エピローグ

 

 

             「ホークアイ中央支部長、全員配置につきました!!」
             敬礼しながら報告するエドワード親衛隊隊員に、
             ホークアイは満足そうに頷く。
             「アルフォンス隊長、準備完了です!」
             ホークアイの報告に、アルは大きく頷いた。
             「では、作戦通りに。健闘を祈る!」
             「イエッサー!!」
             セントラル駅構内の、ものものしい厳重体制の
             中、アルフォンスは、あと10分後に到着する列車の
             影を求めて、線路の先を凝視する。
             「フフフ・・・・・。」
             不気味に笑うアルに、遠巻きに見守っていた一般客の
             輪が、更に広がる。







           「はぁああああああ。」
           ぼんやりと窓の外を眺めていたエドが、大きな溜息をつく。
           「どうしたんだね?エディ?」
           私といるのに溜息かい?と、ロイはエドを抱き上げると、
           自分の膝の上に座らせ、その身体をきつく抱き締める。
           「だって・・・・・。もう旅行が終わりだと思うと・・・・さ・・・・。」
           この一ヶ月の間、色々な事があったけど、すごく楽しくて
           幸せだった。
           「ずっとロイを独占していたのに、明日からまたロイ、
           仕事だろ?」
           そして、また溜息をつくエドに、ロイは荒々しく唇を重ね
           合わせる。
           「ん。っ・・・・はぁ・・・・。」
           「エディ・・・・。エディ・・・・。」
           深くなる口付けに、エドは酔ったようにトロンと目を潤ませる。
           そんな無防備なエドの様子に、ロイは音を立てて唇を
           頬に寄せる。
           「私も同じ気持ちだよ。」
           ”また今日からアルフォンス君との戦いが始まるのか・・・・。”
           幸せな時間は、どうしてこんなに早く進むのか。
           ロイは、このままエドを攫って、再び旅に出ようかと
           本気で考えた時、無常にも列車はセントラル駅に到着する。
           「あ・・・・。」
           残念そうなエドに、ロイはにっこりと微笑む。
           「また、旅行へ行こう。エディ。」
           今度は、ちゃんと君の意見を聞くよというロイに、
           エドは真っ赤になって俯く。
           「俺は・・・・別に・・・・ロイさえいてくれたら・・・・・。」
           「エディ!!」
           可愛いことを言うエドに、ロイは思わず押し倒そうと、エドの身体を
           抱き締めようとした時、ドアが慌しく叩かれる。
           「だ・・誰・・・・?」
           二人が顔を見合わせると、いきなり練成反応が起こり、
           扉を壊したアルフォンスが、転がるように入ってきた。
           「アル!!」
           「兄さん!!」
           弟の姿に、エドは慌ててロイの膝の上から飛び降りると、
           ヒシッと抱き締め合う。
           「元気だった?怪我とか病気とかしてない?」
           「あぁ、お前こそ、元気だったのか?」
           兄弟の感動の再会に、水を差す者がいた。
           言わずと知れたロイである。弟とは言え、エドが自分以外の男に
           抱きついているのを、この男が黙って見ている訳がない。
           ロイはツカツカと二人に近づくと、問答無用で、エドをアルから
           引き離す。
           「さぁ、そろそろここを出よう。積もる話は、家に帰ってゆっくり
           すれば、いいだろ?」
           エドには、蕩けるような笑みを、アルには、突き刺すような視線を
           それぞれに送る。
           「挨拶が遅れてしまってすみません。お帰りなさい。准将。」
           いつもなら、毒舌合戦が始まるのだが、アルはにっこりと
           微笑むと、ペコリとお辞儀をする。
           「アル・・フォンス君・・・・?」
           いつもと違うアルフォンスの様子に、ロイは嫌なものを感じ、
           一歩後ろに下がる。だが、アルはロイに一歩近づくと、
           にっこりと邪気のない笑顔で言った。
           「だいぶお疲れでしょう。もう、お年なのですから、
           筋肉痛になっているのではないですか?」
           そのいつもの様子に、取り越し苦労だったかと、思い直し、
           いつものごとくニッコリと黒い笑みを浮かべながら、アルフォンスの
           喧嘩を買う。
           「はっはっはっ。エディとの1カ月間は、実に充実で、
           心身ともにリフレッシュ出来て、私は今絶好調だよ。」
           高笑いするロイに、アルの目がキラリと光る。
           「それは、良かったですね〜。」
           と、ニッコリと笑うと、扉の外へ向かって一言声をかける。
           「准将、絶好調だそうですよ。良かったですね。ホークアイ大尉。」
           「ホークアイ大尉!?」
           何故、そこにホークアイがいるのかと、固まったロイから、すかさず
           アルはエドの手を引くと、そろそろ出ようと促す。
           「准将、これから仕事みたいだから、先に出ていようか。」
           「えっ?ちょ・・・アル。そんなに引っ張るなよ。ロイ〜。」
           困惑するエドに、にっこりと微笑むと、アルは有無を言わさず、
           引き摺るようにエドを個室から連れ出す。
           代わりに入ってきた人物は、ホークアイを始め軍の人間
           数人で、ロイを逃がさないように、周りを取り囲む。
           「これは、一体何の真似だね。ホークアイ大尉!!」
           ギロリと睨むロイに、ホークアイ大尉は、一歩前に進むと、
           一言告げる。
           「任務です。」
           「任務?今日、私は帰ってきたばかりで、疲れているんだ。
           明日にしてくれ。」
           その言葉に、ホークアイはニッコリと微笑む。
           「先程、絶好調だというお言葉を頂きましたが。私の聞き間違い
           でしたでしょうか?」
           「そうだ、君の聞き間違いだ。」
           堂々と言ってのけるロイだったが、次の瞬間絶句した。
           「私にも、君が絶好調だとはっきりと聞こえたのだが?」
           ニコニコとロイに声をかけるのは、何時の間にいたのか、
           キング・ブラッドレイ大総統だった。
           「大総統!!」
           慌てて敬礼をするロイに、大総統はニコニコと笑いながら片手を上げる。
           「マスタング准将、まぁ、そう堅くならずにな。さて、長旅で疲れている
           所を、すまないが、今から私の代わりに、北部の視察をしてくれないかね?」
           「北部・・・・?視察・・・・・?」
           茫然と呟くロイに、大総統は大きく頷く。
           「実は、明日から結婚40周年を迎えるのでな、3ヶ月ほど妻の傍にいる約束
           なのだよ。」
           そんな理由で視察に行くのを嫌がる大総統に、ロイは開いた口が
           塞がらない。
           ”私だって、まだ新婚なんだ!!”
           面と向かって文句が言える訳もなく、ロイは婉曲に断ろうと
           咳払いをする。
           「しかし、私のような若輩者が、大総統の代わりに視察など・・・・。
           そうですね・・・・。副大総統が適任かと・・・。」
           「あぁ、彼は先週から2カ月、夫人とバカンスだと言っていたな。」
           「なっ・・・!!」
           大総統ばかりではなく、副大総統までも、夫人とイチャついていることを
           知り、ロイは開いた口が、今度こそ塞がらなかった。そんなロイに、
           大総統は、フッと憂いを帯びた表情で事の顛末を語って聞かせる。
           「今まで、妻には多大なる苦労しかかけてこなかった。みんな、
           君の愛妻振りに、いたく己を恥じてな、今までの分を含めて妻を
           労わろうという事で話が盛り上がり、今軍を挙げての
           『愛妻感謝強化月間』
           実施中なのだよ。」
           ハッハッハッと笑う大総統に、周囲の軍人達から盛んな拍手が
           沸き起こる。
           「なんだ・・・それは・・・・・。」
           茫然と呟くロイに、ホークアイの容赦ない言葉が降り注ぐ。
           「それでは、これが日程表です。准将。」
           「まっ・・・待ってくれ!!せめて明日からにしてくれ!!」
           懇願するロイに、ホークアイは冷たい視線を向ける。
           「折角列車に乗っていらっしゃるのですから、そのまま行って
           下さった方が、手間が省けるのですが。第一今からキャンセル
           すると、キャンセル料が・・・・。」
           「その通りだよ。マスタング准将。経費削減で頼む。
           いや、これは命令だ。
           ホークアイの言葉に、大総統もここぞとばかりに、ロイを
           窮地に追い込む。
           「では、せめてエディの『いってらっしゃいのキス』を!!」
           これだけは譲れん!とばかりのロイに、ハボックがひょっこりと
           手を上げる。
           「あの〜。大将なら、アルと一緒に一足先に帰りましたが・・・。」
           「何だと!?エディ!!」
           慌ててエドの後を追おうとするロイに、ホークアイはセーフティを
           外した銃を向ける。
           「た・・・大尉・・・・。」
           冷や汗をだらだら流しながら、ロイは両手を上に上げる。
           「准将、命令違反を冒す気ですか?」
           冷ややかなホークアイの目に、ロイは慌てて首を横に振る。
           「では、一週間の視察
           頑張って下さい。」
           「なっ!!一週間だとっ!!」
           茫然とするロイに、言うだけ言ってすっきりしたのか、
           機嫌の良いホークアイを筆頭に、全員が個室から姿を
           消す。
           「ちょっと待て!!」
           目の前で閉められる扉に、慌ててロイが後を追ったが、
           列車は既に発車し始めた所であった。
           「一週間もエディと離れてたまるものかっ!!」
           動き出す列車から飛び降りようとするロイに向かって、
           ホームで警備をしていた軍人が、一斉に銃を向ける。
           「なっ!!」
           固まるロイを乗せて、無常にも列車は速度を上げていく。
           「エディィィィィィィ〜」
           遠ざかる列車からは、何時までもロイの絶叫が
           響き渡っていた。




           「絶対に、三日で視察を終わらせる!!」
           エドの為に、一週間の視察を三日で終わらせた
           ロイの前に、執務室を埋め尽くすかのような、
           大量の書類の山が立ちはだかるのを、
           この時はまだ知らなかった。








                                     FIN







***********************************

 ここまでお読み下さいまして、ありがとうございます。
 ロイに出し抜かれたエドワード親衛隊の面々ですが、
 やはり最後はこうでなければ!
 (甘々を期待していらした方、期待を裏切ってすみません【汗】)
 これからも、頑張りますので、応援を宜しくお願いします。



                         上杉 茉璃