ハジメ日記 ぽかぽか となみ村


                 嫁はどこだ?編

 

 

  
            「ニャン川幕府」が倒れ、さつニャンとちょうニャンを中心とした、
            新しい「ニャン治政府」が発足された。
            その結果、最後までニャン治政府と戦った、アイヅー村は、
            となみ村へと村替えを余儀なくされてしまった。
            アイヅー村とは違い、となみ村は、ニャン治政府の
            中心からは、外れも外れの小さな孤島。村とは名ばかりの、何もない島だった。
            そんな中、最後までアイヅー村と共に戦い続けた、ニャン選組三番組組長、
            ハジメは、となみ村を発展させようと、日夜働き続けるのだった。
            そんな日常を描いた小話。

            




            今日も今日とて、ハジメは、サンナンさんにこき使われ、もとい、頼まれて、
            村の巡察を行っていた。
            本来ならば、居候のシンパチとソウジも一緒に巡察をするのだが、
            連日の宴会にシンパチが潰れ、今も寝床でウンウンと唸っている。
            ソウジはソウジで、ただ今、ヒジカタをからかいに、ハクオウ村へ
            行っている為、留守にしていた。なので、当然の事ながら、
            ハジメ一人で巡察を行っているのだが、もともととなみ村の住人は、
            元アイヅー村出身者。問題など起こりようもない。
            それでも、万が一にも何かあっては一大事と、毎日欠かさず巡察を
            ハジメは行っていた。



            今日も何事もなさそうだな・・・・・と、そんな事を考えながら
            ハジメは村の広場へと足を踏み入れたのだが、広間の中央にある、
            宴会会場に見慣れぬ一人の男が佇んでいる事に気づくと、
            顔を強張らせた。
            キンキラ衣装を身に纏った、忘れたくても忘れられない男の
            後ろ姿に、ハジメは問答無用に斬りかかる。
            「フン。虫けらの分際で、この俺様に斬りかかるとは・・・・
            身の程知らずめ。」
            ハジメの剣を、ギリギリで躱すと、男はフフンと鼻で笑う。
            「何故(なにゆえ)・・・ここに貴様がいるのだ!
            カザマチカゲ!!」
            男・・・カザマに、剣を突き付けながら、ハジメはキッと睨みつけた。
            「ここに来れば、何でも欲しいものが手に入ると、そう聞いたのだが?
            折角だから、まずこの俺様が願いを言ってやろう。 
            我が妻をすぐに連れてこい。いるのであろう?」
            何を言っているんだと蔑みの目で自分を見るカザマに、 
            ハジメは訝しげな顔を向ける。
            「なんだ、それは。ここは日々の暮らしもままならぬ場所。
            他人の願いを叶えるほど、余裕はない!!それに、
            貴様の妻など知らぬ。第一、そんな者がこの世に存在するのか?」
            そっちこそ何を言っているとますますカザマを睨みつける
            ハジメに、カザマはチラリと自分の後ろにある植え込みに顔を向ける。
            「おい。どういうことだ?説明しろ。」
            「あ〜?お前が人の話をちゃんと聞かねぇからだろ?
            俺はただ、ニャン選組に縁がある村だから、女鬼も
            いるかもな?と言っただけだぜ?」
            「結論を申し上げるなら、ここに雪村君はいないと
            いう事です。」
            ぞろぞろと植え込みから出てきたのは、疲れた顔をした
            カザマの仲間のシラヌイとアマギリ。何故かその後ろには、
            元ニャン選組八番組組長のヘイスケの姿もあった。
            「ヘイスケ?どういう事だ?何故カザマ達と行動を共にしている。」 
            貴様、まさか・・・・と目を細めるハジメに、ヘイスケは、慌てて首を横に振る。
            「違うって!俺は何にも言ってねぇって!俺はただ、
            サンナンさんからの手紙をカザマに届けただけだって!!」
            「サンナンさんからの手紙だと?」
            「そのことでしたら、私から説明しましょう。」
            なんだそれはと問い詰めるハジメの背後に、音もなく忍び寄った
            サンナンがニコニコとした笑みを浮かべて立っていた。
            「サンナンさん・・・・。何時の間に。」
            驚くハジメに、サンナンさんは、クスリと笑う。
            「これでも、元ニャン選組総長ですよ?これくらい出来なくてどうしますか。
            ところで、カザマさん。私達の要請に応えて頂いて、ありがとうございます。」
            サンナンの言葉に、ギョッとなる。
            「サンナンさん!?あんたがカザマをここに来させたのか?何故・・・・。」
            「サイトー君。そのお話は、後でじっくりたっぷりとお話致します。」
            ニコニコと笑うサンナンに、ハジメは激昂する。
            「今、聞かせてもらおう!何故・・・・。」
            「サイトー君?
            サンナンの眼鏡がキラリと光ると同時に、身体からどす黒いオーラが漂い始める。
            「・・・・承知した。」
            見てはならぬものを見たと、ハジメはさっと目を逸らす。
            「ハジメ君。死ぬなよ・・・・。」
            そんなハジメに、ヘイスケは小声で檄を飛ばす。大人しくなった
            二人を気にもかけず、サンナンはカザマに話しかける。
            「手紙にも書きましたが、あなたが歌手としてここに留まってくれると、嬉しいのですが。」
            「「歌手!?」」
            サンナンの言葉に、驚いたハジメとヘイスケがサンナンに詰め寄る。
            「歌手!?今、歌手って言った?サンナンさん!」
            「落ち着け、ヘイスケ。ところで、カザマは一体どんな歌を歌うのだ?」
            珍しくハジメまで感情を露わにする様子に、サンナンはクスリと笑う。
            「知らないのも無理はありませんね。カザマさんは、知る人ぞ知る歌手なのですから。」
            「おーい。ハッキリ、売れない演歌歌手と言ってもいいんだぜ?」
            サンナンの言葉に、シラヌイが突っ込みを入れる。
            だが、そんなシラヌイの言葉など聞こえないかのように、カザマは一人悦に入っている。
            「ほう?こんなド田舎にも、俺の名声が轟いているのか。俺様の美声を生で聞くのは、
            恐れ多いという人間どもが多い中、この村の者たちは、生で聞いてみたいという訳か・・・・。
            怖いもの知らずというか・・・・。」
            ククククと嬉しそうに笑うカザマに、サンナンは悲しそうな顔で目を伏せる。
            「しかし、この村はごらんの通り、貧しい村。カザマさんが歌うに相応しい立派な舞台を作るには、
            まだまだ資金が・・・・。」
            「そうだな・・・。こんなみすぼらしい舞台では、歌う気がせん。仕方ない。少し援助をしてやろう。」
            上機嫌なカザマの言葉に、サンナンの眼鏡がキラリと光る。
            「そうですか。ありがとうございます。ですが、舞台だけでは・・・。
            カザマさんのフアンの方達の船が停留する港、宿、道の整備などなど・・・・色々と物入りで・・・・。
            資金さえあれば・・・。」
            ふうとわざとらしくため息をつくサンナンに、カザマは大きく頷く。
            「もちろん、俺がここに住むのに相応しいほどに、惜しみなく金は出してやろう。」
            「そうですか!それを聞いて安心しました。では、こちらで細かい打ち合わせを・・・・。」
            サンナンは、逃がさないとばかりにカザマの腕をつかむと、
            そのまま自分の家の方へとカザマを引きずるようにして歩いていく。
            その後ろを、慌ててシラヌイとアマギリも追っていく。
            遠ざかる四人の後ろ姿を見つめながら、ヘイスケは、ポツリと呟いた。
            「もしかして、サンナンさん。カザマをカモにするためだけにとなみ村に呼び寄せたのか?」
            「・・・多分、そうであろうな。先週、ソロバン片手に、資金が〜資金が〜と唸っていたからな。
            しかし、だからと言って、カザマをこの村に置くのは危険すぎる。」
            ハジメの言葉に、ヘイスケも神妙な顔で頷いた。
            「チヅルが危ないよな。アイツ、今だチヅルを諦めていなさそーじゃん?」
            「ああ。チヅルは、既に副長の奥方だというのに・・・・。ヘイスケ悪いのだが・・・。」
            「ああ!俺がカザマに気づかれないように、ハクオウ村へ行って、ヒジカタさんに報告してくるよ!」
            「頼んだ。俺はカザマがハクオウ村へ行かぬように、見張っておるゆえ。」
            「おう!じゃあ!行ってくる!!」
            そう言うと、ヘイスケは身を翻して、あっという間に、ハジメの視界から姿を消した。
            「・・・・あのお二人に、もうこれ以上、辛い気持ちにさせたくはない。我々が頑張らねば・・・・。」
            ハジメは、深く息を吐くと、サンナン達の後を、ゆっくりと追い始めた。