに見つめるロイと怒りながらも、嬉しそうにロイの
                横を歩くエドの姿を見てきていた街の人達は、中々くっ付かないこの不器用な二人を
                長い間暖かく見守っていたようだ。
                そこへきて、いきなりのロイの政略結婚の話に、街中の人が憤慨して、司令部へと
                問い合わせしたというのが、騒動の顛末だ。だから、噂がただの噂であることに、
                街中が安堵と共にお祝いムード一色になるのに、大して時間がかからなかった。
                中には、本気でエドに惚れている男達からの問い合わせもあり、噂がガセで、
                正真正銘愛し合って二人が結婚した事に、かなりショックを隠し切れないのが、
                多数いて、そっちの誤解を解くのが、かなり苦労した二人だった。
                「・・・・・そういえば、無事産まれたそうね。」
                「女の子なんですって。中央司令部勤務のリィナが言っていたわ。マスタング准将の
                浮かれ具合が凄いって。何でも、セントラルでも有名な元貴族の屋敷を購入したり、
                毎日、山のように子供用品を買ってるって話よ?」
                アビーの言葉に、ビクトリアは、ギョッとした。
                「ちょっと待って!!こっちでも、相当な数の子供用品買ってたわよね?あれから
                まだ増えているの!?」
                「ええ。何でもセントラルに最近、お母さんと子どもの為の店をコンセプトにした
                店が出来たらしいの。お母さんと子どもの御揃いの服やら小物やらが売っているって
                話よ。准将が毎日通い詰めているから、口コミで広がって急速に店舗拡大を
                しているらしいわ。、今度はこっちにも店が出来るとか・・・・。」
                「はぁあああああ。そこまで愛されて、エドワードさんが羨ましいわ・・・・・。」
                苦笑するビクトリアに、アビーが頷こうとするが、前方にありえない人達を発見して、
                思わずビクトリアの腕を掴む。
                「ちょ!痛いわよ!」
                「ちょっと!あれ見て!あれ!!」
                「何を一体・・・・・。えっ!!
                興奮するアビーに、訝しげに思いつつも、ビクトリアはアビーが差し示す方向を
                見て、口をあんぐりと開けて固まってしまった。






                「懐かしいなぁ〜。変わってない!」
                ベビーカーを押すロイの腕にもたれ掛るように腕を絡ませていたエドは、あたりを
                キョロキョロ見回しながら、ニッコリと微笑む。
                「ああ。本当に懐かしい。すまないね。エディ。本来ならば、フェリシアへの負担を
                軽くする為にも、車でホテルへ直行しなければならないのは、分かっているんだが、
                ここは、私と君の思い出の土地だからね。フェリシアにも、ここの空気を味わって
                欲しかったんだ。」
                ロイのすまなそうな顔に、エドは慌てて首を横に振る。
                「俺、すごく嬉しいよ!!フェリシア!ここは、パパとママの大事な場所なんだよ〜。」
                ベビーカーの中で、キョロキョロと嬉しそうな顔で風景を見ていたフェリシアを、
                エドも嬉しそうな顔で抱き上げると、その頬に自分の頬をくっつけた。
                ”可愛い・・・何て可愛いんだ!二人とも!!”
                妻と子供の可愛さに、悶絶しているロイだったが、そこは軍の古狸を相手に
                培ってきたポーカーフェイスで、内心を見せる様な事はしない。
                「そろそろお昼だね。お昼はステラさんのお店にしようと思っているんだが。」
                その言葉に、エドはパッと明るくなる。
                「ステラおばあさんの!!やった〜!!あそこのクリームシチュー、絶品なんだよな!
                あっ!!でも、フェリシア・・・・・・・。」
                こんな小さな子供連れでは、店に迷惑が・・・とシュンとなるエドに、ロイは蕩ける様な笑みを
                浮かべる。
                「どこからか、私達がイーストシティに来る事を聞きつけたらしくてね。ステラさんが、
                君はもちろん、フェリシアにすごく会いたがっていて、是非連れてきてほしいと東方司令部
                経由で打診してきたんだ。だから、心配しなくても、大丈夫だよ。勿論、ステラさん
                だけじゃない。君を可愛がっていた人達も君たちに逢えるのを、心待ちにして、
                今頃店で待っているんじゃないかな。」
                「みんなが・・・・?」
                みるみるうちにエドに明るさが戻る。エドは再びベビーカーにフェリシアを乗せると、
                そっとロイの腕に身体を預ける。
                「みんなが祝福してくれて、俺、すっごく幸せ者だ!」
                ニコニコと笑うエドに、ロイはチュッと軽く頬に口づける。
                「私はもっと幸せ者だよ・・・・・。さぁ、みんなを待たせてはいけない。そろそろ店に
                行こうか。」
                「うん!!」
                エドはギュッとロイの腕に抱きつくと、二人はそのまま歩き始めた。
                「そーいえば、トマス元気かな?」
                「トマス?ステラさんのお孫さんだったかな?」
                ピクリとロイの眉が跳ね上がるが、前方を向いているエドは気づかない。
                「そうそう。良くオマケしてくれたり、いい奴なんだよな。」
                「そうか・・・・・なら、彼にもお礼を言わないといけないな。念入りに・・・・・。」
                ふと低く呟くロイに、エドはキョトンとなる。
                「?ロイ?」
                「いや、何でもないよ。他には誰がいるんだい?」
                「んーと、図書館司書のキールに、文具店のマイケル、後は・・・・・・。」
                指折り数えているエドを見つめながら、内心ロイは嫉妬の炎に晒されていた。
                ”私のエディに色目を使いおって・・・・・。そいつらには念入りに私とエディの
                ラブラブを見せつけねばな。フフフフフ・・・・。”
                一見穏やかな笑みを浮かべつつも、黒々しいオーラを撒き散らすロイの姿に、
                長年二人を見守っていた街の人達は、また准将の嫉妬が始まったと、
                内心苦笑する。だが、幸せな二人の姿に、心からの祝福を送るのだった。





                「何でまだイーストシティなんですか・・・・・・。」
                その後、皆が引き止めるからという理由を隠れ蓑に、エドに懸想する男達に
                エドとのラブラブを見せつけることでご機嫌だったロイだったが、新婚馬鹿ップル
                夫婦と一緒の列車に乗ることを、激しく拒否したアルフィンスが、時間差で
                セントラルに向かう中、先に行っていたロイ達がセントラルどころか、まだ
                イーストシティに滞在している事に、ガックリと肩を落とす。
                「ああ、アルフォンス君。遅かったね。さぁ、一緒にセントラルへ行こうか!」
                「行くぞ!アル!!」
                能天気な姉夫婦に、アルフォンスは顔を引き攣らせる。何のために時間差に
                したのか、これではわからないではないか。
                「イーストシティで荷物を受け取ってからセントラルに来てほしいの。」
                昨日、滞在先のホテルに掛かってきたホークアイからの電話に、何故出てしまった
                んだろうと、思いっきり後悔するアルフォンスだった。
                ”もう!こうなったら一刻も早く荷物(と書いて義兄と読む)を大尉に押し付けなくっちゃ!”
                今頃、中央司令部のロイの執務室は、書類で大変な事になっているだろう。確実に
                司令部に缶詰めになるであろうロイに、その間、エドとフェリシアを独占しようと
                固く心に誓うアルフォンスだった。



                だが、彼は知らない。
                エド達を独占するどころか、この後、セントラルでロイとソフィアのエド&フェリシア争奪戦に、
                思いっきり巻き込まれ苦労する運命にあることに・・・・・・・。
    
                

                
       
               
                                               FIN


            
               

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