フレイム王国の王城のとある一室では、、
クマが一匹、先程からウロウロしていた。
「遅い・・・・遅すぎる!!」
クマの正体、すなわち、フレイム王国の国王、
ロイ・マスタングは、髪の毛を掻き毟りながら、
先程から何度も同じ言葉を言っては、
心配そうに、続きの部屋へ通じる扉を見つめていた。
「鬱陶しい!!」
そんな、クマ、もとい、ロイの後頭部を、容赦ない力で
殴りつけるのは、今はフルメタル王国の宰相と
なった、ジャン・ハボックと先月漸く婚約した、リザ・
ホークアイ。既に近衛隊副隊長の任を解かれた
彼女は、何時もの近衛服ではなく、身分相当のドレスに
身を包んでいた。
「先程からウロウロウロウロウロウロと!!
鬱陶しい行動は、お止め下さい!そうでなくても、
こちらもイライラしていると言うのに!!」
ゼーゼーと肩で息をするホークアイに、引き攣った
顔でロイは、平然と椅子に座っているハボックに
小声で話しかける。
「・・・・・オイ。ハボック。本当にリザでいいのか?
キャンセルは受け付けんぞ。」
「何馬鹿な事言ってるんッスか?」
呆れた顔のハボックが何か言う前に、ドタドタと荒々しい
足音と共に、バンと音を立てて、2人の人物が入ってきた。
「姉さん!姉さん!姉さん!!姉さんは大丈夫!!」
「うぉぉぉおおおお!!間に合ったか!!」
開口一番、騒ぎ出す2人に、ロイは唖然と呟く。
「アルフォンスに・・・・父上・・・・?」
惚けているロイに、2人は血走った目で詰め寄る。
「姉さんは!姉さんは大丈夫ですか!!」
「ロイ!それで、あとどれくらいなんだ!!」
2人に襟首を掴まれ、ガクガクと揺すぶられるロイを見かねた
というより、更に騒がしくなった部屋に、ホークアイの
我慢も限界を超えた。
「お静かに!今頑張っているのは、エドワードちゃん
なんです!!」
ピタリと動きが止まる2人に、ハボックが苦笑する。
「アル〜。そんなに心配しなくても、姫さんは、大丈夫だ。
ところで、お前執務はどうした?」
その言葉に、アルは赤くなる。
「ご・・・・ごめんなさい・・・・。姉さんが心配で、仕事を
即効片付けて、来てしまいました。」
アルの言葉に、ホークアイは感心したように、頷く。
「流石は、一国の王。ご立派ですわ。どこかの無能に
爪の垢でも煎じて飲ませたいものです。」
ギロリとホークアイは、ロイを睨みつける。ここ数ヶ月の
間、ロイはエドにベッタリで、仕事を山のように溜めて
おり、そのあまりの量に、臣下全員から、ホークアイは、
ハボックの元へ嫁ぐのを少し遅らせて、ロイに仕事を
させて欲しいと、懇願されたのだった。その事もあり、
ホークアイのロイの見る眼はいつも以上に厳しい。
そんなホークアイの殺気に、ロイは冷や汗を掻きつつ、
身の安全の為、話を逸らそうと、父親に話しかける。
「ところで・・・・世界一周旅行をしているはずの父上が、
何故ここに・・・・?」
「何を言う!私の初孫の誕生に駆けつけなくて、
どうする!!」
きっと私に似て、可愛い子が生まれるに決まっている!と、
踏ん反り返って言うブラッドレイに、ロイは苦笑する。
「ありがとうございます。父上。ですが、私とエディの子供
だから可愛らしいのです。そこのところは、お間違え
ないように。」
まさか、自分と父がこんな会話をするとは、去年までは
思いもしなかった。
ロイは、ブラッドレイに負けじと、不敵な笑みを浮かべる。
「フッ。まぁ、それだけ減らず口が叩けるほど、余裕なら、
大丈夫だな。お前の事だから、妻の初めての出産で、
動揺して、クマのように、部屋の中をウロウロするしか
出来ないと思っていたが・・・・・。」
ビンゴ!!流石父親。ハボックとホークアイは同時に思った。
「ははは・・・・。」
対するロイは、乾いた笑いしか出せない。
「そうだ。セリムとリィーナから、お前たちに手紙を預かって
来たぞ。」
本当は、一緒に駆けつけたかったのだが、流石に死んだ事に
なっている身で王城に行く訳もいかず、仕方なく父親に
ロイ達への手紙を託したのだった。
「あの子達が・・・・・・。」
ロイは異母弟妹の手紙を開く。
そこには、ロイとエドを気遣った文面が書かれており、遠い空
の下から、無事に子供が生まれていくる事を祈っていると
いう言葉で終わっていた。
「・・・・・あの子達には、酷い事をした私なのに・・・・・。」
あの子達には、何の罪もないのに、自分はあの子達から
祖国を奪ってしまった。悔恨の思いに、ロイはそっと目を
伏せる。その頭を、ポンとブラッドレイは軽く叩く。
「あの子達はお前に感謝している。それに、全ての罪は
私にある。お前が気に病むことはない。それよりも、妻と
子供を守るのは、お前だけだぞ。その事だけは忘れるな。」
何度も頷くロイに、ブラッドレイは、愛しそうに、目を細める。
今まで誤解から、ロイを憎んでいたが、ロイが生まれたときは、
初めての子供で、すごく嬉しかった事を覚えている。和解から
一年。まだまだギクシャクした親子関係だが、いつかロイに、
その時の事を話せる日が来て欲しい。そう、ブラッドレイは、
心の中で思った。そんなブラッドレイの心を応援するかの
ように、元気な赤ん坊の泣き声が聞こえてきて、ロイは
慌てて立ち上がると、扉の前に立つ。
みんなが、固唾を飲んで見守る中、ゆっくりと扉が開かれ、
中から、エドを取り上げたというピナコ・ロックベル助産婦と共に
その孫娘である、ウィンリィが泣きながら姿を現す。
その様子に、誰もが最悪の事態を想像し、固まってしまう。
「エディ・・・は・・・?子供は・・・・・・。」
どうか無事でいてくれと、祈りにも似た思いで、ロイは口を
開く。
「母子共に健康だ。おめでとう。マスタング国王陛下。
お世継ぎ誕生だよ。」
その言葉に、ロイは慌てて部屋の中へと駆け込む。
その姿に、ピナコとウィンリィは、クスリと笑うと、
邪魔をしないように、扉を閉める。
「ちょ!ウィンリィ!!紛らわしい事しないでよ!!」
焦ったじゃないかー!!と、アルは泣きながら、ウィンリィに
詰め寄ると、ウィンリィも負けじと言い返す。
「うっさい!感動して何が悪いのよ!!」
ギャアギャア騒ぎ出すウィンリィを、微笑ましく見つめている
ホークアイの肩を、いつの間に近づいたのか、ハボックが
引き寄せる。
「リザ。親になるって、いいもんだな。」
俺も早く欲しいと耳元で囁くハボックに、ホークアイは真っ赤に
なる。そんな初々しいホークアイに、ハボックは微笑むと、次に
ロイが入っていった、扉を見る。
”だが、その前に、あの陛下のお守りがあるんだよな・・・・。”
まだまだ結婚に前途多難なハボックは、内心溜息をついた。
「エディ!!」
無我夢中で、部屋の中に入ったロイは、目の前の光景に、
驚いて、立ち止まる。
「ロ・・・・イ・・・・?」
ロイは子供を産む事が、いかに大変であるのか、頭では
分かっていたが、実際目にするエドの様子に、まるで鈍器で
殴られたようなショックを受け、恐る恐る近づく。
「エディ・・・・。ありがとう・・・・・。」
ロイは、流れる涙を拭う事をせずに、エドの手を握り締めると、
その手の甲に、何度も口付けをする。
「・・・・・赤ちゃん・・・・・。」
ロイは、エドに促されて、エドの傍らで、スヤスヤと眠っている
我が子の額に、ゆっくりと口付ける。黒髪にエドに良く似た
顔立ちに、ロイの心は、我が子への愛情で一杯になる。
「なんて・・・・愛しい子なんだ・・・・・。」
エドの妊娠は判って、とても喜んだロイだったが、だんだんと
大きくなるエドのお腹に、ロイは一抹の不安を覚えていた。
両親から愛情を受けられなかった自分。
その自分が、子供を愛せるのか。
父親として、どう子供に接すれば良いか、ロイは嬉しさと同時に
不安だった。
いつものように、そっとエドの大きなお腹に耳を当てて、子供の
心音を聞きながら、そう呟くロイに、エドは穏やかな笑みを
浮かべて、優しくロイの頭を撫でる。
「最初から完璧な親なんていない。大丈夫。俺とロイなら
2人で乗り越えられるから。」
そう言ったエドの顔は、既に母親の顔で、ロイは、守るべき人に、
反対に、守られている己を恥じた。そして、そんなロイに、
さらにエドは笑う。
「俺が母親の顔になれたのは、ロイが俺を、そして、この子を
愛してくれているから。」
エドは、愛しそうに自分のお腹を摩る。
「ロイの想いが俺に力をくれるんだ。」
はにかんだ笑みを向けるエドに、ロイは感極まって、エドを
抱きしめる。
「愛してる。君を愛して良かった・・・・。」
その時に改めてロイは誓ったのだ。絶対に妻と子供を守ると。
そして、誰よりも幸せにしようと。
その事を思い出しながら、ロイはおずおずと我が子に手を
伸ばす。プクリとした頬に、知らず笑みを浮かべる。
エドワード以外に、こんなにも愛しい存在があったなんて
と、ロイの中で今までの不安が嘘のように消えていく。
ロイは、我が子から、嬉しそうにエドに視線を移す。
「エディ・・・・・。こんな可愛い子を産んでくれてありがとう。」
「ロイ・・・・・。」
嬉しそうなエドを、ゆっくりと抱きしめる。
「幸せだよ。エディ。愛してる。」
「俺も・・・・ロイ・・・・・。」
2人は、微笑み合うと、ゆっくりと唇を重ね合わせた。
「陛下!いい加減に、祝日を増やすのをお止め下さい!!」
こめかみに青筋を立てて怒るのは、ハボックとの挙式を
一週間後に控えたホークアイ。
「何を言う!我が子の記念日を作るのは、親として当然の事だ!!」
対するのは、国一番の権力者、ロイ。彼の手には、祝日制定の
草案が、辞書並みの厚さで、鎮座している。
「ものには限度があります!!何ですか、この【笑顔の日】と
言うのは!!」
ホークアイが、草案の中から一枚抜き取ると、バンとロイの目の前に
突きつける。
「その日は、カイルが私達に、初めて笑いかけてくれたのだよ!
産まれて間もないというのに、既に私とエディが自分の親だと
判っているんだな。一番先に私とエディに笑いかけてくれて
だね・・・・・。」
”そりゃあ、他人を寄せ付けないで、一日中子供にベッタリ
してたら、一番先に笑いかけてくれもするさ。”
我が子は天才だ!!と騒ぐロイを、ホークアイに逢いに来た
ハボックは、内心ツッコミを入れる。
ハボックは、2人の言い争いをのんびりと眺めながら、すっかり
醒めてしまったコーヒーを飲む。その間も、2人の言い争いは
ヒートアップする。
「大体、こういう記念日は、家庭内でお祝いすればいいだけの
話です。何故国民まで巻き込みますか!!見て下さい!
このままでいくと、毎日が記念日で祝日になってしまいます!!」
この書類は大却下です!!と書類を突っぱねるホークアイに、
ロイは、ホークアイの怒りを煽るかのように、ウンウンと頷く。
「毎日が新しい発見なのだよ。本当に、子供というのは、見ていて
飽きない。いや!ずっと見つめていたい!!」
”ストーカーですか、アンタは・・・・。”
力説するロイに、ハボックはまたしても、心の中でツッコミを
入れる。
「・・・・・つまり、陛下が祝日を増やすのに、一生懸命なのは、
ご家族と離れたくないと・・・・・仕事などしたくない・・・と、こう
おっしゃられるのですね?」
「勿論だとも!!」
胸を張るロイに、久々のホークアイによる教育的指導が、
炸裂したのは、言うまでもない。
「・・・・・なぁ。こんな男と結婚して、幸せなのか?エド?」
床に撃沈しているロイを、横目で見ながら、隣で子供を
あやしているエドに確認する。
「俺?とっても幸せ〜!!」
ねーと、我が子に笑いかけるエドに、ハボックは内心
この馬鹿ップル!とツッコミを入れつつも、妹分の幸せそうな
様子に、嬉しそうにエドの頭を撫でる。
「良かったな。エド。ところで、こっちにも幸せ分けて
くんないか?」
「ほにゃ?今ジャン兄、幸せじゃないの?」
キョトンと首を傾げるエドに、ハボックは、げんなりとロイの
後ろに積んである未処理の書類の山を見る。
「あと一週間で、あれが終わると思うか?」
これ以上、ホークアイとの結婚が延期になるのは嫌だと、
ぼやくハボックに、エドはアハハハ・・・と乾いた笑いをする。
「でも・・・・リザ姉さま、あと一週間で結婚しちゃうんだよね・・・。」
折角仲良くなれたのに、もう直ぐ別れなければならない事に、
おめでたい事とはいえ、エドは少し寂しかった。
「では、明後日から、私と一緒にフルメタル王国へ里帰りを
しましょう!カイル殿下も一緒に。アルフォンス陛下もウィンリィ
ちゃんも、エドちゃんとカイル殿下に会いたがっているわ!
それに、ちょうど私たちの結婚式に出席する為に、ブラッドレイ
様達も滞在なされるし・・・・1ヶ月とか2ヶ月ほど、実家でのんびりと
過ごしましょう!」
エドがシュンとなっている事に気づいたホークアイは、ロイとの
空しい攻防戦を一方的に打ち切ると、エドに話しかける。
それに慌てたのは、ロイだった。
「ちょっと待て!いくら何でも私が1ヶ月や2ヶ月も国を離れるなど
不可能だ!」
「・・・・・誰が、陛下まで来ても良いと言いましたか?」
ギロリンとホークアイは、ロイを睨む。
「リ・・・・リザ・・・・?」
ホークアイの殺気に、ロイの背筋が凍る。
「私は、エドちゃんとカイル殿下だけを誘っているのです。
陛下は、ここで大人しく、仕事を片付けて下さい。」
仕事が終わるまで、家族との接触を禁じられ、ロイは
顔を青褪める。
「待ってくれ!私からエディとカイルを引き離すつもりかっ!!
それは父上の差し金か!?そうなんだな!!」
これは、陰謀だ!と騒ぎ出すロイに、ホークアイは、壮絶な笑みを
浮かべる。
「陰謀!?いいえ!これは、陛下の自業自得です!!」
「エディ〜!!」
口でホークアイに勝てないロイは、エドに助けを求めようと、
愛する妻を見るが、肝心のエドは、ハボックと仲良く談笑して
いた。
「そういやあ、小さい頃、エドと親しかった、グリフォン伯爵の長男が
いただろ。アレクシス・グリフォン。確か、エドより一つ上だったか?」
「アレク?アレクがどうしたの?」
ニコニコと笑うエドとは対称的に、エドと親しかった男と聞いて、
ロイの顔が強張る。そんなロイの様子に、ホークアイは横目で
見ながら、クスリと笑う。本当に、なんとこの男は人間らしく
なったのかと、ホークアイは嬉しさを隠し切れない。
ロイが嫉妬の為、機嫌を下降していく姿に、ハボックは内心
ニヤリと笑いながら、さらにロイの感情を煽る事を言う。
「今度、当主になるらしいぜ。で、その姿を是非エドにも
見てもらいたいとか言っていたなぁ・・・・。そうそう、この間も、
昔エドと一緒に遊んでた、ダーヴィス男爵の次男なんて、
もう一度エドに逢いたいとか言っていたぞ。もしも、エドが
里帰りしたら、あの時のメンバーを集めてみるのもいいかもな。」
怒りの為、ブルブル震えるロイに、ホークアイは、更に追い討ちを
かけるように、ポツリと呟く。
「ジャンの話ですと、フルメタル王国には、未だにエドワード姫
親衛隊といものの勢力は失われていないとか・・・・・。先程、
ジャンが挙げた名前は、親衛隊の幹部の名前ですね。」
バキバキバキと音を立てて、ロイの手の中にあるペンが
壊れる。
「エディは、私の妻だ!!」
叫ぶロイに、ホークアイはニッコリと微笑む。
「今日中に全部書類を処理していただければ、今回のエドちゃんの
里帰りに同行しても構いません。」
「本当だな!!」
血走った目のロイに、ホークアイは、大きく頷く。
「ただし!一枚でも残っていたら、エドちゃんとカイル殿下は、
浚っていきますから!」
「そんな事は、絶対にさせん!!」
血走った目で、ロイは次々と書類を捌いていく。そんなロイに、
満足そうな笑みを浮かべると、ホークアイは、婚約者をチラリと
見る。
「じゃ、エド、陛下の見張りを頼むな。」
ハボックは、心得たようにホークアイに微笑みかけると、ポンと
エドの肩を叩いて、椅子から立ち上がった。
「では、また後でね。」
ハボックに促されて、ホークアイはエドに手を振りながら、執務室を
出て行く。
「これで、大丈夫だと思うわ。」
部屋を出た途端、クスリと笑うホークアイに、ハボックもそうだったら
いいですね・・・と、ガックリと肩を落とす。
「ジャン?」
何か心配事?と首を傾げるホークアイに、ハボックは苦笑する。
「いえ・・・ただ、ここまで来るのに、凄まじいまでのマスタング王の
妨害がありまして・・・・素直に喜べないんですよ。」
はぁ・・・と、ハボックは溜息をつく。不可抗力とは言え、今だロイは、
ハボックとエドが婚約していたのが許せないらしい。おまけに、
エドがハボックを「ジャン兄」と言って、慕っているのも、さらに
ロイの嫉妬心を煽っていた。何だかんだ言っては、ハボックと
ホークアイの結婚を邪魔していたりする。もっとも、その数百倍、
ホークアイから仕返しを受けているが。
「大丈夫よ。エドワードちゃんが協力してくれるから。」
クスクス笑うホークアイに、ハボックは、呆気に取られた顔をする。
「では、行きましょうか?ジャン?」
にっこりと微笑むホークアイに、ハボックは、安堵したように
微笑むと、ホークアイの手を取る。
エドとホークアイの最強タッグの前には、流石のロイも降参せざるを
えない。そこで、漸くハボックは安心する。
「幸せにします。リザ。」
「私も、あなたを幸せにするわ。ジャン。」
もう既に、2人の頭の中に、扉を挟んだ向こう側にいる馬鹿ップルの
事などなかった。あるのは、お互いの事だけ。2人は幸せそうに
微笑むと、ゆっくりと歩き出した。
「ロイ?そろそろ休憩する?」
「パ〜パ〜。パ〜パ〜。」
息子を抱いたまま、エドは、一心不乱にサインを書き殴っている
ロイに近づく。息子のカイルは、大好きな父親に手を伸ばして、
キャラキャラと笑っていた。その様子に、ロイは幸せそうに微笑むと、
ペンを置いて、息子をエドから受け取る。
「ああ、すまなかったね。エディ。」
ロイは、椅子から立ち上がると、エドを促して、お茶の準備が
整っているテーブルへと歩き出す。
「パ〜パ〜。あ〜ん。」
席について、エドが差し出したクッキーを、ロイが受け取る前に、
カイルは掴むと、ロイの口に押し付ける。どうやら、ロイに食べさせた
いらしい。そんなカイルの様子に、ロイは破顔すると、口を大きく開ける。
「おいしいよ〜。」
ニッコリと微笑むロイに、カイルは上機嫌だ。エドに顔を向けて、
ニコニコ笑っている。
「良かったね〜。カイル〜。」
エドは、カイルの頭を撫でると、にっこりとロイに微笑む。
暫くお茶を楽しんでいたエドは、ふとロイに尋ねる。
「ところで、仕事は終わりそう?」
「勿論だとも!!君とカイルの為だ!!今日中に終わらせる!」
フフフと不敵な笑みを浮かべるロイに、エドはシュンとなる。
「でも・・・あんまり、無理すんなよな・・・・。」
「エディ・・・・・。無理などしていないよ。君とカイルが、私を
癒してくれるのだから・・・・・。」
ロイは、カイルを抱いている手を左から右に移すと、空いた
右手でエドを引き寄せ口付ける。
「愛しているよ。エディ・・・・・。」
蕩けるような笑みを浮かべるロイに、エドは少し寂しそうな顔で
俯く。
「エディ!?」
愛妻の沈んだ様子に、オロオロするロイに、エドはポツリと呟いた。
「ねぇ・・・・。本当に、リザ姉様のこと・・・いいの・・・?」
「な・・・何を言い出すんだ!!エディ!!」
驚くロイに、エドは、一筋の涙を流しながら、小さく呟いた。
「だって・・・・何だかんだ言って、ジャン兄とリザ姉様の結婚を
邪魔しているし・・・・・。」
ウルルンと涙で潤んだ瞳でエドに見つめられ、ロイは慌てた。
「邪魔などしていないぞ!むしろ、推奨しているくらいだ!!」
実際、嫉妬からハボックを苛めていたロイだったが、最近になって、
ホークアイが居ない方が、エドとカイルを独り占めできる事に
気づいたロイは、さっさとホークアイとハボックをくっ付けてしまえと
ばかりに、積極的に協力をし始めた。お陰で、漸くハボックと
ホークアイの結婚の日取りがトントン拍子に決まったのであった。
「ロイが仕事を溜めるのは、リザ姉様に構って欲しくて、業と
かと思ってた・・・・・・・。」
恥ずかしそうに俯くエドの可愛らしさに、メロメロ状態だが、エドの
言葉の内容に、ロイは顔を青褪める。
「誤解だ!それは違うぞ!エディ!!私が常に構って欲しいのは、
エディ!君だけだ!!」
ギュッとエドの身体を抱きしめるロイに、エドは気づかれないように、
コッソリ微笑む。
「本当?邪魔じゃない?」
心配そうな口調に、ロイはコロリと騙される。
「邪魔な訳ないだろ!!むしろ、私の側から例え一瞬でも、
離れたりしたら、それだけで、私は病気になってしまうよ・・・・・。」
悲しそうな声のロイに、エドは優しく微笑むと、ギュッとロイの身体に
腕を回す。
「だったら、約束して。就業時間内に、仕事をちゃんと終わらせて。
夜遅くまでお仕事しないで・・・・・。ロイが病気になったら・・・俺、
悲しいよ・・・・・。」
その言葉に、ロイはハッと顔を上げると、心配そうなエドと、
母親の雰囲気に飲まれたのか、悲しそうなカイルの顔があり、
ロイは妻子を、力強く抱きしめた。
「大丈夫だ。これからは、絶対に仕事を溜めない。早く仕事を
終わらせて、お前たちの側にいる。」
「約束だからな!破ったら、カイルと一緒に実家に帰る!!」
そのエドの宣言に、ロイはギョッとなった。
「破らない!絶対に破らないから、実家にだけは!!」
焦るロイに、エドは頬を紅く染めて、そっとロイの額に口付ける。
「信じてるから・・・・。ロイ・・・・。」
「エディ!!」
ロイは、エドに素早く口付けると、抱いているカイルをエドに
渡す。
「待っていたまえ!!直ぐに仕事を片付ける!!」
ロイは、素早く立ち上がると、今までの3倍のスピードで
仕事をこなしていく。見る見るうちになくなる書類に、エドは
茫然となって呟く。
「リザ姉様の言った通り・・・・・・。」
まさか、ここまで効果的面だとは思わなかったエドは、呆気に
取られていたが、これも全て自分の為だと思うと、少し
くすぐったくなる。残りの仕事の量と、処理するスピードを計算
しつつ、チラリと時計を見て、エドは穏やかに微笑む。
この調子なら、夕飯前に、親子で庭園を散歩できるかも知れない。
「頑張れ!ロイ!!」
エドは、小声でロイに声援を送ると、幸せそうに息子を抱きしめた。
その後、ホークアイの結婚の為、フルメタル王国へ妻子と共に
やってきたロイは、エドワード姫親衛隊の目の前で、エドが
自分のものである事を見せつけたのは、別の話。
FIN
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やっと完結です!まさか、こんなに長くなるとは思いませんでした。
ここまでお読みくださいまして、本当にありがとうございます!
バレンタイン&ホワイトデー企画のはずが、ロイエド子ラブラブシーンが
少なかったので、エピローグにその反動が来たようです。
これで、少しは皆様のご期待に添えたでしょうか?
この話をお持ち帰りする場合は、一言、BBSに書き込みをしてから
お持ち帰りして下さい。