星 供

 

 

                「麻衣・・・・。これは、どういうことなのか?」
                呆れ顔のナルに、麻衣はあはははと笑いながら、
                上目遣いで様子を伺うが、さらにナルの機嫌が
                三割ほど増したので、がっくりと肩を落とすと、
                思いっきり頭を下げる。
                「ごめんなさい!!」
                「・・・・謝れば良いって訳じゃない。僕が聞いているのは、
                何故このような状況になったかなのですが?谷山さん?」
                にっこりと、目だけが笑っていない笑顔は、壮絶な美貌故に、
                恐ろしさのみを強調する。
                「だって・・・・・。」
                言いよどむ麻衣に、ナルは溜息をつくと、文献を片手に
                所長室へと歩き出すが、数歩もいかないうちに、その
                歩みを止める事となる。右足に突如として訪れた圧力に、
                ナルは下を見ると、全ての元凶が自分の右足にへばりついている
                状態に、深い溜息を洩らす。
                「ぱぁぱぁ〜。」
                絶対零度のナルの視線を物ともせず、さらに可愛らしくニッコリと
                笑う姿は、お嬢ちゃん、将来大物になるぞと、もしそこに坊さんこと、
                滝川がいれば、絶対に言ったであろう。だが、その場にいた人物は、
                元凶である女の子と、ナルと麻衣とバイトの安原の4人だけだった。
                「いや〜。そうしてみると、本当に親子ですねぇ〜。」
                瞬時に部屋の温度が下がった状況で、さらに温度を下げるべく
                発言したのではと、疑われるほど腹黒い、越後屋こと安原は、
                のほほんと感心したように言う。。
                「安原さん〜。こんな時に冗談止めてくださいよ〜。」
                半泣き状態の麻衣に、安原は、食えない笑顔で、ニコニコ笑い
                ながら、ですけどね・・・と、言葉を繋げる。
                「だって、これが他人ですって言われても誰も信じない程、
                お二人に良く似てるんですよ?」
                「だから、最初から言っているじゃないですか!迷子を預かった
                だけなんです!」
                もう、いい加減にしてよとばかりに、麻衣は疲れた顔で言うが、
                目の前に大好きな玩具を見せられた子供のような顔で、安原は、
                神妙な顔で頷く。
                「分かります。まだご結婚されていないから、子供がいるというのを
                隠したくなる気持ちは。ですが、子供に罪はないでしょう?
                いつ産んだんですか?さぁさぁ、正直にお兄さんに言って
                御覧なさい。」
                フフフと悪徳商人顔で微笑む安原に、麻衣はガックリと肩を
                落とす。
                「・・・・何度も言いますけど・・・・・・って、何!!」
                遠くから聞こえる地響きの音に、麻衣は驚いて入り口を振り返る。
                「あぁ、来たみたいですね♪さっき連絡しておいたんですよ。
                お祖父ちゃんに。」
                対する安原は、にこにこと笑う。
                「安原さん?」
                ギギギと首を安原に向けたのと同時に、渋谷サイキックリサーチの
                扉を壊さんばかりに、1人の男が入ってきたのは同時だった。
                「麻衣が子供を産んだって本当なのか!!!!」
                怒り心頭の自称麻衣の父親である滝川に、麻衣は、また
                話がややこしくなると、痛む頭を抱えた。
                




                「で?本当のところはどうなんだよ。ナル。」
                ジロリと子供をだっこしながら、滝川はナルを横目で睨みつける。
                「もう!さっきから言っているでしょう?駅前でこの子に服を
                掴まれちゃったの!どうやら迷子みたいだから、交番にも
                行ってみたんだけど、親からの届けがないって言うし・・・・。」
                麻衣は滝川の前にアイスコーヒーを置きながら、これまでの
                事をまた説明する。
                「だったら、交番に預ければいいじゃねーか。」
                不満そうな滝川に、出されたアイスティーを飲みながら、
                安原は滝川の疑問に答える。
                「ままぁ〜と言って、谷山さんから離れなかったらしいですよ。」
                「ままねぇ・・・・・。」
                滝川は、自分の膝の上で、上機嫌でオレンジジュースを飲んでいる
                女の子を見下ろす。
                「本当に、二人とも心当たりねぇのか?」
                また同じ質問を繰り返す滝川に、がっくしと麻衣は肩を落とす。
                「坊さん〜。」
                「でもなぁ。こんなに似てるんだぞ?」
                滝川は、優雅に紅茶を飲んでいるナルと、麻衣の間に女の子を
                挟む形に見えるように抱き上げると、なぁ?と安原に同意を求める。
                「本当に、両親のいいとこだけを取ったってかんじですよねぇ。」
                感心する安原に、溜息をつきながら、ナルはカップをテーブルの
                上に置くと、無言のまま所長室へ逃げようとするが、いち早く
                それを察知した女の子が、泣きそうな顔でナルを見つめる。
                「ぱぱぁあ〜。どこ行くの?」
                「・・・・・・・・・。」
                ピタリと動きを止めるナルに、女の子は慌てて滝川の膝から
                飛び降りると、ナルの足にしがみ付く。
                「メイも一緒いく〜。」
                ぎゅっとしがみ付く女の子の傍に寄ると、目線を合わせる為に、
                しゃがみ込む。
                「メイちゃんって言うんだ?」
                優しく頭を撫でると、メイはコクンと頷いた。
                「あのね、メイちゃん。ナルお兄ちゃんは、これからお仕事なの。」
                「嘘!今日は、パパお休みだから、一日一緒にいるって
                言ったもん!!」
                ますますナルに抱きつくメイに、困惑気味に麻衣はナルを
                見上げる。
                「・・・・・・わかった。だから離れなさい・・・・。」
                深い溜息をつくと、ナルはポンポンと優しくメイの頭を叩くと、
                ゆっくりと持ち上げソファーに戻る。
                「パパ、だいすき〜。」
                ギュッとナルの首に抱きつくメイに、安原は感心したように、
                うんうん頷く。
                「やはり、親子・・・・・。」
                そんな安原の言葉を聞かなかった振りをして、麻衣はメイに
                話しかける。
                「メイちゃん、パパと一緒だったの?」
                「うん!メイねぇ、パパとママとおうちにいたの〜。」
                ニコニコ笑うメイに、麻衣はえっ?と目を見はる。
                「って、事は近所の子供?」
                「という事になりますか?」
                滝川と安原が顔を見合わせる。
                「でも、ホームの中にいたんだよ?」
                納得がいかない麻衣は、メイに再び話しかける。
                「どうして、1人でおうちから出ちゃったのかな?」
                麻衣の問いに、メイはキョトンと首を傾げる。
                「おうちから出ないよ?ずっとメイのお部屋にいたもん!」
                「まさか・・・・・。誘拐?」
                最悪のシナリオに、一斉にみんなの間に緊張が走る。
                「・・・・・・ままぁ〜。眠い〜。」
                ごしごしと目を擦るメイに、麻衣は慌ててその小さな身体を
                優しく抱き締める。
                「とりあえず、もう一度警察に行こう。」
                ソファーから立ち上がる滝川達に、麻衣の短い悲鳴が聞こえ、
                慌てて振り返ると、麻衣の腕の中で眠っているメイの
                姿が、徐々に消えていくところだった。
                「ナ・・ナル〜!!」
                半分涙目の麻衣に、ナルは慌てて傍に寄ると、メイを抱き寄せ
                ようとするが、その手は空を切る。
                完全に姿を消したメイに、その場にいる人間は、暫く動く事が
                出来なかった。









               「結局、何だったんでしょうか・・・・・。」
               ポツリと呟かれる安原の言葉に、麻衣は半分涙目のまま
               顔を歪める。
               「幽霊って訳じゃないと思うけど・・・・・・。」
               目の前で、人間が完全に消えた事実に、放心状態の
               滝川はポツリと呟く。
               「今日は、七夕だからな・・・・・。不思議な事が起こっても、
               おかしくはないさ。はははは・・・・・。」
               「でも、無事に帰れたのかな・・・・。」
               乾いた笑みを浮かべる滝川に、麻衣は心配そうに呟く。
               「大丈夫だろう。」
               そんな麻衣に、ナルはポンと肩を叩く。
               「ナル?」
               キョトンとなる麻衣に、ナルは自分の手をじっと見つめ
               ながら応えた。
               「あの子が完全に消える瞬間、ビジョンが流れ込んできた。
               あの子は無事に帰れたみたいだ。」
               「そっか・・・・。良かった。」
               ほっと胸を撫で下ろす麻衣に、ナルは本を手にすると、
               一言呟いてから所長室へと向かう。
               「・・・・僕たちの子供だから心配するな・・・・・。
               「え?何?ナル?」
               良く聞き取れなかった為、聞き直す麻衣に、ナルはニヤリと
               笑うと、今度は良く通る声で言う。
               「麻衣、紅茶を頼む。」
               「はーい。分かりました。所長。」
               何時も通りのナルの様子に、麻衣は半分呆れつつも、
               にっこりと微笑みながら給湯室へ踵を返す。
               そんな麻衣の後姿を、ナルは穏やかな笑みで見送ると、
               パタンと所長室へと入っていく。
               「やはり、宇宙人だな!」
               「そうですかぁ?宇宙人って、変な顔してるじゃないですか。
               あんな可愛い子供が宇宙人の訳ないですよ。」
               後には、今起こった怪奇現象の謎を解き明かすべく、
               滝川と安原が討論だか漫才だかを繰り広げていた。
               
               




               「芽衣。起きて、芽衣。」
               優しい母の呼びかけに、眠りから覚醒した芽衣が、ぼんやりと
               目を開ける。
               「こんなところで寝ていては、風邪を引くでしょう?さぁ、
               ベットに入りましょうね?」
               半分寝ぼけながら、芽衣はゆっくりと身体を起こすと、
               目をゴシゴシと擦る。
               「ままぁ〜。ぱぱはぁ〜?」
               「・・・・・ここにいるぞ。芽衣。」
               そう言って、大きな手に頭を撫でられ、芽衣は幸せそうに
               微笑む。
               「ぱぱもぉ〜、ままもぉ〜だいすき〜。」
               大きな手に抱え上がられ、ベットに入ると同時に、芽衣は
               スヤスヤと眠りにつく。
               「寝ちゃったね。ナル・・・・・。」
               麻衣は、愛しい我が子の寝顔を見ながら、隣の旦那様に
               呟く。
               「初めて”力”を使ったからな。すごく疲れたんだろう。」
               ナルは愛しげに芽衣の乱れた前髪を直す。
               「ねぇ、この子、幸せになれるよね・・・・・。」
               心配そうな麻衣に、ナルは肩を抱き寄せる。
               「大丈夫だ。私達の子どもだからな。」
               コトンと麻衣はナルの肩に頭を乗せる。
               「まさか、あの時の子どもが、芽衣だったなんて・・・・。」
               「精神を過去に飛ばし、なおかつ、過去において精神に
               擬似肉体を付けられるとは、流石に思いつかなかったが・・・・。」
               あの時の坊さんじゃないが、きっと7月7日という特殊な
               環境がそれを可能にしたと信じたい。
               そう呟くナルに、麻衣はそう言えばと目を輝かせて
               尋ねる。
               「あの時、ビジョンが見えたって言ったよね!どんな
               ビジョンだったの?」
               「知りたいのか?」
               ニヤリと笑うナルに、麻衣の第六感が警笛を鳴らす。
               「あ・・・別に。今でなくても〜。」
               逃げ腰になる麻衣に、ナルは麻衣を強引に引き寄せる。
               「あの時見たビジョンは、芽衣の枕元で、私達が
               キスをしている場面だ。」
               ナルはそう耳元で囁くと、麻衣の唇を荒々しく塞ぐのだった。












                                           FIN



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久々のゴーストハントで、書き方忘れた〜を連発。
全員別人になってしまいました。
折角、リクを頂いたのに、あまりラブラブにならなかったのは、
上杉の不徳の致す所です。すみません。また修行をし直します。
(何故、ノーマルカップルの方が糖度が低いのでしょうか。)

こんなSSでも、気に入ったという方は、BBSに書き込みをしてから
お持ち帰りしてくださいませ。ついでに感想を頂けると、今後の
励みになります。



                            上杉 茉璃