バレンタインが、好きな人にチョコを贈る日なら、
ホワイトデーは、ただお返しする日?
等価交換に基づいているけど・・・・。
でも、1ヶ月後にお返しって、どうよ?
「それとも、1ヶ月のお試し期間って訳?」
うーんと、難しい顔でブツブツ言っているのは、
鋼の錬金術師こと、エドワード・エルリック。
洗ったばかりの髪を乾かさずに、
ただタオルを頭に載せた状態で、
ベットの上に腰を掛けている。
1ヶ月振りのイーストシティにやってきたは
いいが、アルと二人で宿を決めようと歩いていた所を、
丁度視察で街に出ていたロイにばったりと出会い、
そのままエドだけ、イーストシティでも
最高のランクのホテル、しかも、最上階のスィートルームに
ロイに連れ込まれていた。
最初は、訳がわからず抵抗したエドだったが、
ホワイトデーだからというロイの言葉に、
ああ、そうかと納得したのだった。
「でも・・・・俺達って恋人なの・・・・か・・・?」
うーんと、またもやエドは首を傾げる。
1ヶ月前のバレンタインの時、確かにロイは
エドの想いを受け取ってくれた。
しかし、次の日に直ぐエドは旅に出て行き、
1ヶ月振りにロイに会うというこの状況で、
果たして、自分達は恋人と言えるのかと
言われれば、答えはNOのような気がする。
「・・・・・お試し期間すらなってないじゃん・・。」
「何が、お試し期間なんだい?エディ?」
突然聞こえたロイの声に、エドは飛び上って
驚き、恐る恐る声のする方を見ると、
バスタオル姿のロイが、呆れたような顔で、
ドアに背を預けて佇んでいた。
「い・・・い・・・いつから!!」
「ん?『バレンタインが、好きな人にチョコを贈る日なら、
ホワイトデーは、ただお返しする日?
等価交換に基づいているけど・・・・。
でも、1ヶ月後にお返しって、どうよ?』って
辺りからかな?」
ニヤリと笑うロイに、エドは頭を抱える。
「・・・初めからかよ・・・・。黙って聞いているなんて、
趣味悪いぞ。大佐。」
真っ赤な顔で睨み付けてくるエドに、ロイは苦笑すると、
ゆっくりとエドに近づくと、エドの頭に乗っているだけの
タオルを取ると、本格的にエドの髪を丁寧に拭き始める。
「エディ。心配しなくても、私達は立派な恋人同士だよ。」
ロイの言葉に、エドの身体がピクリと反応する。
「でも・・・・。俺・・・・。」
ロイはエドの髪を拭き終わると、タオルをサイドテーブルの
上に置き、俯くエドの隣りに腰を降ろすと、そっと
華奢なエドの身体を引き寄せる。簡単に自分の胸に
身体を預けるエドに、ロイは満足げに微笑むと、
艶やかな金髪に口付ける。
「何が不安なんだ?」
ロイの言葉に、エドはポツリポツリと話し始める。
「まだ、夢を見ているみたいなんだ。」
ロイは、エドの話を聞きながら、優しくエドの髪を撫でる。
「俺、ずっとずっと大佐が好きで・・・・・。でも、
俺、ガキだし、しかも男だし・・・・。大佐に振り向いて貰える
なんて、思っていなかった。」
だって、大佐の横には、いつも美しい女の人がいた。
エドの言葉に、ロイは髪を梳くのを止め、ギュッとエドの身体を
抱き締める。
「エディ・・・。私は・・・・。」
ロイの言葉を遮るように、エドは首を横に振った。
「別に大佐を責めているんじゃないんだ。ただ、
1ヶ月前のバレンタインの時に、俺の気持ちを
大佐が受け入れてくれて、本当に嬉しかった。」
この想いは、大佐にとって迷惑でしかない。でも、
想いは捨てられなくて、1ヶ月前のバレンタインの日に、
東方司令部の面々に、日頃お世話になっているからという
言葉を隠れ蓑にチョコを贈った時、隠されたエドの心に気付き、
ロイは幸せそうに微笑んで言ったのだった。
「エディ。私も君を愛しているよ。」と。
エドは、ギュッとロイの身体に腕を回す。
「俺、あれから1ヶ月もロイから離れてたし、
もしかしたら、ロイは他の女の人と・・・・・。んっ。」
エドは、最後まで言えなかった。ロイが、荒々しく
エドの唇に、己の唇を重ね合わせたからである。
「んっ・・・。はぁ・・・。たい・・さ・・・・。」
「エディ。ロイと呼んでくれないかい?」
暫くロイはエドの唇を思う存分味わっていたが、
やがてそっと唇を離すと、悲痛な顔でエドを見る。
「ロ・・・イ・・・・・?」
潤んだ瞳で見上げながら、エドは舌足らずな口調で
ロイの名前を呼ぶ。
ロイは幸せそうな笑みを浮かべると、軽くエドの
唇を奪う。
「エディ。聞いてくれ。私は初めて会った時から、
君を愛していたんだよ。」
「え?だって・・・。」
ロイの告白に、エドは驚きに目を見張る。
「君が好きで、どうしようもなくてね。
だが、この想いは、君にとって迷惑でしかないと、
私は思っていた。だから、女性と付き合う事で、
君を忘れようとした。」
だが、出来なかったんだよ・・・。と、ロイはエドの耳元で
囁く。
「君が私にチョコを贈ってくれても、くれなくても、
私は君に告白をするつもりだったのだよ。」
「本当・・・に・・・・?」
信じられないと呟くエドに、ロイは苦笑する。
「やれやれ、どう言ったら、君は私の言葉を
信じてくれるのかい?」
「でも・・・・大佐・・・。」
ロイは、エドの唇を人差し指で制する。
「ロイ・・・だろ?」
エドは、はにかみながら、ロイと小声で
言い直す。
「良い子だ。」
ロイは満足そうに微笑むと、エドの頬に
音を立てて、キスをする。
「ロイ〜!!」
真っ赤な顔で俯くエドの身体を抱き締めると、
エドの耳元で囁く。
「君は、私の恋人だ。例え、身体は側にいなくても、
心は、いつも繋がっているんだよ。」
「・・・・・ロイ・・・・。」
だから、恋人と言えるのだと言うロイに、エドは
嬉しそうに微笑む。
そんなエドを、そっとベットに横たわらせると、
エドの身体に覆い被さろうとしたロイだったが、
ふとある事を思い出し、エドから身体を離す。
「ロ・・ロイ・・・?」
急に失せたロイの気配に、エドは心配そうに
ロイの姿を追う。
「心配するな。すぐ戻る。」
ロイはエドの頬に軽くキスを贈ると、サイドテーブルに
置いてあったキャンデーが入った小ビンを手にすると、
ベットに腰を下ろす。
「ロイ?」
エドは上半身だけ起き上がると、キャンディの包みを
開けて口に入れるロイを不思議そうに覗き込む。
そんなエドに、ロイは不敵な笑みを浮かべると、
エドの身体を引き寄せ、唇を塞ぎながら、エドを
再びベットに押し倒す。
「はっ・・・あっ・・・ロ・・イ・・・・。」
薄く開いたエドの唇を捻じ込むように、ロイは
口に入れたキャンディをエドの口の中に入れる。
「んっ・・・・。」
どうやら、レモン味のキャンディらしく、
エドの口の中に、甘酸っぱいレモンの味が広がる。
ロイは、エドの歯列を割るように舌を入れると、
エドの舌を絡ませる。
暫くエドの口内を思う存分味わっていたが、やがて
口に入れたキャンディが溶けてなくなった頃に、
漸くロイはエドの唇を解放する。
「一体・・・なん・・・なんだ・・・よぉ・・・・。」
半分涙目になりながら、自分を睨むエドに、
ロイはフッと笑う。
「何って、ホワイトデーには、キャンディは常識だろ?」
「・・・・飴会社の陰謀に乗っかってんじゃねー。」
憎まれ口を叩くエドに、ロイは大声を立てて笑った。
「おや?製菓会社の陰謀に便乗したのは、
誰だったかね?」
1ヶ月前の自分の行動の事を言われ、エドは言葉を
詰まらせる。
そんなエドに気を良くしたロイは、エドの目の前にキャンディを
翳す。
「そう、キャンディを馬鹿にするものではないよ。エディ。」
ロイは、キャンディの包みを開けると、エドの唇の上に
そっと載せる。
「これは、私のエディへの<想い>。」
真剣な表情のロイに、エドは視線を外す事が出来ない。
ロイは、フッと表情を和ませると、ゆっくりとエドの口の中に
キャンディを入れる。
「私の<想い>で、君の不安は解消され、」
ロイは、そう言いつつ、人差し指をエドの唇から喉へ、
ゆっくりと下に降ろすとピタリと胸の上で止まる。
「そして、ここは、私の<想い>で一杯になる。」
ロイの言葉通り、エドの口の中が甘酸っぱいレモンの味で
広がると同時に、心も甘酸っぱい<想い>が
広がっていく。
コクリと小さくなった飴を飲みこんだエドに、ロイは、
ゆっくりと覆い被さると、先ほどとは打って変わって、
穏やかな口付けを与える。
「いいかい。エディ。ホワイトデーは、ただのバレンタインの
【お返し】なんかではないのだよ。」
キスの合間、ロイはエドに教えこむように、ゆっくりと
囁く。
「バレンタインの<想い>に【こたえる日】。
永遠の愛を誓う日だよ。エディ。」
「永遠の・・・愛・・・・?」
キスのせいか、ぼんやりと呟くエドに、ロイは微笑む。
「永遠の愛を君に・・・・・。愛しているよ。エディ。」
「・・・俺も、ロイを愛してる・・・・。永遠に・・・・。」
二人は幸せそうに微笑み合うと、ゆっくりと一つに
重なるのだった。
FIN
**********************
補足説明:
ネットをフラフラと漂っていたら、
ホワイトデーの公式HPを見つけてしまいました。
ホワイトデーは、永遠の愛を誓う日だそうで、
これは使えると、突発的に思いついたSSです。
上杉は、ホワイトデーとは、
ただのキャンディー会社の陰謀で、バレンタインの
お返しだとばかり思っていました。
タイトルとサブタイは、ホワイトデーキャンペーンの
キャッチコピーから。
このSSは、珍しくエドが大佐にラブ!で、
告白したいけど、絶対無理!せめて
チョコだけでも贈りたいという、乙女エド
という設定。バレンタインの時に、この話の
バレンタインSSを書いてれば良かったと
思いましたが、その時は【大佐の結婚シリーズ】での
バレンタインしか思いつかなかったんですよ。
このSSは、お持ち帰りOKです。
BBSに、貰っちゃった♪と、
一言で良いので、書いてからお持ち帰りして下さい。
なお、HP等にUPする時は、上杉の作品であることを、
どこかに明記して下さい。お願いします。
感想などは、メールかBBSへ。