華胥の夢シリーズ 超番外編

   頑張れ ちかげ君!!

        〜オニはつらいよ〜







「・・・・・・・で?一体朝から何をしてんだ?風間。」
ボリボリと節分の豆を食べながら不知火は、
朝から慌ただしく動いている天霧を一瞥すると、
部屋の中央で 踏ん反り返っている風間に尋ねる。
「何とは・・・・・見てわからんのか?」
呆れたように顔を顰める風間を、
不知火は冷ややかな目を向ける。
「俺の見間違いならいいんだが・・・・・・なんか、
嫁入道具を 朝から天霧が運んでいるようにしか
みえなんだがなぁ。」
「フン。わかっているではないか。そうだ。これは千鶴の
嫁入り道具だ。」
勝ち誇った顔をする風間に、不知火は深いため息をついた。
「風間・・・・・・現実は受け止めた方がいいぞ。それに、
天霧も、イチイチこいつの我儘に付き合うんじゃねえよ。」
「私としても、不本意なんですがね。」
そう言うと、漸く片付けが終わったのか、
天霧は額の汗を拭いながら、不知火達の方へと歩いてきた。
「何故か道具の送り先が私の部屋になっていましてね。
昨日仕事から帰ったら、部屋が嫁入り道具で一杯でして。」
だから、文句も兼ねて、朝早くから風間の部屋に
運び入れているのだという天霧の言葉に、不知火は
不思議そうな顔で風間を見る。
「どうして、お前はそんな真似をしたんだ?」
「嫁いでくる千鶴の為に用意した部屋に運び入れたはず
だったのだが・・・・・・そうか、天霧の部屋であったか。
まぁ、いい。夫婦は共にあるべきだ。俺の部屋に
千鶴の荷物があっても、一向に構わん。」
ふむと頷きながら答える風間に、不知火は脱力する。
「だから、何で千鶴がお前に嫁いでくるんだよ。
そんな話、全く出ていないじゃないか。」
「今日は何の日か知っているか?」
不知火の質問に答えず、風間は上機嫌に尋ねる。
「何って・・・・・節分だろ?他にあるか?」
そう言って、不知火は天霧を見遣るが、対する天霧も、
横に首を振るだけである。「
そう!今日は節分なのだ!きっと今頃、新選組の屯所では、
千鶴が鬼だというただそれだけの理由で、
豆をぶつけられている事だろう。可哀想に・・・
今頃俺を思って涙を流していることだろう。」
クッと唇を噛みしめる風間に、不知火と天霧の
生暖かい視線が向けられる。
「あのよぉ・・・・・。千鶴が【鬼】という設定は、
山南のヤローが書いている、『薄紅桜猫鬼譚』っていう
物語の設定であって、実際彼女は鬼ではねえだろ?」
「そうですよ。そんな妄想で、こんな騒ぎを起こしたのですか?」
流石の天霧も半分切れかけて、風間を睨みつける。
「妄想?それこそ、一体何のことやら。これを見てみろ。
数日前に、我が妻から俺に助けを求める文が届いたのだ。」
そう言って、風間は懐から文を取り出すと、
誇らしげな顔でバンと不知火たちの目の前に広げて見せる。
「えっと・・・何々?前略、風間様。折り入って
助けて頂きたいことがありますので、文をしたためました。
あなた様しか出来ない事なのです。どうか、私を哀れと
思召すのならば、節分の日に、新選組屯所へお越し下さい。 
         千鶴。」
文面を読み上げた不知火に、風間はニヤリと笑う。
「これで分かったであろう。何だかんだ言っても、
千鶴は俺を頼りにしているのだ。さぁ、
さっさと我が花嫁を新選組の屯所から救い出しに
行くぞ!」
ハハハハと高笑いしながら部屋を出ていく風間を
見送りながら、不知火は戸惑ったような顔で天霧を見る。
「おい、あの手紙、女の手蹟には見えなかったぞ?どう見ても、
男の手蹟だ。」
不知火の言葉に、天霧も珍しく引き攣った顔で答える。
「それに、千鶴の文字の前に、沖と書いてグチャグチャに
消してあるのが、かなり気になる所なんですが。」
二人は顔を見合わせると、同時にガックリと肩を落とす。
「俺・・・・・・行きたくねえ。」
クルリと背を向ける不知火に、天霧はその腕を取る。
「不知火。こうなったら、一蓮托生。一緒に来てもらいますよ。」
嫌だ〜とジタバタする不知火の首根っこを掴むと、
天霧はズルズルと引き摺る様に、風間の後を追った。







その頃、新選組の屯所では、整列している隊士達を前に、
土方が激を飛ばしていた。
「いいか。ここが正念場だ。これから、千鶴を狙う【鬼】が
やってくる。豆は余るほど用意した。無駄になっても構わん。
【鬼】が来たら、投げて投げて投げまくれ!
新選組に喧嘩を売るとはどういう事か、【鬼】に骨の髄まで
叩き込んでやれ!!いいな!」
「おお!!」
隊士達が一斉に腕を振り上げる様を見て、土方は満足そうに頷いた。
「よし!この戦いが終わったら、千鶴の旨いメシを
たらふく食わせてやるからな。その為にも、気張ってくれよ!」
「はい!!」
表情を和らげる土方に、隊士達が力強く頷き返した時、
見張り役の一人が慌てて戻ってきた。
「副長、【鬼】が現れました。その数3。もう間もなく
こちらに到着します。」
その言葉に、土方は大きく頷くと、隊士達を見回す。
「よし!全員配置につけ!」
「おう!!」
隊士達は手に豆の入った枡を持つと、一斉に自分の持ち場へと
散って行った。







風間達が【厄落とし】という名の制裁を受けるまで、
あと少し・・・・・。」











                 FIN

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