黒い毛並みを持つ子猫は、エドワードの腕の中で、
安心しきった顔で、まどろんでいる。子猫を優しく
撫でているエドワードも穏やかな顔をして・・・・・は、いなかった。
「あ・・あのさっ、ロイ・・・・。」
「何かね?エディ。」
困惑気味のエドとは対照的に、ロイはニコニコとした笑みを
エドに向ける。
「何で猫を抱かないんだよー。」
「何を言っている。抱いているではないか。」
ロイはエドの髪を優しく撫でる。
「俺が言っているのは、何で猫を抱かずに、俺を抱き締めている
んだってことっ!!」
叫ぶエドに、ロイはにっこりと微笑むと、ますます猫を抱き締めている
エドを背後から抱き締める腕に力を込める。
そう。ロイは壁に背を預けて座っており、子猫を抱いたエドを、
自分の膝の上に乗せている状況なのである。
「エディを抱いている方が、私は嬉しいのだが。」
「だーっ!!折角猫と遊ぶ為にきたのに!!何でアンタは俺に
へばり付いてんだ!!」
「エディ。折角個室を取ったんだ。そんなに恥ずかしがらなくても。」
ロイの的外れな言葉に、エドはがっくりと肩を落とす。
「なぁ、もしかして、ロイって、猫が嫌いなのか・・・・?」
猫が嫌いなのに、俺の為に無理しているのでは・・・・と、
しゅんとなるエドに、ロイはクスクス笑う。
「猫は好きだよ。いや、愛している・・・・・。」
「ロイ?」
真剣な表情のロイに、エドはドキッと胸が高鳴る。
「この金色の毛並みといい・・・・。」
ロイはエドの一つに纏められている三つ編みに、唇を落とす。
「この、強い意志を秘めた、金の瞳といい・・・・・。」
ロイはエドの頬に軽く口付ける。
「そして、気まぐれなところといい、全てが私好みだ。」
そして、エドの顎を持ち上げると、深く口付ける。
「みー。」
ロイとエドに挟まれた形の子猫は、一声鳴くと、エドの腕の中から
ひらりと逃れる。
「エディ・・・・・・。」
執拗なまでのロイの口付けに、エドは弱々しくロイの腕に
縋りつく。十分にエドの唇を堪能したロイは、ボーッとしている
エドにクスリと笑うと、軽く頬に口付ける。
「君は本当に猫のようだね。」
「お・・・俺は・・・・・猫じゃ・・・・。」
息を乱しながら、エドは上目遣いでロイを睨みつけるが、ロイは
ますます嬉しそうにエドを抱き締める。
「動物には、癒しの力があるそうだよ。そして、私が癒されるのは、
君によってだよ。」
だから君が猫でも、間違いではあるまい?と笑うロイに、エドは
真っ赤な顔でロイの胸に顔を埋める。
「じゃ・・・・じゃあ、ロイだって、動物なんだからなっ!!」
「エディ?」
ギュッと自分にしがみ付くエドに、ロイは訝しげな声を出す。
「ロ・・・ロイだって、俺を癒してんだからなっ!!だから、
ロイもどーぶつ!!」
真っ赤な顔で怒鳴るエドに、一瞬惚けたロイだったが、次の瞬間、
嬉しそうに微笑む。
「では、君によって私は癒されたのだから、今度は私が
君を癒してあげよう。」
ロイはそう呟くと、きつくエドを抱き締めた。
「暫くこのままで・・・・・。」
二人は、時間の許す限り、静かに抱き締めあっていた。
「まだ、時間があるな。どこか行きたい所はないかい?」
ロイは時間を確認すると、エドに向かって言う。
「う・・・ん、特に・・・・・・・あっ!!」
特にないと言おうとして、ポケットに手を入れていたエドは、
何かを思い出したのか、突然声を上げる。
「エディ?」
首を傾げるロイに、エドは一瞬どうしようかと迷う素振りを
見せるが、やがておずおずとロイにポケットに入っている、
例のハボックから貰った映画の招待券を差し出す。
「これは?」
にっこりと微笑むロイに、エドは一瞬違和感を感じたが、
直ぐに真っ赤になりながら、必死に弁解する。
「さっき、ロイが来る前に、ハボック少尉に会ってさ、
貰った。今日までなんだってさ。」
そっと上目遣いでロイを見ると、ロイは幸せそうに、ニコニコと
笑っており、その様子にさらにエドは真っ赤になる。
「別に深い意味はねーぞ!!今日までだって言うし、使わなかったら
もったいないじゃん!!それに、ランチとか奢ってもらったし、
等価交換だ!!」
はーはーと肩で息を吐きながら、一気に言い切ったエドに、ロイは
ますます嬉しそうに微笑む。
「では行こうか。エディ。あと10分で映画が始まってしまうからね。」
「うっ?あっ・・・あぁ・・・・・。」
計画通りに事が運んでいる事に、ロイは気が緩み、言わなくても
良いことまで口にしてしまった。だが、自分が失言したことにすら
気づかなかったロイは、疑惑を含んだ瞳でエドから見られている
とは、思ってもみなかった。
「一体、どうしたんだい?エディ。」
食事を終えてから、エドの様子がどこかおかしい事に気づいた
ロイは、心配そうにエドの顔を覗き込む。
「食事は気に入らなかったのかね?」
ロイの言葉に、エドは無言で首を横に振る。
「では、映画が面白くなかったのかい?」
その質問にも、エドは無言で首を横に振る。
「一体、どうしたというんだね?言ってくれなければ、わからないよ?」
困惑するロイに、エドはポツリと呟く。
「なぁ、俺を騙したのか・・・・?」
「騙す?一体何の話だい?」
ロイのますます困惑する声に、エドはキッと顔を上げると、睨みつけた。
「しらばっくれるな!!国家錬金術師親睦会なんて、嘘だろ!!」
エドの言葉に一瞬絶句するが、ロイは直ぐににっこりと微笑む。
「どうして、そう思うんだい?」
「第一に、国家錬金術師親睦会で使うには、さっきの店は小さ過ぎだ。
確かに料理や雰囲気は良かったけどな。そして、第二に、映画の券は、
あんたが用意したものだ。」
エドの言葉に、ロイは驚きに目を見張る。
「券は、ハボックから貰ったと言ったじゃないか。」
掠れるようなロイの声に、エドは自分の仮説は正しかった事に気づく。
「確かに、ハボック少尉からは受け取った。でもさ、何でロイが映画の
開始時間まで分かるの?第一、勤務時間中の少尉が1人で
公園に来る事自体、変じゃないか。」
一つ一つならば、気にも留めない程度の違和感。でも、繋げて見ると
全てロイに仕組まれた事を証明する証拠。エドは溜息をつくと、
じっとロイを見つめる。
「なぁ、何で嘘なんてついたんだよ・・・・。」
ロイは深い溜息をつくと、エドの身体を抱き締める。
「すまない。エディ。ただ私は・・・・君の恋人として、不安だったんだ。」
「不安?」
きょとんと首を傾げるエドに、ロイは自嘲した笑みを浮かべる。
「君はいつもアルフォンス君を第一に考えている。だから、今日一日、
私だけを見て欲しくて、つい仕組んでしまったのだよ。」
「ロイ・・・俺は・・・・。」
しゅんとなるエドをきつく抱き締める。
「誤解しないでほしい。君を責めている訳ではないんだ。
全て、私の弱い心がいけないんだから。君達の貴重な時間を
奪ってしまって、本当にすまない。エディ。」
ロイはエドに謝罪する。
「あのさ・・・俺、昨日興奮して良く眠れなかった。」
エドは顔を上げると、ニッコリと微笑んだ。
「エディ?」
エドはますます微笑むと、ギュッとロイの背中に手を回す。
ロイの鼓動の音を心地よく聞きながらそっと目を閉じると、
うっとりと呟く。
「仕事とはいえ、ロイと一緒に出かけられると思って、
すごく嬉しかったんだからな。」
そこでエドはキッとロイを睨みつけると、真っ赤な顔で怒鳴る。
「だから、デートしたかったら、ちゃんと言え!!ロイの馬鹿!!」
「・・・・・。そうだな。すまなかった。エディ・・・・・。」
一瞬、呆気に取られたロイだったが、だんだんと顔に笑みを浮かべ、
きつくエドを抱き締める。
「デートって言ってくれれば、もっとお洒落してきたのに・・・・・。」
小声で呟くエドに、ロイは苦笑する。
「君は十分可愛いよ。」
「うっ・・・可愛いって言うなよ・・・・。」
恥ずかしい奴。と、小声でボソボソ呟くエドに、ロイは微笑むと、
軽く頬に口付けを落とす。
「さぁ、宿まで送るよ。アルフォンス君が心配しているだろうから。」
エドの背中に腕を回して、ロイは歩き出そうとするが、エドは
止まったまま動かない。
「エディ?」
「・・・・・・・・・に言った・・・・。」
俯くエドに、ロイは首を傾げる。
「すまない。良く聞き取れないのだが・・・・。」
エドは真っ赤な顔で顔を上げると、上目遣いでロイを見つめる。
「アルには、今日はロイの所に泊まるって言ってある・・・・。」
迷惑だった・・・?と不安そうな顔のエドに、ロイは幸せそうに
微笑む。
「とても嬉しいよ。エディ・・・・。」
ロイはエドを抱き締めると、ゆっくりとエドの唇を塞ぐ。
「あの・・さ。ロイ・・・・。」
「なんだい?」
唇を離すと、エドはニッコリと微笑みながら言った。
「デート、すごく楽しかった。ありがとう。ロイ。」
「私も楽しかった。また、デートしてくれるかい?」
ロイの言葉に、エドは嬉しそうに大きく頷く。
「ありがとう。エディ・・・・。」
ロイは、エドを抱き上げると、ゆっくりと歩き出す。
「ちょ!!ロイ!!」
慌てるエドに、ロイはにっこりと微笑むと、エドの耳元で囁く。
「今日は、一日私だけのものだ。エディ・・・。」
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真っ赤な顔で絶句するエドに、ロイは声を上げて笑うと、
軽く頬にキスを贈り、ゆっくりと自宅へと歩き始めるのだった。
FIN
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ここまでお読みくださいまして、ありがとうございます。
まだ付き合い始めたばかりを書いてみました。
この頃から、既に馬鹿ップル・・・・。
感想を送ってくださると、今後の励みになりますので、
宜しくお願いします。
上杉茉璃