「で?何か言い残すことはありますか?」
にっこりと微笑みながら、ホークアイは、ロイに
向かって、銃を構える。その後ろに控えているのは、
ホークアイの兄であるフレデリックとハボック。ロイの
隣には、青褪めた顔をしたヒューズが立っていた。
「いくらなんでも、あんまりッスよ。大佐。」
流石のハボックも、リック達から事情を聞いて、
珍しく怒りを露にしていた。妹分に対して、手酷い
仕打ちをした男を、ハボックは冷たい表情で見据えた。
「すまない。ただ、私は・・・・・・・。」
唇を噛み締め俯くロイの顔面スレスレに、ホークアイは
発砲する。
「言い訳は見苦しいですよ。大佐。」
ホークアイは、ゆっくりと銃をロイの頭から右腕へ照準を
切り替える。
「今ここで、大佐の右腕を吹っ飛ばしてみせましょうか?
右腕を機械鎧にすれば、少しはエドワードちゃんの気持ちが
判ると思いますが。」
それとも、無能だから判らないかしら?と、ホークアイは
感情の篭らない目で、ロイの右腕スレスレに銃を撃つ。
「・・・・・・大佐の取るに足らない嫉妬で、どれだけ
エドワードちゃんを傷つければ気が済むんですか?」
ホークアイは涙を堪えた瞳をロイに向けると、再び右腕
スレスレに発砲する。
「よりにもよって、エドワードちゃんの料理が下手ですって?」
ホークアイはロイの頬スレスレに発砲する。
「ビミョーな味付けしか出来ない料理オンチの大佐にだけは、
言われたくありません!!」
残りの弾全てをロイの身体ギリギリに打ち込む。
ホークアイは肩で息を整えながら、怒りに満ちた目を
ロイに向ける。
「大佐、機械鎧というのは、便利なようで、実は大変なんですよ。」
ホークアイの言葉に、ロイの身体がピクリと反応する。
「エドワードちゃんが言っていました。どうしても機械鎧では、
繊細な作業が出来ないそうです。だから、日常生活を左手で
出来るように練習したそうです。しかし、料理だけは、左手では
出来なかった。」
ホークアイの目から涙が零れ始める。
「エドワードちゃんは、手伝うという私の申し出を断って、
1人で料理を作ったんです。機械鎧の力の加減が判らず、何度も
左手に切り傷を作りながら。機械鎧のオイルが料理に付かないように
気を使って・・・・野菜を洗うにも、傷だらけの左手だけで・・・・水が
沁みて痛かったのに・・・・・それでも我慢して、全身ずぶ濡れに
なりながら、頑張って作ったのに・・・・。全ては大佐の喜ぶ顔が
見たいと・・・・それだけの為に、頑張ったのに!!」
ホークアイは、乱暴に涙を拭うと、素早く銃に弾を補充し、ロイの
心臓に狙いを定める。
「今度は外しません。」
ホークアイの本気を感じ取り、ロイは慌てて懇願する。
「待ってくれ!せめて彼女に謝りたい!!」
「謝る?」
フッとホークアイは鼻で笑う。
「大佐。ごめんで済めば、軍はいらないんですよ?」
それくらい常識でしょう?とホークアイはニッコリと微笑む。
「大佐、エドワードちゃんは、私が全力を持って、幸せにします。」
だから、安心してくださいと、ホークアイがセーフティを外した時、
荒々しく扉が開かれ、アルフォンスが転がり込んできた。
「ね・・・・姉さんが行方不明って、どういうことですか!!」
「アルフォンス君。」
驚くホークアイに、アルはつかつかと近寄ると、矢継ぎ早に質問する。
「誘拐ですか?それで、犯人の目星は?身代金はいくらですか!!」
パニック状態のアルに、ホークアイは落ち着かせようと、近くにあった
椅子に座らせる。
「・・・・ごめんなさい。取り乱して・・・・。姉さん、薬を忘れたから、
ボク、追いかけてきたんです。でも、セントラルの駅に着いたら、
軍人さん達が、姉さんを探してて・・・・行方不明だって聞いて・・・・。」
シュンとなるアルを、ホークアイは優しく抱きしめる。
「そうなの。ごめんなさい。心配をかけてしまって・・・・。そこの
無能が、エドワードちゃんを傷つけて、エドワードちゃんが
行方不明になってしまったのよ。」
ホークアイの言葉に、アルは勢い良く顔を上げると、怒りのオーラを
全身に纏いながら、ゆっくりとロイを見る。憔悴しきったロイに、
アルは怒りに満ちた声で叫んだ。
「大佐!ボク、言いましたよね!姉さんを絶対に泣かせないで
下さいって!!」
アルはゆっくりと立ち上がると、素早くロイ前に立ち、鳩尾に
強烈な一撃をお見舞いする。
「ぐっ・・・!!」
崩れ落ちるロイを一瞥すると、アルはホークアイの元へと
戻る。
「中尉、実は姉さん、病み上がりなんです。早く探さないと、
また、熱がぶり返すかも!!」
「・・・・病み上がりだと!?」
アルの言葉に、ロイは顔を上げる。
「どういうことだ!」
ロイはふらつく身体を何とか支えると、アルに食って掛かる。
だが、そんなロイの怒りを平然と流すと、アルは冷たい声で
言った。
「姉さんは、機械鎧と生身の繋ぎ目から、ウィルスが入った
らしくて、年末からつい最近まで、高熱を出して、一時、
意識不明になっていたんです。」
アルの言葉に、ロイはカッとなる。
「何故直ぐ私に連絡しなかった!!」
「・・・・・・姉さんが、大佐に心配かけるのを嫌がったんです。
でも大佐、あなたは姉さんに会っても、全く身体の変調に
気づけなかったんですか?」
アルの言葉に、ロイは愕然となる。
「・・・・・。」
無言のまま俯くロイに、アルは嫌悪も露な声で言った。
「・・・・ボクはあなたがわからなくなりました。姉さんを
大切にしてくれると信じていたのに・・・・・・。」
アルは視線をロイからホークアイに移した。
「とりあえず、ボクはリゼンブールに姉さんが戻っているかどうか
ウィンリィに電話してみます・・・・・。」
「その必要はない。」
アルの言葉を遮るように、突如聞こえた声に、全員が入り口へ
視線を向ける。ドレッドヘアーの女性が、厳しい表情で、入り口に
立っていた。足元には、彼女を止めようとしたのか、兵士達が
気を失って倒れていた。一瞬、テロかと身構えたホークアイ達
だったが、続くアルの言葉に、肩の力を抜く。
「せ・・・師匠(せんせい)!!」
「師匠って・・・・イズミさん?」
驚くアルに、ホークアイは尋ねる。そんな2人を気にせず、
イズミは、ただ真っ直ぐロイだけを見つめると、スタスタと
ロイの元へと近づく。
「こんのぉ、馬鹿男〜!!」
イズミは、引き摺りながら持ってきた兵士を軽々と片腕で
持ち上げると、惚けているロイに向かって、叩きつけた。
いきなり兵士を叩きつけられたロイは、咄嗟に受身を取る
事ができず、兵士もろとも、床に叩きつけられる。
「うちの大事な弟子を、よくも傷つけてくれたね!!」
イズミはボキボキと指を鳴らすと、両手をパンと合わせると、床に
手をつく。途端、青白い練成の光が辺りを覆い、床から
ロイに目掛けて、突起物が襲い掛かる。
「くっ!!」
ロイは、自分に覆いかぶさっている、気絶している兵士を蹴り上げ
どけると、間一髪横に転がり避ける。ほっとしたのもつかの間、
丁度転がった先に、狙い定めたように、ホークアイが銃を
撃つ。即席のコンビとは思えないほどの、イズミとホークアイの
息のコンビネーションに、流石のロイも肩で息をし始める。
「何故、エドに手を出した!!」
イズミは、ロイに向かって、右足で蹴りを入れようとするが、
ロイは腕で咄嗟にガードすると、イズミの左足に足払いをかけて
叫んだ。
「私は、エドワードを愛しています!!」
バランスを崩したイズミだったが、身体を反転させると、右足を軸にし、
今度は左足で廻し蹴りをする。今度は見事ロイの鳩尾にクリーンヒットし、
ロイは鳩尾を押さえながら、片膝をつく。
「ふざけるな!!それでどうして傷つけたんだ!!」
イズミの激昂に、ロイも負けじと睨みつける。
「エドワードはどこですか?」
「私が言うとでも?」
腕を組むイズミに、ロイは右腕を翳すと、パチンと指を鳴らす。
途端、イズミの直ぐ横で、爆発が起こるが、イズミは動じず、
じっとロイを見つめる。
「もう一度言う。エドワードはどこだ。」
問いかけに対して、無言のイズミに、ロイは眼を細めると、再び指を
鳴らそうとするが、その前に、ホークアイの銃がピタリとロイの額に
当てられる。
「大佐、エドワードちゃんに会って、どうするつもりですか?」
これ以上傷つけるなと眼で訴えるホークアイに、ロイはチラリと一瞥
しただけで、何も言わずただ黙ってイズミを見る。
「・・・・・エドは、アンタに会う気はないそうだ。」
イズミの言葉に、ロイは息を呑むと、ギリリと唇を噛み締めた。
「お願いです。エドワードに逢わせて下さい。」
頭を下げるロイに、イズミは溜息をつく。
「何故、エドがアンタの前から姿を消したと思っている?」
「それは・・・・私が彼女を傷つけたから・・・・・。」
辛そうな表情のロイに、イズミは鼻で笑う。
「それは違うな。」
「え?」
唖然となるロイに、イズミは一歩近づく。
「確かに、アンタの心無い言葉で、エドは傷付いた。だがな。
イズミはロイの胸倉を掴む。
「それならば、何故エドが私の所に来た?」
「・・・・・・・。」
無言のままのロイを、イズミは、突き飛ばすように手を離す。
「何故エドがアンタに逢いたくない?エドの事を本当に
理解していないアンタに、あの子を幸せに出来るのか?」
イズミの言葉に、ロイは顔を上げると、決意を込めた眼で
イズミを見つめる。そんなロイに、イズミはふと表情を和らげると、
ロイに一枚のメモを渡す。
「・・・・ここにエドがいる。」
その言葉に、ロイはハッとなる。
「今、エドは1人で暮らしている。」
「師匠!!」
抗議の声を上げるアルに、イズミは怒鳴る。
「煩いね!良いんだよ。別れるにしろ、一度2人だけで話す
必要があるんだ!!」
イズミはじっとロイを見据えた。
「ここから先は2人の問題なんだ。」
ロイは、ギュッとメモを握り締めるとイズミに一礼して、
部屋を出て行こうとした。そこへ、それまで黙って事の成り行きを
見守っていたリックが、ロイを呼び止める。
「マスタング。」
歩みを止めるロイに、リックはつかつかと近寄ると、ロイの顔面を
殴りつける。
「・・・・・・・彼女を幸せにしろ。」
そう呟くリックに、ロイはゆっくり頷くと、微笑んだ。
「ああ・・・・。絶対に。」
ロイは今度こそ部屋から出て行った。
「ああ!!また失敗!!」
エドは、ジャガイモの皮をあと少しで完璧に剥けるという所で、
またしても力んでしまって分厚く皮を切ってしまい、がっくりと
肩を落とす。
「いや!落ち込んでいる暇があったら、練習しないと!!」
エドは、気持ちを切り替えると、再びジャガイモを手に取ると、
皮を向き始めた。
「あっ!!」
今度は、いくらも剥かないうちに、勢いあまって、エドはざっくりと
左手を切ってしまった。
「痛い・・・・。」
エドは包丁を置くと、慌てて切れた指を口に含む。口に広がる
血の味に、エドは堪えていた涙がポロポロと流れ落ちる。
「どうして俺って、こんなに不器用なんだよ・・・・・。」
これは機械鎧の性能のせいであって、決してエドが不器用な訳
ではないのだが、失敗続きの毎日に、エドの思考はマイナスへと
向かう。
「上手に出来るまで、ロイに逢わないって決めたのに・・・。
これじゃあ、ロイに逢えない・・・・・。ふえっ。えっ。えっ。
ロイに逢いたいよぉおおおおおお。」
エグエグと本格的に泣き出すエドは、いきなり後ろから抱きしめ
られて、驚いて硬直する。
「・・・・・エディ・・・・。」
耳元で囁かれる聞き覚えのなる声に、エドはパニック状態に
陥る。
「なんで・・・・。ロイ・・・?」
呆然となるエドを、ロイはギュッと暫く抱きしめていたが、
やがてエドの身体を抱きしめた腕を緩めると、エドをターンさせて
自分の方へと向かせると、傷だらけのエドの左手を取って、
痛ましそうな眼でじっと見つめた。
「あ・・あの!その!これは・・・・。」
慌てて手を引っ込めようとするエドを許さず、ロイはエドの左手を
口に近づけると、傷を一つ一つ丁寧に舐めていく。
「ロ・・・ロイ・・・・。」
途端、真っ赤な顔で俯くエドの頬に、ロイは軽く口付けると、まな板の上に
乗せてある包丁を手に取ると、ジャガイモの皮を剥き始める。
「!!」
手際の良いロイの包丁さばきに、エドは悲しそうな顔で俯く。
男のロイの方が上手いという事実に、エドの女のプライドがズタズタに
なった。シュンとなったエドに、ロイはジャガイモを剥きながら、
ポツリと呟いた。
「私も、つい最近まで満足に野菜の皮を剥く事が出来なかった。」
その言葉に、エドはノロノロと顔を上げる。
「エディ、私とローズの出会いは、ヒューズから聞いたのだろう?」
ロイの言葉に、エドは悲しそうな顔でコクンと頷いた。
「その時の私は、自分に出来ないモノはないと、思い込んでいた。
しかし、それはただの思い込みでしかなく、実際は野菜一つ満足に
皮を剥けずにいたんだ。」
ロイは、剥き終わったジャガイモを、一口大の大きさに切り分けると、
水に浸す。
「それからだよ、少し料理が出来るようにと、練習したのは。
お陰で、野菜だけは何とか見た目良く切る事が出来た。しかし、
味付けが、何度やっても微妙なものしか出来なくてね。」
ロイは呼吸を整えると、じっとエドを見つめながら言った。
「これからは、君の出来ない事は私がする。だから、私の出来ない
事は、君がしてくれないだろうか。」
「・・・・・・・。」
無言のまま俯くエドに、ロイは溜息をつく。
「また無言か。君はいつもそうだ・・・・・。」
ハッと顔を上げるエドに、ロイは傷付いた眼で、じっと見つめていた。
「君は本当に困った事は、私以外に頼るのだね。アルフォンス君は
仕方ないにしても、何故、ホークアイ兄妹や、ハボックに頼るのだね?」
「俺、そんなつもりは・・・・・。」
慌てて首を振るエドの両肩に、ロイは手を置く。
「そんなつもりはない?では聞こう。何故年末に、熱を出して寝込んだ
時に、私に連絡しなかった?何故私の為に作ってくれたお弁当を
渡してくれない?・・・・・何故、君が苦しんでいる時に、私はいつも
蚊帳の外に出されるんだ・・・・・・。」
ロイはエドの身体を抱き寄せると、きつく抱きしめた。
「イブの日に、君の全てを貰えて、私は嬉しかった。漸く恋人同士に
なれたと、舞い上がった。だが、実際はどうだ?何が変わった?
君は相変わらず、私には辛い事は何も言ってくれない。」
「だって・・・それは・・・・。心配させたくなかったし。嫌われたくなかった。」
エドはロイの背中に手を廻しながら、ロイに擦り寄る。
「後で聞かされた時の、私の気持ちを考えた事はあるのかい?
君が熱で苦しんでいた時、何も知らずに過ごしていた事を、後で
知った私の気持ちを。」
しゅんと項垂れるエドの顎を捉えると、ロイは辛そうな瞳で覗き込む。
「お弁当の件もそうだ。確かに、たまたまハボックやホークアイ大佐に
会ったんだろう。だが、何故私に逢いに来なかったんだ。ずっと、
私は待っていたんだよ。君が会いに来てくれるのを・・・・・。」
「・・・・った。」
「エディ?」
エドの言葉は小さすぎて、良く聞こえず、ロイは聞き返す。
「行った!ロイに逢いに、二回も!!!」
エドは涙で濡れた眼で、キッとロイを睨みつけた。
「俺、逢いに行ったよ?ロイの家に行ったけど、ロイがいなかった。
代わりに、ローズさんがいて、すごくショックだったんだ。ロイが、
あの日、俺があの家に入る最初で最後の女だって言っていたのに、
それなのに、あの人がいて・・・・・。ショックだった。」
ポロポロと泣き出すエドを抱きしめると、ロイは黙ってエドの言葉に
耳を傾ける。
「ロイにお弁当を届けに、執務室まで行った。ヒック。でも、ローズさんが
ヒック・・・・ウッ・・・エッ・・・お弁当・・・・ウッ・・届けに・・・来ていて・・・・、
ロイ・・・ロイが・・・・嬉しそうで・・・・・。俺、どうしても、自分のお弁当を
ロイに見せる勇気が・・・・なくて・・・・・。」
本格的に泣き出すエドに、ロイは静かに問いかける。
「君は、私の為に作ってくれたのだろう?何故堂々としないのかね?」
「だって・・・・だって・・・・・。」
泣きじゃくるエドに、ロイは溜息をつく。
「君の料理の腕はすごいよ。」
ポツリと呟くロイの言葉に、エドは泣きながら顔を上げる。
「・・・食べもしないくせに、いい加減な事を言うな・・・・。」
「食べたよ。勿論。」
驚くエドに、ロイは穏やかに微笑んだ。
「私の為に作ってくれたのだろう?全部綺麗に食べたよ。勿論、君が
落としてしまったクラブサンドも全部ね。」
「どうして・・・・・。」
唖然となるエドに、ロイは悲しそうな眼を向ける。
「私が君にひどい事を言ったのは、私ですら食べた事がない君の
手料理を、ホークアイ大佐が食べると思って、嫉妬したからだ。」
「え・・・・?」
驚くエドを、ロイはきつく抱きしめた。
「君を傷つけたくなかった。しかし、感情が止められなかったんだ。」
すまないと、ロイはエドに呟く。
「だが、君の手料理を食べて嬉しかったと同時に、酷く傷付いた。」
え?と驚くエドに、ロイは深い溜息をついた。
「何故何も私に言ってくれなかったのかと。不安も怒りも、君は何も
言ってくれない。私に言う価値がないのかと思って、ずっと辛かった。」
「ロイ・・・・・。」
戸惑うエドを、ロイは真剣な表情でじっと見つめた。
「君は、私の恋人だ。」
「!!]
息を呑むエドをロイはきつく抱きしめた。
「そして、私は君の恋人なんだ。」
ロイはエドの身体を抱き上げると、近くにあった椅子に座らせる。
そして、片膝をつくと、エドの左手を包み込むように、両手で握る。
「エディ。君の不安も怒りも全て私は受け止める。教えてくれ。
今、君の心で思っている事を全て。」
頼むと懇願するロイに、エドは悲しそうに顔を歪ませる。
「言ってくれ。エディ。」
頑ななまでに首を横に振るエドに、ロイは辛抱強く促す。
「・・・・・ロイの喜ぶ顔が見たかったんだ・・・・・。」
ポツリと呟くエドを、ロイはじっと見つめた。
「だから・・・ロイに貶された料理の腕を上手にしたら、
ロイに逢えると思ったんだ。でも・・・うまく出来なくて・・・・
でも、ロイに逢いたくて・・・・・ずっとロイに逢いたかったんだ!!」
エドは泣きながら、ロイにしがみ付く。
「・・・・・・すまなかった。エディ。私を許してくれ。」
ロイはエドの身体を抱きしめる。
「愛している。エディ。私も君に逢いたくて、気が狂いそうだった!!」
ロイは、そう言うと、エドの唇を荒々しく塞ぐ。
「エディ。私の前では何も隠さないで欲しい。」
ロイはゆっくりと唇を離すと、じっとエドの瞳を見つめた。
小さく頷くエドに、ロイは幸せそうな顔で微笑むと、優しく抱きしめる
のだった。
「で?この体勢は、一体何だ?」
こめかみをピクピクさせながら、エドは真っ赤な顔でロイを
ギロリと睨む。
「私の為に君は左手を怪我したのだろう?怪我が完治するまで、
私が世話をするのは、恋人として、当然だろ?」
嬉々としてロイはエドを自分の膝の上に乗せて、クリームシチューを
スプーンで掬い、エドの口元に運ぶ。
「自分で食べれる!!」
真っ赤な顔のエドに、ロイはにっこりと微笑む。
「ほら、エディ。私達の愛の共同作業で作ったクリームシチューだよ?
食べないのかい?」
「愛って言うな!!」
エドは恥ずかしさのあまり、俯いていると、ロイはクスクス笑いながら、
クリームシチューを一口飲む。
「うん。美味しいよ。エディ。」
幸せそうに微笑むロイの言葉に、エドはパッと表情を明るくさせる。
「本当!?美味しい?」
「ああ。飲んでごらん。」
ロイは、再びクリームシチューをスプーンで掬うと、エドの口元に
運ぶ。今度は、嬉しそうな顔で口を開けるエドに、そっと流し込むと、
エドの顔を覗き込んだ。
「美味しいだろ?」
コクンと頷くエドに、ロイは満足そうに微笑んだ。
「お互い出来ない事を補えば、こんなに美味しいものが作れるんだ。
だから、これからも何でも私に言って欲しい。」
エドの頬にキスを贈りながら、ロイは耳元で囁く。
「これから、君を補う者は、私1人だけで十分だ。」
その言葉に、エドは真っ赤になって上目遣いでロイを見上げる。
「もう、意地悪しない?」
「勿論だよ。私の大切な恋人だからね。誰よりも大切にする。
愛しているよ。エディ。」
そう言って、ロイは再びエドに口付ける。
暫くロイの好きなようにさせていたが、やがてエドはロイの胸に
寄りかかると、ポツリと呟いた。
「あのさ・・・・。ローズさんの事なんだけど・・・・。」
「・・・・彼女に告白された。」
ロイの言葉に、やはりとエドはシュンとなる。
「だが、私には最愛の恋人がいると断ったよ。」
ロイは、俯くエドの顎を捉えると、じっと見つめた。
「エディ。愛している。だから不安にならないでくれ。」
「ロイ・・・・。」
ロイは、エドの頭を撫でながら髪に口付けを落とす。
「どうか私の愛を疑わないで欲しい。」
「ごめん。ロイを疑っている訳じゃないんだ。ただ、自分に
自信がないだけで・・・・。」
困ったような顔のエドに、ロイは優しく頬に口付ける。
「さっきも言っただろ?お互いを補い合おうと。私は
完璧な人間を望んでいるんじゃない。エドワード・エルリックと
いう、1人の人間を望んでいるんだ。」
「ロイ・・・・・。」
ロイはエドを抱きしめる。
「第一、完璧な人間など存在しない。不完全な人間だから、
他人を求める。絶対唯一の自分の半身を。」
ロイはゆっくりとエドの包帯で巻かれた左手を取る。
「私の半身は君だよ。君は、私を半身だと思ってくれないの
かい?」
「半身って!!」
真っ赤な顔のエドに、ロイはクスクス笑う。
「もっとも、君が嫌だと言っても、絶対に離すつもりはないがね。」
ロイはそう言うと、ゆっくりとエドの唇に己の唇を重ね合わせた。
FIN
******************************
やっと終わりました!
ただ単に、ラストのロイの膝の上に乗って、2人で作ったクリームシチューを、
ロイに食べさせてもらうエドを書きたかっただけなのですが、何故にこんなに
長くなってしまったのでしょうか。しかも、なかなか書きたいシーンに辿りつかず、
何度書き直したことか・・・・・・・。
無理矢理終わらせたっぽいですが、気に入ってくださると嬉しいです。
お持ち帰り希望者は、BBSにGET!の一言だけでも良いので、書き込みしてから
お持ち帰りして下さい。サイトなどに転載する場合も、同様にお願いします。
但し、著作権は放棄していませんので、転載する場合は、【上杉図書館】と
【上杉茉璃】だけは明記してください。お願いします。