ハジメ日記 ぽかぽか となみ村


                   お魚頂戴編

 

 

  
            「ニャン川幕府」が倒れ、さつニャンとちょうニャンを中心とした、
            新しい「ニャン治政府」が発足された。
            その結果、最後までニャン治政府と戦った、アイヅー村は、
            となみ村へと村替えを余儀なくされてしまった。
            アイヅー村とは違い、となみ村は、ニャン治政府の
            中心からは、外れも外れの小さな孤島。村とは名ばかりの、何もない島だった。
            そんな中、最後までアイヅー村と共に戦い続けた、ニャン選組三番組組長、
            ハジメは、となみ村を発展させようと、日夜働き続けるのだった。
            そんな日常を描いた小話。

            



            そんなある日の事。
            「サイトー、腹へった〜!!」
            「うるさい。魚が逃げる。」
            桟橋に腰掛け、海に釣り糸を垂らすハジメの隣では、
            元ニャン選組二番組組長シンパチが、腹減ったと騒いでいる。
            「しかし、解せぬな・・・・。何故(なにゆえ)魚が掛からんのだ・・・。」
            島中をくまなく探し、漸く見つけた釣りのエサ。
            これで魚が捕れると、勢い込んで釣りにやってきた二人なのだが、
            待てど暮らせど、一向に魚が掛かる気配すらない。
            最初は大人しくハジメの横で待っていたシンパチも、
            あまりの時間の経過に、しびれを切らし、先ほどから周りを
            ウロウロし始めるのだった。
            「なぁ、なぁ、まだ魚が掛からないのか?」
            腹減って動けないぜ・・・と、項垂れるシンパチに、
            ハジメは、ジロリと横目で睨むと、早々に釣り竿を引き上げた。
            「気分が乗らぬ。帰るぞ。」
            立ち上がるハジメに、シンパチは慌てた。
            「ちょっと待てって!俺に魚10匹食わせねーと、村クエストが
            クリアーしないぞ!それでいいのか!?」
            シンパチの言葉に、ハジメはピクリと眉を跳ね上げる。
            「そもそも、何故、そのようなことをせねばならぬのだ。
            村を発展させる為に、その「クエスト」とやらをせねば
            ならぬのは、どう考えてもおかしいではないか。」
            「そーんな事、俺に言われても・・・・。だってこれは「ルール」だから。」
            「・・・・・どこかで聞いたようなセリフだな。」
            ジトーっとハジメに睨まれ、シンパチは明後日の方向を向く。
            「第一、魚10匹で仲間になってやるというのが、気に入らぬ。
            ニャン選組という絆で結ばれた我々が、何故・・・・・。」
            「サイトー君。どうかしましたか?」
            ハジメの言葉を遮るように、背後から第三者の声が聞こえてきた。
            「その声は・・・・。」
            恐る恐る背後を振り返ると、そこには、ニコニコと笑っている、
            元ニャン選組総長のサンナンの姿があった。
            「サンナンさん・・・。何故あなたがここに・・・・。」
            センダイ村にいたのでは・・・・と顔を引きつらせるハジメに、
            サンナンは、ピカリと眼鏡を光らせる。
            「いえね・・・。サイトー君が頑張っていると、風の便りに聞いて、
            何か私にお手伝い出来れば・・・と思いまして。」
            フフフと笑うサンナンに、ハジメの背筋が凍りつく。
            「いや、サンナンさんの手を煩わせる事も・・・・。」
            「ああそうですね!人手が全く足りないんですよね!安心してください。
            私、ここに移住しますから、頼りにして下さって構いませんよ?」
            顔を引きつらせながらも、何とかサンナンの申し出を断ろうとするハジメだったが、
            サンナンは、ハジメの両手をぎゅうううううと強く握ると、有無を言わせぬ口調で、
            一気に捲し立てた。
            「そ・・・そうだ!ここではなく、蝦夷海にあるハクオウ村に・・・・。」
            「ハクオウ村・・・?」
            ハジメの言葉に、サンナンの眼鏡がキラリンと光る。
            「まさかと思いますが・・・・サイトー君は、私に、あのノロケという毒を撒き散らしている、
            新婚バカップル夫婦が牛耳っている、あのハクオウ村に行けと・・そう言ってるんでしょうか?」
            「いや・・・別に毒を撒き散らしてはいないかと・・・。」
            シドロモドロに答えるハジメの後ろでは、シンパチがサンナンの言葉に、ウンウンと大きく頷く。
            「確かに、あの二人のノロケには、参るよな〜。あんなのを平気で見られるのは、
            【ヒジカタ副長とチヅルを見守り隊】隊員のイノウエさんとか、ヤマザキ、シマダ達くらいじゃねぇ?
            そーいえば、そん中に、お前も入っていたなぁ。サイトー。」
            「な・・・なんだ!その見守り隊というのは!?」
            初めて聞く隊名にサイトーはギョッとなる。
            「知らねーのか?有名な話だぞ?組織ぐるみで、ヒジカタさんとチヅルちゃんをくっつけたってな。」
            シンパチの言葉に、唖然となっているサイトーに、追い打ちをかけるように、サンナンは言葉を続ける。
            「という訳ですので、サイトー君。今後ともよろしくお願いしますね。さぁ、一日でも早く村を発展させる為にも、
            君は馬車馬のごとく働いてもらいますから、頑張って下さい。手始めに、魚10匹でしたね。
            日が暮れる前に、魚10匹を釣り上げてもらいますよ!ほら!ぐずぐずしない!!」
            呆然としているハジメに、釣り竿を押し付けると、有無を言わせず桟橋に座らせ、
            釣り糸を垂れさせる。





            「サイトー君、糸が引いてますよ!」
            「サイトー!早く引けって!!」
            「・・・・何故このようなことに・・・・。」
            背後で、邪魔しているのだか応援しているのか、分からないような、サンナンとシンパチの大声を
            聞きながら、ハジメは深いため息をつくと、素早い動きで竿を引く。
            「やったぞー!サイトー!!」
            「お見事です。サイトー君!」
            シンパチとサンナンの歓声の中、夕日に照らされて、釣り上げた魚がキラリと光った。