はがつく錬金術師

 

         

               「ほほう。これは・・・・・。」
               大空に浮かび上がる大きな花輪の練成を見上げながら、
               キング・ブラットレイ大総統は、満足気に頷いた。





               「・・・・大総統も、随分皮肉な銘をくれたものだな。」
               エドワードの国家錬金術師拝命書を、見た瞬間、
               ロイは、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。
               「何か?大佐。」
               そんなロイに気付き、ホークアイは、書類を纏めていた
               手を止めて、大佐に顔を向ける。
               「いや、何ね。」
               ククククと、面白そうに笑い出す上官に、ホークアイは
               無言で銃を向ける。
               「・・・・大佐。エドワード君の試験に何か問題でも?」
               超お気に入りのエドが関わることに、ホークアイが
               黙っているはずもなく、さっさと話せとばかりに、
               上官へ無言の圧力を掛ける。
               「中尉・・・・・。何故銃口が私に向かっているのかね?」
               引きつるロイに、ホークアイはしれっと答える。
               「申し訳ありません。条件反射です。」
               ホルダーに銃を戻すのを確認すると、ロイはフーと
               安堵の溜息を漏らす。
               「で?何か問題でも?」
               問題があれば、大総統に直接直訴しかねない勢いで、
               ホークアイはロイを睨み付ける。
               「いや、何も問題はない。ただ、銘がね・・・・・・。」
               再びククク・・・と笑い出すロイに、ホークアイのこめかみが
               ピクリと動き、素早い動作で、再び銃に手を掛ける。
               「言う!言うから、銃から手を離したまえ!!」
               ホークアイの本気の怒りに気付き、ロイは慌てる。
               「で?一体何が可笑しいのですか?」
               「エドワード・エルリックの二つ名だよ。」
               「二つ名?」
               ホークアイの言葉に、ロイは頷く。
               「あぁ、国家錬金術師に与えられる二つ名だよ。」
               「大佐は、確か、放火の錬金術師でしたね。」
               うんうんと頷くホークアイに、ロイはバンと机を叩く。
               「私は、焔の錬金術師だ!!
               「冗談です。で?それとエドワード君の二つ名というのは?」
               ロイの怒りを軽く流すと、ホークアイは話の続きを促す。
               「・・・・・大総統、キング・ブラットレイの名において、
               汝エドワード・エルリックに銘””を授ける。」
               エドの拝命書を読み上げるロイの言葉に、ホークアイは
               ピクリと反応する。
               「花!?
               「そう。フラワー。”花”だよ。彼は”花の錬金術師”と
               呼ばれることになる。」
               クククと笑う上官に、ホークアイは呆れ顔で尋ねる。
               「何故、花ですか?確かに、エドワード君は、花のように
               可愛いですが・・・・・・。」
               「それもあるがな。彼は知らなかったらしいんだ。
               実技で練成したものに、ちなんだ二つ名が与えられる
               事に。」
               「確か、エドワード君が練成したものって・・・・・。」
               あわや大惨事になる所を、とっさに大きな花輪を練成した
               事は、記憶に新しい。
               「で、エドワード君に、このことを言うのですか?」
               豆とか小さいものを連想させる言葉にすら、
               暴れだすエドワードに、果たして”花”などという、
               乙女チックな銘を、素直に受け取るか、甚だ疑問だ。
               きっと、「いいねぇ、その乙女チックな銘。背負って
               やろうじゃんか・・・・・・って言う訳あるかーっ!!」と、
               東方司令部全壊寸前まで大暴れする事は、
               想像するに難しくない。
               「何とかなりませんか?その銘。」
               もしも、臍を曲げて、国家錬金術師になるのを辞めると
               言い出されたら、もう自分はエドワードと会う機会はない。
               折角のお気に入りを離したくはない為に、ホークアイは
               ロイに何とかするように命令する。
               「そうは言っても、これは既に決められたものであるし・・・。」
               仕方ないと言いつつ、顔はとても嬉しそうだ。
               ホークアイは、作戦を変えることにした。
               「・・・・そうですか。残念です。折角、エドワード君と
               両想いになれるかもしれないのに・・・・・。」
               「両想い!?
               ピクピクと、ホークアイの言葉に反応するロイに、ホークアイは
               罠に掛かった事に、内心ほくそ笑む。
               「ええ。こんな乙女チックな銘を、大佐が取り下げてくれるように、
               尽力してくれたと知ったら、エドワード君は、感激するでしょうに。」
               そうなれば、一気に両想いだったのに、残念ですと、
               わざとらしく溜息までつく。
               そんなホークアイの言葉に、ロイは素早く頭の中で計算をする。
               ガタンと音をたてて立ち上がるロイに、ホークアイは
               わざとらしく声を掛ける。
               「大佐、どちらへ?」
               「急用を思い出した。中央まで行ってくる。」
               そう言うと、コートを片手に執務室を飛び出していくロイの
               後姿を見送りながら、ホークアイはニヤリと笑う。
               「フフ。本当に、単純で助かるわ。」
               邪魔者がいないうちに、エドワード君とお茶を飲もうかしらと、
               資料室へいるであろう、エドを迎えにホークアイも
               執務室を後にする。勿論、エドが来ている事は、上官には
               知らせていない。ホークアイの作戦勝ちである。








                                              FIN
                

 

                                       【むのつく大佐】へ

 

                                         

 

               最強ホークアイ中尉、好きなんです。
               ところで、これって一応ロイエドなんですけど、
               信じてくれますかねぇ?
               この続きは、むのつく大佐へ!!って、また続くのかぁ!?