戦う、大佐さん!シリーズ

         戦う、お嫁さん! 〜想いを伝えて〜

                  

                  後  編

 

 

 

                「俺は絶対に屈服しない。当然、サインも断る!!」
                低く呟かれるエドの言葉に、ロイは不敵な笑みを浮かべる。
                「・・・・エディ。これ以上、私を怒らせないでほしいのだが?」
                「何と言われようとも、こればっかりは、ロイの言うことを聞かない。」
                プイと横を向くエドに、ロイのこめかみがピクピク引き攣る。
                「こればっかりはって・・・・・君が私の言うことを聞いたことはあるのかね?」
                何時だって、自分の意見を押し通すじゃないかと呆れ顔のロイに、
                エドは悔しそうに顔を歪ませる。
                「だって・・・・・。」
                「だって、じゃない!君は私の言うとおりにしていれば、それでいいんだ!!」
                ふんぞり返るロイに、エドはピクリと反応する。
                「な・・・・なんだよ。それ・・・・・。」
                ブルブルと震えるエドに、様子がおかしいと気づいたロイが、訝しげにエドの
                肩に触れようと手を伸ばすが、その前にエドの手によって叩かれる。
                「エディ?」
                信じられないというような顔でロイはエドを見るが、エドは顔を俯かせたまま
                微動だにしない。
                「・・・・・ロイはいつもそれだ。俺だって・・・・俺だって・・・・・。」
                「落ち着きたまえ。エディ。」
                オロオロと焦りだすロイに、エドはキッと顔を上げると不敵な笑みを浮かべて
                目を細める。
                「俺だって役に立てる!それを証明して見せてやるぜ!!覚悟しろ!准将!!」
                エドは手を打ち鳴らすと、地面に両手をつき、そこから槍を錬成させると、
                ロイに突き付ける。
                「・・・・・エディ。役に立つとか、そうじゃなくてだね・・・・。」
                ふうとため息をつくロイに、問答無用とばかりに槍を振り上げるも、次の瞬間、
                エドはロイの腕の中に納まっていた。
                「ふええええええ!?」
                「言っただろう?チェックメイトだと。」
                一体いつの間に!?と目を白くさせるエドに、ロイは魅惑的な笑みを浮かべながら、
                耳元でささやくと、固まるエドの唇に己の唇を重ね合わせた。
                「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
                公衆の面前での突然のロイの行為に、エドはジタバタと抜け出そうとするが、
                力強いロイの腕の中から抜け出すことはできなかった。
                思う存分ロイはエドを堪能し、漸く唇を離す頃には、エドは息も絶え絶えに、ロイに
                縋り付いていた。
                「エディ・・・・。可愛い・・・・。」
                再びぎゅうううううううと愛妻を抱きしめるロイに、とうとうホークイ兄妹の怒りが
                爆発する。
                「エドちゃんを離せ!」
                「いい加減にして下さい!准将!!」
                だが、ロイは二人の激昂をチラリと一瞥すると、見せつけるように、エドの頬に
                自分の頬を摺り寄せる。
                「おい。君はエドちゃんと離婚するつもりなんだろ?」
                鋭い目でロイを睨みつけながら放たれたリックの言葉に、ロイとホークアイが
                顔色を変える。
                「なんですって!?どういうことですか!准将!!」
                「何を言ってるんだ君は!!そんな事あるわけがないだろうが!!」
                ロイは不審げな目をリックに向ける。
                「貴様・・・・エディに相手にされないからと言って、そんな根も葉もない事を言って
                いるのか!」
                「俺が言った訳じゃないさ。第一、君が言ったんだろ?」
                肩を竦ませるリックに、ロイは眉を潜める。
                「私が?何を馬鹿な・・・・・。」
                「ロイ?俺と・・・・離婚すんのか・・・?」
                リックの言葉に、腕の中のエドワードがクスンと悲しそうな瞳を向ける。
                「エディまで、私を疑うのか?」
                「だって、さっきまで俺を襲ってきた軍人たちが、次は自分と結婚をとかなんとか
                言ってたし・・・・・。」
                エドの言葉に、ホークアイも大きく頷く。
                「そういえば、そんな事を言ってましたね。一体、どういうことです?」
                返答次第では許さないと、ホークアイはロイに詰め寄る。
                「私にも何がなんだか・・・・・。一体、何故そんな事になってるんだ!」
                ロイはジロリと地面に横たわっている屍達に、視線を走らせる。
                「おい!お前たち、説明しろ!!」
                ビクンと肩を揺らすも、ロイの本気の怒りに動くことも出来ず、皆死んだふりをしている。
                「・・・・あなた達!聞こえなかったの!!」
                ガンガンガン
                ホークアイの威嚇射撃に、全員がコンマ一秒で素早く立ち上がる。
                「で?どういう訳だ?」
                ロイは発火布の手袋を翳しながら、一番傍にいる軍人を睨みつけた。
                「じ・・・自分は、ただ、ハボック中尉に・・・・。」
                「ハボックだと?」
                キラリとロイの目が光る。
                「大尉・・・・・。」
                「ハッ!!直ぐに連行します。」
                ロイの言葉に、ホークアイは敬礼すると、クルリと背を向けて走り出した。
                「さて・・・・・聞いての通り、私とエディが離婚するのはありえない!これ以上
                無責任な噂を真に受けた者、もしくは流した者は、向こう半年減俸だ!!」
                酷い〜!!というブーイングを無視すると、ロイはエドに笑いかける。
                「エディ・・・・私は絶対に君とは別れない。」
                「ロイ・・・・・。」
                薄らと涙を浮かべるエドに、ロイは笑いかけると、そっと涙を拭う。
                「ロイ〜!!」
                「エディ!!」
                ガシッと抱きしめ合う二人に、外野は揃って深いため息をついた。
                内心、この馬鹿ップルを何とかしてくれと思いながら。







                「准将!諸悪の根源を連れてきました!」
                それから暫くして、ホークアイがハボックを引き連れて戻ってきた。
                「さて、ハボック。レア・ミディアム・ウエルダン、好きなものを選びたまえ。」
                エドを片手で抱きしめながら、ロイは不気味な笑みと共に、ハボックに
                右手を翳す。
                「うぁあああああ!!ちょっとタンマ!!一体どうしたってんですか!!」
                涙目のハボックの背後からは、ホークアイが無表情で銃を突き付けながら、
                事の次第の説明を求める。
                「今、軍内部で准将がエドワードちゃんと離婚すると、実しやかな噂が流れて
                いるの。あなたが事の発端と聞いたのだけど?」
                どういう事?と素晴らしく麗しい笑みを浮かべながら、ホークアイは銃の
                セーフティを外す。
                「どうって・・・・准将がエドに離婚届にサインしろって言ったじゃないですか!!」
                ブルブルと震えるハボックはヤケクソ気味に叫ぶ。
                「離婚届けだと!?良く見ろ!これは国家錬金術資格の返上及び離隊届けだ!!」
                ロイは胸ポケットから書類を取り出すと、ハボックに突き付ける。
                「へっ!?だって、エドがサインすると准将の傍にいられないような事を言ったじゃ
                ないですか。だからてっきり・・・・。」
                ハボックの言葉に、漸くロイは今回の騒動の発端となった事柄を思い出し、
                腕の中のエドの顔を覗き込んだ。
                「・・・・・そういえば、何故これにサインをしたくないんだ?」
                「それは・・・その・・・・。」
                シュンと項垂れるエドに、ホークアイが優しく微笑みかける。
                「エドワードちゃんの考えは素敵だと思うわ。恐れず、あなたの想いを准将に
                伝えたらどうかしら。」
                ホークアイのその言葉に勇気が出たのか、エドはオズオズと顔を上げると、
                決意も新たな力強い瞳をロイに向ける。
                「俺が・・・国家錬金術師を返上しなかったのは・・・・・。どんな時でも、
                ロイと一緒にいたかったんだ。」
                「エディ・・・・。」
                驚きに目を見張るロイを、エドは泣き笑いのような顔で見つめる。
                「俺・・・何にも出来ない子供だけど・・・・国家錬金術師のままなら、
                俺だって、ロイの役に立てると思ったんだ。ただ守られているだけじゃ嫌だよ。
                皆のようにロイの支えになりたい!ロイと一緒に歩んでいきたい・・・・。
                お願いだ・・・・。俺を・・・俺を置いていくなよぉぉぉぉぉ・・・・。」
                我慢しきれず、エドはポロポロと涙を流しながら、ロイに抱きつく。
                「エディ・・・・・。私の話も聞いてくれないか?」
                泣きじゃくるエドの髪を優しく撫でながら、ロイは優しく語りかける。
                「すまない。君をそこまで追い詰めていたとは、気づいてやれなくて。
                ただ、これだけは知っていてほしい・・・。決して君が子供だとか、
                そんな事を思っている訳じゃないんだよ。」
                ロイの言葉に、エドは涙でグチャグチャになった顔を上げる。
                「本当・・・・?役立たずじゃない・・・?」
                「ああ!それどころか、私を支えてくれる素晴らしい妻だと思っている。
                しかし、過去のトラウマがあってね・・・・。」
                そこで言葉を切ると、エドの頬に手を添える。
                「昔、君がまだ各地を旅していた時の事が、私を苦しめるんだ・・・・・・。」
                「・・・・え?」
                目を見開くエドに、ロイは苦笑する。
                「自覚なしかい?良く不正を働いている司令部やテロ組織の本拠地に
                乗り込んでは、壊滅していただろう?そして、その度に君は大怪我を
                負った・・・・・。」
                「それは・・・・・。」
                視線を逸らそうとするエドの顎を掴むと、自分に向けさせる。
                「その時ほど、自分の無力さを思い知った事はない。君が宿願を果たしたら、
                自分の傍に置いて、二度と君を傷つけないと・・・そう誓ったんだ。
                だが・・・その私の想いが君を深く傷つけていたとはな・・・・。すまなかった。」
                エドの身体をギュっと抱きしめるロイは小刻みに身体が震えていた。その事に
                気づいたエドは、ロイを思いっきり抱きしめる。
                「ロイ・・・・。俺の方こそごめん!!俺・・・ホントに馬鹿だ・・・・。ロイを傷つけた。」
                「エディ!!」
                再びぎゅううううううううと固く抱きしめ合う二人に、リックはうんざりしたような顔で
                ため息をつく。
                「で?結局マスタング准将は、エドちゃんの国家錬金術師継続は了承って
                事で良いんですね?」
                「う・・・・・。」
                途端、固まるロイに、エドは不安げな顔で見上げる。
                「・・・・・ロイ?」
                「・・・・・・怪我をしないと約束してくれる・・・なら・・・・。」
                ガクリと肩を落とすロイとは対照的に、エドはぱあああと明るい笑みを浮かべる。
                「そんじゃ、そーゆー事で。さ!エドちゃん、これから打ち合わせに行こうか♪」
                そう言って、さっさとロイの腕の中からエドを浚うと、リックはエドの肩を抱き寄せて、
                建物の中へと入って行った。
                「さて、准将は残りの仕事を片付けて下さい。」
                エドを連れ去られたホークアイは、八つ当たり気味にロイへと銃を向ける。
                「なぁ・・・大尉。ものは相談なんだがね。」
                じっと悔しそうな顔でエド達が消えた方向へ視線を向けながら、ロイはホークアイに
                話しかける。
                「仕事を減らせと言うのならば、却下です。」
                ピシャリと言い放つホークアイを、ロイは胡散臭い笑みを浮かべながら振り返る。
                「国家錬金術師は、人間兵器と呼ばれている。いくら大総統の視察だと言っても、
                国家錬金術師であるエディに、護衛はつかない。なんせ、本人が護衛だからな。」
                ピクリとホークアイが反応する。そこを畳み込むようにロイは言葉を繋げる。
                「だが国家錬金術師ではなく、【ただの准将夫人】ならば、
                話は別だ。」
                話の先を促すように、じっとロイを見つめるホークアイを、ロイは神妙な顔で
                見つめる。
                「私の愛する【ただの准将夫人】ならば、然るべき人物を護衛に任命するだろうな。
                例えば、軍で一番の銃の腕を持つ君とか・・・・・。」
                「・・・・・何がおっしゃりたいのですか?」
                ホークアイの言葉に、内心ロイは掛かったなとほくそ笑むが、勿論表情に出す事は
                しない。
                「国家錬金術師であり続けるならば、今回のように、度々大総統の我儘に付き合わされ
                る事になるだろうな。その間、私は元より、君もエディに逢えない。」
                ロイの言葉に、ホークアイはグっと拳を握りしめる。その姿に、あと少しだなと
                更に言葉を繋げる。
                「エディが【ただの准将夫人】
                あるだけならばなぁ・・・・・。」
                わざとらしくため息をつくロイに、ホークアイはやれやれと肩を竦ませる。
                「分かりました。今回及びこれから先のエドワードちゃんの視察については、
                エドワード・エルリック・・・・」
                「エドワード・マスタングだ!!
                すかさず入るロイの訂正に、ホークアイはコホンと咳払いをする。
                「ファンクラブ会長の名にかけて、阻止致しましょう。しかし、エドワードちゃんの
                国家錬金術師資格については、本人の強い意志でもありますので、返上には
                一切、手を貸しません。」
                キッとロイを見据えるホークアイに、ロイはため息をつく。
                「仕方ない。今回はそれで手を打とう。・・・・・頼んだぞ。」
                「・・・では、これから処理してきます。」
                そう言って、ホークアイは横で成り行きをビクビクとしながら見守っている
                ハボック以下、その場にいる全員を引き攣れて、建物の中へと入って行った。
                「・・・・・子供でも出来れば、話はまた違ってくるだろうな・・・・・・。」
                空を見上げながらニヤリと笑うロイの呟きは、誰の耳にも届かなかった。


                
                







                                                    完

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