駅は出会いと別れの場所。
そして、必然的に、ドラマが生まれる場所でもあった・・・・。
その日、ロイは駅の構内まで、エルリック兄弟を見送りに
来ていた。
「珍しいな。大佐が俺達を見送りなんて・・・・。」
もしかして、雨でも降る?と空を見上げるエドに、
ロイは苦笑する。
「私だって、君達を見送りたいと常々思っているよ。
ただ、仕事がね・・・・。」
フッと溜息を洩らすロイに、エドはニヤリと笑う。
「サボってばかりいるからだ。自業自得って奴だな。」
「君って奴は口の減らない。」
肩を竦ませるロイに、エドは、嫌そうに顔を顰める。
「本当の事だろ?第一、今日俺達を見送るついでに、
どうせ街にナンパしに来たんだろ?」
心底嫌そうなエドに、ロイは深い溜息をつく。
「・・・・一体、いつになったら、私の言葉を信じてくれるのかね?
エディ・・・・・。」
「なっ!!」
真っ赤な顔でエドは怒鳴った。
「エディって言うな!!そんなに、俺をからかって、面白いのかよ!!」
エドの言葉に。ロイは深く傷付いた顔をする。
「からかってなどいない。私は君が好きだ。」
「・・・・俺は信じない。」
プイと横を向くエドの腕を取ると、ロイは急に自分の方へと
引っ張った。
「うわああああ。」
当然の結果として、自分の胸に倒れこむエドを、ロイは愛しそうに
抱きしめた。
「離せ!大佐!!」
暴れるエドを、ロイはますますきつく抱きしめた。
「エディ。愛している。君と初めて出会ってから、ずっとだ。」
「嘘つき・・・。」
くぐもった声で、エドは呟く。
「・・・・初めて会ってから、もう三年も言い続けているのだよ?
そろそろ私の言葉を信じて欲しいのだが・・・・。」
ロイはエドの耳元で囁jくが、エドは嫌々をするように、首を横に振る。
「一体、私の何が気に食わないのかね?」
溜息をつくロイに、エドは無言のまま下を向く。
「君の言うとおり、女性とは全て手を切った。研究手帳も、女性の
名前で書くのを辞めた。さぁ、言ってくれ。あと何をすれば、君は
私の言葉を信じてくれるのかね?」
真摯な瞳でじっと見つめるロイに、エドは溜息をつくと、ゆっくりと
顔を上げた。
「あのさ・・・・ちょっとしゃがんでくれない?」
心持、頬を紅く染めたエドに、ロイは訝しがりながらも、素直に
エドの言うとおりに、腰を少し屈める。
「は・・・鋼の!?」
エドは真っ赤な顔でロイの首に抱きつくと、ロイの唇に己の唇を
重ね合わせた。
「俺、大佐が好き・・・・・。」
驚きのあまり硬直するロイの耳元で小さく呟くと、エドはロイの身体を
突き飛ばすように離れると、俯いたまま、動き始めた列車に飛び込む。
「は・・・鋼の・・・・。」
エドに何をされたのか、漸く頭が働きかけたロイは、動いている列車に
気づいてハッと我に返ると、エドを追いかけるべく、慌てて自分も
乗り込もうとしたが、その前に、背中の固い感触に硬直する。
「ホ・・・・ホークアイ中尉・・・・。」
ギギギギ・・・と、音を立てて振り返ると、一部始終目撃していた
ホークアイ中尉が、覚めた眼でロイを睨んでいた。
「大佐、どちらへ。」
「いや・・・その・・・エディが・・・・。」
ロイが冷や汗をダラダラ流している間、無情にも列車は遠ざかって
いく。それに焦ったロイは、何とかホークアイを説得しようとしたが、
続く、セーフティを解除するホークアイに、ロイは震え上がる。
「大佐、エドワード君の見送りが出来れば、溜まった書類を全て
処理するお約束だったはずですが・・・・・・。」
「しかしだね、漸くエディと両想いになれたのだよ。それを・・・・。」
「両想いになれて直ぐ離れ離れか・・・・。大佐、ご愁傷さまです。」
ホークアイの後ろに控えていた運転手のハボックが、咥えタバコを
ピコピコ動かしながら、同情を込めた目でロイを見つめる。だが、
以前彼女を取られた恨みは消えていない。内心、ザマアミロ!
である。
「エ・・・エディ〜!!カムバック〜!!」
遠ざかる列車を見送りながら、駅構内にロイの絶叫が響き渡る。
「遅かったね。兄さん。・・・・あれ?どうしたの?顔真っ赤だよ?」
先に車両に入って、席を取っていたアルは、真っ赤な顔でフラフラと
やってきたエドに気づくと、声をかける。
「ん・・・何でもねー。俺、ちょっと風に当たってくる。」
そのまま、フラフラとアルの前を通り過ぎ、後ろの車両へ向かうエドに、
アルは深い溜息をついた。
「あ〜あ、とうとう大佐を受け入れちゃったのか・・・・。」
アルはガックリと肩を落とすと、流れる景色へと眼を向けながら、
何とか旅を長引かせようと、計画を練り始めた。
「あー、俺のバカバカ!!どうすんだよ!当分イーストシティへ
行けねーじゃんかっ!!」
デッキから、だんだんと小さくなるイーストシティの町並みを眺めながら、
エドは頭を掻き毟った。
「どうすっかなー。」
エドは、ズルズルと座り込むと、空を眺めた。雲ひとつない青空に、
ロイの軍服を思い出し、エドは1人で慌てた。
「まっ、どうにかなるだろう・・・・。」
エドは手を翳して太陽を見た。
ずっと好きだったロイ。
照れ臭くて、今までロイの想いに応えることができなかったが、
何故か今日はすんなりロイに想いを伝える事ができた。
その事が嬉しくて、エドはにっこりと微笑む。
「次に会った時、【ロイ】って言ったら、どういう反応するかな・・・。」
クスクス笑いながら、先程ロイにキスをした時の、ロイのびっくりした
顔を思い出す。あの、どこか子どものような表情を見れたから、
良しとするか!
そう思い、エドはゆっくりと立ち上がると、もう一度だけと、イーストシティ
へ視線を向けると、次の瞬間には、クルリと背を向けてアルの
待つ車両へと足を向けた。
これが、エドとロイの遠距離恋愛の始まりだった・・・・・。
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【無能豆遠恋見守り隊】にあります、【いつかずっと一緒にいる為の10のお題】から。
一応、お題作成者として、書いてみました。
遠距離恋愛の始まりなんて、こんなもの。(ロイが相変わらずヘタレです。)
これは、続き物ではありませんので、ご了承下さい。