Prisoner

 

 

               恋愛はゲームだ。
               以前の私ならば、そう断言しただろう。
               恋愛は成就するまでが楽しい。
               ありとあらゆる餌を使い、獲物を追い詰める。
               そして、獲物が手に入った時点でTHE END。
               手に入った獲物など、何の価値もない。
               釣った魚には、餌をやらないとはよく言ったものだ。
               興味を失った物に、私は何時までも執着せずに、
               もう次の獲物に夢中になる。
               そんな私の態度を、親友であるヒューズは、苦虫を
               噛んだような顔で、文句を言う。
               「おまえなぁ、あんまり遊んでばかりいると、後で
               報いを受けるぞ。」
               「ほう?それは面白いな。」
               親友の苦言も、その時の私は鼻で笑ったものだ。
               まさか、その後直ぐに運命の出会いがあるとは知らずに。





               私の名前はロイ・マスタング。階級は大佐。歳は29歳。
               焔の錬金術師でもある。そんな若きエリートである
               私は、当然のように女性関係が派手だったが、それが
               運命の出会いをきっかけに、すっかりとなりを顰めてしまった。
               私の心を奪った相手は、エドワードエルリック。歳は15歳。
               私と同じ国家錬金術師で、二つ名は【鋼】。賢者の石を
               探して、弟と一緒に旅に出ている根無し草。そんな彼に
               惚れた私は、いつものように、彼に恋愛ゲームを仕掛けた。
               最初は嫌がっていた彼だったが、百戦錬磨の私に叶うわけも
               なく、彼が国家錬金術師になって一年目、漸く私とエディは
               世間で言う恋人同士の関係に収まったのだ。
               いつもの私ならば、ここで彼との関係はTHE ENDのはずである。
               しかし、何故二年もたった今でも、彼に対してせっせと文献という名の
               餌を与え続けているのだろう。すごく謎だ。
               「どーしたんだよ。ロイ。眉間の皺が増えてるぞ?」
               ふと我に返ると、エディが心配そうな顔で私の顔を覗き込んで
               いた。
               「何でもないよ。エディ。少し疲れただけだから。」
               「あんま、無理すんじゃねーぞ。」
               まだ心配そうな顔をしているエディを安心させる為に、私は
               にっこりと微笑むと、引き出しの中から、文献を取り出す。
               「新しい文献が手に入ったよ。エディ。」
               「うそ!マジで!!サンキュー!ロイ!!」
               にっこりと、まるで穢れのない美しいエディの笑顔に、
               私の心は満たされていく。

               ”ああ、そうか・・・・・。”

               唐突に、今までの疑問の答えが導き出される。
               エディの笑顔だったんだ・・・・。
               彼の笑顔が見たくて、私はせっせと餌をエディに与え続け
               ているのだと気づいた。


               ”これが本当の【恋愛】・・・・・。”
               私は生まれて初めての感覚に、戸惑いつつも、嬉しい気持ちが
               沸き起こる。
               エディ、君って子は、どこまで私を狂わせれば気が済むのだい?
               君を捕らえる為に、餌付けをしていたつもりが、いつの間にか
               私は君の笑顔という餌に囚われてしまった。
               君の笑顔が見たいが為に、今日もせっせと餌を運ぶ。
               だが、不思議と不快感はない。
               むしろ嬉しいくらいだ。
               何故ならば、私は君のPrisonerなのだから。



                                            FIN
               
               

 

 

 *****************************
 Prisoner・・・【虜】というより、ロイさん、あなたはただの【恋の奴隷】です。
 笑顔一つでお手軽な男、ロイさん。このエドが天然か小悪魔で、
 ロイさんの運命は大きく変わると思います。小悪魔だったら、ヒューズさんの
 言うとおり、今までの報いを受ける事になりますが、どうでしょうか?
 でも、個人的には、エドは天然であって欲しいです。



 上杉図書館の来訪者の皆様への感謝の気持ちを込めて。
                         上杉茉璃


お気に召しましたら、BBSに一言書いてから、お持ち帰りして下さい。