まのつく錬金術師

 

 




                「中尉(おに)は〜セントラル(そと)〜。
                 豆は〜イーストシティ(ここ)〜。」
                朝からニコニコと上機嫌に、書類の山をハイスピードで
                処理していくのは、東方司令部の司令官、
                ロイ・マスタング。階級は大佐。焔の錬金術師である。
                「大佐、かなりゴキゲンですね。そんなに、午後からの
                豆まきが楽しみなんですか?今年の鬼の役は、大佐
                が立候補したんでしたっけ?」
                処理済の書類を、次々にリヤカーに積みながら、
                ハボックは、火の付いていないタバコを、咥えながら、
                呆れたように、ロイを見る。
                「フフフ・・・。今年の豆まきは、かなり違うぞ。」
                不敵な笑みを浮かべるロイに、ハボックは、おや?と
                首を傾げる。
                「大佐、マゾだったんすか?」
                何せ、日頃の恨みを晴らせるとばかり、兵士達はロイに
                公然と豆をぶつけられるこの機会に、密かに盛り上がって
                いたりするが、それが何故ロイの上機嫌に繋がるのか、
                判らない。
                「フフフ。中尉(おに)は今、セントラルだ。その隙に、
                エディ(まめ)を食い放題・・・・・。」
                ロイはキラリと目を光らせる。
                「おい。ハボック。私に効くのは、普通の豆ではないぞ。
                金色で小さくてとても愛らしい、エドワード・エルリックという
                豆でなければ、私は倒せんぞ。」
                要するに、エドを人身御供に差し出せという訳だ。しかも、
                今日はロイの天敵であるホークアイをセントラルに出張に
                行かせているので、ロイの好き勝手し放題。エド(まめ)を
                手に入れた足で、そのまま直帰。明日は半ば強引にもぎ
                取った休みで、一気にエドとの仲を進展させようと目論んで
                いたりする。
                「そろそろエディ(まめ)が駅に着く頃か・・・・。ハボック、
                迎えに行け。いや、やはり私が迎えに行こう。車を
                出せ。」
                そう言って、最後の書類にサインをし終わったロイは、
                エドを迎えに行くべく、嬉々として帰り支度を始める。
                だが、ロイの命令には従わず、ハボックはその場から
                動かない。
                「何をしている?車を正面玄関に回せ。」
                苛立ったようなロイに、ハボックはニヤリと笑う。
                「いや〜。中尉の言うとおりですね。大佐の言葉を聞いて、
                安心しました。」
                「は?中尉?何の話だ?」
                訝しげなロイだったが、直ぐに机の上の電話が鳴ったので、
                しぶしぶ出る。
                「もしもし。私だ。」
                「あ?大佐?」
                電話から流れる愛しい人の声に、ロイは上機嫌になる。
                「エディ・・・いや、鋼の!もう駅に着いたのかね?待って
                いたまえ。直ぐに迎えに・・・・。」
                「いんや。今セントラルなんだ。」
                エドの言葉に、ロイの眉が顰められる。
                「セントラル?どういうことかね?今日はこちらに戻るように
                言ったはずだが。」
                「んー?だって、今日は午後から大々的な演習があって、
                大佐は忙しいんだろ?報告書持ってっても無駄じゃん。
                だから、明日の夜にはそっちにつくようにするから、
                報告書は明後日持ってくよ。そんじゃーな!大佐!!」
                「演習!?何だね!それはっ!!鋼の!?」
                だが、無情にも、エドは言うだけ言って切ってしまった為、
                通話音しか聞こえない。一体、何がどうなっているのか、
                茫然としているロイに、更に追い討ちをかけるように、
                ハボックはニヤニヤと笑う。
                「大佐は、大将(まめ)以外の豆は、全く効かないんですよね!
                一応無礼講とは言え、仮にも上官に豆をぶつける事に、
                躊躇していたんです。俺達!!」
                嘘をつくなとロイは思った。だが、直ぐにロイの顔色が変わる。
                「な・・・なんで銃を構えているのだね!!」
                「安心して下さい。弾は豆ですから。中尉の発案で、普通に
                豆を撒くだけでは面白くないと言う事で、今年から、実戦も
                兼ねる事になったんです。」
                知らなかったんですか?とニヤリと笑うハボックに、ロイは
                素早く発火布を装着すると、ハボックに向けて、指を
                鳴らす。
                しかし、何故か焔が出せず、ロイは、ますます顔を青くさせる。
                「あっ、大佐の手袋は、摩り替えて置きました。」
                そこで、自分が嵌めている手袋を良く見ると、蓮成陣の
                サラマンダーが、アルのデフォルトに、焔のマークが、エドの
                デフォルトに変わっており、ロイはキッとハボックを睨む。
                「普通の豆は、全く効かないというので、遠慮なく〜。」
                「ま・・・待て!話せばわかる!!」
                その後、東方司令部には、ロイの断末魔の悲鳴が響き渡り、
                途切れる事はなかったと言う。






                「どうだった、エドワード君。」
                電話を終えたエドに、出張でセントラルに来ていたホークアイは
                ニッコリと微笑みながら尋ねる。
                「うん!ちゃんと明後日顔を出すって言っておいた。でも、中尉に
                偶然であってラッキーだったな!きっと、大佐の事だから、
                俺に演習の後片付けでもさせる気だったんだ!」
                いや〜、中尉に教えてもらえて、良かった。良かったと、上機嫌な
                エドに、ホークアイも嬉しそうだ。
                「あら、私は当然の事をしたまでよ。それよりも、仕事を定時で
                上がらせるから、夕飯を一緒にどう?」
                「うん!!行く!行く!!今日のお礼に、俺、中尉に奢るよ!
                それじゃあ、俺達図書館に行っているから、仕事が終わったら、
                迎えに来て!!」
                それじゃあ、また後で!とにこやかに手を振りながら走り去っていく
                エドを見送ると、ホークアイは、先程までエドが使っていた電話ボックスを
                勝ち誇ったように一瞥する。
                「大佐、【正直者には、豆が来る】んですよ?」
                自分を遠ざけて、エドを独占しようとした上司に、天誅を与えたかった
                が、それは、散々部下達を煽る事で、今頃自分の代わりに酷い目に
                合わせることで、一応怒りを静める。
                「ふふふ。エドワード君達との食事が楽しみだわ。」
                ホークアイは、エド達との楽しい夕食を思い浮かべて、ニヤリと
                笑った。                 
                

                                              FIN
                

 

 

 

 

 

               再び、最強ホークアイ中尉。
               節分ネタです。