「私は、ほ・・・の錬金術師・・・・ロイ・・・・・だ・・・。」
熱と痛みで朦朧とする頭に、突然飛び込んできた言葉。
"だ・・・誰・・・・・?錬金術師・・・・・・・?”
「・・・・・国家錬金術師になれるだろう・・・・・。」
"国家錬金術師!!”
その言葉に、急速に意識がハッキリしてくるのを感じ、
エドワードは、うっすらと目を開ける。
"・・・・・・・・!?”
ぼやけた視界の先に、じっと自分を見つめる黒い瞳が、
エドワードの心を射抜く。
"・・・・・国家錬金術師・・・・・ろ・・・い・・・・。”
目が合った瞬間、僅かに男が微笑んだような気がして、
エドワードは、母親の練成失敗後、初めて僅かに微笑んだ。
「あれが、ロイ・マスタング中佐・・・・・・。」
大勢の部下を従えた男に、エドワードは
一瞬躊躇するが、自分の目的を思い出し、
意を決して男の前に走り出す。
「えっと・・・あの・・・・・。」
いざ目の前にすると、エドは緊張のあまり
頭が真っ白になる。
”わーっ、頭の中が真っ白で、何言っていいのか
わかんねー!!えっと、確かこの人って、
国家錬金術師だったよな・・・・。
頭に”ほ”がついて・・・・火に関係ある・・・・・・。”
「どうかしたかね?エドワード?」
緊張しているのは、何もエドだけではなかった。
ロイも柄にもなく、想い人を前にかなり緊張をしていたのだが、
年の功か、もともと面の皮が分厚いのか、周囲に
悟らせずに、余裕のある大人を演じていた。
「えっと・・・初めまして・・・・。ほ・・・」
エドは、真っ赤な顔で頭を下げる。
その愛らしい様子に、ロイの顔が見っとも無い位に
ニヤける。幸運な事に、ロイの目の前にいるのは、
エドだけだったし、そのエドも頭を下げている為、
ロイのだらしのない顔を目撃する者はいなかった。
だが、次の瞬間、エドの爆弾発言によって、
ロイの顔がピキリと固まるのだった。
「”放火”の錬金術師、
ロイ・マスタング中佐。」
言った瞬間、場の温度が絶対零度まで下がる。
居合わせたロイの部下達は、笑いたい衝動を、精神力と
ついでに体力に至るまで、"力”と名付けられる、あらゆる
力を駆逐して、必死に押さえ込む。
放火・・・・・。
火を放つと書いて、放火。
砲火でも可。
先ほど、自分たちが目撃した練成術を使う上司は、
まさにそれが当て嵌まる。
当て嵌まりすぎだ。
やばい。マジで笑いたい。
いや、笑っては駄目だ。
噴出したら最後、大佐に消し炭にされる・・・・・。
後に、この事を、ロイの腹心の部下の一人、
金髪の少尉が、咥えタバコをピコピコ動かしながら、
「あん時はヤバイって思ったね。
軍の訓練でも、あんなにシンドイもんは
なかったなー。」
と、達観した笑みを浮かべながら、
しみじみと語った。
ロイの後ろで整列をしている部下達は、
だらだらと汗をかきながら、何とか
気を紛らわせようと努力する。
そんな中、平然と二人の間を割って入る
強者がいた。
「エドワード君。」
固まる上司を押しのけて、エドワードの前に立ったのは、
金髪の美女、軍最強のホークアイ中尉だった。
「お久し振りね。エドワード君。」
「えっと・・・・ホークアイ・・・・少尉・・・・?」
いきなり現れたホークアイに、戸惑いつつも、エドは
小首を傾げる。そんなエドに、にっこりとホークアイは
微笑みかける。
「今は、中尉なのよ。エドワード君。」
「あっ、ごめんなさい。」
慌てて謝るエドに、ホークアイはさらにニッコリと微笑む。
「気にしなくていいわ。知らなかったんですもの。
それからね、エドワード君。訂正させてね。」
「何ですか?」
「そこで固まっている上官なんだけど、中佐から
大佐に階級が上がったから。」
"突っ込むトコは、そこかい!!”
その場にいた、全員は心の中で突っ込みを入れる。
何故心の中なのかと言うと、誰だって自分の命は惜しい。
消し炭にはなりたくないが、それよりも銃の的になるのは
絶対に遠慮したい。
大佐の火の攻撃からは、何とか避け切れる自信はあるが、
100発100中の銃の腕を持つ、ホークアイから逃れる
自信などない!と、言うのが、全員の一致した意見だった。
「そうなんですか。すみません。ところで、どうして、
中佐・・・じゃなかった。大佐は固まっているんですか?」
"それは、キミが爆弾発言したから。”
などと口が裂けても言えない。というか、一言でも
話そうとするならば、それが呼び水となり、確実に
爆笑する己の姿を容易に想像が出来る。
"お願いだから、これ以上、爆弾発言をしないでくれ〜!”
とは、全員の弁。
「あぁ、気にすることはないわ。使えないのは、いつもの
事だから。」
サラリとホークアイは上司に対する不敬罪的発言を
するが、誰もその事には、聞かざるを押し通す。
何度でも言う。
自分の身はかわいいのだ。
それが幾つになっても。
例え、それが泣く子も黙る屈強の軍人であっても。
「いつも・・・ですか・・・・・?」
そんな情けない大人を頼って田舎から出てきた事を
思い出したのだろう。見る見るうちに不安な表情を
するエドに、ホークアイは、安心させるように、
にっこりと微笑む。
「心配することはないわ。あなたに不自由は
させないから。安心して試験が受けられるように、
全て手配済みよ。」
その言葉に、みるみるうちに、エドに笑みが浮かび上がる。
「ありがとうございます!ホークアイ中尉!!」
「長旅で疲れたでしょう?東方司令部でお茶にでも
しましょう。とっても美味しいお菓子も用意したのよ。」
「わーい!」
仲良く連れ立って歩く二人の後ろ姿を、固まったまま見送る
上司の肩を、ハボックはポンと叩く。
「・・・・泣いてもいいッスよ。大佐・・・。」
「う・・・・うるさい!」
乱暴にハボックの手を振り払うと、慌てて二人の後を追う。
その後、エドを挟んでロイとホークアイの激しい戦いが
繰り広げられたのは言うまでもない。
FIN
【はがつく錬金術師へ続く】
・・・ただ単に【放火の錬金術師】が
書きたかっただけなんですけど・・・・。