小さなメッセンジャー
「ねぇ、本当にやるの〜?」
アルフォンスの呆れた声に、エドは、クルリと後ろを振り返ると、
ニヤリと笑いながら大きく頷いた。
「勿論!何の為に、ここ3ヶ月も、苦労したと思っているんだ?」
なー?そうだよなー。苦労したんだもんなー。と、
手に持っている掛けられた布の隙間から籠の中を覗き込むと、
蕩けるような笑みを浮かべて、エドは語りかける。
「でもさぁ・・・・・。」
「弟よ、さぁ行くぞ!!」
まだ、何か言いたそうなアルの言葉を遮り、エドは
勢いよくクルリとアルに背を向けると、
再び歩き始めた。そんな兄の様子に、アルは溜息をつく。
「全く、兄さんも、素直じゃないよねー。」
足取りも軽い兄に追いつくべく、アルは慌てて後を追った。
「こんばんわー。」
「こんばんわ。お邪魔します。」
勢いよく、東方司令部のロイの執務室の扉を開けて、
スタスタと中へ入っていくエドの後ろから、アルは
ペコリとお辞儀をして後に続く。
「あら、いらっしゃい。エドワード君に、アルフォンス君。」
二人に気付いた、ホークアイ中尉が、書類をチェックしていた
手を休め、二人に声を掛ける。
「こんばんわ。中尉。大佐は?」
いつもと違い、そわそわしているエドの様子に、ホークアイは
不思議な顔をする。
「大佐なら、もうじき視察から戻ってくるはずよ。
大佐に何か用なのかしら?」
定期報告書は、昨日届いたばかりだし、エドワードが頼んでいる
文献が届いた訳でもない。かと言って、用もないのに
エドが来る事はありえない。本当は、用がなくても、
頻繁に遊びに来てほしいのだけど。と、ホークアイは心の中で
思った。
「んー。用ってほどのものじゃないんだけど〜。」
エドは、悪戯っ子のようなキラキラとした瞳で、ホークアイに
にっこりと微笑む。
「今日って、大佐の誕生日だろ?20代最後の。」
エドの言葉に、ホークアイはアッと声を上げる。最近、忙しくて
忘れていたが、確か今日はロイ・マスタングの29歳の
誕生日だという事を思い出す。
「まぁ、わざわざお祝いに来たの?」
ロイの方では、エドに対してベタ惚れ状態だが、
エドの方はと言うと、ロイにいつもからかわれていると思っているらしく、
会えば、いつも喧嘩ばかりしている。それなのに、
わざわざお祝いに来るなんて、なんて優しい子なんだろうと、
ホークアイはニッコリと微笑む。
「・・・・・兄さんの場合、素直にお祝いって事じゃないんですけどね。」
苦笑するアルに、エドはむくれる。
「なんだよー。ちゃんとしたお祝いだぜ?ジャーン。これが、プレゼントだ!!」
エドは手にした籠をロイの机の上に置くと、被せてあった布を取る。
「まぁ。鳥・・・?カナリアかしら?」
籠の中には、全身黄色の小鳥が1羽入っていた。
「いいや。これって、セキセイインコなんだって。手乗りなんだぜ!」
ニコニコと笑いながら、エドは籠の中に手を入れると、インコは
すんなりとエドの指に止まり、そのままエドの腕を伝いながら、
籠から出ると、ゆっくりとエドの肩へと歩く。
「良く慣れているわね。でも、そんなに慣れているのに、大佐にあげても
いいの?」
これだけ慣れていては、手放すのはさぞや辛かろうというホークアイに、
エドは苦笑する。
「んー。でも、どうしても、大佐に贈りたいから。」
はにかむような笑みを浮かべるエドに、ホークアイは、首を傾げる。
「どうして、小鳥を贈りたいの?」
ロイは、犬が好きだと公言しているが、小鳥も好きだというのは初耳だ。
「それは・・・・。まぁ、百聞は一見にしかずってやつだな。」
エドは肩に止まっているインコに、ニッコリと微笑むかける。
「さぁ、特訓の成果を見せてくれ。」
「特訓?」
訳がわからないホークアイに、エドはインコを見せるように、肩から指へ移動
させると、目の前に差し出す。
暫くインコはホークアイとエドを交互に見ていたが、やがてエドの指に
嘴をガシガシ当てながら話し出す。
「ムノー。ムノー。仕事シロー。」
「まぁ!!」
びっくりするホークアイに、エドとアルは顔を見合わせて微笑み合う。
「すごいわ。インコって、喋れるのね。」
関心するホークアイに、エドはにっこりと微笑む。
「俺達も知らなかったんだ。だけど、3ヶ月前に泊まった宿屋で、インコを
飼っていてさ。それがお客さんが来ると、ちゃんと「いらっしゃいませ〜。」とか、
「お客さんだよ〜。」とか、色々と話しててさ。店の人の会話とか、自然に
覚えたらしくって、かなり色々話してたよ。」
「それに面白がった兄さんが、直ぐにインコを購入して、色々と言葉を
教えていたんです。」
アルの言葉に、ホークアイは大きく頷く。
「だから、声がエドワード君に似ているのね。」
「そ。でさ、どうせなら、大佐に贈ったら、どういう反応するかなぁって
思って。」
ウシシシと、笑いを押さえきれないエドに、アルは肩を竦ませる。
「でもさ、仮にも大佐に贈るのに、「ムノー」だの、「仕事シロー」だの、
「童顔」だの、「給料ドロボー」だの、変な言葉を教えないでよ。」
変な言葉を教えられて、この子が可哀想だよ。ねー?と、
アルは小鳥に向かって言う。
「ムッ。変な言葉ばかりじゃねーぞ。「ホークアイ中尉、綺麗。」とか、
「ホークアイ中尉、有能」とか、ちゃんとした言葉だって教えたぞ!」
胸を張るエドに、ホークアイはにっこりと微笑む。
「まぁ、ありがとう。エドワード君。」
「・・・・・随分と楽しそうだね。」
そこへ、機嫌の悪い声が、和やかな雰囲気の二人の間を邪魔をする。
「大佐。お疲れ様でした。」
いち早くロイに気付いたホークアイが敬礼をする。
「・・・・鋼の。いつこちらへ?」
ホークアイに軽く頷くと、嬉々としてエドの所へと歩き出す。
「ついさっき。それよりも、大佐。」
「ん?何だね?」
首を傾げるロイに、エドはにっこりと微笑むと、指に止まっている
インコをロイの目の前に差し出す。
「誕生日おめでとー。これ、誕生日プレゼント!」
「・・・・あ?」
インコを手渡され、珍しくポカンとした顔をするロイに、
さらに機嫌を良くしたエドは口早に捲くし立てる。
「それ、高級セキセイインコだぜ!高級!!
しかも、突然変異のルチノーだってさ!
すごいだろ!!」
「あ・・・ああ・・・・。」
エドの勢いに押された形で、ロイは目を白黒させる。
「犬とかは、散歩とか大変だけどさ、小鳥なら
そんなに手間は掛からないぜ。」
にっこりと笑うエドの背中とお尻に、アルとホークアイの
二人は、悪魔の羽と尻尾が見えた。だが、
滅多に自分に微笑みかけない、エドの満面の笑みを
間近で見たロイの目には、エドは天使そのものに映る。
「嬉しいよ。君が私の誕生日を覚えていてくれたなんて。」
ロイはインコをじっくりと観察する。
(ふむ。全身黄色か・・・・。まるで、エディの髪のようだ。
これで、瞳の色が金なら、エディそのものなのだがな。
だが、瞳の色は私の焔と同じ赤。これは、私とエディの
愛の形だと言うのだね。エディ。)
自分勝手に思考を暴走させるロイに気付かず、エドは
更に爆弾発言をする。
「動物って、癒しの効果があるし、出来れば執務室に
置いてくれると嬉しいんだけど・・・・。」
ただ単に、仕事をサボっているロイに、「仕事シロー」と
インコに言われている所が見たいが為に言っているのだが、
暴走するロイに、そんな事が判る訳がない。
(あぁ。私の健康をそんなに、心配をしてくれているのだね。
エディ。やはり、私達は相思相愛!!)
「あぁ、君からの贈り物だ。片時も離さないと約束しよう。」
「本当に?絶対だよ!」
ロイの言葉に、エドは手を叩いて喜ぶ。
「ところで、夕食を一緒にどうだね?折角会えたのだから。」
「・・・・野郎と食事して楽しいのかよ・・・・。折角の誕生日だし、
女の人とでも、行けば?」
ムッとするエドに、ロイは苦笑する。
(ヤキモチとは、可愛いね。エディ。)
などと、ロイが頭の中では腐った事を考えていると、エドはさっさと
扉へと向かう。
「んじゃ、俺達は失礼するぜ。行くぞ。アル。」
「待ってよ!兄さん!!」
部屋から出て行こうとする二人に、ロイは慌てて呼び止める。
「待ちたまえ。」
「・・・・大佐。まだ、仕事が残っております。」
ロイの背中に銃を付きつけながら、ホークアイは手にした書類を
ロイの机の上に置く。
「これが最後の書類です。これが終わり次第、本日の業務は終了です。」
「・・・・判った。直ぐに片付けよう。」
観念して、ロイはインコを籠の中に戻すと、やれやれと
椅子に腰を降ろす。
「全く、エディは、私の事をどう思っているのかね・・・・。」
やっと捕まえたと思ったら、スルリと腕の中から逃れてしまう。
ハァと、深く溜息をつくロイに、ホークアイは苦笑する。
「・・・・からかいすぎだと思いますが。」
「私はいつでも、真面目にエディを口説いているつもりなのだが?」
心外だと言わんばかりのロイに、ホークアイは深く溜息をつく。
「今までの己の所業を振り返ってみてくだされば、自ずとお判りに
なると思いますが?」
「・・・・・・全くわからん!」
踏ん反り返るロイに、ホークアイは、息を吐きながら首を横に振る。
この上司には何を言っても無駄だわと、諦めかけた時、
ロイの机の上から、エドの声が聞こえ、二人は、ハッと
声のする方を見る。
「ロ・・・・イ・・・・?」
「イ・・・インコが・・・・エディの声で・・・・。」
首を傾げてじっと自分を見つめるインコに、ロイは固まる。
そんなロイに、ホークアイは状況を説明する。
「何でも、セキセイインコは、言葉を話せるそうで、エドワード君が
一生懸命に教えたとの事ですが。」
ホークアイの説明に、ロイはじっとインコを見つめる。
「ほう。それは、初耳だな。」
興味津々といったロイに、インコは、再び口を開く。
「ロイ。・・・・・・・好き・・・・。」
「!!」
インコの言葉に、ロイはハッとすると、いきなりペンを握りしめると、
物凄い勢いで書類を仕上げていく。
「た・・・大佐?」
いきなりやる気を出した上官に、ホークアイは珍しく唖然となる。
「これで、全て仕事は終わったな。では、これで失礼するよ中尉。」
素早くコートを着込むと、ロイは鳥籠を手に一目散に部屋を後にする。
次の日、最高に機嫌が良い上官の姿が、東方司令部で
見かけられたのは、言うまでもない。
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今回は、大佐の結婚シリーズではありません。
でも、どうして私が書く大佐は、ヘタレなんでしょうか。
もっと精進しなくては・・・・。
このネタは、ゲームボーイアドバンスの、
インコ倶楽部というゲームネタです。
ゲームでは、1人暮しのおばあさんにと、
孫であるプレイヤーが、セキセイインコや
オカメインコなどに言葉を教えてから贈るというものです。
一体、何羽贈れば気が済むのかってくらい
贈れるという、ある意味物凄く
恐ろしいゲームです。(まぁ、贈らなくても良いのだけど。)
鳥を語り出したら、止まらないので、この辺で。
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