君が笑えば この世界中に
もっともっと 幸せが広がる
君が笑えば すべてが良くなる
この手で その手で つながる
「・・・・・・・・・・・・千鶴、ちょっといいか?」
厨で朝食の後片付けをしていた千鶴に、何時の間に来たのか、
土方がソワソワと周りを警戒しながら、背後から声をかける。
「土方さん?今、お茶をお持ちしようとしていたのですが・・・・・。」
遅くなっちゃいました?と首を傾げる千鶴に、土方は頭を横に振る。
「いや、そーじゃなくって・・・・・・・・・・・・・・お前、これから何か用事があるか?」
「用事ですか?特には・・・・・・・・。」
フルフルと首を横に振る千鶴に、ホッとしたように土方は微笑む。
「今日は異国の記念日らしいが・・・・・・・・・どうだ、何をするのか、調べに行ってみねえか?」
見れば、土方は外出の支度をしていた。
「えっ!わ・・・私もご一緒しても宜しいんですか!?」
驚く千鶴に、土方は、ちょっと頬を紅く染めながら、視線を泳がす。
「山南さんが言うには、今日は好きあった男と女が楽しむ行事らしいんだと。
詳しくは知らねえが、この間、アメストリスの奴らが来ただろ?そいつらから色々と
異国の行事やらを聞いた天子様や上様が、是非我が国にも!らしい。」
「そうなんですか?そういえば、昨日買い出しに行った時、お正月の用意とは別に、
何やら見たことがない不思議な置物や人形とかが売られていました。
あれがそうなんでしょうか・・・・・。」
そういえばと、千鶴が昨日の様子を思い出しながら答えた。
「へえ〜。そうなのか。こっちは、ここ数日部屋で書き物三昧だったからなぁ。町の様子に
疎くなってしょうがねえや。・・・・・・・・それにしても、何で巡察に行っている奴らは、
そういうことを黙ってたんだ?あいつら職務怠慢じゃねえか・・・・・。」
腕を組んでブツブツ文句を言う土方に、千鶴は苦笑する。
「店に並んでるといっても、本当に店の奥にひっそりと並んでいたんです。私も、
お正月の御供え物とか買いに行かなければ、全く気づきませんでしたよ?」
「・・・・・・・・・・・まっ、いきなり異国の風習と言われても、俺達にはさっぱりだし、
売っている店の奴等も、よく分からずに売ってるんだろうよ。まっ、要は楽しめば
いいんだから、何だっていいって事だよな。じゃあ、時間が勿体ねえから、そろそろ
行くか。・・・・・・・・・・お前は準備はもういいか?」
「あっ!待ってください。小太刀を取って・・・・・・・・・・。」
慌てて自室へ戻ろうとする千鶴の腕を土方は引っ張る。
「土方さん?」
不思議そうに首を傾げる千鶴に、土方は苦笑する。
「あのなぁ、言っただろ。今日は好きあった男と女が楽しむ日だと。小太刀はいいんだよ。
この後、桜堂に寄って、お前を娘の姿に戻すんだからな。ほら、さっさと行くぞ。」
ポカンと口を開けて呆けている千鶴の腕を引き寄せると、土方はそのまま歩き出した。
「す・・・すみません。また土方さんに色々買って頂いてしまって・・・・・。」
桜堂で以前買った着物に着替えていた千鶴は、どこから聞きつけたのか、
慌てて店にやってきた千姫と再会した。そしてそのまま千姫と土方の間で、
再び【どちらが千鶴に似合うものを見立てられるか対決】が勃発してしまい、
またもや土方に色々と買ってもらう羽目になってしまい、千鶴は恐縮する。
「あの時と違って、お前は俺の恋人だろ?これからは、誰憚ることなく、
好いた女に堂々と贈り物が出来るんだ。俺が遠慮なんかする訳ねえだろ?
お前も、もっと俺に甘えやがれ。」
恐縮する千鶴の頭をポンポンと叩くと、土方は楽しそうに笑う。
「そういえば、さっきお千から何か手渡されてたな。何を貰ったんだ?」
ふと思い出して訊ねる土方に、千鶴はそういえばと、懐にしまったままの紙を取り出して
土方に差し出す。
「なんでも、今日一日、伊東さんのお店に、男女一組で行くと、通常の半額でお菓子が食べられる
そうです。そして、その紙も一緒に持っていくと、記念品がもらえるとか・・・・・・・・・。」
「い・・・・伊東さんか・・・・・。」
決して嫌っている訳ではないが、あの強烈すぎる個性に、土方はついつい伊東とは距離を
置いていた。しかし、千鶴は既に伊東に餌付けされているらしく、千鶴自身、伊東に対して
苦手意識を持っていないようだ。むしろ、良く一緒にいる様子を見かけている。
「菓子か・・・・・・・・・・。行ってみるか?」
チラリと横目で千鶴を見ると、千鶴は案の定、目をキラキラさせて喜んだ。
「宜しいんですか!!」
「・・・・・・・・・・・当てもなく町を歩いてても、仕方ねえし・・・・・・・・。伊東さんの事だ。
きっとこの催しも、異国の行事に関係しているんだろうぜ。行ってみる価値はあるだろ?」
土方の言葉に、千鶴は大きく頷いた。
「そういえば、今日は平助君と斎藤さんがこのお店のお手伝いをしているんですよね?
もしかしたら、会えるかもしれませんね。」
ニコニコと笑う千鶴に、そういえばそうだったと土方は思い出した。
「斎藤と平助は伊東さんのお気に入りだからな。あの二人がいるのといないのでは、売り上げが
だいぶ違うと言っていたが・・・・・・・。」
「そうなんですか?伊東さんのお作りになる【けえき】というのは、すごく美味しいですから、
いつも混んでいるんですよ?・・・・・・・・・・・・・・もしかして、混んでて入れないかもしれませんね。」
途端、シュンとなる千鶴に、土方はクスリと笑う。
「その心配はねえんじゃねえか?この紙を持っていれば、優先で入れると書いてあるぜ?」
「でも・・・・・・・・・・・・・それでは、横入りみたいで、先に並んでいらっしゃるお客様に申し訳ないです。」
ますます悲しげな顔になる千鶴に、土方はどうしようもなく愛おしさを感じ、往来に関わらず、
抱き締めようとしたが、それよりも先に、土方と千鶴の間を割って入る黒い影があった。
「千鶴ちゃ〜〜〜〜〜ん!!何て優しい子なの!あなたって!!」
「い・・・・・・・・伊東さん!?」
黒い影は良く見ると、噂の人物である伊東で、千鶴を抱きしめて頬擦りしているではないか。
その様子に、土方の目が剣呑に細められる。
「伊東さん、千鶴を離してくれねえか?」
だが、腐っても参謀伊東。土方を無視して、千鶴の両手をギュっと握りしめる。
「そんな事気にしなくてもいいのに!今日は紙を持っている人たち限定で、店を開けているの。
紙自体、先着5名様にしか配っていないから、全員が個室でのんびりできるのよ。
楽しんで頂戴ね♪」
そして、そのまま千鶴の肩を抱きながら、何時の間に着いたのか、伊東の店【桜花】の
中へと入っていく。
「おい!待てって!!」
自分を無視して楽しそうな二人の後を、土方は慌てて追いかけて行った。
「さあ、ここよ!アメストリスの人達から話を聞いて、私なりに演出してみたの!」
通された部屋は、伊東の趣味らしく可愛らしい小物で品よく纏まっていた。
「可愛いです!!」
目をキラキラさせて喜ぶ千鶴に、伊東も満足げに頷いた。
「千鶴ちゃんに気に入ってもらえるように、私、ここ数日頑張って飾り付けしたのよ!」
伊東の言葉に、千鶴はキョトンとなる。
「え?どうして伊東さんは私がここに来るってわかったんですか?」
「え・・・あ・・・その・・・それは、言い間違えよ。千鶴ちゃんのように、ここに来たお客様が
気に入ってくれるかなぁ〜と考えながら、頑張って飾り付けをしたっていう意味よ。」
千鶴の最もな問いかけに、一瞬自分の失言に気づいた伊東は、それでも何とか
誤魔化そうと言葉を濁した。だが、それを聞いていた土方は、またしても皆に
嵌められていたことに気づき、憮然とした顔になる。
「見て下さい!土方さん!とっても可愛いです!!」
だが、千鶴に笑顔を向けられ、土方も知らず微笑んだ。そんな仲睦まじい二人の
様子に、伊東はクスリと笑うと、じゃあ、直ぐにけえきを運ぶわね〜と、部屋から
出て行こうとした。だが、入り口付近で立ち止まると、意味深な笑みを浮かべながら
土方に振り返る。
「土方君。山南さんから聞いているとは思うけど・・・・。その部屋の隅にある、
天井からぶら下がっているものが、【宿り木】よ。」
途端、土方が真っ赤になる。
「では、頑張ってね〜。」
そう言うと、伊東は手をヒラヒラさせて、今度こそ、部屋から出て行った。
「土方さん?」
真っ赤な顔で、未だ固まったままの土方に、千鶴は心配そうに声をかける。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・千鶴。ちょっとこっちに来い。」
暫く視線を泳がせていた土方だったが、やがて意を決したのだろう。
真剣な表情で千鶴を見つめると、その腕を取って、千鶴を宿り木の下へと導く。
「土方さん?」
土方の行動の意味が分からず、キョトンとなる千鶴は、次の瞬間、驚愕に目を見開く。
ゆっくりと土方の顔は近づいてきたと思ったら、そのまま唇が重なったのである。
時間にして、ほんの数秒。
ゆっくりと顔を離し自分を真剣な目で見つめる土方に、千鶴は唖然と呟いた。
「え・・・・い・・・いまの・・・・・・・・。」
未だ呆けている千鶴に、土方はふと表情を和らげると、千鶴の頬に手を添え、
親指で先程重なったばかりの唇をなぞる。
「・・・・・・・・・異国の風習でな。この【宿り木】の下にいる女は、男からの口づけを
拒むことは許されないらしい。」
「ふえ!?」
更に目を見開く千鶴に、土方はニヤリと笑う。
「それにな、それは婚儀の申し込みであり、同時にその返事になるそうだぞ?」
「こ・・・婚儀!?」
驚きに固まる千鶴を、土方は少し困ったような顔でそっと抱きしめた。
「俺とでは嫌か?」
悲しそうな土方の声に、ハッと我に返った千鶴はブンブンと頭を横に振る。
「嫌などと!そんな!とっても嬉しいです。」
そう言って恥ずかしそうに俯く千鶴を、土方は強く抱きしめた。
「ありがとう。幸せにする。」
「・・・・・・・・・・土方さん。」
二人は幸せそうに見つめ合うと、宿り木の下、再び唇を重ね合わせた。
FIN
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『どっちの夫婦ショー』の続きです。
第1回から最終投票の合計で、圧倒的強さを見せた
ひじちづで、クリスマスSSを書かせて頂きました。
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上杉茉璃