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「一駅違うだけで、随分違うんだな・・・・・・。」
まだ夜が明け切らない時間、エドワードは、イーストシティ駅
のホームに降り立つと、キョロキョロと辺りを見回した。
一駅先の場所までは、前日の雪に、閉口したのだが、
ここイーストシティでは、雪が降らなかったのか、それとも降って
直ぐに雨に変わったのか、道路が多少濡れている程度で、
心配していたように道が凍ってはいなかった。
「アルに悪い事をしたかな・・・・。」
雪を理由に、アルをリゼンブールに置いてきたのだ。
もっとも、雪が降らなくても、自分は今日は1人でイーストシティに
やって来るつもりでいたのだが。
「だって・・・・今日は特別だから・・・・・。」
エドはギュッと唇を噛み締めると、決意を込めた眼で
顔を上げた。
「さて、早く行かないと、間に合わない。」
エドは、逸る気持ちを抑えて、改札口を出ると、小高い丘の上に
ある公園へと歩き出した。
「うーん。やっぱ、風が強くて寒いな・・・・。」
黙々と公園への道である坂道を上りながら、エドは
両手に息を吹きかけた。初めてここを訪れた時は、
右腕が機械鎧であったが、長い旅の末、漸く数ヶ月前に
元の腕に戻る事が出来たエドは、クスリと笑う。
「なんかヘンな感じだな。」
生身の腕にかなり違和感を覚え、エドは苦笑する。
苦労して元に戻ったのに、ふとした拍子に、機械鎧の方が
良かったと思う自分に気づき、エドは溜息をつく。
「あんなに元の身体に戻りたかったのに・・・・・。」
”この機械鎧も君の一部だ。”
ふと脳裏に、ここにはいない人間の声が過ぎり、エドは
ピタリと足を止めると、慌てて後ろを振り向いた。
勿論、誰もいるわけもなく、エドはゆっくりと息を吐いた。
「勘弁しろよ・・・・・。俺・・・・・。」
そう言えば、この場所を教えてくれた、ロイは今頃どうしている
のだろうか。またホークアイに銃で脅されながら、セントラルで
仕事をしているのだろうか。それとも・・・・・。
「結婚して、家族と過ごしているか・・・・だな。」
そう呟くと、エドの胸にズキリと痛みが走る。
「ハハ・・・情けね・・・・。」
エドは零れそうになる涙を振り払うように、頭を振ると、
再び坂を上り始めた。
「あれから3年か・・・・。ここは変わらないんだな・・・・。」
イーストシティを一望する丘に作られた小さな公園。
森の中に隠れるようにひっそりと造られたその公園は、
人々から忘れ去られて久しい。そんな穴場中の穴場に、
ここから見る日の出は素晴らしいと半ば無理矢理ロイに
連れて来られたのは、エドが国家錬金術師になって初めての
正月だった。
「ついて来たまえ。」
宿で文献を読んでいたエドの元に、いきなり現れたロイは、
有無を言わさずにエドだけを引き摺るように連れ出すと、
この場所にやって来たのだった。
「何だって言うんだよ!!大佐!!」
ロイの手を振り払おうとするエドを、ロイは鋭い視線で制すると、
徐に銀時計を取り出して、時間を確認する。
「そろそろだ。」
何がと聞き返そうとした時、それは起こった。
地平線をゆっくりと朝日が昇ったのだ。
初めは紫色をした雲が、だんだんとオレンジ色に染まり、やがて
太陽が姿を現した時、その景色は一変して、黄金の世界へと
変貌する。
「すげー・・・・・・・。」
絶句して魅入っているエドに呼応するように、未だエドの左手に
繋いだままのロイの右手に力が込められる。だが、目の前の
神々しいまでの美しい日の出に魅入られたエドは、その事に
気づかない。むしろ、感動を伝えたくて、無意識に左手に力を
込める。
「・・・・・ここから見る初日の出は素晴らしい・・・・。」
ポツリと呟かれるロイの言葉に、エドはハッとして傍らにいる
男の横顔を見上げる。
一瞬何か言いかけたが、かける言葉が見つからずに、やがてエドは
ゆっくりと顔を朝日に戻すと、ただじっと上る太陽を眺めた。
その時に感じた、ロイの隣にいる心地よさの理由に気づいたのは、
エドが16歳になってからの事だった。14歳も年上で、しかも性別も
自分と同じ男のロイ・マスタングに惚れていると気づいた時には、既に
エド自身、その恋を諦める事など出来ないくらいに、ロイに溺れていた。
”これではいけない!!”
自分達の目的とロイの目的があまりも違いすぎる。
これ以上ロイの側にいると、ロイへの想いが溢れて、いつか彼に
気づかれてしまう。そうなった時、ロイにどんな眼で見られるか。
それに例え、両想いになったとしても、あまりにもリスクが
大きすぎる。
その事に恐怖して、エドは逃げ出したのだ。
幸いにも、ロイがイーストシティからセントラルに異動になった
事もあり、大総統に頼み込んで、報告書の提出先を、ロイから
直接大総統にしてもらうなどして、徹底的にロイを避け始めた。
その事に驚いたロイが、事の真相を正すべき、エドを何度か
呼び戻そうとしたらしいが、それも全て大総統の手によって
悉く潰してもらった。
「・・・・・嫌われているだろうな・・・・・。」
何も言わずに、突然手のひらを返したようなエドの態度に、ロイは
怒っているだろう。でも、それでもこの恋を諦めるには、それしか
方法がなかったのだ。エドは溜息をつくと、そっとコートから銀時計を
取り出すと、蓋を開ける。
蓋の内側に彫った戒めの文字も、そこには存在しない。
そして、時間も正確な時を刻んでいた。
「この時計ともお別れだな。」
この後、大総統府へと行き、国家錬金術師の資格を返上するのだ。
その為に、時計を元に戻したのだが、ロイと同じものを持っている
という心の拠り所すら、手放そうとしている自分に、エドは
唇を噛み締める。
「らしくないぞ!俺!!」
エドは流れる涙を乱暴に振り払うと、顔を真っ直ぐ前に向ける。
今日、ここで初日の出を見るのは、エドにとってのケジメだった。
何時までもしがみ付いている実らない恋に終止符を打つためにも、
エドはあえて、ロイと共に初日の出を見たこの場所を選んだのだ。
「う・・・寒い・・・・。もっと着込んでくれば良かった・・・・。」
あと数分で朝日が昇る。だんだんと気温も上がっているようだが、
やはり丘の上だけあって、風がある分、寒く感じ、エドは知らず両手で
身体を抱きしめるように震える。
パサリ。
その時、いきなり後ろから黒いコートを掛けられて、背後から抱きつかれた
エドは、驚いて後ろを振り返ろうとするが、身体の前で交差される腕の
力で、それが叶わない。
「静かに・・・・・。」
耳元で、低く囁かれる声。
コートから漂う香り。
自分を抱きしめる力強い腕。
それら全てがある1人の男を示唆する。
ロイ・マスタング。
彼が自分を抱きしめている。
「な・・・・・。」
エドは驚きのあまり硬直して声が出ない。
そんなエドに、ロイはクスリと笑うと、抱きしめる腕に力を込めて、エドの頬に
顔を寄せる。
「ああ・・・・。夜明けだよ。」
ロイの声に、エドはふと意識を太陽へと向ける。
そこに現れた光の洪水に、エドは思わず絶句する。
三年前よりも更に美しい光景に、エドは言葉を失ったのだ。
「綺麗・・・・・。」
エドは流れる涙のまま、ただじっと今年最初の朝日を見つめる。
そして、そんなエドを腕に抱きしめたまま、ロイもまた、言葉もなく、
ただじっと朝日を見つめていた。
どのくらいそうしていただろう。
まるで鏡のような水面に一石を投じて波紋を作り出すように、この
神聖な空気を乱すように、ロイは呟いた。
「・・・・君をここに初めて連れてきてから、私はずっと考えていた。」
ロイの突然の言葉に、エドの身体がピクリと反応する。だが、それに
構わず、ロイの独り言は続く。
「もしも、君が目的を果たして、私の目の前から去っていく時、
笑って送り出せるかとずっと考えていた。いつか君が私の
事を忘れてしまったとしても、それでも笑えるのかと・・・・・。」
そこで一旦言葉を切ると、ロイはエドを拘束していた腕を緩め、
エドの身体を自分の方へと向き直らせる。
俯くエドの顔を、ロイはじっと見つめながら、両肩に手を置く。
「だが、三年前、君が私の目の前から突然消えて、私は思い知った。
物分りの良い大人の振りなどできない。君の人生に私の
場所がないと知ったときの恐怖に比べたら、形振り構わずに
君に告白するのだったと・・・・そう、後悔した。」
ロイの言葉に、エドは驚いて顔を上げると、真摯な表情のロイと
眼が合い、エドはその瞳から視線を外す事が出来なかった。
「私は君を愛している。」
ロイの告白に、エドは、はらはらと涙を流す。
「君のいない世界に耐えられない。」
ロイはじっとエドの顔を見つめながら、生身に戻った右の手を
取ると、その甲に口付けを落とす。
「エドワード・エルリック。君の傍らに立つ権利を私に与えては
くれないだろうか・・・・・。」
どこまでも真剣な表情のロイに、エドはポロポロと涙を流しながら、
呟く。
「俺、男だよ。」
「私も男だよ。」
ロイの手に力が込められる。
「俺、14歳も年下だし。」
「14歳も私の方が年上だ。」
ロイはエドの腕を引き寄せると、倒れこむエドの身体を抱き寄せる。
「俺・・・国家錬金術師を辞めるし。」
「君に軍の狗は似合わない。私だけのエドワードになってほしいからね。」
クスクス笑うロイに、エドはキッと顔を上げる。
「俺は人体練成を行ったんだ!!」
「ああ。身体が元に戻ったんだね。おめでとう。」
ロイは穏やかに微笑むと、エドの右手に自分の指を絡ませる。
「だから!俺とアンタとじゃ・・・・!!」
「・・・・何だと言うのだね?」
低く呟く声に、エドは身体を竦ませる。
「確かに、君とは年が離れていて、おまけに同性だ。」
ロイは絡めている手に力を込める。そのあまりの痛さに顔を顰める
エドの顎を捉えると、きつく見据えた。
「そんな理由では、この【想い】を止めることができないんだ。」
「でも・・・俺は・・・・・。」
眉を寄せて泣きそうになるエドを、ロイはきつく抱きしめると、想いのたけを
込めて叫ぶ。
「君を愛している。私が知りたいのは、君が私をどう思っているかだ。
誤魔化しなど聞きたくない!!」
肩で息をするロイを、エドは悲しそうな顔で見つめると、キュッとロイの
服を握り締めると、ポツリと呟いた。
「・・・・・俺達は同性だ。おまけに年が離れている。その上、アンタは
大総統を狙っているんだろ?」
「だからそれはっ!!」
声を荒げるロイの背中を、エドは縋るように抱きしめる。
「世間は、こんな関係認めない。必ずアンタの邪魔になる。
・・・・・そう思って、俺はアンタから逃げた!!」
エドの言葉に、ロイは茫然とエドの顔を凝視する。
「でも、逃げてもアンタの事が忘れられない。気を抜くと、いつも
アンタのことで一杯になって・・・・・・。」
エドは涙を流しながら、ロイの背中に回していた腕を、首に絡ませる。
グッと近くなったエドの顔に、ロイは、らしくもなく気が動転する。
「三年間、ずっと怖かった。突然姿を消した俺を、アンタが憎んでいる
んじゃないかって・・・・・。ずっと・・・・苦しかった・・・・・。」
エドの告白に、ロイは穏やかな表情でただ静かに見つめていた。
「だから、一秒でも早くアンタとの繋がりを完全に断ち切りたかったんだ。
その為に資格を返上するのに・・・・・。どうして、アンタは俺を
捕まえようとするんだ・・・・。どうして・・・・・。どうして・・・・。」
エドは、力なくポカポカとロイの胸を叩く。
「・・・・・どうして俺はアンタがこんなに・・・・好きなんだよぉぉ・・・・。」
号泣するエドを、ロイはきつく抱きしめると、荒々しくその唇を
奪う。
「ン・・・!!・・・・・っつ!!」
息すらも奪うように激しく求められ、エドの身体がガクリと下がる。
崩れ落ちる瞬間、ロイの腕に抱き寄せられ、肩で息をするエドの
耳朶を甘噛みしながら、ロイは切なそうな顔で呟く。
「私の【想い】は、君に不安しか与えないか?」
「・・・・・・・・。」
無言のまま俯くエドに、ロイは溜息と共に囁いた。
「私から離れる事が君の【幸せ】なのか?」
矢継ぎ早の質問に、エドは答えられずに唇を噛み締める。
そんなエドに、ロイは厳しい顔を向けると、エドの両肩に手をかけると、
低く呟いた。
「・・・・まだ逃げるのか?」
ビクリとするエドの肩に掛けた手に力を込める。
「逃げているだけでは、何も解決しない。この三年間で、君も
判ったのではないのかね?」
ロイはふと表情を和らげると、エドの左手を持つと、そっと手の甲に
口付けを落とす。
「・・・・・私と一緒に立ち向かって欲しい。」
「!!」
ハッとするエドに、ロイはニヤリと笑う。
「君は1人じゃない。私が側にいる。」
「アンタ・・・それで本当にいいのかよ・・・・。」
力なく言うエドに、ロイは口元を綻ばせると、エドの身体を抱き寄せる。
「アンタ・・・・ではなく、ロイと呼んで欲しい・・・・・。」
途端、エドの顔が真っ赤になる。
「ロ・・・ロイ・・・?」
「愛しているよ。エディ・・・・・。」
俯くエドの顎を素早く捉えると、ロイはゆっくりと唇を重ね合わせるのだった。
暫く抱きしめ合っていたが、やがて徐々にエドは正気に戻ると、
今の状況が、すごく恥ずかしい事に気づき、照れ隠しにロイの
腕を引っ張りながら、すっかり高くなってしまった太陽を
指差す。
「ほ・・ほら!太陽がもうあんなに高くなってる!!」
エドの言葉に、ロイは上を見上げた。
「ロ・・ロイが教えてくれた通り、ここで見る初日の出はサイコー
だよな!」
照れ隠しにハハハと笑うエドに、ロイは穏やかに微笑んだ。
「ああ。ここは穴場中の穴場だからね。だが、ここ三年間は、
この場所では、初日の出は見られなかったのだよ。」
「へ?天気悪かったっけ?」
首を傾げるエドに、ロイは苦笑する。
「曇っていたり、晴れても丁度雲に隠れて見えなかったりしたんだよ。」
「そうなんだ・・・・。じゃあ、今日はすごくラッキーだったな!!」
嬉しそうな顔で喜ぶエドに、ロイはエドの髪を撫でる。
「ああ。今年は君が太陽を連れて来てくれた。勿論、私の心にもね。」
そう言ってウィンクをするロイに、エドは真っ赤になって俯く。
「そうだ。言い忘れていたが・・・・・明けましておめでとう。エディ。
今年から絶対に離さないから、宜しくな。」
そう言って、頬にキスをするロイに、エドは真っ赤な顔になりながらも、
お返しにロイの頬にキスをしながら、ニヤリと笑う。
「明けましておめでとう。ロイ。絶対に離れねーから、宜しくな!!」
エドの言葉に一瞬眼を丸くしたロイだったが、直ぐに幸せそうな
顔になると、エドの身体を抱きしめて、唇を重ね合わせた。
明けましておめでとう。
新しい年に誓おう! 君といつまでも共にあることを。
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明けましておめでとうございます。お年玉企画第一弾、ロイエドSSです。
毎年、上杉は鎌倉に初日の出&初詣に行っています。
ただ、ここ数年天気が悪かったり、晴れていても、丁度雲に隠れていて見えなかったりと、
散々な初日の出でした。
今年は、前日に降った雪で、最初は初日の出を見に行くのを取りやめようと思っていたのですが、
雨も止んだ事だし、そんなに積もらなかったので、決行しました。夜中の3時過ぎに家を出発。
いざ、鎌倉へ!!
鎌倉についてびっくり!全然雪がなかったんですよ。おお!!と感動しながら、いつもの
場所へ。その場所は結構有名で、年々人が増えてきているのですが、前日の雪の影響からか、
今年は人が少なく、良い場所を取る事が出来ました。天気も最高だし!後は雲の出方次第!と、
半ば見守るように待っていると、やはり邪魔者雲の気配が・・・・・・。
半分諦めかけたその時、今までで最高の初日の出が!!
それが、このページに乗せた写真です。実際はもっと素晴らしいんです!一度見ると、
やみつきになるほど、すごく綺麗なんです!!(力説!!)
今年は初日の出の当たり年だったのです!その後、恒例の鶴岡八幡宮へ参拝をしたのですが、
これもまた人が少なく、ラッキーでした。しかも、御神籤で大吉を引くし、これは今年一年が
素晴らしい年になるだろうなぁ〜と幸せな気持ちで家に帰ってきました。この幸せを
みなさんにも分けてあげたい!!と、急遽お年玉企画を計画。如何でしたでしょうか?
もしも気に入りましたら、BBSに一言お書きになってから、お持ち帰りして下さい。
サイト等に転載される場合も、遠慮なくどうぞ。但し、著作権は放棄していませんので、
片隅にでも【上杉図書館】と【上杉茉璃】だけは明記してください。宜しくお願いします。
今年一年皆さんにとって幸せな年でありますように!!
上杉茉璃