Time after time 〜花舞う街で〜

 

                   後 編

 

 

                        もしも君に巡り逢えたら
                        二度と君の手を離さない・・・・・。

 

 

 

                 それは、突然起こった。
                 リオールの中心にある、旧領主の館。
                 かつて、【ジェイド・マスタング中将の反乱】の
                 舞台となったそこは、今回も、市民の立て篭もりの
                 場所となっていた。
                 ロイは、リオールに到着早々、僅か数時間で
                 反乱を無血で鎮圧し、混乱する館内を、
                 忙しく動き回っていた。そして、全ての処理を終え、
                 漸く気を緩めたロイの一瞬の隙をついて、
                 柱の陰からロイに向かってナイフで斬りつける者がいた。
                 「ぐっ・・・・・。」
                 ロイは、自分を指した男を睨みつめると、男を足払いを
                 かけ、首筋に手刀を当てて気絶させた。
                 「くそっ・・・・。」
                 刺された脇腹に手を当てて、ロイは何とか意識を
                 保とうとするが、だんだんと霞みかかった思考に、
                 頭を振りながら、壁に手をついて、そのままずるずると
                 床に倒れこんだ。
                 崩れ落ちるロイに、最初に気づいたのは、常に隣を
                 守っていたホークアイだった。倒れた上官とその近くで
                 真っ赤に染まったナイフを持って気絶する男に、ホークアイは
                 一瞬で状況を悟ると、慌ててロイに駆け寄った。
                 「大佐!!」
                 慌てて助け起こそうとするホークアイは、ロイの軍服が
                 徐々に真っ赤に染まっていく事に気づき、悲鳴を上げる。
                 「しっかりしてください!!大佐!!」
                 ホークアイは、ロイの身体を横たえると、ボタンを
                 外し、急いで止血をする。
                 見る見るうちに青ざめていくロイに、半分パニック状態に
                 なったホークアイは、震える声で、ハボックを呼ぶ。
                 「ジャン!ジャン!早く来て!!大佐が!!」
                 ホークアイの絶叫に気づいたハボックが、慌てて
                 2人に駆け寄る。
                 「どうした!!」
                 泣きじゃくるホークアイに、ハボックは、肩肘をついて、
                 ホークアイの頬を二・三発叩くと、両肩に手を置いた。
                 「しっかりしろ!!あの時とは違う!俺達は無力な子ども
                 なんかじゃない!!」
                 その言葉に、漸く我に返ったホークアイに、ハボックは
                 微笑むと、直ぐにロイに声をかける。
                 「大佐!しっかりして下さい!!今、病院に!!」
                 そのまま病院へ受け入れの指示を出そうと、立ち上がろうと
                 するハボックの腕を、ロイの手が掴んだ。
                 「大佐?!」
                 驚くハボックに、ロイは意識が朦朧となりながらも、首を
                 横に振った。
                 「病院は・・・・いい・・・・・。」
                 「何言ってるんですかっ!!いくら、急所が外れているからと
                 言っても、大量の出血をしているんですよ!!早く
                 病院へ行かないと!!」
                 怒鳴るハボックに、ロイは弱々しく微笑んだ。
                 「病院よりも、先に行くところがある・・・・・。」
                 「大佐!!何を言っているんですか!!」
                 半分泣きながら、ホークアイは、ロイを叱咤する。
                 「エ・・・・エディのとこ・・・ろ・・・へ・・・・・。」
                 ハボックは、自分の腕を掴んでいるロイの手を外す。
                 「病院で手術し終わったら、いくらでも会えます!
                 とにかく、急いで・・・・・。」
                 「それでは、遅いんだっ!!!」
                 ハボックの言葉を遮り、ロイは脂汗を流しながら、鋭い
                 視線で一喝する。
                 「!!」
                 息を飲むハボックに、ロイはふと悲しそうな顔をすると、
                 縋るように、ハボックの腕を掴む。
                 「明日・・・・エディはアーチャーと婚約させられる。
                 そうなる前に・・・私は彼・・・女に・・・・結婚を・・・・
                 申し込みたいんだ・・・・。頼む・・・。私をエディの・・・・
                 ところへ・・・・。ゴホッ・・・。」
                 急に咳き込むと、ロイは口から大量の血を流し、そのまま
                 意識を失った。
                 「大佐!!大佐ーっ!!」
                 ホークアイの絶叫が室内に響き渡る。奇しくもそこは、
                 13年前、ジェイド・マスタングが、命を落とした場所だった。







                 「・・・・そんな・・・。ロイ兄様が・・・・。重症・・・?」
                 無理矢理参加させられた、自分の誕生パーティの
                 途中にもたらされた一報に、ショックでエドは自分で
                 立つことが出来ず、ふらふらとその場に崩れ落ちそうに
                 なるのを、横に控えていたマリア・ロス少尉が
                 慌てて支える。
                 「しっかりして下さい!エルリック中佐!!」
                 焦点が合っていないエドを、ロス少尉はガクガクと
                 揺さぶった。
                 「・・・ご・・ごめんなさい。ロス少尉。」
                 ハッと我に返ったエドは、慌てて身を起こすと、報告を
                 した兵士に縋るように尋ねる。
                 「それで、ロイ兄様・・・いえ、マスタング大佐は、どこの
                 病院に?容態は?助かるの?」
                 半分涙目になりながら、必死の様子のエドに、兵士は
                 口ごもる。
                 「マスタング大佐は・・・・その・・・・・。」
                 何と答えていいか分からず、兵士が口ごもっていると、
                 中央の舞台に上がったホーエンハイム・エルリック副総統が、
                 ワインを片手に、良く響く声で愛娘を呼ぶ。
                 「エドワード・エルリック、こちらへ来なさい。」
                 その言葉に、エドはピクリと身体を震わせるが、深い息を
                 吐くと、ゆっくりと舞台へと向かった。
                 今日のエドワードの服装は、紅いカクテルドレスで、
                 華美な装飾は一切排除したシンプルな作りになっているが、
                 それがかえってエドワードの美しさを全面に押し出していた。
                 舞台下には、不敵な笑みを浮かべた、タキシード姿の
                 アーチャー中佐が、階段下でエドをエスコートしようと手を
                 差し伸べるが、エドはそれを無視して、一人で舞台へと上がる。
                 青ざめながらも、毅然とした表情のエドに、ホーエンハイムは
                 満足そうに頷くと、エドの肩を抱きながら、会場を見渡す。
                 「今日は、我が娘、エドワードの誕生日を祝いに駆けつけて
                 くれて本当にありがとう。この場を借りて、お礼を言わせて
                 もらう。本当にありがとう。さて、我が娘も早いもので、今日で
                 20歳を無事迎える事が出来た。そこで、今日この場で
                 娘の婚約者を紹介しようと思っていた。しかし、肝心の
                 婚約者が、今だ来ないので、もう暫く待っていて欲しい。」
                 その言葉に、エドは驚いて傍らの父親の横顔を凝視
                 する。そして、アーチャーとエドが婚約すると思っていた
                 人々も、皆訳が分からず、会場内ではざわめきが起こった。
                 「お待ち下さい!副総統。婚約者は、私のはずではっ!!」
                 怒り心頭のアーチャーに、ホーエンハイムは、チラリと一瞥
                 する。
                 「アーチャー中佐。いつ、私は君を娘の婚約者と、認めたの
                 かね?」
                 「は?何を・・・・。一ヶ月前にエドワード様との結婚を申し込み
                 に行った時に、確かに副総統はおっしゃいました!
                 娘の20歳の誕生パーティに婚約を発表すると!!」
                 自信満々に言い切ったアーチャーに、ホーエンハイムは
                 溜息をつく。
                 「確かに、私はそう言った。だが、その婚約を、君とエドの婚約だとは、
                 言っていないはずだが?」
                 その言葉に、エドはハッと顔を上げる。アーチャーが婚約者気取りで
                 エドに纏わり付いていたので、思い込んでいたのだが、確かに
                 ホーエンハイムは、20歳の誕生パーティの時に婚約を発表する
                 とは言ったが、一言も相手がアーチャー中佐だとは言って
                 いなかった事に気がついた。
                 「そんな馬鹿な!!」
                 直も食って掛かろうとするアーチャーに、今度はどこにいたのか、
                 舞台に上ったキング・ブラットレイ大総統が、ホーエンハイムの
                 援護をする。
                 「エドワード中佐が20歳の誕生パーティの時に、婚約を発表する
                 のは、随分前からの決定事項なのだよ。つまり、君の勘違い
                 だな。アーチャー中佐。」
                 軍のトップ2人から言われ、アーチャーは、悔しさのあまり、
                 唇を噛み締めると、無言で会場を出て行った。まるで水を
                 打ったかのように、静まり返った会場に、気まずい空気が
                 流れ始めた頃、荒々しく開け放たれた扉に、会場の視線が
                 全て集中する。
                 「ロイ兄様!!」
                 そこには、ハボックに肩を借りて、紅い血も生々しい軍服を
                 着たロイ・マスタングが、厳しい表情で立っていた。
                 「マスタング大佐、こちらへ。」
                 重々しく入室を促す大総統の言葉に、ロイはハボックの肩
                 から手を外すと、しっかりとした足取りで、ゆっくりと舞台の
                 方へと近づく。
                 「ロイ兄様!!」
                 涙を流しながら、ロイの元へ駆け寄ろうとしたエドを、
                 ホーエンハイムが引き止めるように、エドの肩を抱く。
                 抗議しようとホーエンハイムを振り向いたエドだったが、
                 いつにないホーエンハイムの厳しい顔に、エドは大人しく
                 なると、黙ってロイを心配そうに見つめた。
                 「マスタング大佐、リオール制圧、ご苦労だった。」
                 大総統のねぎらいの言葉に、ロイは敬礼で応える。
                 「その事について、新たなる事実が発覚いたしました事を、
                 大総統にご報告申し上げます。」
                 そのロイの言葉に一番早く反応したのは、軍ナンバー3の
                 権力を持つ、グラン大将だった。
                 「マスタング大佐、場所を弁えろ!!」
                 だが、そんなグラン大将の言葉を、大総統が遮る。
                 「構わん。続けたまえ、マスタング大佐。」
                 ロイは敬礼すると、扉に佇んでいるハボックに、合図を
                 送る。それに気づいたハボックは、扉の外から縄に
                 繋がれた1人の男を連れて、ロイの後ろに立つ。
                 「この男が、今回の反乱を計画した男です。名前を
                 ヨキ。半年ほど前まで、グラン大将の元にいた者です。」
                 ロイの言葉に、サッと顔を青ざめる。
                 その様子を、チラリと横目で見ながら、ロイは言葉を
                 繋げる。
                 「今回の反乱は、実は反乱に見せかけて、13年前の
                 事件の証拠を消滅させようとしたものだった事が判明
                 しました。」
                 13年前というキーワードに、再び会場がざわめき始めた。
                 13年前、ロイの父親であるジェイド・マスタング中将が、
                 リオールの町に立て篭もり、反乱を起こした事は、
                 今だ人々の記憶にはっきりと息づいていた。
                 「そして、混乱に乗じて、ロイ・マスタング大佐の暗殺
                 も、この男は自供しました。」
                 ハボックは、敬礼をしながら、自分の前に、犯人の
                 男を差し出す。
                 「ゆ・・許して下さい!!オレはただ、命じられただけなんです!!」
                 涙を流しながら、懇願するヨキに、大総統は、鋭い視線を向ける。
                 「一体、誰に頼まれた!!」
                 「ひぃぃぃぃいい。グラン大将です!!」
                 大総統の問いに、ヨキは竦み上がって、つい口を滑らした。
                 ヨキの言葉に、その場にいた全員の目がグラン大将に
                 注がれる。
                 「わしは知らんぞ!!気分が悪い。これで失礼させて
                 もらう!!」
                 他人を突き飛ばす勢いで、慌てて扉へ向かおうとするグラン
                 大将の後姿に、ロイが言葉を投げかける。
                 「・・・・13年前、あなたは、偶然にリオールで金脈を発見した。」
                 ロイの言葉に、グラン大将の足が止まった。
                 「当時、あなたはまだ准将の位だったが、出世の為に
                 金が必要だったあなたは、見つけた金脈を軍に報告せずに、
                 そのまま自分のものとした。だが、その事に気づいたジェイド
                 中将を暗殺をするために、あなたは、ジェイド中将の反乱を
                 でっち上げた。」
                 ロイの言葉に、会場内が重苦しい雰囲気に包まれる。
                 人々の非難する目を受けて、グラン大将は、みっともないくらいに
                 うろたえた。
                 「ど・・ど・・・どこに証拠がある!」
                 「証拠ならここに・・・・・。」
                 会場内の視線が、声のする方を一斉に振り返った。
                 ロイの副官である、リザ・ホークアイが、いつも以上に
                 厳しい顔で会場内に入ってきた。
                 「ホークアイ中尉、証拠とは?」
                 大総統の言葉に、ホークアイは手にした手帳を大総統に
                 見せる。
                 「これは、13年前に不穏分子として殺された、リオール
                 前領主、ハインリッヒが、グラン大将の悪事を詳細に
                 調べ上げ記録した手帳です。」
                 ホークアイは、鋭い視線をグラン大将へ向ける。
                 「そして、私自身が生き証人です。13年前、あの館で
                 何が起こったのか。全て見ました。」
                 グラン大将を見据えるホークアイ中尉の顔を、じっと見て、
                 グラン大将は、あっと声を上げる。
                 「・・・お前は、まさか、マーゴットか!?ハインリッヒの
                 娘の!!」
                 震える指でホークアイを指すグラン大将から、ホークアイを
                 守るように、ジャン・ハボックがその間に立ちはだかる。
                 「マーゴットだけではない。オレもその場にいたから、全て
                 知っている。お前がいかに卑怯な男だということを!!」
                 ハボックの本気の怒りを受けて、グラン大将は、首を横に
                 振りながら、大総統に訴える。
                 「大総統!陰謀です。私は罠に嵌められたのです!!」
                 だが、その懇願もホーエンハイムの言葉が遮る。
                 「陰謀を企てたのは、お前だろう?グラン大将。13年前、
                 お前はジェイドを殺したと安心していただろうが、実は
                 私が駆けつけた時は、まだ息があったのだ。」
                 その言葉に、グラン大将は驚きに目を見張る。
                 「ジェイドから全て聞いた。だから私達は、お前を暫く
                 泳がせたのだよ。」
                 「私達だと・・・・?」
                 複数形に、グラン大将の眉が顰められる。
                 だが、その疑問に答えたのは、今だ鋭い眼光をたたえた、
                 大総統だった。
                 「全て私の指示だよ。グラン大将。これでもう言い逃れは
                 出来んな。おい、この男を連れて行け!!」
                 大総統は、部下にグラン大将を逮捕させると、穏やかな
                 笑みで、ロイを見つめた。
                 「マスタング大佐・・・いや、ロイ、よくやったな。おめでとう。」
                 ロイは一瞬泣きそうな顔になるが、ふと笑みを浮かべて、
                 首を横に振った。
                 「全て、大総統・・・いえ、伯父上の影の援助があったからです。」
                 「伯父上!?」
                 ロイの言葉に、エドは思わず驚きの声を上げる。その声に、
                 ロイと大総統の両方から視線を受けて、恥ずかしくなって、
                 エドは真っ赤な顔で俯いた。そんなエドに、大総統は、カッカッカッと
                 笑いながら、説明する。
                 「ああ、エドワードちゃんは知らなかったんだね。私の末の妹の
                 子どもが、ロイなんだよ。」
                 「そ・・・そうだったんだ・・・・。」
                 それで、エドは長年疑問に思っていた事を、納得した。
                 反乱分子とされた男を父親に持つロイが、何故軍に居続ける事が
                 出来たのか、ずっと疑問に思っていたのだった。
                 「ただし、ロイの階級は、彼の実力だよ。」
                 大総統の甥だからこの地位にいる訳ではないと言う、大総統に、
                 エドはクスクス笑いながら頷く。勿論、そんな事を言われなくても、
                 ロイがいかに優秀な人材であるのかは、ずっとロイを見続けていた
                 エドには、十分分かっている。
                 「さて、では途中になっていた、エドの婚約発表を・・・・・。」
                 和やかな雰囲気の中、ふと思い出したかのように言い出す
                 ホーエンハイムの言葉に、会場内が一斉に緊張する。
                 アーチャー中佐でなければ、一体誰がエドワードの婚約者
                 なのか、と会場内が固唾を呑んで見守る中、ふいに、
                 ロイの固い声が、ホーエンハイムの言葉を遮る。
                 「ホーエンハイム副総統に申し上げます。」
                 「何かな?マスタング大佐。」
                 強張った顔のロイに、ホーエンハイムはニヤリと人の悪い
                 笑みを浮かべる。
                 「国軍大佐としてではなく、ロイ・マスタング個人としての
                 発言をすることを許して下さいますでしょうか?」
                 「良かろう。言ってみなさい。ロイ君。」
                 頷くホーエンハイムに、ロイはキッとホーエンハイムに鋭い
                 視線を送る。
                 「今から15年前の約束を、今ここで果たして頂きたい。」
                 その言葉に、エドは嬉しそうに微笑む。だが、ホーエンハイムは
                 すっとぼけたような声で楽しそうにロイに言った。
                 「15年前の約束?」
                 その言葉に、カッとなったロイは思わず叫んだ。
                 「ふざけないで下さい!!15年前、エディの20歳の誕生日を
                 迎える前に、私が大佐の地位につけば、エディとの結婚を
                 認めてくれると、あなたはおっしゃったではないですかっ!!」
                 普段のロイからは、想像も出来ないくらい己の感情を顕に
                 する姿を見て、人々は、呆気に取られた。静まり返る会場に、
                 大総統の笑い声が響いて、漸く人々は金縛りが解けたように、
                 息を吐いた。
                 「はっはっはっ。そんなに心配せんでも、エドワードちゃんの
                 婚約者は、お前だよ。ロイ。」
                 「は?ですが、アーチャー中佐だと・・・・・。」
                 訳が分からずロイがホーエンハイムを見ると、半分涙目に
                 なりながら、ハハハハ・・・と大爆笑している。
                 そこで、ロイは困惑気味にエドを見るが、エド自身、何が
                 どうなっているのか分からず、困ったように首を横に振った。
                 「敵を欺く為には、まず味方からと言うだろ?エルリック中佐が
                 リオールの件を調べている事に気づいたグラン大将が、
                 エルリック中佐の動きを止めるために、アーチャー中佐を使って、
                 今回の婚約騒動を巻き起こしたのだよ。直ぐに訂正しても良かった
                 のだが、グラン大将を油断させるためにも、あえて訂正しなかった
                 のだよ。エドワードちゃんには、すまないことをしたね。」
                 謝る大総統に、エドは泣きながら首を横に振った。
                 「では、エディと私は・・・・・。」
                 茫然と呟くロイに、大総統は、大きく頷いた。
                 「婚約者同士だ。」
                 その言葉に、ロイは幸せそうな笑顔でエドを見つめると、両手を
                 広げた。
                 「エディ・・・。おいで・・・・・。」
                 「ロイ兄様!!」
                 エドは泣きながら階段を駆け下りると、ロイの胸の中に
                 飛び込んだ。
                 「うっ!!」
                 途端、呻き声を上げるロイに、エドはハッと我に返ると、
                 心配そうにロイの顔を覗き込んだ。ロイが重症を負っている
                 事を、思い出したのだ。
                 「ロイ兄様!?大丈夫?傷は!?」
                 泣きながら自分を心配するエドに、ロイは安心させるように
                 微笑んだ。
                 「大丈夫だよ。エディ。」
                 そして、そっとロイはエドの涙を指で掬い上げる。
                 「あの時、君を泣かせないと父上に誓ったのに、私は駄目な
                 男だね。いつも君を泣かせてばかりいる。君の笑顔を
                 守りたいだけなのに・・・。」
                 その言葉に、エドはポロポロ涙を流しながら、首を横に
                 振り続ける。
                 「いいの。ロイ兄様と一緒にいられるから、それでいいの。」
                 ロイは愛しそうに、エドの身体を抱きしめる。
                 「エディ・・・・。漸く抱きしめられた・・・・。」
                 漸く抱きしめる事が出来て、ロイは安心したように息を吐く。
                 恋人達の甘い抱擁に、ホーエンハイムはコホンコホンと
                 わざと咳払いをする。
                 「ロイ君。君は本当に良くやった。私の娘は、その努力に
                 見合うだけの価値を持っているのかな?」
                 ホーエンハイムの言葉に、ロイはニヤリと笑う。
                 「まさか。それ以上の価値を持っていますよ。」
                 ロイはエドに幸せそうな笑みを向けると、そっとエドの
                 顎を捉えて上を向かせる。
                 「誰よりも君を愛している。だから、私の妻になって欲しい。」
                 「ロイ兄様・・・・。」
                 泣きながら何度も頷くエドに、ロイはゆっくりと唇を重ね合わせた。
                 途端、全てを見守っていた会場内から、祝福の拍手が
                 沸き起こった。皆に祝福されている二人を遠巻きに見ながら、
                 ホーエンハイムは、穏やかに微笑むと、ワイングラス2個とワインを
                 持ってそっと会場を後にした。そして、ゆっくりとした足取りで
                 自室へと向かうと、明かりもつけずに机へと向かう。
                 「漸く、私達の夢が叶ったよ。ジェイド。」
                 月明かりの中、机の上に置かれた自分とジェイドの2人が
                 映っている写真立ての前に、ワイングラスを一つ置くと、
                 ワインを注いだ。そして、手にしたグラスにも同様にワインを
                 注ぐと、机の上に置かれたグラスに軽く触れた。
                 一気にワインを飲み干して写真を見ると、
                 写真の中のジェイドが、自分の思い通りになったと、嬉しそうに
                 言っているみたいで、ホーエンハイムは少しムッとなる。
                 「くっそおおおおおお。エドワードを絶対に嫁に出さないと
                 誓ったのに!!」
                 月が見守る中、娘を取られたホーエンハイムの絶叫が、
                 部屋の中に響き渡っていた。




                 
                 数ヵ月後、大観衆が見守る中、ロイとエドは、
                 盛大なる式を挙げた。場所は中央ではなく、
                 昔良く2人が避暑に訪れていた、リゼンブールの
                 片田舎。13年前、ロイが必ずエドを迎えにくると
                 誓った大きな桜の木がある教会で、2人は
                 結婚式を挙げることを選んだのだった。
                 「絶対に離さないよ。エディ。」
                 ロイは、誓いの口付けを終えると、幸せそうに微笑み
                 ながら自分を見上げるエドに、そっと耳元で囁いた。
                 





                 誰よりもずっと 傷付きやすい君の
                 そばにいたい今度は きっと・・・・・。

                                                 FIN






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漸く終わりました!またしても、無理矢理終わらせたっぽいですが、
何とか大団円になりました。ここまでお読みくださいまして、本当に
ありがとうございます。気に入っていただけた方で、お持ち帰りしたい
方は、BBSに一言書き込みをしてから、お持ち帰りをして下さい。