夢のむこうで


第2話

 

                       
                      「千鶴・・・・・。」
                      青い顔で眠り続けている千鶴の頬に右手を添えながら、
                      土方は悲しそうな顔で、ひたすら千鶴の寝顔を見つめ続けていた。
                      千鶴が倒れてから、既に数刻。外は夕闇に包まれつつあった。
                      昏々と眠り続ける千鶴の顔は、昼間よりも少しはマシに見えたが、
                      やはり、目の下の隈までは消えてくれない。
                      土方は深いため息をついた。
                      「・・・・ったく!俺は一体何をしていたんだ。」
                      空いた左手で土方は自分の顔を半分覆う。
                      千鶴の大丈夫という言葉を鵜呑みにして、倒れるまで無理させている
                      事にすら気づかなかった自分の情けなさに、土方は打ちのめされていた。
                      医者の見立てでは、寝不足と軽い貧血。
                      数日は絶対に安静をと、医者から言い渡されたが、
                      果たして、千鶴は黙って言うことを聞くだろうか。
                      きっと、目が覚めたら、休むどころか、こんな忙しい時に、自分が
                      休むなんてとんでもない!と言い出し、早々に床上げして、人一倍
                      働き出すのだろう。
                      一見大人しそうに見えて、そこは江戸の女。
                      妙なところで頑固な千鶴に、時々土方ですら勝つことが出来ない。
                      最終的に、千鶴の意のままに動いてしまう自分がいることにも、
                      気づいていた。
                      そこで、いやそうじゃない、と土方は思い直した。
                      「俺だけじゃねぇな。」
                      新選組の誰もが千鶴には勝つことが出来ない。
                      あの自由奔放な総司ですら、千鶴には白旗を挙げていたではないか。
                      土方はゆっくりと顔から左手を外すと、千鶴の顔をじっと見つめる。
                      右手は相変わらず千鶴の頬に触れていた。
                      離さなくてはと思いつつも、まだ千鶴の温もりを感じていたくて、
                      土方は千鶴から手を離すことが出来なかった。
                      「あれから、もうずいぶん経ったんだな・・・・・・。」
                      千鶴に初めて出会ったのは、今から五年ほど前。
                      当時15歳だった千鶴も、今では既に二十歳。
                      子供(ガキ)だ子供(ガキ)だと言い続けていたが、こうして寝顔を
                      見つめていると、成熟した大人の女の顔である事に、改めて
                      気づいた土方は、知らず唇を噛みしめる。
                      本来ならば、結婚して子供もいたであろうに、何の因果か、実際は
                      新選組という、この国一番の荒くれ者の集団に囚われている。
                      「・・・・・わかってはいるんだ。このままではいられねぇと。」
                      まだ京の西本願寺が屯所だった頃、蘭方医の松本良順と知り合った
                      近藤は、事あるごとに、千鶴を松本に預けようと言っていた。
                      「トシ・・・・。やはり、年頃の娘さんを、男装させた上、こんなむさ苦しい
                      男所帯に、いつまでも置いておくのは、どうかと思うんだが・・・・。」
                      娘がいる近藤は、千鶴を実の娘のように思っていたのだろう。
                      雪村君に人並みの幸せをが口癖だった。
                      最初は、綱道探しや風間の襲撃を理由に、それを悉く却下していた
                      土方だったが、それすら理由にならなくなった状況でも、常に
                      千鶴を傍に置き続けた。
                      京の鬼の姫が千鶴を保護すると、再び屯所に訪れた時も、
                      自分は頑として、首を縦には振らなかったのは、千鶴がそう望んだからでも、
                      ましてや男の意地ではなく、ただ単に、自分が千鶴と離れたくなかったのだ。
                      千鶴が倒れた事で、自分の気持ちを漸く認めた土方だったが、同時に
                      ここまで一人の人間に執着している自分に、土方はゾクリと身震いする。
                      仲間が離れたり倒れても、近藤が捉えられて斬首されたと聞いても、
                      心のどこかで自分は常に冷静だった。
                      それがどうだろうか。
                      千鶴が倒れた瞬間に感じた、心臓を鷲掴みされたような痛みは、
                      今まで土方が経験したことがない【痛み】だった。
                      まるで自分の半身を無理やり毟り取られたような【痛み】に、土方は
                      意識を失った千鶴の名を叫びながら、ただ抱きしめる事しか出来なかった。
                      島田に頬を叩かれても尚、冷静さを取り戻すどころか、千鶴を失うかもしれない
                      という恐怖に、体の震えが止まらなかったのだ。
                      「情けねぇ・・・・・。」
                      土方はため息をつくと、じっと千鶴の顔を見つめる。
                      「何が鬼副長だ・・・・。たった一人倒れたくれぇで・・・・こんなに
                      なっちまうとはな・・・・・。」
                      本当に情けねぇ・・・と、土方は再度呟く。
                      そして、未だ千鶴の頬に触れたままの右手を、労わるように
                      ゆっくりと動かしながら、土方は千鶴の寝顔を見つめ続けた。
                      
               





                      「・・・・・・ん・・・・。」
                      覚醒が近いのか、身動ぎした千鶴に気づいた土方は、ゆっくりと右手を離す。
                      「千鶴?」
                      そっと名前を呼ぶと、ふるふると千鶴の瞼が揺れ、やがてゆっくりと
                      琥珀の瞳が現れた。暫くぼんやりとしていた千鶴だったが、だんだんと
                      意識がはっきりしてきたのか、慌てて起き上がった。
                      「目が覚めたみてえだな。ここがどこかわかるか?」
                      瘤は出来ていなかったが、倒れた時、頭を打ったかもしれない。
                      記憶が混濁しているかもしれないから、目が覚めたら、注意するようにと
                      医者から言われたことを思い出し、土方は探るように千鶴を見つめる。
                      「わ、わかります。私達が泊まっている宿の部屋ですよね?」
                      「・・・・・・・・・・・・。」
                      キョロキョロと部屋を見回しながら、どこかのほほんとした顔の千鶴の様子に、
                      土方は安堵と共に、言い様のない怒りを感じ、思わず怒鳴りつけてしまった。
                      「この・・・馬鹿野郎が!!」
                      「ふえっ!?」
                      土方の怒鳴り声に、驚いたように千鶴は身を竦ませる。
                      だが、千鶴が目覚めるまで、生きた心地がしなかった土方の怒りは収まらない。
                      今までの不安をぶつける様に、千鶴を激しく糾弾する。
                      「具合が悪いならどうして最初から俺に言わない!?」
                      そんなに自分を信用していないのかと、土方の胸がキリキリ痛む。
                      「黙って無理し続けて、倒れられるのが一番迷惑だ!勝手な遠慮してんじゃねえ!」
                      しかし、同時に思う。
                      千鶴に言いたい事も言えない生活を強要していたのは、他ならぬ自分だと。
                      土方は、千鶴を責める言葉を吐きつつも、心の中では、自分をひたすら責めていた。
                      「・・・・・・すみません・・・・・。」
                      土方の怒りに、シュンと俯く千鶴に、漸く気持ちが落ち着いてきたのか、
                      土方は深いため息をついた。
                      「・・・・・おまえはいつの間にか、俺を騙すのだけ上手くなったな。」
                      ”いや、コイツは、俺を騙そうとか思ってねぇんだよな。ただ単に、俺が
                      千鶴を見ていなかっただけだ・・・・・。”
                      「えっ・・・・・・?」
                      案の定、何を言われたのか分からない千鶴は、顔を上げると戸惑うように、
                      土方を見つめた。
                      「計り知れねぇ負担が今のお前にかかってるのも、わかってたはずなのに・・・・。
                      お前が笑ってるから、無理させたって気付くのがこんなにも遅れちまった。」
                      自己嫌悪に深く落ち込む土方に、どう言葉をかけて良いのかわからないのだろう。
                      千鶴は困ったように黙り込んだ。だが、やがて意を決した様に土方の目を
                      真っ直ぐ見つめると、ふわりと花が綻ぶように微笑んだ。
                      「私ならもう大丈夫です。心配かけちゃいましたけど、眠ったら楽になりました!」
                      このままでは、土方に心配をかけ続けてしまうと思ったのか、布団から起き上がろうと
                      する千鶴に、土方は首を振って制した。
                      「青い顔して何言ってんだ。見え見えの嘘をつくんじゃねえ。」
                      これほど自分が言っているのに、相変わらず無茶をしようとする千鶴に、土方は
                      本気で泣きたくなる。
                      「これもいい機会だと思って、今日のところはしっかり休め!」
                      どんなに自分が止めても、明日には千鶴は起き出して、人一倍働き出すだろう。
                      だったら、せめて今日一日だけでも、安静にしていてほしいと、土方は祈るような気持ちで
                      千鶴に命じる。だが、言われた千鶴は泣きそうな顔で首を横に振る。
                      「土方さんの傍にいたいんです。そのためなら、なんでも頑張れます。
                      私が役に立てないなら、ここにいる意味がないです。」
                      必死な千鶴の様子に、土方は一瞬目を見張るが、やがて呆れたように苦笑を漏らした。
                      「千鶴。お前はまだそんなこと考えてたのか。」
                      「えっ・・・・?」
                      キョトンとなる千鶴に、土方はため息をついた。
                      ”こいつは自分の価値をまるでわかってねぇ!”
                      「俺が今までに一度でも、おまえを【役立たずだ】と、けなしたことがあったか?」
                      「あ、ありませんけど・・・・・。」
                      シドロモドロに答える千鶴を見つめながら、土方は内心落ち込んだ。
                      ”まぁ、【綱道さん探しには役立つかもしれねぇが、新選組には必要ない】とは
                      言っちまったからな・・・・・。”
                      ある意味、そっちの方が酷い言い草だと思う。役に立つ立たない以前に、
                      最初から千鶴そのものには、【価値がない】と言っているも同然なのだから。
                      だが、最初はそうだったかもしれないが、今はそうではない。この五年ほどの
                      間で、千鶴と自分達は確かな【絆】を結んだと、今では胸を張って言える。
                      ”誰が役立たずだと!?お前は、そこにいるだけで、俺達は・・・俺は・・・・・・。”
                      「本当に救いようがねえな。それなりに賢い女だと思ってたが、自分の事に
                      やたら鈍いのか。」
                      ”どんなに俺達が救われていたのか、千鶴本人も分かっていると思って
                      いたんだが・・・・・・。自分に対してだけ自信がないというのも、考えもんだな・・・・。”
                      そこが千鶴の千鶴たる所以なんだろうと、土方は半分諦めにも似た気持ちで千鶴を
                      見ると、当の本人は、更に顔を青くさせてオロオロとし始めた。
                      「ど、どういう意味ですっ?何か重大な見落としとかーーーーー。」
                      見ていて可哀想なくらい狼狽えている千鶴に、土方はこれ以上無理させる
                      訳にはいかないと、無理やり話を終わらせる。
                      「小せえことだから気にすんな。それよりもお前は早く寝直せ。」
                      「で、でも私ばかり休むのは、やっぱり申し訳ありません。辛いのは
                      みんな同じです。土方さんだって・・・・・!」
                      案の定、土方の言葉に、千鶴はフルフルと首を横に振る。
                      「なのに私だけ弱音を吐くなんてできません!」
                      そう言い切り、凛とした表情で土方を見つめる千鶴に、土方はハッと
                      息を呑む。
                      ”その眼だ・・・・・。”
                      土方は引き寄せられるように、千鶴の瞳を覗き込む。
                      「あ・・・あの・・・・?」
                      顔を覗き込まれて戸惑う千鶴の声も、今の土方には届かなかった。
                      吸い込まれそうな穢れなき千鶴の瞳を見つめながら、土方はあることを
                      思い出していた。


                        さしむかう 心は清き 水鏡

  
                      
                      浪士組として京へ上洛する前、土方は一つの句を詠んだ。
                      武士としてこうありたいと願いを込めた、土方の決意を表したものだ。
                      それをまるで具現化したかのような千鶴の瞳を見つめ、土方は
                      一つの決断をした。
                      その事で、心の奥底が悲鳴を上げたが、あえて気づかない振りをする。
                      「・・・・・すまねえな。」
                      暫く千鶴の顔を見つめていた土方が、やがてポツリと呟いた。
                      誰に対する謝罪なのか、言った本人ですら明確には分からなかった。
                      千鶴に対してなのか。
                      それとも、千鶴を諦めきれないと絶対に離したくないと心の奥底で
                      叫んでいる自分の心に対してなのか。
                      唐突な謝罪の言葉に、千鶴はポカンと土方の顔を見つめる。そんな
                      千鶴に、土方は溢れる愛おしさを止められないまま、千鶴の頬に手を添える。
                      「だが、わかってくれ千鶴。おまえが苦しそうな顔をしたり、
                      また倒れたりした時ーーーーー気にしねえでいられるほど、俺は鬼に
                      なりきれねえんだよ。」
                      かつて、【鬼になれ】と言われた。
                      近藤を押し上げる為、自分は【鬼】であることを厭わなかった。
                      むしろ、誇りに思っていたほどだ。
                      例え、近藤がいなくても、近藤から託された【新選組】の為、
                      【鬼】であり続ける事に、何の疑問も持たなかった己だったが、
                      千鶴に対してだけは、鬼の仮面もこんなにもあっけなく剥がれていく。
                      悲しそうな土方に、千鶴はシュンと俯いた。
                      「わ、わかりました・・・・。今日のところは休みます。」
                      千鶴は小さく頷いた。だが、直ぐに元気よく顔を上げる。
                      「その。今日は天気がいいから、眩暈がしたんだと思います。
                      どこか痛いわけじゃないし、心配しないで下さいね?」
                      そう言って、にっこりと微笑む千鶴に、土方は内心溜息をつく。
                      どこまで、自分の事よりも相手を優先させれば気が済むのだろう。
                      「土方さん・・・・・・・・?」
                      ただじっと自分を見つめている土方に、千鶴は居心地が悪そうな顔で、
                      声を掛ける。
                      「ああ、いや、少し考え事をな。お前は松本先生と親しいだろ?」
                      ハッと我に返った土方は、そう千鶴に尋ねる。
                      「?親しいのは私じゃなく、父様のほうでしたけど・・・・。
                      でも、私にもいろいろと世話を焼いてくれました。」
                      唐突な土方の言葉に、多少面喰いながらも、千鶴は答える。
                      「あの先生は信頼が置ける。今は奥羽の列藩同盟の軍医まで
                      勤めてるお偉方だしな・・・・・・。」
                      近藤が言っていたように、千鶴を託するのに、これほど相応しい人物は
                      いないだろう。
                      


                      トシ・・・・。雪村君に人並みの幸せを・・・・・・。



                      脳裏に在りし日の近藤の言葉が蘇る。
                      ”ああ・・・・。そうだな。近藤さん。今度こそ、千鶴の幸せを・・・・。”
                      土方は、小さく息を吐くと、優しく微笑んだ。
                      どうか。どうか。幸せになってほしい。
                      そんな思いを込めて、土方はただ千鶴だけを見つめる。
                      「千鶴。そういう人格者と、縁があるのは幸運だよな。」
                      「え、ええ、はい・・・・・・?」
                      困惑ぎみに返事をする千鶴に、土方は意を決した様に
                      口を開く。
                      「もし・・・・・・。」
                      この先の言葉を言いたくない。
                      土方の心がキリキリと痛む。
                      だが、千鶴の為にも、この言葉を言わなければならない。
                      土方は覚悟を決めると、厳しい表情で千鶴を見据えた。
                      「この地で何かあったら、あの人を頼れ。」
                      さっと顔色を変える千鶴に、土方は何も言葉を挟ませないと
                      ばかりに、言葉を繋げる。
                      「会津、仙台が恭順したとしても、あの人の側にいりゃ、
                      悪いようにはならねぇはずだ。」
                      「ま、負けること前提で考えないで下さい!
                      【何かあったら】なんて、縁起でもありません!」
                      キッと千鶴に睨みつけられて、土方はハッと息を飲んだ。
                      千鶴をどうやって松本の元へ置いていくかと考えるあまり、
                      千鶴に誤解を与えたことに気づき、苦笑する。
                      ”焦るんじゃねぇ。今千鶴に不信感を与える訳にはいかねぇんだからよ。”
                      誰だって、惚れた女の悲しい顔など、極力見たくはない。
                      出来れば、別れる直前まで、千鶴の笑顔を見ていたいと思う。
                      だから、直前まで自分の決意を千鶴に知られるわけにはいかない。
                      土方は心を落ち着かせる為に、そっと息を吐くと、千鶴に苦笑して見せる。
                      「心配すんじゃねえよ。俺が言ってるのは、本当に何かあったときに
                      切り抜けるための手段だ。」
                      「あ・・・・・・。」
                      土方の言葉に、千鶴は自分の早とちりに気づき、真っ赤な顔で俯く。
                      「も、申し訳ないです。私の早とちりだったんですね。」
                      そこで、ふとある事に気づいたのか、千鶴は顔を上げて、土方に
                      訊ねる。
                      「・・・・・という事は、松本先生も、そろそろ仙台に来るんですか?」
                      「向かってるはずなんだがな。とにかく、早く来てくれねえと困るんだがな・・・・。」
                      自分達が蝦夷に出立する前に来てくれなければ、千鶴が一人になってしまう。
                      出来れば、ちゃんと自分の手で松本に千鶴を託したいのだが、松本を待っている
                      だけの時間の余裕がないことが、土方の心に重く伸し掛かる。
                      「・・・・・・・・・・?」
                      考え込む土方を不思議そうな目で見つめている千鶴に気づき、土方は内心の
                      動揺を悟らせないように、強引に話を変える。
                      「とにかく、千鶴。お前が今すべきなのは、体調を整える事だ!」
                      「は、はいっ!」
                      土方の言葉に、千鶴は背筋を伸ばして返事をするが、直ぐに困ったように眉を
                      下げる。
                      「・・・・・で、でも、そんな急に言われても眠れません・・・・・。」
                      シュンとなる千鶴に、土方はクスリと笑う。
                      「だったら、目を閉じてろ。眠れるまで傍にいてやるよ。」
                      本当ならば、ずっとこの腕の中に閉じ込めて、離したくはない。
                      だが、手放すと決めた今、せめて、眠るまでの間、いや、今日一日は
                      千鶴の傍にいてもいいだろうと、土方は自分を納得させる。
                      「・・・・・・・・・・。」
                      優しく微笑む土方に、千鶴は顔を真っ赤にさせながら、おずおずと再び
                      布団に横たわると、じっと土方を嬉しそうな顔で土方を見つめる。
                      「はい。あの、土方さん、ありがとうございます・・・・・。」
                      強がっていても、やはり体調が悪いのだろう。
                      暫くすると、うとうととし始めた千鶴の頭を土方はそっと撫でてやると、
                      千鶴は幸せそうな笑みを浮かべて、ゆっくりと意識を手放すのだった。
                 




               
                      「・・・・・・・千鶴、まだ目を覚ますなよ。」
                      暫くの間、まるで脳裏に刻みつけるかのように、ただひたすら千鶴の寝顔を
                      見つめていた土方だったが、やがて右手を千鶴の頬に、そっと添えると、
                      ゆっくりと顔を近づける。
                      「・・・・・お前を自由にしてやる。だが・・・・・これだけは俺に許してくれ。
                      頼む・・・・・・。」
                      これで諦めるからと、囁くように呟くと、土方は己の唇をゆっくりと千鶴の唇に
                      重ね合わせた。