ハロウィン企画SS(久保田×時任) 愛という名の悪戯を君に 「ふ〜ん。俺にはくれないんだ。お菓子・・・・。」 「くぼちゃん・・・・。」 オロオロとしている俺を一瞥すると、くぼちゃんは、 そのまま生徒会室を出て行った。 「待てって!おい!!」 慌てて追いかけようとした俺の耳に、何かが落ちる 音が聞こえ、慌てて生徒会室を飛び出した。 生徒会室の横の階段を駆け下りようとして、俺は 固まってしまった。 踊り場にくぼちゃんが、大の字になって倒れていたからだ。 やはりさっきの音はくぼちゃんが階段から落ちた音らしい。 全く、そそっかしいなぁ、くぼちゃんは。 俺は苦笑しながら、ゆっくりと階段を下りると、くぼちゃんの 肩を、ツンツンと足で突っつく。 「お〜い。くぼちゃん、生きてっかぁ〜?」 クククと笑う俺に、くぼちゃんは、痛てぇ〜と呻きながら 身体を起こすと、床に転がったままのメガネをかけた。 どうやら、メガネは無事らしい。 「ん〜?ああ、どこも異常なしって感じだな。」 ふむと、自分の身体をパンパンと叩きながら、 くぼちゃんは俺を見上げた。 「ったく・・・・トロい奴だなぁ。」 手を貸そうと、伸ばしかけた俺の手は、 次の瞬間、行き場を失った。 「・・・・ところで、アンタ誰?」 「へっ!?」 「な・・・なんですってええええええええ!! 記憶喪失ですってぇえええええええええ!!」 生徒会室どころか、学校すらも破壊するんじゃないかと 思えるくらいの、大音響で絶叫したのは、『生徒会執行部』 紅一点であり、影の支配者でもある、クラスメートの桂木だ。 「どーすんのよ!このクソ忙しい時に、久保田君が記憶喪失に なっちゃうなんてぇえええ!!」 く・・・苦しい!!だからって、何で俺の首を絞めるんだよ!! 「可哀想な久保田先輩・・・・。先輩の記憶は、この恋人である 藤原が・・・・。」 「おまえも、ドサクサに紛れて変な事言ってんじゃねー!」 さり気なく、くぼちゃんの手を握る藤原に気づき、俺は 八つ当たりとばかりに、思いっきり頭を殴った。 「ふーん?俺とコイツ、恋人同士なの?」 繁々と藤原を見るくぼちゃんに、俺は慌てて訂正をする。 「違うって!こいつは、くぼちゃんの恋人じゃねー!!」 「そう?」 くぼちゃんは、ニヤリと笑うと、じっと俺の顔を見つめた。 「じゃあさ、俺の恋人って誰だった訳?」 真剣な顔で見つめてくるくぼちゃんに、俺はドキドキして、 顔を反らす。 「し・・・知らねー・・・・・。」 まさか、俺がそうですなんて言えるはずもなく、俺はくぼちゃんの 視線から逃れようと、そそくさと桂木のところへ戻る。 「・・・・・どうするつもりよ。」 俺とくぼちゃんの仲を知っている桂木は、心配そうに俺の顔を 覗き込む。 「ん〜。とりあえず、様子見ようぜ。」 はぁああああああと大きな溜息をつく。こんな事態、くぼちゃんが いれば一発なんだが、肝心のくぼちゃんが当事者になって しまった為、打つ手はない。 「病院連れて行きたくても、今日は日曜日だしねぇ。」 ふうと、桂木と俺は同時に溜息をついた。 「・・・・ところで、何で今日は日曜日なのに、学校に 来ている訳?」 飄々とした感じでくぼちゃんが、最もな質問を投げかけた。 「明日から、学園祭準備期間だから、色々と準備があるのよ。」 それなのに、記憶喪失になっちゃうなんて・・・・・。と、 桂木は恨めしそうな顔でくぼちゃんを睨んだ。 「そうは言っても、こればかりは、俺のせいじゃないし?」 食えない笑みを浮かべるくぼちゃんは、本当に記憶喪失か と思うくらいに平然としている。って言うより、いつもと同じ って気がしてきた。それは横にいる桂木もそう感じたのか、 ふと思いついたように、さり気なくくぼちゃんに尋ねる。 「それにしても、さっきからボールペンがないのよねぇ。 どこに仕舞ったっけ?」 うーんと唸る桂木に、くぼちゃんは、肩を竦ませた。 どうやら、俺知らないというサインらしい。 その仕草を横目で見ながら、桂木は溜息をつく。 「まっ、そのうち出てくるでしょう。ところで、時任君、 そろそろ見回りしてきてよ。」 「うそ!俺1人でかぁ?」 いくら日曜日と言っても、クラブ活動をしているヤツとか 何だかんだ言って、校舎には生徒が来ている。そこを 取り締まるのも、俺達執行部の仕事だ。 「会ったり前でしょう!?只でさえ人手がないんだから!」 バンと机を叩く桂木は、本当に恐ろしかった。逆らったら、 何されるかと内心ビクビクしながら、俺はがっくりと肩を 落としてドアへと向かう。横目で甲斐甲斐しくくぼちゃんの 世話を焼く藤原を睨みつけながら、生徒会室を出ようと する俺の肩を、くぼちゃんが抱き寄せてきた。 「そんじゃ、俺も時任クンと一緒に行ってくるよ。ここにいても 仕事判らないし、それよりも外を歩いた方が、記憶が戻る かもしれないしね。」 「へっ!?」 驚く俺に、くぼちゃんは、片目でウィンクしながら、一緒に 生徒会室を出て行こうとした。 「久保田君。」 そんなくぼちゃんに、桂木は引きつった笑みを浮かべる。 「貸し1。」 ビシッと人差し指を立てる桂木に、くぼちゃんは、何も言わずに 微笑むと、俺の肩を抱いたまま廊下を歩き出した。 「なぁ、本当は記憶喪失なんて、嘘なんだろ?」 一通り校舎を巡回した俺達は、屋上へと来ていた。 「ん?何で?」 あくまでもすっとぼけるくぼちゃんに、俺は怒りで 頭がカッとなった。 「おい!じゃあ聞くが、何で記憶喪失なのに、いつもの 巡回コースを知っているんだよ!!」 「・・・それは、身体が覚えているってヤツ?」 くぼちゃんの言葉に、俺は思わずくぼちゃんの胸倉を 掴む。 「いい加減に!!」 「・・・・・なんで俺が記憶喪失になったと思う?」 真剣な眼差しのくぼちゃんに、俺は殴ろうとした手を 止める。 「すっごくショックな事があったんだよ?」 悲しそうな眼をするくぼちゃんに、俺は茫然とする。 ショックな事?一体なんだ?俺、心当たりはないぞ? 困惑する俺に、くぼちゃんは、そっと顔を寄せると、 俺の耳元で囁いた。 「俺の恋人は誰?」 その一言で、俺は先程生徒会室での一件を思い出した。 「くぼちゃん!まさか・・・・。」 「言ってよ。俺の恋人は誰かって。」 いつの間にかくぼちゃんの腕に包まれる形の俺は、 真っ赤な顔で俯いた。 「・・・・さっき、恋人が俺だって言わなかったから、 くぼちゃんは、怒っているのかよ・・・。」 上目遣いで見上げると、ニヤリと笑ったくぼちゃんの 顔があった。 「くー!!くぼちゃんの馬鹿!!アンタの恋人は 俺だよ!!これでいいかっ!!」 真っ赤な顔で怒鳴る俺に、くぼちゃんは、きょとんと した顔になるが、直ぐにまたにやりと笑う。 「そう。恋人だよね。時任は。じゃあさ、何で 俺にお菓子をくれなかったのかな?」 「へっ?」 お菓子?何の事だ? 「おい、くぼちゃんが怒っている理由ってまさか・・・。」 「漸く気づいた?時任が俺にお菓子をくれなかったからに 決まっているだろ?」 第一、恋人の件は、記憶喪失になってからじゃないか? と言われ、俺は自分の馬鹿さ加減に泣きたくなった。 もしかして、俺はとんでもない失態を冒したんじゃ・・・・・。 「Trick or Treat?」 くぼちゃんは、にっこりと微笑んだ。 「お菓子をくれなきゃ、悪戯しちゃうよ?」 その瞬間、俺の絶叫が校舎内を響き渡った。 「くぼちゃんの馬鹿ー!!」 「愛しているよ。時任。」 喚く俺を、くぼちゃんは上機嫌で抱きしめると、 優しく唇を重ね合わせた。 FIN ********おまけ********* 腕の中で、真っ赤な顔をしている時任を見つめながら、 久保田は上機嫌だった。 ”まさか、お菓子に嫉妬したなんて言えないね〜。” 君の瞳が誰に貰ったかわからないお菓子に夢中で、 嫉妬していましたなんて、絶対に言えない。 自分を少しでも瞳に映して欲しくて、記憶喪失なんて 咄嗟に嘘をついたけど、お陰で嬉しい言葉を聞く ことができ、久保田は顔には出さないけど、幸せな 気分に浸っていた。 ”でも、桂木ちゃんには、バレているけど・・・・。” 貸し1だと言った彼女に、さて、一体何をさせられるのかと、 内心ドキドキしているが、それでも、今この目の前の 幸せに、久保田は嬉しそうに時任をきつく抱きしめた。 HAPPY Halloween!! ************************** ハロウィン企画アンケート第三位の執行部(久保時)です。 久々なので、ちょっと、いえ、かなりキャラが違います。 もっと精進しなければ・・・・。 お気に召しましたら、BBSに書き込みしてから、 お持ち帰りして下さい。 |